【小説】欅坂米谷「不協和音は誰や?」 [無断転載禁止]©2ch.net
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第一話
石森「お、オダナナ……?」
今泉「なーち……!」
上村「え゙ー!?」
尾関「ぎゃあああああああああっいやぁああああああああっ!!!!」
小池「何コレ……」
小林「…………」
齋藤「うっぷす!?」
佐藤「あゎわわわわわ!?」
志田「……オダナナ。!」
菅井「ウソ」
鈴本「っ!?」 小池「ウェーブ?何波まであるん?」
長濱「第三ウェーブまであるけん」
小池「その三つ波さえ起こせばAKBさんに勝てる言うんか!?」
長濱「見えないもので勝った負けたでバカみたいに言い合ってても仕方ないからね。確実に数字で勝ちに行く」
守屋「数字でねえ。第一ウェーブは何だよ?」
長濱「先ずは、YouTubeの再生回数。指原莉乃の恋チュン1.1億回、そして大島優子さんのヘビロテ1.3億回を超すこと」
渡辺「なんで大島さんは"さん"付けで、指原さんは呼び捨て?」
今泉「お前さっきからAKBさんのことも呼び捨てにしてるよな?」
長濱「大島さんは過去の人。指原は現役でライバルだから。ライバルに"さん"付けするのおかしくない?」
齋藤「たった一曲でもいい。うちらのデビュー曲『サイレントマジョリティー』で再生回数1.3億回いって初めて第一ウェーブクリア」 原田「公開して一年半でサイマジョの再生回数が7,000万回突破したから、この勢いのままいけば来年くらいでいけそうじゃない?」
長濱「ちなみに6,000万回再生の期間は、恋チュンが378日、ヘビロテ456日。サイマジョは424日くらいだったかな」
尾関「ヘビロテに勝ってんじゃん!」
石森「でも、恋するフォーチュンクッキーに負けてる……」
織田「公開されたのがヘビロテは2010年秋、2016年春。再生回数は一年半でヘビロテの60%くらい」
齋藤「最終的に累計でヘビロテにさえ勝てばいい。そのためにはもっと知名度を上げないといけない」
長濱「向こうに行けばより多くの人に知れ渡る。去年にドイツ衣装問題で炎上したことあるから一度は目にしてると思うから土台は0じゃない」
志田「マジで世界進出するつもりだったのかよ!」
小池「ほんまに頭お花畑やんな」 渡邉「第二ウェーブは何?」
長濱「次は、主力メンバーの知名度をアップさせる企画」
齋藤「今のままでは、平手友梨奈withバックダンサーのままだからね」
織田「神7は今はまゆゆ以外卒業しちゃったけど、世間一般の知名度が高すぎる」
長濱「あっちゃん、ゆうこ、マリコ様、まゆゆ、たかみな、こじはる、ともちん、あとゆきりん。この人たちは一般人が誰でも知っとる知名度」
渡辺「ん?7?……8人いるよ」
長濱「その8人に匹敵できるメンバーは今回やってもらった七不思議にある」
長沢「七不思議って、まさか……」
七不思議に出題されたメンバーは顔を見合わせる。
第三の不思議の守屋は手を横に振り言う。 守屋「いやいや!神7に七不思議で対抗しようってのー!?」
志田「負ける気しかしないんだけど!」
齋藤「やってもらったと思うけど、その9人には不思議な力がある」
三日間かけて解いた八つの七不思議メンバーの九人を思い浮かべる。
改めてそのすごさに面食らう。
小林「まあ確かにその子らはすごいけどさ、どう勝つんだよ?」
長濱「神7に対抗馬を持っていって、それぞれ倒してもらう」
土生「例えばどう持ってくる?」
長濱「てちこは不動のセンターあっちゃん」
平手「ううん、無理」
齋藤「今泉は二番手の優子さん」
今泉「無理だよ!」 長濱「ねるは同じ1.5期生でもあるマリコ様」
志田「スタイルその他全っ然適ってねえから!」
織田「キャプテンの友香は初代総監督のたかみな」
菅井「無理でしょ!」
齋藤「茜はおしゃれ番長のともちん」
守屋「はい無理ー!」
織田「理佐はCGのまゆゆ」
渡邉「いや、無理だから」
齋藤「ぺーちゃんは天然系のこじはる」
渡辺「……無理に決まってんじゃん」 織田「ついでに、鈴本は出るとこ出てるしリアクション女王のゆきりん」
鈴本「っ!?」
齋藤「出たー!鈴本の顔芸!」
七不思議に出てこなかったのに急に名前が挙がり自然の顔芸を披露する鈴本。
対して七不思議に出てきながら名前が挙がらなかった二人が口を挟む。
佐藤「ちょっとー!!私七不思議に出て来たのになんで誰の対抗馬でもないの〜!?」
上村「私もなんだけど!」
長濱「あ、96年組は控え……じゃなくて秘密兵器ね」
上村「え〜」
今泉「私が言うのもあれだけど、お前どんだけ自信あんのよ?」
長濱「無理だと思ってるのはナナフシちゃんたちだけじゃなさそうだよ?ほら」 石森「でも今の聞いてさ、なんか勝てそうじゃない?」
尾関「確かに。あの神7と同等に渡り合える力を秘めてそう」
小池「テキトーやと思ったけど、案外いい線いっとうかもしれへんな」
渡辺「私があのこじはるさんと……そんな………」
齋藤「こじはるさんに雰囲気似てるし、もっと色気アップしたら超えれる」
渡辺「セクジ〜?」
渡邉「でも、総選挙1位二回もなったことのあるあのまゆゆさんに…………」
織田「まゆゆに勝てるのは理佐しかいない。ねえ、愛佳?由依?」
志田「絶対勝てる!」
小林「100%勝てる!」
渡邉「ひー!」 守屋「ともちんさんのおしゃれに適うかな……」
小池「あのともちんさんにもう勝ってんちゃう?」
菅井「ちょっと!大先輩に対して失礼じゃない?」
長濱「先輩じゃない。ライバルだよ」
齋藤「茜らしくないね。本気であの人に勝てないと思ってんの?」
守屋「絶対負けない!」
菅井「高橋さんは総監督として、AKBだけじゃなくてAKBグループ何百人のリーダーとしてまとめてきたお方で、ユーモアがありとても尊敬してる。そんな人に勝てるわけないじゃない……」
長濱「ユーモアというか面白さはいい勝負してるよ」
齋藤「不器用ながらも一生懸命うちらのことまとめてくれてるじゃん。いつも助けられてるよ」
菅井「え、そうかな〜?」 今泉「優子さんアイドルとしてもすごいけど女優としてもすごいし、どこで勝てばいいの?」
齋藤「歌唱力だけで言えば今泉が勝ってる」
織田「髪切ってからの伸びしろやばそうだから、プロ意識で超えてくれ」
今泉「いや〜それほどでも……」
平手「二十一世紀最強のアイドル前田さんに私なんか……」
長濱「山口百恵さんの再来とまで言われてるてちならいけるって」
平手「う〜ん……」
齋藤「一こ言い忘れてたけど、あかねんは国生さゆりさんだもんね」
織田「たまに土田さんが言ってるもんね」
守屋「へへへ!」 長濱「一番売り出せる可能性が高いのは強い不思議な力を持つこの子たちってわけ」
長沢「強い?他にも持ってる子がいるの?」
齋藤「ちなみに、ここにいるみんな不思議な力を持っているよ」
菅井「ぜ、全員持ってるの!?」
織田「自分から手の内を晒さないからね〜みんな」
齋藤「さりげなく使ってる子もいるけど、私の眼は誤魔化されないよ」
石森「待って!私持ってないんだけど!!」
齋藤「自分の不思議に気づいてない人もいるけど、まあ大体みんなが予想してた通りだよ」
石森「私も……?」
全員が不思議な力を持っているとは思っていず、驚きを隠しきれない。
出題された不思議が解けずに、脇道にそれて他のメンバーの不思議を予想していたことを思い出す。 織田「不思議があるのに、私たちのケヤカケやKEYABINGOはAKBINGOの足元にも及んでない」
渡辺「オンエア見てるけど、自分で言うのもなんだけど面白いよ!」
長濱「BINGOでは私たちは企画をやらされてるだけの人形とはいえ、AKBINGO見て勉強すればよかったのに」
志田「人の事言えねえだろが!お前も出てるんだから!」
長濱「そうだったね。勉強不足だったな……」
織田「あまりにもつまらなさにけやかけとカスをかけて"けやかす"と呼ばれてるんだよ?」
原田「あれ?なんかちょっと違うような気がするけど……」
守屋「あっちには五年とか十年の大先輩たちがいるんだから無理言わないでよ!」
齋藤「チーム8の子たちとそう年齢も変わらないのに、完全に負けてるよ!」
土生「本家の一番下にも負けてるなんて……」 渡邉「"会いに行けるアイドル"……意外と強いからね。あの子たちも」
渡辺「私、べりんちゃん知ってる!」
織田「乃木さんの七福神は十福神とかころころと変動するし、それすらもまったく世間に知れ渡っていない」
上村「生駒さんと白石さんの二人が一般の人の知名度高そう」
小林「センター経験者でもある西野さんや卒業した橋本さんも高そうじゃない?」
齋藤「こないだ友達何人かに聞いたら上二人は知ってたけど、下二人は全然知らなかったから」
織田「神8に対して、乃木さんは2/8。欅はセンターのてち、かろうじてノンノモデルの理佐の二人だから2/8」
長濱「選抜総選挙がない坂道グループがいかにして神7のように世間に知れ渡らせたらいいか。そのための何かをしなければならない」
齋藤「まあ方法は置いといて、選抜総選挙に匹敵するものでなければ平手以外の知名度は上がらない」
織田「坂道は順位付けはしない、それが逆に枷となっているんだ」
長濱「第二ウェーブの企画はまだ保留ってことで」 米谷「第三ウェーブは何や?」
長濱「最終ウェーブは、シングルで256万枚達成すること」
菅井「156……じゃなくて、256!?」
守屋「やっぱり最後は結局CDの売上枚数かよ!!」
平手「それはさすがに……」
長濱「こないだの48ndシングル『願い事の持ち腐れ』の255万枚を越さなければならない」
齋藤「売上が爆上げする選抜総選挙がある以上、AKBに勝つことは絶対にない。世界が滅びても」
