【小説】欅坂米谷「不協和音は誰や?」 [無断転載禁止]©2ch.net
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第一話
石森「お、オダナナ……?」
今泉「なーち……!」
上村「え゙ー!?」
尾関「ぎゃあああああああああっいやぁああああああああっ!!!!」
小池「何コレ……」
小林「…………」
齋藤「うっぷす!?」
佐藤「あゎわわわわわ!?」
志田「……オダナナ。!」
菅井「ウソ」
鈴本「っ!?」 長沢「おだ、なな……」
土生「うえええええええええっ!?」
原田「ママ!!」
平手「織田……奈那……」
守屋「死なないで!」
米谷「嘘、やろ……!?」
渡辺「…………ダニ」
渡邉「なんで……こんな――」
織田「」
黒いバスの車内は阿鼻叫喚に包まれる。その中心には織田と黒づくめの人物がいる。
先刻までマイクを握りしめ歌っていた口は開くことはなく、バスは走り続ける。 数刻前
7/24 9:00
―――――――――
> | 運転席 |
―――― ――――
| ■ ■ |
|土生菅井 尾関石森|
| |
|小林上村 米谷佐藤|
| |
|平手鈴本 小池今泉|
| |
|原田織田 志田渡邉|
| |
|齋藤渡辺 長沢守屋|
―――― ――――
| WC > | ? |
――――――――
織田「きょーはー欅坂、2章目なんだ♪みんなの気持ち受け取ってよっ寄せ書きプレゼント〜」
齋藤「フー!」
佐藤「昨日とおととい富士急で初の野外ライブ『欅共和国』があったってのに元気有り余ってるね〜」
石森「しかもAKBさんメドレーかーい!ちょっと歌詞変わってるしー」
守屋「泊りがけのロケなんて初めてじゃな〜い?」
長沢「2ndで北海道に行ったっきりだよね」
小池「でも今回はねるがおれへんな」
原田「珍しいよね?ねるちゃんいない漢字20人でのお仕事なんて」
今泉「復帰してから月スカぶりの仕事……緊張……」 志田「てか、どこ行くんだっけ?」
土生「ロケとしか」
米谷「うちも聞いてへんな」
渡辺「知んない」
守屋「キャプテーン、なんか知ってるぅ?」
菅井「え、私も知らないよ……」
渡邉「……どういうこと?」
鈴本「これから行く所を……誰も、知らない?」
小林「何が起きてるの?」
平手「……わかんないけど、なんか嫌な予感がする」
泊りがけのロケだというのに誰も行先を知らず、恐怖を覚える。
渡辺も何かが起きていることを察する。 尾関「あ!でもさーこれってドッ……」
上村「しっ。言っちゃダメ、もしそうだったら……」
上村はドッキリ企画を潰そうとした尾関の口に人差し指を当てる。
尾関と石森はそれを理解した。
尾関「あそっか。わかった」
石森「じゃあ気づいてないふりしなきゃ!」
小池「アホー!言うたあかんで!」
米谷「カットしてもらおか」
齋藤「相変わらず虹花ちゃんはおバカなんだから〜」
今泉「さっすが1位だねっ!」
志田「ずみこは人の事言えねーだろー」
渡邉「確かにね」
守屋「まっ、なるようになるっしょ」
長沢「お腹すいた」
誰も行先は知らずとも経験上一大事にはならないと思っていた。
腹を空かせた長沢はおかしを頬張り始める。 キャプテンは企画に気づいていないふりをする。
土生は備え付けのモニターを指差して言う。
土生「このモニターでゲームやりたいな」
菅井「酔うよ?」
小林「馬酔いってするの?」
上村「うん。メリーゴーランド乗った時ふつうに酔った」
鈴本「アッハハ!」
平手「1こ言っていい?」
織田「その前にお手洗い行ってくるわ」
齋藤「行っトイレ〜」
原田「ねえ、聞いて聞いて!」
渡辺「何ー?」 織田「いやあああああああああああああああああ……!!」
後方にある個室から織田の叫び声がし、大きい物音とともに声は途切れた。
メンバーは固まり、車内が静寂に包まれる。
未だかつて聞いた事がない織田の絶叫が普通でないことが起こっていると感じさせる。
数秒後ゆっくりと個室の扉が開く。何を思ったのか最後列の齋藤が吸い込まれるように中の様子を見に行く。
彼女は目にしたものを見て、腰を抜かす。
齋藤「…………」
織田「ゆ、い……」
小林「っ……!」
個室の中から織田の声、続いて黒づくめの人物が出てくる。
黒づくめは右手に赤いナイフ、左手には血まみれの織田を抱えている。
全員がそれに注目する中、ただ一人だけ進行方向を向いている者がいた。
運転手「……」
運転手だけは前を向き、ハンドルを握っている。
その顔は無表情であり感情が無いわけではなく、職務を全うしているわけでもなく、バスを止める気もない。
バスに乗っている誰もが声を発せず、その時間がとてつもなく長く感じる。
登場人物は出尽くし、物語は冒頭に戻る。 9:30
黒づくめは織田を抱え中央通路を歩き、前方へ行く。
19人の少女たちはその場から動けずに、見送るしかできない。
運転席の隣へ雑に織田を下ろし、黒づくめは少女たちに言い放つ。
黒「このバスは乗っ取った」
菅井「ばっ、バスジャックぅ!?」
佐藤「訳が……分からな……」
石森「こ、殺され……っ!」
黒「静かにしろ」
小池「ひぃいいいいい!」
土生「しっ!」
渡辺「……ん〜!!!」
渡辺は喋らまいと口を塞ぐも、逆に声が出てしまう。
偽ディレクターよりも激しい暴力が目の前に立ちはだかる。
平手、土生以外のメンバーが涙し、恐怖で震える。
黒「後ろに行け」
平手「…………従おう」 19人はバスの後方へと追いやられる。
これから何が始まるのか分からない恐怖に押しつぶされそうになり、呼吸が乱れる。
一番頼りになる織田が前方で倒れており、ぴくりとも動かない。
心配で胸が締め付けられ、どうにかなってもおかしくない状態の少女もいた。
黒「全員この中に入れ」
黒づくめがナイフで差す"この中"とは織田がやられた場所だった。
一同は刃先のその先に視線をやる。
尾関「あ、え?……おトイレ?」
小林「ハァッ!?」
一同は理解が追いつかず困惑する。
分かったことは一つ。この狭い個室に19人の人間が入ることは不可能ということだけ。
今泉「む、無理だよ……!」
米谷「一畳もないやん……」
黒「5分だけ待ってやる。入れなかった者は――」
