解説 戦後日本科学、転換も
 日本学術会議が半世紀ぶりに軍事研究を否定する原則の見直しに向けて検討
を始めたことは、戦後の日本を支えてきた科学技術研究の歩みを一変させる転換点
となる可能性がある。

 科学技術は、その使い方次第で善悪の二面性を持つ。原爆をはじめ大戦の災禍
からその脅威を再認識した日本の学術界は、戦後自ら軍事研究に幅広い歯止めを
かけた。当時は「過剰反応だ」と内部で反発もあったが、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹
や朝永振一郎らを中心に核廃絶運動や「科学者の社会的責任」の議論を深めてきた
経緯がある。

 一方、こうした姿勢が時代遅れとの声も出てきた。海外では大学での軍事研究は珍し
くなく、有望な研究を巨額の資金で支援し、産業振興を促す動きもある。現代社会に欠
かせないインターネットや全地球測位システム(GPS)などは米国の軍事技術由来だ。高
度な軍事技術を求める政府と、研究費の確保に悩む科学者とは利害が一致する。

 科学技術が発展し、軍事研究かどうかの線引きは難しさを増している。例えば現在、
人間の操作を不要とする自律型人工知能(AI)兵器の開発が世界的に懸念されている
が、こうしたことにつながる恐れのある研究は多い。デュアルユース技術の研究開発を進める
政府の動きになし崩し的に追従するのではなく、自らの研究成果がどのように使われるのか
を踏まえた主体的で透明性のある議論が求められる。【千葉紀和】