長濱「乃木坂さんは当初、半年でAKBに追いつくと言われていたけど、結局六年もかけてようやくミリオンを達成することができた」
齋藤「乃木さんの方が可愛い子がいっぱいいる。でも、どんな逸材を集めてすごいプロデューサーがいても追いつくのは無理だ」
織田「うちらの最終目標は256万枚達成すること。日本にいたところでWミリオンすら達成できないだろう」 長濱「総選挙がない欅は、国境を越えない限り永遠に追い越せない」
齋藤「今のAKBは人数増加に比例して売上を伸ばしているに過ぎない。一人当たりの売上からしたら乃木さんが勝ってるけど、それだと何の意味もない」
長沢「わざわざteam8を47都道府県というふうにして、47人増やしたのはそのためか」
土生「メンが多ければ多いほど、握手券が売れまくる!」
佐藤「秋元先生は作詞家プロデューサーでもあると同時に超すごい錬金術師だよね〜……」
織田「私たちの場合、メンバーの数を増やすのではなくて国民の数を増やす!」
尾関「それでイギリスじゃなくて、北欧って言い方なのか!」
原田「北欧より世界一のアメリカの方がいいんじゃないの?」
齋藤「アメリカは太りやすいし、アイドル活動にはちょっと向いてない」
長濱「北米も考えたんだけど、やっぱり北欧以外考えられなかった」 鈴本「そういえば、オダナナ前にKeyaRoomで"海外に行って世界を広げたい"って言ってたもんね」
米谷「あと、ねるが番組で卒業後北欧に住むとか何とか言うとったな」
菅井「イギリスとか海外って治安とか危ないんじゃない?」
長濱「日本よりかは安全とは言えないかも。でも、私たちはこの欅の門をたたいたのは命を賭ける覚悟があったはずだ」
志田「ねえよ!お前らだけだろ!」
土生「英語とか無理なんだけど!」
長濱「ねるはイギリスにもホームステイしとったこともある」
織田「私もこないだ英検2級取ったから」
小池「それが何や!せめてTOEICやろが!」 米谷「成功する保証はどこにあるん?」
長濱「そんなのないよ。でも、この21人にできないことなんてないと思っとる」
渡邉「またそれ……。それさえ言えばいいと思ってない?」
長沢「すごい自信……ずーみんのそれを超えてる」
長濱「256万枚達成してこそ、私たちは初めてAKB勝ったと言える」
小林「もし勝てなかったら?」
長濱「さあ?そんなこと微塵も考えとらん」
土生「256万を達成した時……私たちの生まれた意味を果たせたということだよね」
織田「そうだよ。そのために生まれてきたんだから」
土生「じゃあその後は?もしも、あのAKBさんに勝つことができた後の私たちはどうすればいい?」 長沢「そしたら解散?」
渡辺「やだよ!みんなで欅やってたいよ!ずっと!」
長濱「勝つ気満々じゃーん!」
守屋「答えろよ!勝ったらどうするんだよ!」
長濱「その時は日本に帰ろう。そして…………」
平手「そして、何をする?」
長濱「やりたいことをやろう」
今泉「やりたいこと?」
長濱「AKBに勝ったんだから、できる権利があるはずだよ。"ここのいる人の数だけ道がある"んだから」
齋藤「土生ちゃんに合わせていうならヱレンが巨人を一匹残らず駆逐し終わった後何でもできるでしょ?」
土生「なるほど……すごい納得」 長濱「アイドルなんて所詮は操り人形に過ぎない。糸から解き放たれる時が今なの」
齋藤「ジョリティーや他の楽曲も大人は信用できない〜とか支配されない〜だの言ってるけどさ、大人たちの操り人形が何言ってんだかって感じだよね」
今泉「確かに、そうかもしれないけど……じゃあ大人たちに頼らずに行くって言うの?」
齋藤「ああ。あれは、私たちに独立してもらいたくてあんな歌詞を歌わしてくれてるんじゃないかって思った」
志田「考えすぎだろ!」
長濱「AKBグループはその地域を拠点に活動をしている。坂道はそれに対抗するために生まれた」
織田「うちらはSKEにもすでに勝っている。あとはAKBだけなんだ!」
齋藤「ソニーのお金稼ぎのためだけの操り人形とか嫌でしょ?」
原田「それは……っ」
米谷「お前らの言い分はよく分かった。北欧、イギリスへ渡って会社を興すんやな」
織田「うん!」
三人は同時に頷く。その肯定の意思は固く揺るがない。
メンバーは呆れてモノが言えず、深いため息をつく。 守屋「はあ……。通報はしないであげるから、バカなことを言ってないで帰ろ?東京に」
志田「オイねる、その券東京行きに変えてこいよ。お前の運転するバスにはもう一生乗りたくねえから」
小林「早く行け」
石森「てか東京に帰ったら、ひらがな専属になれよ!」
上村「え、でも影山ちゃんたちかわいそうじゃん!」
小池「やんな!サリーちゃんめっちゃかわいそうやん!辞めさせた方がええやろ普通に!」
鈴本「お願いだから二度と私たちに関わらないでほしい。ここまで付き合ってあげたんだからそれくらい聞いてくれるよね!ねえ聞いてる?」
渡辺「また特例で再加入!とか絶対止めて!迷惑だから!」
長沢「ひらがな2期受けないで。運営が受からせちゃうから」
罵詈雑言を長濱は一身に受ける。共犯である織田と齋藤は幸いにも非難を浴びることはないが、それが辛かった。
二人は七不思議を解きながら長崎へ行くことまでは知らされていたが、肝心の北欧へ行かせる術を知らなかった。
この状況でを18人の少女を説得することは想像すらできない。ただ一匹の狸を除いては。 長濱「そうだよね。二度と関わらないから、最後に一生のお願いがあるの!聞いて?」
守屋「誰が聞くんだよ!!」
小池「うちらの話は聞こえんみたいやな。耳栓でもしるんか?」
長濱「聞いてくれたら本当に二度と関わらない!卒業じゃなくて解雇でいい!ケータイからみんなの連絡先、全てのやりとりを消す!てか消して!」
全てのデータを消去するということは過去未来一切の交流が無くなるということを意味する。長濱はその願いのためならそれすらも厭わない。
加入した時は受け入れられなかった存在だが、デビューを共にして一年半ずっと一緒にいた。今まで活動してこれたのは、"欅"の最後の一角を長濱が補っていたのが大きい。
北欧へ行くことは捨て置くが、最後の願いだけは聞こうか揺れている。
渡邉「……それ全部本当?」
長濱「このバスでねるは一度たりとも嘘や冗談は言っとらんよ」
齋藤「みんなお願い!」
織田「お願いします!」
不協和音三人は同時に深々と頭を下げる。
18人の少女たちは仲間のつむじを見て、顔を見合わせる。 菅井「本人が最後って言ってるんだし、お願いが何なのかだけ聞いてみよ?」
守屋「こんなやつでも、一年半共にした仲間だしね。言うだけ言ってみて」
長濱「ありがとう!お願いっていうは、AKBに勝つために北欧へ行くねるを論破してみてほしいの。一人ずつ」
渡辺「ロンパ?」
志田「論破ってなんだよ!行くか、行かないかで議論すんのか?」
長濱「そう。簡単でしょ?」
鈴本「もしこっちが論破されたら行けって言うの?」
長濱「いや、そうとは言わん。けど、そうなるかも分からんけん」
菅井「それが、最後のお願いなの?」
長濱「うん。言い方変えるならただ最後にねるとお話しして?」 守屋「お話って、それなら別にいいんじゃない?」
佐藤「ねる最後のお願いなんだし、お話ししようよ〜!」
志田「話すことなんて何もない」
上村「これでサヨナラなんだから少しくらいならいいかも」
尾関「てか、論破されるわけがない!逆にし返してやるよ!」
米谷「……ねる、余程の自信なのか……。それとも何かあるんか……」
原田「"一人ずつ"って言ってる程だし、すでに全員と戦う気でいる?」
渡邉「……やるの?やらない?」
"行かない"と一点張りしてしまえば議論の余地もないはずなのに逆境でこの要求をして来た。
長濱に怪しさを感じて尻込みしてしまう者と話だけならと応じる者に分かれる。 長濱「やっぱりみんな万一のことを考えて、家族とか心配だよね?」
石森「レディーちゃんとお姉ちゃん!」
今泉「四人の愉快な兄とラッキー!」
上村「お兄ちゃんと妹」
尾関「お兄ちゃんとネックレスくれたお姉ちゃん」
織田「私は宝物の妹とお姉ちゃん」
小池「おらん」
小林「お姉ちゃん」
齋藤「私も姉ちゃんいるよー」
佐藤「二つ年上で私より話が長くて可愛くて頼りになるお姉ちゃん!」 志田「姉貴」
菅井「お姉様!とトム!」
鈴本「お姉とバムくん!!」
長沢「お姉ちゃん」
土生「ロク!てか、お姉ちゃん率高くない?」
原田「弟……」
平手「チェリーちゃんにお兄ちゃん」
守屋「2歳下と5歳下の妹!!」
米谷「いもーと」
渡辺「お兄ちゃんと妹」
渡邉「お兄ちゃん」 長濱「ねるもお兄ちゃんとお姉ちゃんおるったい」
今泉「いや、お前のは別に聞いてないから!」
長濱「もしかして、ねるたった一人に勝てないと思っとる?」
志田「ふざけんな!やってやらぁ!!」
鈴本「調子に乗らないでもらえる?」
小林「潰す」
守屋「負けるかよ!終わらせてやるよォ!」
石森「待って、茜。ここは私から行かせて」
守屋「虹花……分かった。任せたよ」
守屋は同郷の石森に先頭バッターを託す。
一番最初だからこそ石森は本領を発揮できることを本人は知らずとも本能で感じている。
長濱の挑発に乗せられた形で最後の議論が始まる。 石森「私には愛するレディーちゃんと家族、そして故郷がある!だから行けない、行けるわけがない!」
長濱「だよね。たまに虹花ちゃんおうちに帰ってるもんね」
石森「帰らなきゃならない故郷がある!」
長濱「でも、その家は動かないよね」
石森「……は?何言ってるの?動かない?」
長濱「虹花ちゃんが北欧へ、月へ、宇宙の彼方へ行こうが帰る家は宮城に在り続ける」