黒ずくめはナイフをチラつかせ、前方へと消えた。
渡辺さえも黒づくめの仕草を見て、身の危険を理解する。 黒づくめの持つタイマーが5分を測り始める。
怯える少女たちは犯人に聞こえない声でやり取りする。
石森「早く119番に電話しなくちゃ!オダナナがっ!」
今泉「110番も!」
上村「あの人こっち見てるからどっちも無理!」
尾関「な゙ん゙で……っ」
小池「うぅううううぅううぅ……」
小林「許さない……」
齋藤「一人5分?」
佐藤「顎が……外れそ……」
志田「どうしよどうしよどうしよ!!!」
鈴本「お……だ…………」 菅井「落ち着いて!みんな落ちゅちゅいて!」
長沢「ぁぁぁあぁああああ……!!早ク織田ヲ助ケナイト……」
土生「このままじゃ間に合わなくなるかもっ!」
原田「えっぐ……うぅう……」
平手「……みんな聞いて」
守屋「入るの!入らないの?どっち!?」
米谷「……こんな時、あいつがおれば……」
渡辺「わーわーわー!!!」
渡邉「うるさい!」
平手「っ聞けぇええええええええっ!!!」
パニックになるメンバーを制する渡邉の声を平手の叫びがかき消す。
最後の方の声は裏返ったが、少女たちの泣き叫びが止まる。 今泉「てっこ……何?」
平手「織田は必ず助ける。だから今は落ち着け」
平手は黒づくめに臆さず前髪の隙間から睨み付ける。
最年少の言動を見て、涙を拭いサイレントマジョリティー本番のような眼差しと化す。
土生「だね。泣いていても始まらない」
米谷「必ず助けに行くで!」
守屋「待ってろよ、織田ァ!」
志田「絶ッ対ェ潰してやっからな」
渡邉「お願い、生きていて……」
鈴本「………………うん」
菅井「ありがとう、てち」
平手「ううん。それより、これ」
平手が見る先に狭い個室がある。
普通に考えて、普通の個室に、普通の少女19人が入るとは思えない。
改めて直面し、物言わぬ多数派の眼に陰りが差すも目を背けずに戦いを逃げない。 長沢「……これって誰か死ななくちゃいけない?」
今泉「死にたくない!」
菅井「大丈夫。誰も死なせない」
守屋「いくぞォッ!!」
菅井の瞳にはかつて一番の本気が宿る。
負けじと守屋の瞳にも負けん気を宿す。
長沢「うちら5カーズで、電話ボックスの中に入ってたね」
上村「あそこに比べればこっちの方が広いし!」
土生「壁に張り付いていたけど、まあまあ余裕あったもんね」
渡邉「頑張ればあそこにもう5人は入れたと思う。そう考えたら半々てとこか」
渡辺「……忘れた」
各々意見を言うも渡辺はすでに忘却の彼方にあった。
才女の米谷が咳ばらいをし、仕切りなおす。 米谷「先ずは、この個室は一般的な洋式でタンクレスタイプ。面積は一畳から半ってとこか」
小池「欅の木のフォーメーションになればギリいけるんちゃう?」
志田「便器が邪魔だから!」
石森「じゃあ便器に芯の土生ちゃんとうちを立たせて、そこを囲む?」
平手「いいねいいねいいね!」
佐藤「そういえば番組で半径30センチの円に8人くらい乗れたことあったよね〜!」
菅井「おバカちゃんが9人で」
守屋「インテリは8人しか!」
齋藤「でもさ、インテリは1秒だけ10人乗れてたよ!」
原田「そっか!平均9.5人乗れるとして、私たちは今その倍の19人いる……」 米谷「幅より奥行きの方がちょっと広い1対1点1のスタンダードや」
長沢「目測でだいたい90cm×100cmだから9,000cuくらい?高さは無視して問題ないかな」
米谷「そして、うちらが乗った円の面積は半径×半径×πだから……」
石森「ん?半径いっこ多くない?」
齋藤「虹ちゃんはちょっと黙ってて」
米谷「30×30×3.1416は2,827.44だから.5に繰り上げてにして×2して5,655cu」
守屋「全然いけんじゃん!」
米谷「待ちーや。9.5人乗れたんは足場だけ。外部にはみ出とったんが円の1.X倍……」
原田「トイレ面積の半分が4,500cu、1チーム9.5人の足場面積が2,327.5だから差2,172.5cu」
渡辺「……ん?」 土生「ほぼ倍じゃん!」
志田「いけんじゃん!」
今泉「余裕じゃん〜」
守屋「よっしゃ!早く入ろ!」
米谷「いや、待って!そうじゃない!」
守屋「え、X=9くらいだから1.9倍じゃないの?」
米谷「円の面積は半径が大きさに比例するから実際のとこ……」
原田「Xを0.25以下に収めなければ19人入ることができない!」
菅井「えっと、30cmの1.25倍だから37.5cm×37.5cm×3.1416cm×2チーム=8,835.75cu?」
佐藤「倍かと思ったら、たった1.25倍!?」
米谷「それでギリギリ9,000の個室に入れる。1.3倍だと……えっと9,500超えるから無理やな」 原田「でも個室は四方に……いや三方に壁があるから落っこちる心配はない!一辺の入口だけはドアを閉められるかどうか……」
齋藤「くの字の外開きだから最後の人が手動でしめるしかない」
米谷「壁があって高さも使えるんは大きい」
渡辺「ん?みんな肩車すればいけるってことじゃない?」
上村「そっか!全員が肩車すればいいんじゃない!そしたら9組と1人で10人分で済むよ!」
渡邉「それはダメ。どれだけの時間この中にいるのかは分からないし……」
齋藤「そうだね。二三組くらいにした方がいいと思う」
長沢「あと3分だよ」
作戦会議に2分が過ぎた。
長沢は引き続き残りカップラーメンが出来上がる時間を図る。
少女たちは実際に作戦を実行へ移す。 読んでますよ〜
埋め立てですか?が出たら短いレスを1個挟めばまたOKになるで〜 齋藤「じゃあまず土生ちゃんとにじぽん蓋に立って」
土生「はい!」
石森「ラジャー!」
蓋の上に二人が立ち抱き合い、欅の木の芯となった。
蓋は意外と小さく、もう一人上に立つことは難しい。
齋藤「次は肩車組行くよ。人選はそうだな……」
菅井「上は一番小さい莉菜とずーみんでよくない?」
齋藤「そうだね。じゃあ下はザ・クールの二人!」
志田渡邉「「シャー!」」
今泉「理ィ佐ァ」
渡邉「佑唯」
志田「リナババ」
上村「んもぅ!ババはやめてってばっ!」 守屋「いーそーげ!」
齋藤「そこもっとガッ!っていって」
副キャプテンは手を叩いて急かし、齋藤は身振り手振りで指示を出す。
