V.Adviser

お菓子が何段にもわかれて積み上がっている、あのイギリス風の器具を何と呼ぶのか僕は知らない。とにかくお菓子がその器具に乗っかってでてくるような店で詩織さんとお茶を飲んだ。

高級ブランドを多く構えるビルの8階にその喫茶店はあった。シャンデリアは優しい黄金色に染まり、大理石の床は真っ白に光っていた。二人とも普段どおりの服装だった。詩織さんは場にふさわしいドレス調のワンピースだったが、僕はジーンズにパーカーだった。

詩織さんに恋のいろはを教えてもらうという名目で連れ出されていた。彼女は相当乗り気だった。

「いい?できる限り自分のことは話さないこと。その女の子の聞き役に徹するのがコツだよ。私で練習してみて」
「えっと…お名前は」
「佐藤です」
「身長は」
「161」
「じゃあ体重は」
「君は今ボケてるの?」
「えっ、ダメですか?」
「そりゃ、女の子に体重聞くのはダメだし、これじゃ尋問だよ」

詩織さんはハーブティーを一口飲んで、大きく息を吐いた。それから僕を見て、首を振った。わざとらしい演技だったが、ストレートで好感の持てる動き方だ。

「まあよくも、ひかるちゃんもこんな人を好きになったものよね。君、このままだと1日で終わっちゃうよ」

お茶代は詩織さんが全部払った。喫茶店を出ると、向かいにある服屋さんに入った。

「この人、全身コーデしてください。10万円以内で」と詩織さんは言った。その時僕は8千円しか持っていなかった。結局は全部支払ってもらったのだが、どのような魂胆で僕に服を与えたのかその時はわからなかった。