石森「は?月?」
長濱「問題は家との距離。離れれば離れるほど、帰る時間もお金もかかる」
石森「そうだよ!いざって時にすぐ帰れないと困る!」
長濱「飛行機で東京からイギリスは12時間で行ける」 石森「半日もかかるの!?行きたくないよ!!」
長濱「おバカ!半日しかかからないんだよ!」
石森「うぇ?!」
長濱「今立っているこの星の、ここ!ここに行くんだよ?それがたったの12時間で行けるんだよ?」
イギリスが位置するであろう真下ではなく斜め46度を指差して言う。
海の向こうの国という認識を改め、惑星のおよそ反対側まで行くということを認識させられる。
長濱「今だって、寮からから虹花ちゃんの実家までドアドア最安経路で十時間くらいかかってるんだよね?」
石森「そんくらいかかってる……。じゃあ北欧から東京。今の寮から実家までの距離は同じってこと!?」
長濱「そう――」
守屋「ちょっと待てよ!」
長濱「これは私と虹花ちゃんとのサシの真剣勝負!口出し無用」
守屋「てめぇ……!」
鈴本「あいつ……虹花がバカだからって……」 長濱「今もちょこちょこ帰ってるみたいだけどさ、東北地震から六年経つけどまだ復興が進んでいないところもあるよね?」
石森「まだあるよ!私は寄付募金やってるよ!」
長濱「それは知ってる。ビンゴのMC、サンドイッチマンさんが寄付した金額知ってる?」
石森「……いくら?」
長濱「4億円」
米谷「よよよ、400,000,000!?」
志田「やっば!」
土生「愛佳がツインテールにする額の倍じゃん!」
小林「いや、それ世界一わかりにくい例えだから」
長濱「ぶっちゃけ、虹花ちゃんがしてる寄付なんて雀の涙なの」 石森「雀の涙?何それ?」
米谷「ごくわずかなものの例えやで」
石森「ちゅん……」
長濱「ごめんね。分かってるよ、金額じゃなくて気持ちだって」
石森「そ、そうだ……!金額は少ないけど、私は被災地の人を笑顔にするためにアイドルになったんだ!」
長濱「でも現実は違う。例えば、気持ちを込めて一生懸命折った千羽鶴をもらって被災者された方の誰か喜んだ?虹花ちゃんが一番知ってるよね」
石森「そ、それは…………っ」
長濱「所詮は贈った人の自己満足でしかないの。加えて例えるなら、鶴折るバイトがあってその千羽に何の意味がある?」
石森「要はお金が大事ってことなんでしょ!?分かってるよっ言われなくたって!!」 長濱「思いやりの心を否定するわけじゃないけど、世の中見た目とお金なの。私たちは2万5千人の中から選ばれた21人だから見た目は好い」
石森「え?へへ……」
長濱「お金があれば復興が早まる。ということは、被災された方が元の暮らしに近づける。さらに、被災の傷を癒すことができる!今でも帰る交通費とか安くないでしょ?」
石森「月二くらいで帰ってるけど、正直往復だと少し痛い」
長濱「その分も寄付できるんだよ!しかも今のお給料でじゃなく、あのAKBに勝ちに行く稼ぎ分で!」
石森「す、すごい!」
長濱「その方が格段に早く復興に近づけること間違いなし!"アイドルという枠組みを覆した"虹花ちゃんのおかげで、ね?」
石森「私、イギリスに行く……!」
欅「ええええええええええええええ!?」
長濱「一人目」
長濱は石森に券を渡す。
石森は覚悟を決めた顔で受け取り、バスを降車する。 長沢「虹花ちゃん裏切った!」
佐藤「おバカだからとはいえ、完全に言い負かれてたね〜……」
米谷「先頭打者は凡退に終わったか」
平手「虹花……」
バスの外の石森は虹色の笑顔を見せる。
狸は次の標的である兎に狙いを定める。
長濱「次は莉菜ちゃん行く?」
上村「私は行きたくない!」
長濱「莉菜ちゃんはその指で世界を魅了してほしい」
上村「日本だけで十分だよ!なんで北欧なんかに……。もういい加減にして!」 長濱「ピーターパンの発祥って北欧なんだって」
上村「え、初めて知った……」
長濱「ネバーランドと繋がってる人間界の場所はロンドンなんだよ」
上村「へー……いやいや!だから何?」
長濱「レッスンとかでも一人だけヨレヨレしてたり、魅了の力を使うと体力を使うんだよね?」
上村「そんなことまで知ってるなんて……!」
長濱「濫りに使ってその指ケガをしてるもんね」
上村「湿布とかテーピングとかで何とかしてた。その間、力は隠れて使えない……」
長濱「指の力の代償は若さ。莉菜ちゃんは小さくて童顔だから今は見た目誤魔化せてるけど、使う度に着実に老化が進んでいる」
上村「分かってる!でも私にはこの不思議なくしてやっていけないの!しょうがないじゃない!」 長濱「莉菜ちゃんがこのままこの狭い国でその指の力を使って人気を得ていたら、老化が加速して真っ先に脱落するしかなくなるよ?」
上村「え゙ー!?そんなのやだよ!!私どうすればいいの?」
長濱「妖精発祥の聖地のイギリスでは体力を消耗することなく、思う存分その不思議を十二分に発揮することができる!と思う」
上村「ホントに!?いや、でも……どうしよう…………」
長濱「千葉の妖精が北欧へ飛んで行って、世界を魅了してほしい!」
上村「飛んで行くー!」
長濱「二人目」
志田「リナババぁあああぁあああ!?」
上村は長濱の券を受け取り、背中に妖精の羽が生えたような軽やかな足取りで出口へ向かう。
そして、世界へ飛び降りる。一瞬、宙に浮いたように見えるもただの錯覚だった。バスの外で石森と合流する。 守屋「マジかよ……。虹花に続き、莉菜まで?」
米谷「油断しない方がいい。あいつは強い」
長濱「次は誰かな?」
尾関「ぅうぅぅうう私だ!虹花や莉菜のようにはいかないからなぁ?」
長濱「ところで、おりかちゃんはどうして行きたくない?」
尾関「そりゃあ、車のディーラーになる夢もあるし大学もあるし普通に行けるかよ!」
長濱「それはアイドルの後でもよくない?今のままディーラーになったところで、営業の自信ある?」
尾関「それは……今はまだない!でもアイドル活動や大学で勉強して卒業後すごいディーラーになる!」
長濱「ところで、おりかちゃんの人生設計はどうなってるの?」
尾関「まず大学を出て、欅一本でしばらく活動して、卒業後にディーラーになる!!!何か文句ある?」 長濱「ないよ。ただ何のために大学に大学に行ってるのか教えて?」
尾関「それはディーラーになるためにせめて大卒じゃないといいとこに就職できないからに決まってんだろー!」
長濱「そっか!就職のためだけにとりあえずで大学に行ってるんだね!」
尾関「はああああ!?今の時代、大学卒業しなきゃいい就職先なんてないって聞いたぞ!」
長濱「確かにこの不景気だけど、高卒でもディーラーの人もいっぱいいるよ?たぶん」
尾関「大手は学歴フィルターがあるから学歴ないに越したことはない!」
長濱「学歴フィルターって、マーチとかそれ以上のとこに通ってるわけじゃないでしょ?」
尾関「そ、それでもないよりは有利だろ!」
長濱「確かに。そうかもね」
尾関は至極正論は押し通し、黒星二つの長濱に押し勝っている。
長濱はいまだに涼しげな顔のままであり、あえて尾関に一本取らせたように見える。 長濱「それじゃあさ、何のためにアイドルやってるの?」
尾関「何のために、って…………え?」
長濱「今の話を聞く限りだとディーラーになるために大学に通ってて、アイドルの要素なんて必要なくない?」
尾関「いや、だから、それは、その………っ」
長濱「おりかちゃんにとってアイドルはただの腰掛け?アルバイト感覚?」
尾関「チガウ!!!」
長濱「ねるだったらだよ?いずれ車買うときになって……というかこの『ブラックねるちゃん号』はねるが買ったんだけど」
尾関「お、おう……てかすごいな!その歳でこんなバス一台買うなんて!」
長濱「いやいや、おりかちゃんに比べたらねるなんて全然だよ〜」
尾関「いや〜ひっひっひ!」 守屋「ねえ、何この茶番?」
鈴本「さあ?私に聞かれても……」
渡邉「もうねるの流れだね」
傍観者は傍で呆れて観ることしかできない。
尾関が落ちるのも時間の問題だと感じ、次の準備に入る。
尾関「それで、車買うなら何?」
長濱「そうそう。ねるが普通の車を買いに行くなら、東京大学卒業した人よりAKBに勝つかどうかはおいといて世界を見て来た人から買いたいな〜って」
尾関「た、確かに!私もそんな人から車買いたいかも!!」
長濱「あっちに行く自然と英語が身につくと思うんだ。だから日本の人だけじゃなくて世界中の人に大好きな営業ができるようになるんだよ!」
尾関「うおおぉおおおっ!!最高かよ――!!」 長濱「検索サイトでさ『世界の尾関』って調べたら何が出てくると思う?」
渡辺「セカイノ……オワリ?」
尾関「え、何が出てくんの?」
長濱「おりかちゃん」
尾関「何だよ?」
長濱「おりかちゃんが出てくると。一項目目から、画像もね」
尾関「ぇえええええええっ!マジでぇええええええ?」
守屋「おぜちゃんすごいじゃん!」
渡邉「それは普通にすごいね!」
平手「おぜかわ!」 長濱「これってすごくない?」
尾関「いや〜そうかな〜?」
長濱「世界に出るしかない。こんな狭い島国に留まる人じゃないんだよおりかちゃんは!」
尾関「え〜でも〜なんか……」
齋藤「誰がシングルのジャケットの字とかを書いてくれんだよ?」
尾関「ふーちゃん!……よーし、イギリス行くかー!」
長濱「三人目」
最後は齋藤に押されて尾関は渡英を固く決意する。
尾関は長濱が持つ券を奪い取ると、広くないバスを独特な走りで駆け降りた。
21人の内長濱、織田、齋藤の3人に加えて、行くことを決意した3人がバスを降り外にいる。
残りの15人に緊張が走り、土生が進撃する。 守屋「おぜちゃん……。もう許せねえ!ここは私が――」
土生「待ってあかねん。万が一を備えて、副将はどんと構えてて」