佐藤「さすがふーちゃん!メンバーを操ってるっ」
小池「これでまだ6人かー。かなり厳しなー……」
菅井「あと13人も入る!?」
平手「やるしかないよ」
齋藤「次は菜々香と米。ななちゃんずポーズで奥の隙間に真ん中の便器を織田に見立てて両サイドから挟んで」
長沢「立膝着くけど、汚くないかな」
米谷「大丈夫や。このバス異常なほど綺麗やから」
佐藤「確かにすっごくキレイだよね。織田がここ使ってなければまだ未使用かもしれない〜」 齋藤「はい次鈴本!…………鈴本?」
鈴本「……………おだ」
守屋「ダメだ!鈴本は織田がやられて使い物にならない!」
小林「心ここにあらずって感じになってるっ!」
土生「じゃあどこにあるの!?」
鈴本の心は織田にあり、体は抜け殻となってしまっていることを得意な顔芸で表している。
いかなるメンバーの声も耳に届いていない。
齋藤「もういいから早く入れさせよう!」
鈴本「私も、外に残る……。織田を、置いて入れない……!」
菅井「ちょっと何言ってるの!?」
今泉「美愉ちゃん早く入ってよ!!」
赤子のように駄々をこねる鈴本をどうやっても中に入ろうとしなかった。
個室の中から渡邉が語り掛ける。 渡邉「美愉。私も織田の事が好き」
渡辺「私も!」
鈴本「え!?」
渡邉「だから――おいで」
鈴本「うん!」
志田「私だって理佐の事……」
純粋で単純な一言により鈴本はトイレに入り、今泉を担ぐ渡邉に抱き着く。
上村を担ぐ志田の想いは、走行音にかき消された。
平手「あと10人……」
菅井「まだ半分も入ってないのに……!」 齋藤「もう時間ないから次々行くよ!詩織、みいちゃん、ゆいぽん!!!」
佐藤「待って!どこに入ればいいの〜?」
齋藤「詩織は体柔らかいからそこの後ろの隙間に入れる?」
佐藤「入る!」
齋藤「ゆいぽんは菜々香の方がちょっと弱いからそこ入って!」
小林「おう!」
渡邉志田「ちょっと待って〜!!」
菅井「ちょっと待ってコールどうしたの!?」
志田「ヤバイ!体勢がキツイ!」
渡邉「大丈夫っ。早く入って!」
小池「うち後ろ行くで」
奥へと詰め込み過ぎたせいで、一時体勢が危うくなるも持ちこたえる。
残り7人となり、残り1分となる。 齋藤「次は尾関!そっちに!」
尾関「……」
齋藤「どうした?鈴本みたいになって」
尾関「……織田とは私服のダサさで競い合っていた」
齋藤「ああ……どんぐりの背比べだったけど」
守屋「おぜちゃんそれ今言うこと?早くしないと!」
齋藤「待って茜。それで?」
尾関「あいつはメチヤカリでおしゃれになったのに、私のことをけなしてくる」
齋藤「ダサい織田からダサいって言われるのはつらいよね」
尾関「それでもあいつの言葉には愛があった。私のダサさを自覚させてくれてたんだ」
齋藤「うんうん。そうだね」
尾関「生きてここを出たら切磋琢磨して一緒におしゃれになる!」
齋藤「そっか。身の丈と季節をちゃんと意識してね」
守屋「おしゃれの人と切磋琢磨しよ?」
齋藤の人の話を真摯に受け止めて応えるというモテる秘訣の片鱗を見せる。
最後の守屋の助言が尾関の耳に届いてるかわかりかねる。 尾関「お願い!ふーちゃん一緒に入って!」
齋藤「でも、私は最後に……」
菅井「後は私に任せて。なんてったって私は欅坂のチャプチェなんだから!」
齋藤「任したよ。キャプテン!」
齋藤は主将に指揮権を譲り、尾関は齋藤に密着し一緒に入る。
外からは中はもうすでに満員に見える。
齋藤は個室の中から外にいる残りのメンバーを数える。
齋藤「1、2、3、4!あと4人!踏ん張りどころだよ!」
原田「いけるよ!」
菅井「まだ100%満員!朝の通勤ラッシュはこんなものじゃない!」
東京で育った原田と菅井はまだ入れると確信していた。
守屋と平手も上京して初めの頃、超満員に遭遇した時を思い出す。 守屋「てか、お嬢様でも電車乗ってたんだ?」
平手「てっきりリムジンかと思ってた」
菅井「そんなわけないでしょっ!はい茜とてち入って!」
守屋「てっちゃん。先入りな」
平手「ありがと、あかねん」
守屋「次は私。行くぞーい!うおおおおおおらああああああああ!!」
志田「いやぁあああああああああああっ!」
渡邉「しーずかにして!」
守屋「よっしゃ入ったぁー!」
石森「さすが!気合で押し込んだあ!」
少し力を込めて中に入った平手に対して、守屋はかなり気合を込めて押し入る。
個室は既に寿司詰め状態であるため、守屋は気合を入れ続けて出口を塞いでおり力を抜けない。 原田「あとはゆっかーと私だけ!!」
土生「小さい葵から入る?それともゆっかー?」
菅井「私の腕筋舐めんなよ!!うまああああああああああ!!」
菅井は後者を選び、先に背中で押し込む。
中にいる一同は息を肺を潰され、密着度が増え、一人当たりの面積が減る。
小林「すごい!入った!」
菅井「葵ちゃんここ来てっ!」
小池「葵の分まで空けるとは!」
原田「あ入れたー!」
志田「うっしゃあああああああっ!」
今泉「ヤッター!」
土生「すごい……これが友香の本気……!」
菅井は脇に原田を入れさせた。
ドアを閉めれば四方に力が分散して楽になるので、素早く扉に手をかけた瞬間だった。 菅井「これで終わり……エエ!?」
トイレの外にいた人物を見て菅井と原田は驚愕する。
彼女は申し訳なさそうに逆への字の口を開く。
渡辺「あの……私……」
原田「う、後ろにいたの!?」
小林「何で!番組じゃないんだから喋ろ?」
米谷「いやいや、番組でこそ喋らんと!」
守屋「そんなことよりどうすんだよ!!」
長沢「あと30秒切ってる!」
志田「ヤバイヤバイヤバイ!!!」
渡邉「死ずかに!」
小池「漢字がちゃう!」 土生「あと一人入れる隙間なんてないよ!?」
今泉「しかも、ちょっとがたいのいい梨加ちゃんだし!」
平手「ここまで来たらもう力づくて押すしかない!」
菅井「行くよ!せーの!」
渡辺「んー!……ん〜!」
守屋「もっと押し込めー!」
今泉「もう無理ぃいいいいいいいいっ!」
渡辺は全力を出して押し込むも、自身が入る隙間は空かない。菅井の本気、守屋の気合も意味をなさない。
最年長はがたいの良い自分が足手まといになり二三人入らないことを予期していた。
