(1)繁栄にケチがつきはじめるのは、昔はふんだんにあった資源が喪失されることである。貿易の立地やノウハウ上の優位や、工業における技術やコストの優位がそうである。その資源を無しですませるイノベーションがあれば問題ないが、そうでない場合も多い。
他国は強くて儲かっている産業があれば垂涎の目で見る。しかし、いずれ分析して、最初は粗悪品、やがては同等品、しまいには上回るものを作ってくる。そうして、繁栄の基盤となった産業において、徐々に優位性を奪われていく。

(2)主産業で戦えなくなると、実業家はそれまで貯めた財産をタネ銭に、金融業に移行する。これにはいくつかバージョンがある。まず、国際投資である。自国がコスト高なら外国に投資しようということで、結果として
国内産業にお金を回さなくなる。次に土地への投資である。実業のリスクなんてとらなくていい、
毎年地代でウハウハである。もう一つは王侯貴族や政府への貸付である。徴税の権力を持っていので取りっぱぐれはないはずである。そのうえ、合理的にケチケチ使ったりせず、身の丈に合わない欲望を持って、
贅沢や戦争でジャンスカお金をつかってどんどん借りてくれる。結果として、富裕層は、商人から地主への転身、実業家から株主や銀行家への転身へと立場を入れ替える。
実業からの所得から所有からの所得へというわけである。なお、ヤメ実業家には、権力に取り入って官職を得るのもいる。

(3)富裕層が土地なり株式なり債券なり官職なりを保有するようになると、楽して定期的な収入が確保されることになり、アニマル・スピリットに富んだ実業家は、いなくなる。そのあとに重要になるのは、流行であり、贅沢であり、作法であり、教養であり、
伝統である。富裕層は、実業ではなく、誇示的消費で競うようになる。資産が相続されることはもちろんだし、官職も世襲になる。既得権を持つ人々はギルドをつくり、政治権力と結びつき、あれこれと活動制限を加える。
人々の考えは保守化し、排外主義がいきわたり、少数派は締め出しを食らうようになる。支配階層は固定され、新参者の活躍は難しくなる。こうなると、発明・技術などの革新は枯渇するし、意欲ある者には国外脱出してしまう者もでてくる