守屋「土生ちゃん!……万が一を考えて、後ろには私がいるから思いっきり行って!」
土生「うん!次は私だよ、ねる」
長濱「土生ちゃんか。正直に言うよ」
土生「どっからでもかかって来い」
長濱「土生ちゃんはいまいち人気が伸び悩んでいるよね」
土生「うん?まあ、そうだね」
長濱「日本だと背の高い女性は遠慮されがちだけど、北欧では長身の方が人気がすごいんだって」
土生「え、ホント!?」 長濱「マジと。土生ちゃんは足も長くてスタイル抜群だから向こうに行けばきっと世界的なモデルにだって……」
土生「行くー!とでも言うと思ったか?モデルがどうした。その手には乗らないよ!」
長濱「そっか。モデルになりたくないの?」
土生「なりたいよ!でも、私はここ日本でこそなりたいんだよ!」
長濱「その夢が叶うといいね。応援してるよ」
土生「うん。ありがとう」
長濱「先に理佐とぺーちゃんがモデルになったけど、どう思う?」
土生「二人ともうちの最強ビジュアルコンビだから、なれて当然だと思ったよ」
長濱「土生ちゃんはまだならなくていいと?」
土生「のんびりラジオをやって知名度を上げたいなって思ってるから今はまだいい」 長濱「え、ラジオでファンを増やしたと思っとる?」
土生「え?初めてのソロでの外仕事だもん!そりゃ思ってるよ!」
長濱「土生ちゃん。それはとんだ思い違いだよ」
土生「は?どういうことだ、ねる!」
長濱「あのラジオは土生ちゃんと他女の人三人でやっとるよね。欅のファンの人たちが聞いたら土生ちゃんの声は判るけど、他の女の人三人は誰が誰だか判らない。そもそも何やってる人たちなの?」
土生「アナウンサーさんとモデルさん。あとグラビアアイドルさんだけど……」
長濱「そうなんだ。土生ちゃんにしか興味がない人はその三人の応援なんてしてないと思う」
土生「……じゃあ、四人でやってるから私のリスナーさんを1/4としてその既存のファンの人が聞いているだけで、残り3/4の新規のファンが増えないってこと?」
長濱「そう。簡単に言うと、その三人のことをA、B、C、土生ちゃんの四人のラジオはそれぞれのファンが聞いていて、AさんのファンはB、C、土生ちゃんの声を判別できないの!」
土生「あそっか!」 長濱「みいちゃんのラジオはパーソナリティーが男性だからあの可愛い声が際立つけど、土生ちゃんの場合埋もれてる上判られてすらいないんだよ?」
小池「そうかもしれへんな……」
土生「そうだったんだ……。でも番組のSNSとかで、開始前とかに告知宣伝の写真とか乗せてるし、それ見て聞いてくれてる人も……!」
長濱「だから声だけしか届けられないんだから点と点が結びつかなかったら無駄なの!分かる?」
土生「あぁ、ダメだぁ……。動画を見てもらわないと知られないままだ……」
長濱「それに一緒にやってるのって、色気があっておっぱい大きい綺麗な大人なおねえさん人たちなんだよね?」
土生「うん……いや、小さい人もいるけど色気はパない!」
長濱「土生ちゃんにもおねえさんたちに適う色気あるの?」
土生「ない……」
土生は大人なお姉さん三人と自分を比較する。
自分の体を見て、明らかに落ち込む。 長濱「土生ちゃんにあるのはかっこよさと可愛さ!あの山本美月さんに似てるんだからそれを自覚して!」
土生「……それ握手会でもたまに言われる」
長濱「そして、土生ちゃんにはアジア枠は合ってないんだよ。土生ちゃんは絶対北欧向き!客観的に世界を知ってるねるが言う!」
米谷「何か国か留学しとったもんな」
土生「私、アジアじゃだめなのか……」
長濱「もし合ってたら一番にモデルになってたよ!モデルもいいけど、ダンスパフォーマンスは時にてちを凌いでる」
土生「ダンス習ってたし、この身長だからそう見えるのかも……。北欧の方が私は力を発揮できる?」
長濱「間違いない。だから、一緒に北欧行かない?」
土生「……うん。行こう!」
長濱「四人目」
小池「土生ちゃん……」
ねるから券を受け取り、颯爽とランウェイのように中央通路を歩きバスを降りる。
小池は土生を背中を最後まで見つめていた。 菅井「土生ちゃんまで!?」
原田「矢継ぎ早に四人もやられちゃった!」
平手「あとすでに不協和音三人いるから、もう1/3は向こう側ってことか……」
今泉「ああ!!もう七人も!?取り帰さないと!!」
長濱「次は誰かな?誰でもいいよ」
小池「うちやで!ねる!」
長濱「みいちゃんか。土生ちゃんは行くんだよ?行こうよ?」
小池「土生ちゃんはうちが連れ戻す!覚悟しいや。うちは今までのちょろい子たちとちゃうで?」
長濱「あーあ、調和だけじゃ危険だと思わん?」
小池「ああ?何や、うまくいきよんるに越したことはないやろ」 長濱「いきすぎてもダメ。たまに不協和音があってこそ成長するんだよ」
小池「スキャンダルを肯定するんか。それでどれだけ乃木さんのファンが離れたか」
長濱「でも、あの指原はスキャンダルを経て総選挙ダントツ1位を三連覇したんだよ。不協和音がなければ、きっとあの人も普通のアイドルで終わってた」
小池「かもな。でもうちらはそんな奇をてらうマネせんくてもええやろ。うちらはうちららしくやればええ」
長濱「それじゃあ勝てないの!このままAKBに勝てるんだったらねるもこんなことはせん!」
小池「正直AKBさんとかどうでもええ!!勝ちたきゃ勝手にやってればええやん!」
長濱「…………」
小池「なあ、終いにしようや?」
ここに来て初めて暴走娘を一時停止させた。
長濱はうつむいていて表情が伺えない。 守屋「これみいちゃん勝てるんじゃない?」
今泉「なんかいけるかも!」
菅井「ねる……もう諦めて帰ろう?」
織田「果たして、ペンギン対タヌキどっちが勝つかな?」
齋藤「私はもちろんペンギン、じゃない方に賭ける」
小池優勢で他のメンバーも長濱を諭してくる。
長濱を信じている織田と齋藤は余裕ぶっている。
長濱「ニルス・オーラヴ」
小池「うおぇ!!?ちょお!??」
長濱は日本のではない言葉を言うと、小池は尋常じゃない反応を見せた。
外野は呪文なのかどこの国の言葉なのか判断できない。 平手「今ねる何て言った?」
米谷「スコットランドにいるノルウェー軍のマスコット的存在にして王国陸軍の准将の階級を持っとるオウサマペンギンの名前や」
原田「へ〜知らなかったー。さすがよね!」
米谷「うちも美波から聞かされて調べ直した」
渡辺「ペンギンの王様!?すご!!」
長沢「軍曹どっちが階級上なの?」
米谷「大佐の1こ下で、軍曹の10こくらい上やで」
守屋「う、ペンギンに負けた……」
志田「理佐はモナ王国の大佐だから勝ってる!」
渡邉「そんなことより、やばいよ」
つかの間のおふざけから大佐が危機を覚える。
長濱の一言により既に形勢逆転されていた。 長濱「スコットランドだから、いつでも見に行き放題。しかも肉眼で」
小池「ぐっ、それはズルい!!」
長濱「みいちゃんの不思議な力、知ってるんだよ?だからあんなつまらんゲームやってるんだね」
小池「バレとったか!でも、カンケーないー!」
長濱「もうすぐ6mだっけ?そのうちカンストして、成長止まってもいいの?」
小池「それは嫌や!」
長濱「何か乱すことで気づくと思うんだよね、もっと」
小池「新しい世界――」
長濱「行こ?」
小池「行ったろうやないかい!」
長濱「五人目」
米谷「美波……!」
いかなる時も完璧に決まってる前髪を今日も崩さずにバスを降りた。
小池の不思議はペンギンにあり、真相は長濱と齋藤しか知らない。 原田「みいちゃんまでやられた!」
小林「ペンギンに付け込まれただけだから」
平手「でも、それが命取りになった」
米谷「あいつ、うちらの弱点を知り尽くしている?」
米谷は今までのやり取りを考察する。
鈴本が織田へ詰め寄る。
鈴本「だに、何でなんだよ……!」
織田「美愉。ここで行かなければいけないんだよ」
長濱「ほら、オダナナも行くことだし一緒に行こうよ」
鈴本「ねるは少し黙れ」
長濱「やれやれ……」
長濱は鈴本に背を向け、織田の肩に手を置き託す。
五人目まで立ちっぱなしだった長濱は座席に腰を掛けて休む。 鈴本「お願いだから目を覚まして!こんなバカみたいなこと!」
織田「目は覚めてる。バカかどうかはやってみなきゃわからなくない?」
鈴本「どうして……どうしてねると一緒に北欧でやっていきたいの?ねると違ってだにはAKBさんとか興味ないでしょ?」
織田「だって、楽しそうじゃん」
鈴本「タノシソウ?」
織田「私は面白いことが好きなの。あのAKBに勝つために外国に行くなんて、こんな楽しいことは世界のどこにもないよ!」
鈴本「えぇ……日本じゃつまんないの?」
織田「つまらなくないよ。ただデビューして一年半でだいたいのことはやった。全国ツアーが終わって、東京ドームもきっとすぐそこにあったと思う。他に何をしろっていうの?」
鈴本「恵まれた環境にあるのは分かってる。東京ドームが終わってもまだまだやることなんていっぱいあるよ!だには井の中のラクダだ!」
織田「狭いから!だから井戸から出ないと!ここにはもうないんだよ!」 鈴本「おかしいよ!勢いだけじゃ世界で通用するわけがない!」
織田「この勢いのまま世界に飛び立つしかないんだって!落ち目になってからじゃ遅い!一生勝ち目がなくなる!」
鈴本「なんで今このタイミングなの?全国ツアーや東京ドームが終わってからでもさあ!」
織田「そんなこと言ってたらずっとAKBに勝ち行けないんだよ!じゃあいつ行くの?……今でしょ!」
鈴本「でもAKBさんに勝てるわけがないよ……」
織田「始めからそう諦めてしまったら、私たちは何のために生まれたの?」
鈴本「……何のためって……私は…………っ」