隠れているつもりが見つかってしまったのは、隠れることを忘れていた。
見つかってしまった以上、入ろうとするも入れず諦める。
渡辺「……」 米谷「あかん……物理的にもう……」
尾関「このままじゃぺーちゃんがぁあっ!?」
平手「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
長沢「あと10秒!」
守屋「くっ、来るよォ!」
渡辺「バイ、バイ……」
志田「ぺ――――――――――――――――――っ!!」
渡邉「いやぁああああああああああああぁあああぁああ!!!」
渡辺が18人の少女たちに笑顔で手を振る。
黒づくめの足音が近づいて来る。個室の前に立ち二秒間停止する。
黒づくめはほぼ指定の時間通りに扉を閉める。
一人だけ個室に入れず、外に取り残された。 今泉「あっ、ぶなかったー!」
菅井「間に、合った……?」
上村「これは『キミガイナイ』の!」
志田「なんとか担げたわ!」
長沢「ぐるじい」
小池「ギリギリセーフやわ〜……」
米谷「今度こそ全員おるな?うちからは見えへんけど」
土生「うん!みんなちゃんといる!」
鈴本「ダニはいないけど……」
尾関「づぶれる……」 平手「もう本当にダメかと思った……」
小林「本当によかった……」
石森「ぺーちゃんちょっと重たい」
佐藤「こんなことになるんだったらぺーちゃんを隙間に入れて、葵を担げばよかったよね〜?」
齋藤「いいや、ぺーちゃんは葵の体積のほぼ2倍だからきっとこれがベストだと思う」
原田「この中に閉じ込めた目的は何だろう?」
守屋「てか、いつまでここにいればいればいーのー!?」
渡邉「心配させないでよ……」
渡辺「……ごめんね」
間一髪の渡辺に渡邉は涙して憤怒と安堵の気持ちで言う。
半数の頭を使って仰向けになっている渡辺は死にかけたからか手を腹の前で組み、涙を流して謝る。 外から黒づくめからと思しき大きめの壁ドンをくらい、一同は怯え口を閉ざす。
渡辺「ん!?」
通報しようにも動けず、ポケットに入っているスマホを取り出すことができない。
それ以前に喋ったら何をされるか分からない恐怖から声を発することもできない。
沈黙の中揺れること10分程が経ち、外から個室の扉が開かれる。
開けられた扉から一同は叫びながら個室の外へ雪崩れる。
志田「ぎゃあああぁああああっ!?」
守屋「うぉおおおおう!!」
菅井「急に!?」
今泉「いてて……」
上村「ぶはぁ!苦しかったー……」
齋藤「ふー」
揉みくちゃになるも誰も怪我をすることはなかった。
一同はバスの中ではあるが外の空気を思いっきり吸い込む。
ある程度落ち着いて犯人を見て気づく。 白「立て」
尾関「え、黒づくめじゃない!?」
小池「声もちゃう……」
今泉「一体どこから!?」
米谷「ずっと潜んでたんか……」
先程の黒づくめではなく、銃を持った低い声の白づくめが現れた。
黒づくめだけならと思っていた少女もいたが、完全に戦意を失う。
上村「……千葉県?」
佐藤「待って!なんで高速道路に入ってるの?」
渡辺「どこに向かってるの?」
志田「もう帰りたい!」
白「黙れ。元の席に戻れ。そして、一人ずつトイレに行け」 銃を突きつけられ、謎の命令に一同は固まる。
席に着く間に、三つの命令を頭の中で整理する。
全員席に着き終わり勇気を振り絞り質問を投げる。
鈴本「な……何でですか?何で、またトイレに……」
尾関「まさか、一人ずつ私たちを……!?」
志田「隠しカメラで撮るとか?!」
小池「ありえへんわ……」
白「違う。しばらく行けそうにないかもしれないから」
守屋「それどういう意味ですか……!!」
白「早くしろ」
守屋「ひっ!!」
白づくめは銃口を守屋に覗かせる。
撮影で持ったモデルガンとは違い、光沢が重々しさを感じさせた。
守屋は息が止まり、動けなかった。 菅井「従お!」
齋藤「はい!名前の順で!虹ちゃんから!」
石森「う、うん!」
強引に菅井と齋藤が間に入って守屋を白づくめから離した。
結局誰も何も理解できず、一番の石森はすぐさま個室に入り鍵をかける。
言葉通り白ずくめは前方で何もせずに突っ立っている。
守屋「ハァ!ハァ!ハァ……」
小池「あかねん、大丈夫か?」
守屋「だい、じょ、ぶっ……」
銃の恐怖から解放された守屋は過呼吸気味になり、連鎖して涙も流れる。
小池が優しく背中をさすってあげる。 原田「ぺーちゃんあの中で担がれて天井見てたでしょ?隠しカメラとかあった?」
渡辺「あ!そういえばなかった!」
志田「ホントに!?」
渡辺「することもなかったからずっと天井見てたけど、絶対なかったよ!」
渡邉「信じよう」
カメラを発見することに長けている彼女の発言の信憑性は高かった。
渡辺を信じて、最後の渡邉が個室から戻り、全員が元の席へ着く。
白づくめはバスガイドの定位置に戻り、一同に振り向く。
菅井「あの……要求は何なんですか?」
白「七不思議を解け。それだけだ」
長沢「ナナ……フシギ?」 少女たちは本日何度目かの理解不能に陥る。
ここに来て冗談を言うはずはないと思うも、考えるほど理解ができない。
続けて白づくめは指を3本立てて言う。
白「解答権は3回」
米谷「い、意味がわからん……」
渡邉「何の?」
志田「何で!」
菅井「あなたたちは誰なんですか!?目的は――」
菅井の発言の途中で白づくめが指を鳴らすと、床から機械の壁が飛び出した。
運転席、出入り口がある前方、左右の窓側、トイレのある後方にも出現し四方分厚い壁に囲まれる。
土生「みいちゃん!」
小池「土生ちゃん!!」
土生は長い腕を小池へ差し伸ばすも、突出した壁に阻まれる。
中央通路にも壁が出現し、右と左は完全に隔離されられた。 ひたすら更新待、黙々と読んでるけど
面白い。小ネタもよく番組を見てらっしゃる 二分化されたところで1話は終わりです。このssは10話までです。
米谷が主役でお馴染みの謎解き密室系のような物語です。
暇潰しがてら読んでいただき、ご指摘いただけましたら幸いです。
最終話まで書き終わってはいるのですが、埋め立て規制?に引っかからないように投下していきたいと思ういます。
誤字脱字に気を付けていきます。
>>19
ありがとうございます!
