#1
涙が溢れて止まらない。
そんな日は家までの道が遠く思えた。
坂道を登って、角を右に曲がって3軒目。
それが僕の家だ。
「ただいま。」
自分の声は驚くほど沈んでいた。
「おかえりー。」
母がエプロン姿で玄関までやって来る。
開け放たれたリビングの向こう。
暖かな光が目にしみた。
「どうした?」
母のエプロンはいつも同じ香りがする。
柔らかな手が僕の頭を撫でる。
「おかえり。」
それは包み込むような声だった。
僕は黙ってその声に頷く。