織田「美愉が昔からダンスでもセミプロでも舞台に立ち続けたのはなんで?」
鈴本「そうだ……。私が舞台に立つのも、アイドルになりたかったのも、面白そうだったからだ……!」 長濱「なら、もう答えは決まってるね?」
鈴本「嫌だ!お前には行かされたくない!」
長濱「オダナナが美愉ちゃんにもっと優しくすれば来てくれるんじゃない?」
鈴本「そんなの要らない!私はありのままのだにが好きなんだよ!」
織田「美愉はどうすれば一緒に来てくれる?」
鈴本「……だにが一言、言ってくれれば私はどこにだって……!」
織田「来い!美愉!」
鈴本「行くー!」
長濱「六人目」
平手「鈴本……」
鈴本は長濱から券を受け取り、織田を思いっきり抱きしめた後すぐに降車した。
それを妬みの目で見ていた一宗教団体の教祖が静かに立ち上がる。 長沢「ねる」
長濱「なーこちゃん」
長沢「私は別にAKBさんに勝つために海外に行くことにはどっちでも良かった」
長濱「あ〜そうなんだ?」
志田「軽っ!」
守屋「オイ菜々香?!」
長沢「私がイギリスに行きたくない理由はたった一つだけ」
長濱「食べ物、だよね?」
長沢「うん。イギリスってごはんがすごいまずいんだよね。だから絶対行かない」 長濱「その知識は間違ってる。話せば長くなるけど……」
長沢「え、そうなの?教えて!」
長濱「ロンドンは他のヨーロッパ諸都市にも劣らないグルメ都市に生まれ変わりつつある」
長沢「ええ……嘘だ。世界中からイギリス料理まずいって言われてるよ」
長濱「昨今は違うよ。もはやイギリス料理がマズいのは過去の時代の話。ひと昔、野菜は死ぬほど煮るわ、肉は死ぬほど炙るわでおいしくなかった。その時のイギリスの料理はまずくて、それが今でも世界的なジョークになってるだけ」
長沢「ジョークなんだ!じゃあ、逆に何か美味しいものあるの?」
長濱「甘味も代表としてスコーンがあってクリームやジャムをつけて、有名なアフタヌーンティーと一緒だともう最高!ねるも食べたことある!」
長沢「味あるかな?」
長濱「本場のスコーンとジャムなめないで!あと、牛肉をとにかく愛してて、ステーキやローストビーフはイギリス発祥なんだよ。だから異常に発展してお肉だけは他のヨーロッパからもお墨付き」
守屋「それは知らなかったー!」
今泉「お肉ぅ!ふぉ!」
渡辺「食べたい……」 長沢「でも、お米も食べたいし」
長濱「安心して。安くておいしい"プディングライス"があるから。たっくさん食べられるよ」
長沢「何それ、名前からしておいしそう!しかも、たくさん?」
長濱「ちゃんと日本米もジャパニーズセンターで買えるからね」
長沢「よかった……」
長濱「イギリスならではの卵料理もあるけん」
長沢「お腹空いてきた。早く行こ」
長濱「七人目」
長濱は長沢に券を渡す。
長沢は券をオムライスの食券のように大切に握りしめ降車した。 渡辺「ん〜、なーこちゃん……」
米谷「食欲には勝てんかったか」
菅井「もう七人目ってことは、不協和音三人を足して十人!?」
守屋「やばいよ!次やられたら過半数超える!!」
残り十一人となり、ターニングポイントとなったことに気づき焦りを感じる。
長濱は目を細めて挑発をしてくる。
長濱「お次は誰かな?」
佐藤「次は私の番、そして最後だよ!ベージュ唇猿腕たぬき娘ねる〜!」
長濱「しーちゃんは何だか話が長くなりそうだね」
佐藤「私の話が長いのはおばあちゃんの隔世遺伝なんだからしょうがないでしょー?私のせいじゃないんだから〜!」
長濱「はいはい。この調子だと飛行機に乗り遅れるから早く済ますよ」 佐藤「短くしたいものなら短くしてるよ!ねるの足や猿腕のような短さみたいに!でも頭の中に言いたいことありすぎて、全部言わなきゃ気が済まないの!」
長濱「とりあえずしーちゃんの夢は、毎年おじいちゃんと一緒に見ていた紅白歌合戦に出ること、だったよね?」
佐藤「そうだよ!まさかこんなに早く出られるとは思ってなかったからものすごく嬉しかった。きっと天国のおじいちゃんもすごい喜んでくれてると思う」
長濱「そうだろうね。じゃあ、もう夢はないの?」
佐藤「夢………………………………………………………………」
齋藤「三点リーダーも長いな!」
長濱「夢もないまま、この緩やかな坂を登ってもおじいちゃんの耳には届かないんじゃないかな?」
佐藤「何よ!もっと急こう配な坂を登らなければいけないって言いたいの?」
長濱「AKBに勝ったら一番喜んでくれると思うんだけどな」
佐藤「勝たなくてもきっと見ていてくれてるはずだよ!!分かったように、ねるに何が分かるの!?」 長濱「ねるは何も分からんよ。でも、番組でも積極的じゃない今のしーちゃんを見てどう思うだろうね」
佐藤「後列で、振られないし、仕方ないでしょうっ!?」
長濱「言い訳はいいよ。怠けてる孫は見たくないことだけは分かる。自分の武器を、不思議をここで使わずにいつ使うの?」
佐藤「……今?」
長濱「お願い!しーちゃんの力が必要不可欠なの!」
齋藤「ジャケ絵は誰が描いてくれる?」
佐藤「行く!」
長濱「八人目」
最後は最も短い言葉で渡英を決意した。
長濱から受け取った券を指の間に栞のように挟み下車した。 平手「尾関と同じ手法でやられた……」
渡邉「ふーちゃん邪魔」
守屋「サシとか言いながら、助けられてんじゃん!」
長濱「なんかすみません。次からはやめるよ」
志田「こういう展開ねえ。例え、残り私だけになっても絶対に行かないからな」
長濱「クロエちゃんにも来てほしい」
志田「ほしいものは何もない。やりたいことも特にない。残念だったな」
長濱「そっかぁ。じゃあ、またあの平穏で退屈で何もない和かだけがある田舎に帰って、お米でも作るの?」
志田「――ああ、ダメだ」
長濱「ダメ、だよね?」 志田「頭では分かってる。こんなことは現実ではありえない。行くわけがないんだ」
長濱「アイドルになれたこと自体が夢のようなことなんだよ。これも夢の続きのようなもの」
志田「でも、これは現実……」
長濱「変わらないよ、現実でも夢でも。何をしてもいい。一度きりの人生を変えたくて、オーディションを受けに来たんでしょ?」
志田「そうだ。私も東京に憧れて上京して来た」
長濱「そして、愛佳はすでにこの楽園で禁断の果実の味を知ってしまった」
志田「こんなに楽しいことはない。田舎にいたら一生気づかなかっただろう。でも、こいつを……止めたい、止められない、止めたかった!」
長濱「ならどうする?」
志田「もう行くしかないじゃん」
長濱「九人目」
小林「あのさ、期待させといて早くない?」
守屋「出だしは良かったけど瞬殺かよー!」
長濱は志田に券を渡す。
志田はクールにバスを降りる。 今泉「そろそろあの狸止めないと本当に取り返しがつかなくなっちゃうよ!?」
平手「織田とふーちゃんはあっち側だから……あと残り九人しかいないし!」
米谷「予定調和なんか?……いや、待てよ……」
長濱「次は誰?葵ちゃんにする?」
原田「私は…………っ」
長濱に名指しされた原田は渡邉を見つめる。
目で助けを求めるも、渡邉はバスの外の志田を見ている。
長濱「理佐が気になる?」
原田「私は、理佐について行くだけだから……」
長濱「じゃあ、保留にして次は理佐でいい?」
渡邉「望むところだよ!ねる!」
志田が洗脳され、渡邉は明らかに頭に血が上っている。
冷静ではない彼女を見て、渡辺は口を出さずにはいられなかった。 渡辺「待って!先に私にやらせて」
渡邉「梨加ちゃん!?」
渡辺「理佐ちゃん。ねるちゃんに聞きたいことがあるから」
渡邉「……お願い」
渡辺「ねるちゃん。理佐ちゃんが娘って、本当のことなの?」
長濱「忘れてる人に何を言っても思い出せないよ」
渡辺「お前が言ったんだろ!ウソ?本当?どっち!?」
始めてみる渡辺の激昂に一同は怖気づく。
しかし、長濱はそれに慣れているように見えた。
長濱「本当だよ。信じなくてもいい。普通じゃないもんね」
渡辺「なら、私は理佐ちゃんが行くなら行く。行かないなら行かない」
長濱「またまた保留か」
渡辺のおかげで渡邉はいつもの冷静さを取り戻し心の中で礼を言う。
二人の運命を双肩に担い、冷ややかな目で長濱を見つめる。長濱はいやらしい笑みを浮かべて応える。 長濱「今度こそ理佐だね。お母さんは理佐が行くなら行くってさ」
渡邉「うざいよ、あんた」
長濱「ひどいよ〜。ぺーちゃんが母親だってこと教えたげたのにー」
渡邉「うるさい。本当かどうかも怪しいし、ヒントなしで答えにたどり着いたのは私たちだから」
長濱「七不思議を出さなければ気づくことなく過ごしていたよ、一生ね」
渡邉「……かもね。だけど、ささいな問題だよ」
長濱「些細だったと?」
渡邉「梨加ちゃんと血のつながりがあってもなくても、私の大切な人ということに何の変わりはないってこと」
長濱「素敵」
渡邉「本題に入ろうか」 長濱「理佐はAKBに勝ちに北欧行きたくない?」
渡邉「せっかくモデルになれたのに行くわけないでしょ」
長濱「理佐は世界レベルでも顔もちっこいし、東洋人として北欧でチャレンジするのがいいよ」
渡邉「興味ない」
長濱「埋もれるだけだよ、この国では。世界に……」
渡邉「いいんだよ、そういうのは。私たちには世界は広すぎる」
長濱「今外にいる子たちはAKBに勝ちに行こうとしてる。それなのに理佐はモデルになれたから欅のことなんてどうでもいっか?自分さえモデルで活躍できていれば」
渡邉「違う!国を捨ててまで行く意味が分からない!」
長濱「国を捨てるわけじゃないよ。勝つための手段なだけ」
渡邉「欅は謙虚じゃなきゃならない。忘れたの?」 長濱「謙虚と消極的は別だよ。はき違えないで」
渡邉「ん……」
長濱「髪を切る決断をした時もこんな感じじゃなかった?」