「埋め立てですかあ」と出て来るのでそうすればよろしいのですね!
>>40-42
ご支援ありがとうございます。残り9話ささっと上げて参ります。 第二話
SideW
土生菅井
小林上村
平手鈴本
原田織田
齋藤渡辺
10:00
突如現れた四方を囲む壁に恐れおののく。
バスの右側に座っていた10人と隔離された。
菅井「何よこれ!?」
土生「前、窓、後ろ、そして通路にも壁!壁!壁!壁!」
上村「開かない!」
小林「開けて!ここから出して!」
鈴本「ダメだ!ビクともしない!」
平手「完全に二分化された……」
原田「このために先に行かせてくれたんだ!」
渡辺「……あっちはどうなってんだろう」
齋藤「まあ同じだろうね」 菅井「織田、大丈夫かな……」
土生「そうだよ!もう通報しれば――え」
上村「圏、外……!」
小林「何で!まだ首都圏のはずでしょ!?」
鈴本「もしかして電波妨害されてんの!?」
平手「やられた……」
原田「Wi-Fi飛んでない?」
渡辺「それは分かんないよ!」
齋藤「この壁が電波を遮断してるとか?」
原田は隠しカメラの存在と同じ口調で訊ねるも、渡辺は少し怒りながら首を振る。
電波が届かないのはいずれにしても犯人たちの仕業であるのは間違いなく、外との連絡手段を一切断たれた。 菅井「叫んで助けを呼んでみる……のは危ないかな?」
土生「したら殺されない!?」
上村「でも、この壁すごい厚いから隣にも届くかどうか……」
小林「それに、さっき高速に入ってたしね」
平手「走行中だから無駄かも」
鈴本「せめて、向こうの子たちに聞こえるかどうかだけ!」
原田「安否確認しようよ!」
渡辺「……理佐ちゃん気になる」
齋藤「やるだけやってみよう!」
犯人たちの怒りに触れる可能性もあるが、向こう側のメンバーのことが心配になり叫ぶことにする。
小林以外のメンバーは息を吸い込み、一気に吐き出す。 菅井「じゃあ行くよ?……誰かー!!!助けて下さいー!!!」
土生「モデルになりたい!!!!!」
上村「ドドン!!!」
小林「……」
鈴本「オダナナァァアアアアァアアアアアア!!!」
平手「うわあああああああああああああああっ!!」
原田「弟ぉおおおおおおぉぉおぉおぉぉ!」
齋藤「あやっとさー!!!」
渡辺「パン……!」
各々自由に叫ぶも、向こう側からの反応はなかった。 菅井「これでもダメかあ……」
土生「こんだけ騒いだのに届いてないのか……」
渡辺「この壁、壊せらんないかな?」
平手「それは無理だと思う。固いし、厚いし」
小林「オラァッ!……痛った……」
上村「さ、埼玉の血!?」
小林は埼玉の血が騒ぎ壁を殴打する。しかし、壁には傷一つ入らず拳から流血する。
怪我人を心配する中、キャプテンだけは憤怒する。
菅井「ちょっと!無茶しないでよ!!」
小林「ごめん……」
上村「ぽん、じっとしてて」
小林「あ、りがとう。上村」
何かと怪我の多い小林へ上村は常備している絆創膏を貼り付ける。
小林は礼を言い、二度と無茶はしないと約束する。 原田「大声もダメ。打撃もダメ……」
平手「そう簡単に降ろしてくれないか」
渡辺「完全密室」
土生「辛うじてこのバスが走ってるってことだけは分かる」
菅井「何が目的で、どこに向かって、誰がこんなことを?」
鈴本「分からないよ……」
齋藤「七不思議を解いたら分かんのかな?」
突然前方にあるカラオケをしていたモニターに文字が現れる。
最初に最前列の土生と菅井が気づいた。 土生「モニターに!!なんか出てキター!?」
菅井「"@佐藤詩織の顔"!?」
上村「なにこれー!?どゆこと〜?!」
平手「これが七不思議の一つ目……?」
齋藤「なるほど。七不思議って欅のメンバーのことなのか!」
渡辺「てか、詩織ちゃんあっちにいるじゃん!」
小林「もしかして、しーちゃんがこっちで出されてるように、あっちではこっちの誰かのが出てるんじゃない?」
鈴本「じゃあ教わることも、教えることもできない!」
原田「”しーちゃんの顔”って言われても、何をどう答えればいいの?」
齋藤「まあ最初はチュートリアルみたいなものだとは思うけど、とりあえず考えてみよう」
第一の不思議について、考察を始める。
同じメンバーである佐藤詩織の顔について意見を出し合う。 鈴本「言われてみれば、しーちゃんの顔ってなんだか不思議だよね」
菅井「顔が変わるってゆうか……」
渡辺「アンバンマン?」
小林「しーちゃんが整形をしているとか?」
原田「……加入前に整形をしたことによって、そのビジュアルで加入できた?」
平手「それは違うかも。私たちは加入後しか知らないけど気づいたら顔が変わっていた時があったから」
土生「でもさ、うちらに整形する時間なんてなくない?」
鈴本「そうだよ!それなのに顔が変わるなんて……」
上村「ふっしぎ〜!」
齋藤「なるほど。多分だけど、詩織の不思議はそこにあるんだと思う」 しーちゃんの顔が七不思議ワロタwww
頑張ってくださいm(__)m 上村「加入後から現在まで顔が変わってるから不思議ってこと?」
齋藤「そうだね。それはまず間違いない」
渡辺「整形する時間がないのに顔が変わったのが不思議ならさ、逆に整形した可能性もあるんじゃない?」
原田「整形じゃないと思わせといて、整形してました的な?」
平手「どうだろう。ありえるかも」
菅井「心苦しいけど、整形説は0じゃないっ……」
小林「回答権は3つもあるんだし、言ってみる?」
土生「いいと思う。違くても先に進める気がする」
菅井「えっと、回答ってどこに向かってどう言えばいいのかな?」
齋藤「とりあえず、マイク持って前に言ってみれば?」
菅井は立ち上がり、電源の入っていないマイクを握り答える。
第一の不思議に対し、一番最初に思いつき一番可能性の高い整形説を打ち込む。 菅井「"佐藤詩織の顔"の不思議は、整形したことにより変形している?」
