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本文 (現代訳語)

塩官 (えんかん)、一日 (あるひ)、侍者 (じしゃ) を呼び云く、『我ために犀牛 (さいぎゅう) の扇子を持ち来たれ』。

侍者云く、『扇子破れり』。

塩官云く、『扇子既に破れたれば、我に犀牛児 (さいぎゅうじ) を還 (かえ) し来たれり』
侍者、対 (こた) うること無し。

投子 (とうす) 云く、『引き出し事は辞せざるも、恐らくは頭角 (ずかく) は全 (まつた) からざらん (完全ではない)』。

雪竇 (せっちょう) 拈 (ねん) じてて云く、『我は全 (まつた) からざる (不完全) の頭角を要す』。

石霜 (せきそう) 云く、『もし和尚に還 (かえ) さば無からん』。

雪竇拈じて云く、『犀牛児 (さいぎゅうじ) はなお在り』。

資福 (しふく) 一円相を画き中に牛の字を書く。

雪竇拈じて云く、『先ほど、何故にか将 (も) ち出さざる』。

保福 (ほふく) 云く、『和尚は年尊 (としたか) し、別に請 (こ) えば好 (よ) し』。

雪竇拈 (とりあ) げて云く、『惜しむべし、労して功無し』。