渡邉「………ああ。こんな感じだったかもね」
長濱「理佐が長い髪を捨てずにいたらセカンドでフロントになることも、モデルにもなれなかったと思わん?」
渡邉「それはずるい。結果そうなっただけであって……」
長濱「学生時代伸ばし続けた髪を切る決断は、まさに今世界に挑戦する覚悟と同じ」
渡邉「同じとは思えない」
長濱「自分のために髪を切ったと思うけど、今度は欅のために北欧に来てほしい」 仲間からのお願いに渡邉は揺れていた。
結果からして髪を切ったことは人生のターニングポイントだった。
ここもそうであり、拒めば人生が終わってしまう気さえする。
渡邉「……。ダニは本当にイギリスに行くの?」
織田「うん」
渡邉「私が行かないでって言っても行く?」
織田「行くよ」
渡邉「それでこそダニだね。私も行ってもいい?」
織田「もちろん!一緒に行こう!」
渡邉「クッフン!」
渡辺「ダニー!」
原田「理佐〜!」
長濱「十人目、十一人目、十二人目。それとオダナナが十三人目」
織田をワタナベで挟み、原田は渡邉の後ろから裾をつかみついて行く。
織田は長濱から四枚の券を受け取り、四人仲良く降車した。 小林「そんな、理佐まで……っ」
菅井「どうしよう!実質あと六人だよ!」
今泉「少なっ!?ゆっかー、茜ちゃん、てっこ、よねみん、由依ちゃんと私だけ!!」
米谷「このままだと全員ってこともありえる!?」
平手「何とかしないと本当にそうなるよ!」
年下たちの狼狽する姿を見て、副キャプテンは意を決する。
満を持して守屋は腰を上げる。
守屋「もういいよな?ここで止めたるよっ!ねるぅ!」
今泉「あかねんお願い!そのタヌキ止めて!」
長濱「さあて、止められるかな〜?」 守屋「私はキー局のアナウンサーになる夢がある!」
長濱「だから諦めよって!今のままじゃ無理だから!」
守屋「んだと!?こっちは大学にも進まず欅一本でやってきてんだよ!」
長濱「それ!今はマーチ以上の大学のミス女という肩書きがないとかなり難しい狭き門なの!」
守屋「えっ、そうなの!?」
長濱「かつてAKBのゆきりん他数名がやってたことあって、全盛期に」
守屋「じゃあ私だって!気合でなるから!」
長濱「その上で無理って言ってるの。分かる?」
守屋「お前が無理と言おうが、なるったらなるっ!」
長濱「なるのは、AKBに勝ってからにして!全盛期のゆきりんがちょこっとやってものに、今じゃどうやってもなれないから!」 守屋「いつかは超えてやるよ!」
長濱「AKBに勝ちさえすれば……女子アナになるのも夢じゃない。しかもローカル局じゃなくてキー局のね」
守屋「本当にAKBさんに……いやAKBに勝てばなれるんだろうな?」
長濱「約束すると。勝ったからなれるのはもちろんなんだけど、あかねんは欅で……いや客観的に見て聞いてアナウンサーに向いとるもん」
守屋「ガチ!?」
長濱「コンサート開始前のアナウンスとか、メンバーやないと思った程やけん」
守屋「いや〜それ程でもー?えへへへ〜」
長濱「AKBに勝つにはあかねんがいないと無理。お願い」
守屋「AKB、かかって来いよ!絶対に勝つ!」
長濱「十四人目」
菅井「あかねん、ウソ……」
守屋は長濱から券をガチでひったくる。
未来を見つめてひた走り、バスを降りる。 残り五人となり、米谷はあることにが気づき、残りのメンバーで小さな円陣を組む。
出来過ぎている状況に第八の七不思議が関係していると結論付ける。
米谷「ちょっとみんな聞いて!」
今泉「よねみんどうしたの?」
米谷「ねるが時間を遡る力があるでしょ?あいつは何回かタイムリープして今にいる可能性がある!」
今泉「何それ!?ズルいよ!!」
米谷「いくらなんでもあかねんが……いいや、みんなあっさりとやられるとは考えにくい!」
菅井「そんな相手に勝てるわけないじゃない!負けそうになったらリセットボタンを押せばまたやり直しができるなんて……」
小林「しかもこっちの出す手、弱点を知られた状態でやり直してるんだから尚更勝ち目なんてあるのか……?」
平手「後出しじゃんけんし放題じゃん……」
菅井「皆、もう外にいるしこのまま外国に行くなんてことになるのかな……」 今泉「そうはさせない!皆の目を覚まして、連れ戻す!」
平手「ねるはやり直しができる。逆にこっちが論破させてしまえばみんな連れ戻せるかも」
菅井「そっか!永久に拒み続ければねるだっていつかは外国に行くだなんてバカなことやめるはず!」
米谷「もう理佐が行くから〜とかみんな行くから私も〜とかいう理由で行くのはなしやで」
小林「あいつは一体どこまで私たちを攻略済みなんだ?」
米谷「まだこの状況をやっているということは少なくとも全員は攻略されてない」
平手「ただ突進するだけでは、確実にやられる……どうしよう」
米谷「そうやな……作戦名『エキセントリック』。その名の通りに行けばきっと未来は変わる!」
菅井「おお!よーし行くぞー!」
小林平手今泉「オー!」
菅井たちの会話は長濱と齋藤に聞こえないようにしていた。作戦が功をなすか、否か。
一方、長濱と齋藤は小休止でお茶をしている。 齋藤「あいつら気づいたみたい」
長濱「知ってる。タイムリープしてることに気づいたのはこれで21回目」
齋藤「ヤバいな!まさかとは思うけど、私がねるにやつらが気づいたことを言って、ねるはその数を更新しながら答えてた?」
長濱「まあね」
齋藤「ひえ〜!ジャンプ風に言えば『ば、化物め……』だね。私このセリフ毎回言ってたりする?」
長濱「アッハハッ!それは初めて〜!」
齋藤「よっしゃ!」
齋藤と長濱がイチャイチャと盛り上がっている。
しびれを切らしたキャプテンが切り込みを入れる。 菅井「やいお前らぁ!かかってこーい!」
長濱「あ、作戦会議終わりましたー?」
齋藤「"やい"って言う人初めてだわ!」
菅井「次は私だよ!みんなの親になんて言えばいいの?学校だって通ってる子もいるのに!」
長濱「海外留学って言えば首を縦に振ってくれるよ」
菅井「てちなんてまだ高一なんだよ?」
長濱「みんな義務教育は終えてる。葵ちゃんすらもね」
菅井「あのねえ!せめて高校は卒業してからでも遅くは――」
長濱「遅いッ!!」
菅井「ひぇっ!?」
急に長濱が怒り、キャプテンは驚く。
彼女が今という時間にこだわり、急ぐ理由を話す。 長濱「それだと間に合わない!あと三年後なんて平均年齢いくつになると思っとる?」
菅井「あっ……二十歳超えてる?」
長濱「もっと!最年少てちの卒業を待っていたら、すぐに5月誕生日の葵ちゃんも二十歳になって、てち以外みんな成人のグループになるんだよ?わかる?」
菅井「最年長の私とぺーちゃんもその時は25、6歳!!」
長濱「若い今だからこそAKBに勝てるチャンスがあるの!現役が4人いる今がベストタイミング。今しかないんだよ!」
菅井「っ……今しかないのはよーく分かったよ。でも、いざとなったら誰が私たちを守ってくれる?管理してくれる大人たちがいるの?」
長濱「大人たちに支配されるな!」
菅井「え……いや、何サイマジョでかっこつけてるのか意味わからないから!現実的な話をしてるの!私たちだけで住まいは?どうやって仕事とってくるの?送迎は?」
長濱「私たちは"大人を信じない"というコンセプトで活動しているよね。その私たちが大人の操り人形だなんておかしいと思わん?この上ない皮肉」
菅井「じゃあ全部メンバーでやれって言うの!?無理でしょ!現実的に考えて!」 長濱「稼げるようになったら人を雇えばいい。それまでは全員で分担していく。ねるも弁当注文係とかバス送迎するし」
菅井「誰が引っ張っていくのよ!」
長濱「だからキャプテンに引っ張っていってほしいの」
菅井「わ、私……!そうだ……キャプテンなんだ……私が!」
長濱「英語しゃべられるの私と米さんくらいしかいない。お嬢様の英才教育を受けたゆっかーの英語が必要なの!」
菅井「じゃあダンスはどうするわけ?先生の振り付けなしでは戦えないよ?」
齋藤「そのために私の眼がある」
菅井「ふーちゃんの不思議な力?」
齋藤「私が世界的ダンサーの先生からダンスを完コピしてメンバーへ落とし込む」
菅井「ウソ」 長濱「まあ歌も頼っても問題はないよ。矛盾しとるかもしれんけど、AKBと同じ作詞作曲の条件で勝てばいい」
齋藤「詞、曲、ダンスは海の向こうでも受け取れる」
菅井「最後に……どれくらいの期間行くつもり?」
長濱「勝つまでだよ。AKB48に」
菅井「ん……具体的にはどれくらいで勝てると思ってる?」
長濱「東京五輪の2020年には帰ってきたいと個人的には思ってる」
菅井「オリンピック……。ふーちゃん、一緒にまとめてね?」
齋藤「当たり前じゃん!」
菅井「Yes!」
長濱「十五人目、十六人目」
長濱は二人に券を渡す。
リーダー菅井とダンスリーダー齋藤は肩を並べてバスを降りる。 成るべくして成ったのか、バスには米谷とてちねるゆいちゃんずの五人だけとなった。
予定調和の内か長濱は猿腕を前へ伸ばし左右反対に上下に振る。
長濱「夕日1/3でも歌っとく?」
小林「するかよ」
米谷「うちもおること忘れんといてや!」
長濱「残念。間奏で腕ぶんぶん上下に振るとこ好きなんだよねー」
平手「残り4/21」
長濱「21/21にするから。次はゆいぽんかな?厄介だね」
小林「今までの私は厄介だった?」
長濱「う〜ん」 小林「やっぱり。今この会話をしているということはまだ私を倒していない可能性がある」
長濱「それはどうかな〜。遡り時間によってはまた虹花ちゃんから〜てことになってるかもね」
小林「なるほどな。あるポイントまでは戻ってしまうタイプってわけね」
長濱「ああ、言っちゃった」