菅井の半疑問による回答は犯人に届いたのかどうか不安だ。
正解であれば何が起こるのか、七つ不思議を解いたらどうなるのか。
不正解であれば何が起こるのか。回答権三つ使いきったらどうなるのか。
数十秒何も起こることはなく、それが不正解だということを知る。
土生「違うみたいだね?」
鈴本「そうは問屋はおろしてくれないか」
上村「これが洗礼……」
菅井「みんな、ごめん……」
原田「友香のせいじゃないでしょ!」
齋藤「あと2回残ってるんだから大丈夫!」
渡辺「ん〜……」
早くも最初の壁に突き当たる9人の少女たち。
現実的な整形説が潰されたことにより、違う方面で考えを進める。 11:00
第一の不思議が出されて1時間が経過した。
整形ではないことを踏まえるも、足踏みが続いていた。
鈴本「何回か変わって気がするんだよね」
小林「そうなんだよ。考えてもみたら、たった一度の整形で何回も顔が変わるわけがない」
上村「かといって連続して整形する時間も確実に私たちにはないし……」
原田「初期の頃集合写真で"これ誰?"てなる時は大抵しーちゃんだったよね?」
渡辺「あったねー!」
原田「それが何回かあったってことは、すごいメイクで顔を変えていたとか?」
土生「ざわちんさんみたいなすごいメイク術を持っている!?」 齋藤「メイクは弱くない?不思議でもなんでもないような気がする」
平手「そっか!不思議であるかどうかで考えるんだ!」
渡辺「七不思議ってこと忘れてた!」
小林「メイク道具や方法に不思議はないはず。だとすると……」
上村「不思議なのは詩織ちゃんの顔そのもの!」
鈴本「やっぱり二十面相くらい持ってるとか?」
原田「怪人や怪盗が持っているスキルじゃん!」
渡辺「それすごくない!?」
土生「ずるーい!私も欲しー!」
平手「え、土生ちゃんはいらないよ!あ……」
平手は二十面相を羨ましがる土生を止めることで佐藤を軽く貶してしまう。
整形より怪人のスキルの方がしっくり来るところが大きい。 鈴本「でも仮に20こ顏を持っていたとして、どうやって使い分けて来たのかな?」
小林「加入前の学生時代は目立ちたくないから地味目な顔のままでいて……オーディション受ける時は勝負顔にした?」
上村「それだとおかしくない?オーディションの時より1st、2nd、3rd……って順々にバージョンアップしてるんだから!」
土生「しーちゃんはどんどんバージョンアップして綺麗になってるよね!」
齋藤「オーディションが一番の勝負顔じゃなかった?」
渡辺「いや、私だったらオーディションは一番の勝負顔使うよ!」
原田「後に進化することを考えて、あえてリスクを負ってレベル低い顔でオーディションをパスした?」
平手「違うな。どんどんキレイになってるんだから決められた顔を持ってるんじゃなくて、もっとこう……顔を自由自在に変えることができる、不思議な力を持っている。とか?」
菅井「それって変態っ!?」
常軌を逸した一つの答えにたどり着く。
一般常識を持ち合わせる少女たちはそ世間知らずの最年少の答えを否定する。 鈴本「いやいや!普通に考えてそんなことできるわけ!」
齋藤「普通じゃない。だから、不思議なんだよ!」
小林「七不思議の一つとしてあってもおかしくはないかもしれない……」
原田「人間誰しも変身願望を持っている。アイドルって顔のコンプレックスすごいもんね」
菅井「キリンは高い木の葉を食べるために首を伸ばし、ゾウは遠くの水や実を吸うために鼻を伸ばし、馬は……」
土生「鳥は飛ぶために翼が進化して、しーちゃんも美しくなるために顔を進化できるってこと?」
鈴本「あの女優さんみたいになりたい、もっと美しくなりたいって願い続けた?」
平手「どうだろう。思いついたのが、しーちゃんの不思議はあのふにゃふにゃな体にあると思う」
原田「体?顔じゃなくて?」
渡辺「ダンサーさんより柔らかいよね」 平手「喋りもそうなんだけど、全てがふにゃふにゃしてるよね?」
原田「ふにゃふにゃしてるから柔軟性もあって、それで顔も変態することができる?」
平手「座高が低く、足が長いのももしかしたらその力のおかげなのかも」
上村「確かに!顔が急に変わるというよりは、気づかないうちに変わっていってるんだね!」
土生「それだと全てのツジツマが合う!」
菅井「言ってみる価値ありそうだね!」
原田「一つ目の不思議しーちゃんメタモルフォーゼ……」
平手「上村お願い」
上村「うん、分かった!あーあー……」
平手の指名で佐藤と同級生の上村は立ち上がる。
マイクを握り、電源が入っていないことを確認し回答する。
上村「詩織ちゃんは顔を変態できる不思議な力がある!」 2つ目の回答権を行使する。正か否か、誰が教えてくれるのだろうか。
回答して数秒後、車内に聞き覚えのある機械音が響く。
土生「え、え。え!何何何?」
菅井「窓側の壁が!下がっていくよっ!」
原田「あ開いたー!イエーイ!!」
齋藤「よっしゃあ!」
鈴本「ふぉーーーーーーう!!!」
小林「まずは第一の不思議クリア!」
上村「やったね!!」
平手「クリアすると一枚ずつなくなるのか!」
渡辺「パン!」
一つ目の不思議をクリアしたことにより各々喜びを口にする。
窓際を塞いでいた壁が元の鞘に戻り、一同は2時間ぶりの外界の景色を見る。
上村は高速道路の看板を見て、現在の所在地を確認する。 上村「えっと、今は茨城県!もうすぐ福島県?」
鈴本「どこまで行くんだろう……」
東京から離れ、目的も目的地も分からぬまま連れられている不安と恐怖が押し寄せる。
今は従って不思議を解くしかないことを知る。
渡辺は出身地の高速を走っているにも関わらず、忘れているのか何も思っていない。
渡辺「2時間くらいかかったけど意外と簡単だったね!」
齋藤「ぺーちゃんあまり何もしてなかったよね?」
原田「向こうが第二の不思議を解いて窓際の壁が消えるとしたら、残る壁はあと5枚?」
原田は残る壁を指折り数える。
個室がある後方、個室の前にある謎の間、中央通路の分離壁、唯一の出入り口の壁の4枚しか数えられない。
原田「あれ?最後の1枚どこなんだろう?」
齋藤「いつか分かんだろ」
平手「こっちであとニ三こ不思議を解けば終わりか」
上村「たったニ三こ?いけそうじゃん!」 小林「それで、次の問題は?」
渡辺「……」
土生「モニター真っ暗なままだ!」
齋藤「向こうがまだだからまだとか?」
上村「えー!大丈夫かなー?苦戦してるんじゃ……っ」
推測では向こう側に出題されているのはこちら側のメンバーの誰かの不思議である。
もし自分の問題で苦戦していたらと思うと、胸が苦しくなる。
菅井「あの子たちならきっと大丈夫。それにあっちにはあかねんもいるんだから!信じよっ!」
上村「そう、だよね……!信じる!」
小林「絶対気合で何とかしてくれそう!」
珍しく副キャプテンを持ち上げ、守屋祭りで盛り上がる。
祭りにより気合を分けてもらえた気になった。 菅井「さてと、ちょうどいいから状況を整理しよっか」
鈴本「昨日富士急で野外ライブがあって、今日はお休みのはずだったけど急に泊りの仕事が入ったんだよね?」
小林「そうそう。あのアプリで業務連絡が来たんだ」
一同は同時にスマホを取り出し、アプリを起動する。
例のごとく電波は入らないものの、数タップで業務連絡を送ってきた者を確認する。
鈴本は番組以上の驚愕な顔を披露して言う。
鈴本「うわー!!"Unkown"になってるー!?」
菅井「誰か覚えていない?どのスタッフさんだったか!」
渡辺「……んー?」
土生「分かんない。誰だったんだ……」
上村「今野さん?いや、違ったかな」
平手「誰だったかは分からないようしているんだ」
小林「普通に信じてた。てか、疑ったことなんてなかったから……」
齋藤「急に入った仕事なんだなーとしか思わなかった!」 平手「仮に、私たち全員のIDを知っている人がいたら誰だろうと簡単に誘拐することができる。こんなふうに」
小林「マジ、かよ……!」
原田「待って!私たち全員のIDを知っている人なんてかなり限られるよね?」
上村「それって、外部じゃなくて内部の人が怪しいんじゃない!?」
土生「スタッフさんが犯人なの!?」
齋藤「そんなバカな!?」
渡辺「ん?……何これ?」
口数も少なく役に立っていない渡辺は椅子の下に落ちている一片の紙切れを拾う。
そこに書かれてある文字を読み上げる。
渡辺「"この中に不協和音がいる"?」
渡辺は珍しく理解力が高まり、鼓動が早くなり体が熱くなるのを感じる。
高速道路を走るバスは福島へ入り、まだ北上を続ける。 第三話
SideG
尾関 石森
米谷 佐藤
小池 今泉
志田 渡邉
長沢 守屋
10:00
突如出現した壁によって世界と半分の仲間から隔絶された。
副キャプテン率いる右組も外に助けを求めるため、キャプテン率いる左組がしたことを試すも同じ結果に終わる。
尾関「犯人は何者で、何が目的〜?」
石森「どこに連れてかれんだろう」
佐藤「オダナナ大丈夫かな……心配で口から心臓が飛び出そう……」
渡邉「早く助けよう。犯人からの要求はたった1つだけ」
志田「七不思議を解け、とか何とか言ってたな」
守屋「何が何だかホントに意味わかんないんだけど!」
米谷「何かあんねやろな、きっと」
今泉「あれ何ー!?」
今泉が指差す先にモニターがあり、映し出された字に注目する。
数字と文字を見て再び理解に苦しみ、頭を痛める。 小池「何やあれ!?」
米谷「前のモニターに……"❷"」
志田「"上村莉菜の指"ぃいい?イミフっ!」
渡邉「……これが2つ目の七不思議?てことは向こうで1つ目が出されてるってわけね」
今泉「莉菜ちゃんあっちにいんじゃん!」
長沢「多分あっちもこっちにいるメンバーの不思議が出されてるんじゃないかな?」
守屋「そういうことか!だから隔離したのかよ!」
米谷「それ以前に予め七不思議を用意までしとったってことになる……」
志田「ヤッバ!」
誘拐のためにどれほど前から準備をして、いかなる用意をしてきたのだろうか。
得体の知れない犯人たちに怖れを抱きざるを得ない。 尾関「そもそも七不思議を解くってどういうこと?」
石森「謎を暴くってことだから、莉菜の指を解剖すればいいんじゃない?」
米谷「まあ言わんとしてることは分かるからええわ」
佐藤「一体誰に回答すれば言えばいいの?あと制限時間は何時までとか決まってるの?」
小池「そやなあ、回答はあのマイクにでも言えばええやろ」
米谷「タイムリミットはないけど、回答権は3つだけ言うてたな」
志田「てか、どこに向かってんだよ!」
守屋「さっき高速に入ってて北の方に走ってたね」
長沢「今は千葉とか、茨城らへんか?」
志田「理佐の……」
渡邊「まさか、こんな形で故郷に帰るなんてね……」
渡邊は窓の外に目をやるも、壁に阻まれて外を見ることがかなわない。 長沢「じゃあ時間は目的地にたどり着くまで?」
尾関「そこに着くまでの暇潰しだったりして」
米谷「分からんなぁ。目的地に着くまでに7つの不思議を解かなあかんてことなら、時間を設けるはず」
小池「つまり、時間を設けてないってことは気にしーひんくてもえーってことなんちゃう?」
米谷「そう考えてもええけど、織田を助けないといけないから悠長に考えている暇なんてないっちゅうことやな」
志田「ちっ、ざけやがって」
渡邉「解くしかないね」
守屋「私たちにできないことはない!」
今泉「よーし、任せて!」
様々な感情が交錯する中、少女たちは出された不思議に気合を入れて挑む。 渡邉「さてと、莉菜の指に一体何があるっていうの?」
守屋「あ!そういえば、莉菜の指ってなんか定評があるんだった!」
小池「あ〜!うちも聞いたことある!まとめサイトで!」
志田「それで、リナババの指が何だってんだよ?」