小林「いずれにしてもまだ全員は攻略してないんだよな。でも、初めてってわけではなさそうだし」
長濱「ゆいぽんは逆に残って何するの?同じ埼玉出身の土田さんと澤部さんと三人組のユニット"カタカナケヤキ"でもやる?」
小林「てめぇ!」
長濱「殴る?」
小林「殴らねえよ!殴りたいけど……前の世界の私は殴ったかもしれないからな、きっと」
長濱「あー痛かったな〜」
長濱は無傷の頬を軽くさする。
それを見て、小林はさらに拳を握る力を強める。 小林「行くなんてどうかしてる。頭おかしい」
長濱「それもう何百回も言われてるよ」
小林「何千回だろうと言ってやるよ……お前が行かないと言うまで!」
長濱「はあ……でも理佐は行くんだよ?そんな理佐も頭おかしい?」
小林「っ……理佐ぁ……!」
小林は外にいる渡邉を見る。
渡邉からは中の様子は見えなくても、一瞬小林と目が合った気がした。
今泉「理佐を連れ戻せるんだよ!引かないで!」
米谷「このグループはやっぱり違うな」
平手「だよね……」
小林「そうだ……ここで負けるわけにはいかない」 長濱「愛はたった一つだけ。ここで失えば絶対見つからない」
小林「特に意味のない歌詞で攻めるのやめてくれる?」
長濱「反論できない?理佐をイギリスに行かせて、由依ちゃんが日本に残ればもう二度と手が届かなくなってしまうということ」
小林「…………は?二度と……」
長濱「ねると入れ替わりで辞めた子、覚えとる?」
小林「忘れるはずがない。キャラの濃さで言ったらあかねんといい勝負してたしな」
長濱「かつてあの子とゆいぽんたちは同じところにいた。何もなく辞めていなければ紅白アイドルになれて、5thでミリオンセラーの選抜にもいれただろうに。それと同なじなんだよ」
小林「同じ……。連絡先を知っていても、とてもこっちから会うことなんてできなくなる……てことね」
長濱「あの子がそうしているように。まあねるとは面識ないけど」
小林「イージーさん……」 想い人の渡邉を取り戻すには、目の前の不協和音を論破しなくてはならない。
しかし、防戦一方なら自分から離れる必要なんてないと思い始める。
共にフォークデュオを組んでいる相方を見る。
小林「佑唯ちゃん……ごめん」
今泉「え。ゆい、ぽん……」
長濱「ゆいぽんは高三だよね。卒業の年だけど。学校は?」
小林「高校には行けてないから未練はない。通信になってるし、海外から通えるっちゃ通えるから一応卒業できる」
長濱「なら行ってもいいよね!絶対に勝つから信じて?」
小林「……信じるよ」
長濱「十七人目」
小林由依17歳は券をもらうと渡邉に逢いにバスを降りた。
狂犬は暴狸を止めることができない運命にあることを最初のやり取りで気づいていたからこそ潔く引き下がった。
渡邉が渡英するという理由では流されないと決めていたのに、頭では解っていても心が否定できなかった。 残るは今泉、平手、米谷の三人だけとなる。
長濱は額に汗を流し、水分補給する。
米谷「やっぱり無理なのか……。どうやってもタイムリープされる限り勝ち目はないのか……?」
平手「でも、あいつは一人でも欠けることを嫌ってる。今までのを見てきて思ったんだけど」
米谷「ああ、実際ずーみん一人がおらんかった時のことを分かっとるから、何としてでも全員にこだわるやろな」
今泉「もう、どうすればいいの………」
米谷「試したいことがある。もう何を言われても全て否定して!」
今泉「ああ!みんな結局折れちゃってるから私は最後まで否定し続ける!そしたらあいつもきっと諦めるはず!」
平手「わがままモード全開でお願い!」
今泉「分かった!よーし!」
米谷と平手は今泉に託し、万一に備えて控える。
今泉は腕を胸の前でクロスにして長濱に言う。 今泉「私はYesと言わない!首を縦に振らない!周りの誰もが頷いたとしても……絶対沈黙しないし、最後の最後まで抵抗し続ける!」
長濱「どうぞ。時間を止めても無駄だよ。それはねるの下位互換に過ぎんから」
今泉「いーからかかってこいよー!」
長濱「ずーみんはシンガーソングライターの夢諦めちゃったんだっけ?なら、行こうよ」
今泉「この状況なら話が変わってくるよ。聞いていたか分かんないけど、一日目みいちゃんに疑われた時……今泉犯人説でたった一人残ってその道を歩むのも悪くないんじゃないかってね」
長濱「そう来る?てことは、ねるのおかげで本当の夢だった歌手を目指せるってわけだよね」
今泉「そういう意味では感謝してる。ありがとう」
長濱「どういたしまて。欅でだいぶ売名出来てよかったね、所詮踏台だったんだね」
今泉「そうだね。おかげで結構歌手に近づいたよ!歌唱力も経験もつめたし〜」
長濱「ゆいちゃんずで、渡英するゆいぽんはどうするの?」 今泉「ゆいぽんんにはみんながいる。よくぼっちって言ってるけど、本当に独りなのは私だった……。だからこれからも一人で生きていける!」
長濱「ずーみん……本当に行かないの?」
今泉「シンガーソングライターを諦めてまで、ゆいちゃんずに賭けていたのは確か。ねるちゃんがAKBに勝つため生まれてきたように、私は歌手になるために生まれて来たんだ!」
長濱「……そこまで言うなら私の負けだよ。じゃあねっ」
突然の長濱の手のひら返しに面食らう今泉と米谷。
今泉に別れを告げて、もう興味を失ったような眼で手を振る。
一瞬にして残留組の雲行きが怪しくなる。さらに狸は追い打ちをかける。
今泉(どういうことだ!?こいつは21人にこだわっていたんじゃないの??)
長濱「正直、私はずーみんには来てほしくなかったんだよね」
今泉「ん、なんでよ!?」
長濱「"お前"は口だけなのはもちろんのこと根性もないもんね。うちに口だけの子なんて必要ないんだよね」
今泉「……お、"お前"?は?……口、え?」 長濱「悪いんだけど、ねるはずーみんが休業してたの納得できてないんだよ。一人だけ特別何かをやったわけじゃないのに、理解できないよ」
今泉「そ、それはお医者さんに止められたからで!」
長濱「ドクターストップは分かっとる。それでどれだけこっちに負担がかかったと思っとるの?」
今泉「はあぁああああぁあっ?働いて病んだ人に失礼だよ!謝って!!」
長濱「ごめんなさーい」
今泉「腹が立つううううううっ!!!私は必死について行っていた!この不思議な力を使って!」
長濱「分かるよ。代償で寿命を削っていたことも」
今泉「その反動で、休まざるを得なかったんだよ!!!」
長濱「あかねんのそれも寿命を削って酷使していたよね?それなのにずーみんときたら……」
今泉「茜ちゃんは気合で持ちこたえていたんだから、一緒にしないでよ!」 長濱「だから脱落してた子が渡英してからも脱落されたらたまったもんじゃない。そんなことされたらみんなのモチベーションに影響する。もうこれで足を引っ張られることはなくなる。よかった」
今泉「モチベーション……?」
長濱「ダンスレッスンは確かにきつい……短時間で何十曲もやって。でも連続ドラマの撮影の真っ最中に音をあげられてちゃたまらん。あのドラマが最終回訳分からんくなったのもずーみんのせいなの自覚しとる?」
今泉「それは脚本家のせいでしょ!私だけのせいにしないで!」
長濱「お前のせいだよ!!登場人物が一人でも欠けたことによって、あそこから大幅にドラマを修復しなければならなかった。たった一人いなくなった綻びから全てがダメになった!」
今泉「私の、せい……?うわぁ、あああぁ……っ」
長濱「来てほしくない。来ないで。いいや……来るな!」
今泉「だ、誰が行くものですかぁ!!お前さえ入って来なければ、私は二番手としていられた。それなのに……お前がっ!」
長濱「今度はねるのせいにするつもり?」
平手「おい長濱!いい加減にしろ!!」
長濱は平手の制止の声を無視する。 長濱「二枚看板になっちゃったから、二番手がなくなっちゃったんだよね」
今泉「よねみんが最初にお前に言いたいこと言ったみたいだけど、あれは私たちの総意だった!」
長濱「あれは初収録……虹彦先生の収録の前の時の事だったっけ」
今泉「お前は加入後に今回みたいに一番優しいふーちゃんとなーちを取り込み、難しい愛佳ちゃんのことを"クロエ"と呼んだりして汚いやつだよ!そうやってみんなと仲良くなってから最後によねみんにだけシカト決め込んでたのも知ってんだよ!」
長濱「向こうから仲良くなれないって言われたんだから、ねるは米さんを尊重して話しかけんかっただけ」
今泉「違うな!頭のいいお前なら分かってたはずだよ!プライドの高いお前はよねみんを後悔させるために最後まで仲良くならなかったんだ!」
長濱「筋トレ事件にもあるように、シカト決め込んでいたら手持無沙汰になってもバッキバキに筋トレなんかせんで休んどるよ!」
今泉「うっ……」
米谷「ねる……」
お披露目会のために演劇部の練習をしたいたデビュー前のある日、休憩時間となりレッスン室に米谷と長濱の二人きりになったことがあった。
長濱が少しずつ受け入れられ始めていた時、まだ米谷だけとはまともに口を聞いたことがなかった。
他のメンバーはそんな仲の二人を気遣い、二人きりにしたことは二人は知る由もない。
米谷の事をどうでもよかったのなら何もしなかっただろうことを米谷は今改めて理解する。 長濱「じゃあ頑張ってね!私"たち"は応援してるから。はるか遠い北欧の地で。一人ぼっちで歌手でも目指してなよ。まぁなれないだろうけど」
今泉「言われなくたって!」
長濱「歌唱力は認める。この狭い欅という井の中では。でも所詮ただの蛙。もしかして本気で歌手になれると思っとる?」
今泉「何億光年昔の話してんだよ!最初にも言ったけど、あれから練習と経験も積みまくってきたんだから!」
長濱「光年は時間じゃない。距離ね」
今泉「どっちでもいい……!お前こそゴリ押しで調子こくなよ!最終オーディション受けてないのに!てか、ふつうに音痴なのに最初っからソロ曲を与えられた時点でゴリ押しされてるだけにすぎない!おかしいよ!こんなの間違ってる!」
長濱「ゴリ押しされてることは認める。だから何?これが現実なんだから」
今泉「ぐ……っ!」
長濱「いずれにしても、AKBに勝つくらいしなきゃ未来永劫絶対に歌手になんてなれるわけがないんだよ!」
今泉「う、うわああぁああああぁあああああああぁあああああっ!!!」
圧倒的に長濱が有利な中、今泉は言い返せず叫ぶことしかできなかった。
長濱は今泉を見て胸を押さえて、涙を流す。 米谷「ねる……。お前は……っ」
長濱「さあ!AKBに勝って歌手になるか、負けて一生の夢を諦めるか?どっち!!」
今泉「そんなの決まってんでしょおっ!!私は、私は……っ!」
平手「今、泉ぃ……」
息を切らし、涙を流す今泉に長濱は二者を迫る。
終わりが近いことを悟り、米谷と平手は覚悟する。
今泉「本当に、AKBさん……いいや、AKB48に勝てるんだな!?歌手になれるんだな!?」
長濱「AKBに勝ちさえすればね。何度でも言う。だから、ずーみんは歌手になれるんだよ!!」
今泉「ねるちゃん………。私はいつかは帰れる場所が家以外になれるところを欅にしたいって思っていたんだ。海外に行くことで本物の家族になれる気がする……」
長濱「でも、また親御さんとかお医者さんに止められて脱落とか……」
今泉「私も欅に命を賭ける!これは親でも医者でも誰の意思じゃなく私自信の意思なんだ!お願い!行かせて!」
長濱「十八人目」
涙ながらに訴える今泉をお馴染みの人数で応える。
今泉佑唯18歳は涙をぬぐい、券を受け取り、歌手への道を歩くためにバスを降りる。 今泉と長濱の死闘を見ていた米谷と平手も涙を流していた。
それでも二人は最後の打ち合わせをする。
米谷「今の戦い方のねる、本気だった……。時間を遡ることを覚悟して来てた気がする」
平手「あの涙、演技じゃないね……」
米谷「そうなると、こっからはねるも初めての世界かもしれない」
平手「どっちがねるを止める?というか、ここまで来て止められる自信ある?」
米谷「うちはあるで。学業もあるしな。てちは?」
平手「どうだろう……。正直、あんまりないかも」
米谷「そりゃあ無理ないわ。みんなあいつに負けただけやなくて"行きたい"と言わせてきたんやから」
平手「てか、ここで同調しなきゃ私たちが裏切者みたいじゃない?」
米谷「せやな……。うちら二人だけが国に残るなんて選択が許されるんやろか……」 平手「みんなも連れ戻すなんてもう…………」
米谷「逆転満塁サヨナラホームラン打たん限りは。ピッチャーねるに完封させられる」
平手「もし米が負けちゃったら、私どうすればいいの?」
米谷「まだ九回ツーアウトになるだけや。いざとなったら勝負しない方がええ」
平手「勝負しない?じゃあどうやって……」
米谷「それは自分で考えや。うちは時間稼ぎしてくるから」
才女である米谷は、自分の一つ上をいく相手の前に立つ。
タイムリープの能力を持つ相手にどこまで知られているのか分からない。
例え勝てても時を遡られる、負けるまで。そうして皆同じような流れで戦い敗れてきた。
様々なパターンが頭の中で複雑に交錯し整理がつきそうもないことを悟り、吹っ切れる。
センターが全てを決めてくれることと信じ、小細工なしの真っ向勝負を決める。 米谷「ねる。やっぱりあんたとは仲良くなれへんわ」
長濱「またそれ?後んなって謝るようなこと言わん方がいいよ」
米谷「始める前に確認だけど、ずーみんに言った暴言の数々は本心じゃないよね?」
長濱「うん……。ねるがあの作戦に出なければ、永遠に行くか行かないを繰り返してまた時間を遡りざるをえなくなっていた」
米谷「やっぱりな。後で謝っときや。この世界が続かなくても」
長濱「絶対にちゃんと謝る!」
今泉に謝罪を約束させ、二人は清々しい顔になる。
一変して米谷は明るい声で切り出す。
米谷「よっしゃ!ほんならいくで〜?実はうち、東大へ行く!」
長濱「うん、知っとる」
米谷「づええええええぇえええええ!?いつから気づいとったワレ?!さては、タイムリープして……」
長濱「しなくても最初から気づいとるよ!楽屋でも勉強してるのって、センター受験の会場で何が起ころうと集中できるように、あんなうるさいとこで勉強して鍛えてるんだよね?」 米谷「いやいや!そんなことない!うちやってできることなら静かな楽屋で勉強してたい!ホンマに!」
長濱「そっか。東大に行きたいから渡英できないんだね」
米谷「イギリスに行きたないのはそれだけやないで」
長濱「へえ、他に何があるの?」
米谷「うちはなぁ……理Tに入って微生物の研究をしつつ般若心境開いて、卒業後は警視庁に入庁して刑事になって、ヨネさんと呼ばれて、それから……」
長濱「まだあるの!?」
米谷「結婚して!三歳の子の主婦になって、夫がノーベル賞をとって祝賀パーティーに参加して……!やりたいことがぎょうさんあんねや!」
平手「んんん濃いっ!」
長濱「ありすぎだから!」
米谷「人生は短い。その内でできることは限られとるからな!」
長濱「加えてアイドルもやってくるつもりなんでしょ?軽く三人分の人生は送るつもり?」 米谷「こんな話がある。壺の中に岩をいっぱいに入れる。さらに小さい石を詰め込む。そこへ砂を流し込む。これで壺はいっぱい?」
長濱「うーん、もういっぱいなんじゃない?」
米谷「まだ水を流し込めれるんや。何が言いたいか分かるか?」
長濱「なるほど。入れる順番によって入るんだね」
米谷「やっぱり頭ええなぁ」
長濱「言いたいことは分かった。全てが中途半端にならないといいけど」
米谷「もし東大にも入れなくても、いくらでも道はある」
長濱「何でそんなに東大にこだわるの?」
米谷「それは東大という肩書きはその先の人生かなり有利になるから。アイドルもそうやし、リケジョも、刑事も、ノーベル賞受賞する人との結婚もな」
長濱「ふう……じゃあ聞くけど東大が何位の大学か知ってる?」 米谷「はあ?1位やろ!そんなん小学生でも知ってんで!」
長濱「34位」
米谷「……へ?さんじゅう、よん!?」
長濱「世界ランキング第34位の大学、それが東大」
米谷「いや、1位……」
長濱「それは日本ででしょ。世界からしてみれば34位だよ?日本で一番とったところで何?孫悟空が世界の頂点に立ったと思っていたら、お釈迦様の指の上だったのとおーんなじ」
米谷「それはちょっと違う気がするけど……」
長濱「上には上がある。米さんはすごいよ。ねるの一こ下なのに何でも知っとるもんね」
米谷「ねるんが頭ええやん」
長濱「それは一こ上だからだよ、それにこの力のおかげだから。よねさんは素で偏差値70の高校に通ってたんだもんね。そんなよねさんがたかが34位の大学で満足できるわけがない」 米谷「いや、うちは東大で十分すぎるからな!」
長濱「でも前に言ってたじゃん。『英語勉強しなきゃ』って。もし今後本当に生物の研究家になるとしたら英語が完璧にできなきゃ話にならんよ?」
米谷「論文とかも英語のやつもあるやろうし、書かなあかんこともあるか……」
長濱「今のうちに海外に行って覚えておいてもいいんじゃない?」
米谷「東大にも海外留学制度あるやろうから、それで行って覚えれるやろ!」
長濱「理系学科に海外留学制度あると思う?」
米谷「分からんやん!なかったとしても、自費留学で行くだけや!」
長濱「根本的に米さんが言った夢の中にアイドルの事なかったよね。東大アイドルについては言及してたけどさ。親の反対を押し切ってまでなったアイドルに何か意味ある?」
米谷「正直に言う。アイドルは承認欲求を満たすためになったもんや!」
長濱「でも、アイドルにならなかったら上京してた?東大を目指してた?」 米谷「……ねるの言う通り、目指してなかったやろな。東京でいろんなことを見て、聞いて、知って……それでできた夢だから」
長濱「そのアイドル活動は蔑ろにしていいんだね?」
米谷「そんなことはない!でもAKBに勝つなんて大それたこと……ぶっちゃけ無理なんやないかなって思ってる」
長濱「できる!ねるはそう思っとるし。米さんの夢もAKBに勝つくらいのことだよ?いいや、AKBに勝てずして叶えられないよ!」
米谷「またそれか!絶対そのセリフ好きやろ!でも確かに悔しいけどそれくらいの次元の話なんだよな〜!」
長濱「米さんの壺の話の通りに、より全てが入りやすくなると思うよ。コインとか紙とか他にも!だから英語も学べて、アイドルでも一旗上げれて一石十鳥くらい!」
米谷「おお……!並行していけるやん!」
長濱「米さんが学力を武器にするのであれば、世界十指に入るとこに入らんと!」
米谷「いいや、五指や!」 長濱「じゃあ世界4位のケンブリッジ大学で」
米谷「世界4位……」
長濱「そこに行こ?」
米谷「………。はあ……やっぱあんたには勝てへんわ」
長濱「それじゃ!?」
米谷「ほな、行こか」
長濱「十九人目」
平手「よね……」
米谷は笑顔で券を受け取る。先程の今泉の時のような殺伐とした感じは一切なく洗脳されたという感じもない。
平手に一言謝り、券を受験票のように大切に握りしめ降車した。
バスに21人いたメンバーが長濱と平手の二人までになった。 支援&読んでくださってる方ありがとうございます!
今日中に終わらなくて、長々とすみません。
本当にあと少しで終わります。(誤字脱字気を付けます。)
最後は平手との戦いです。
遅くとも水曜には完全に終わりにします。
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