守屋「いやなんか〜莉菜が何か人でも物でも指を差すことを"指差しむー"って呼ばれてて、ファンの間では喜ばれてる」
小池「"むーの指差しキター"とか"指差しされたい"もあったなぁ」
志田「何それ!?謎だわ!!」
渡邉「なるほど。その謎を解けってことか」
渡邉の解釈に全員が納得し、上村の指の謎に迫る。
上村と過ごした約二年の記憶の糸を辿る。 小池「"それな"ってあるやん?」
守屋「あーあるねー」
小池「菜々香ファンは"それなーこ"って言ってて」
長沢「へーそーなんだー」
守屋「知らなかったの?」
長沢「あ、握手会で聞いたことあった」
守屋「何だよ!」
小池「で、莉菜ファンは"そりな"って言うてる」
米谷「"それな"と"莉菜"を掛けてんねやな」
渡邉「……。それはあんまり関係なさそう」
志田「それな」
小池「なんか関係あるかな思て……」
不思議にかすりもしない話題を言い、肩を落とす小池。
隣人の今泉は前向きに励ます。 今泉「いいじゃん〜!思ったことどんどん言ってこうよ!」
米谷「せやな!何てったってヒントなしやし、何が繋がっとるか分からんしな」
小池「おおきに!ずーみん。米」
守屋「それで頻繁に指差ししているってことは、指差しは莉菜の癖なんだね?」
長沢「番組の方が頻度高いと思う。逆にカメラ回ってないところでは見たことある人いる?」
米谷「ちびーずで仲良いずーみんはどうや?」
今泉「んー言われてみればないかもしれない……」
守屋「てことは、やっぱりファンに見てもらうところで指差しを自覚してやってる?」
石森「ファンを喜ばせるためだけにやってるってこと?」
佐藤「それはあるかもしれない。私が指差ししたところで話題にも何にもならないだろうし、莉菜がやるからこそ意味があるんだと思うんだよね〜」 尾関「そういえば莉菜は千葉妖精って言われてるよね!」
志田「妖精、リナババ……指。……杖?」
渡邉「何、杖って?」
守屋「おばあちゃんだから?」
今泉「愛佳ちゃんよく莉菜ちゃんのこと"リナババ"って呼んでるよね?」
志田「いいや、言ったみただけ。ババといったら杖だと思って」
米谷「待てよ……。杖=ステッキ……?」
小池「ステッキと言うたら魔法のステッキ?」
佐藤「マジカルステッキ=魔法の杖が莉菜の指だというなら、莉菜の正体ってまさか……!」
長沢「妖精」 小池「それや!上村は妖精で指は魔法の杖で決まりや!」
守屋「わお!それしかない!」
今泉「莉菜ちゃん本当に妖精だったんだ!怪しいと思ってたんだよね〜」
米谷「いや、まだそうと決まったわけやないで……」
志田「なんだよー!最初から楽勝じゃーん!」
渡邉「試しに答えてみる?間違えても回答権はあと2回残ってるし」
尾関「OK〜答えるよー。莉菜の指は魔法の杖となっている!」
最前列の尾関がマイクを握り、意気揚々と回答する。
数十秒が経ち、雲行きが怪しくなる。何も起こらない異変が起きている。 渡邉「……何も起きないね」
守屋「あのー!!2つ目の七不思議解いたんですけどー!?」
米谷「……まだや」
小池「何がまだなん?」
米谷「まだ正解にたどり着けていないんや!」
佐藤「ええええええええええ!?莉菜ちゃんの指である魔法の杖をもっと掘り下げないといけないってこと!?」
渡邉「あるいは、全く別だったりしてね」
志田「マジかよ……」
今泉「いきすぎてると思ったよ!」
石森「まだ回答権2つ残ってるから全然大丈夫だよ!!」 小池「でも、いい線いっとると思ってんけどな」
志田「まず妖精って何だよ!リナババが妖精ってことは親も妖精なのか?」
渡邉「それはないでしょ。莉菜は人間、そこは間違いない」
佐藤「妖精はともかく、魔法が使えるってことの方がまだ現実味があるよね?」
米谷「きっとそこやな。問題は何の魔法を使えるかってとこにあるんや!」
志田「いやいや!ちょっと待って!……魔法って、マジで言ってんの?」
渡邉「これは普通じゃないことは確か。何かの魔法を使える可能性もあるかも」
長沢「魔法と言っても空を飛んだり、お菓子を出したり、何でもできるわけじゃなさそう」
米谷「むしろ問題からして多分一つくらいやと思う」
尾関「一つ……。指で使える魔法か……」
各自は自分の人差し指を眺めながらさまざまな考えを巡らせる。
指紋を指で追い、目が回り酔う馬鹿が何人か出る。 12:00
二分化して二時間が経過し、正午を過ぎる。
長沢は思考を停止して携帯食を頬張っている。
今泉「やっぱり指と言ったらビームじゃない?」
佐藤「ああ!乃木坂さんの中元さんって必殺技の"ひめたんビーム"してるよね!もしかして!あれって〜ファンの人たちはあのビームが見えていたりするんじゃないかな?」
守屋「莉菜がビームを出していたとして私たちに見えなくて、画面越しのファンにしか見えないなんてありえない!」
佐藤「はあ〜〜ダメか〜〜。話題に上がるほどにどうしてファンの人たちはそんなに莉菜の指に惹かれてるの〜?」
米谷「ハッ!それが答えなんや!」
小池「やんな!もうホンマにそれしかない!」
米谷と小池は佐藤の発言に気づかされる。
佐藤は何となく言った自分の発言に反応する二人に混乱する。 佐藤「何何何何!?私今何か変な事言った?!」
渡邉「何が答えだって?」
米谷「莉菜は指で不思議な力が使える。それは人を惹きつける!」
小池「魅了の能力やってん!」
志田「はあ?魅了?」
米谷「問題がすでに答えやったんや!」
小池「サービス問題どころやないで!」
尾関「えっと〜じゃあQ.莉菜の指はどうして惹かれるのでしょうか?"A.ファンを惹きつける不思議な力があるから"ってことぉ!?」
志田「そんな不思議な指あんのかよ!?」
石森「ああ!ハロプロのももちさんも小指が何と言うかすごいよね!」
守屋「確かにあの人と言ったら小指だもんね!莉菜の場合は人差し指なんだよ!」 今泉「莉菜ちゃんの人気の訳はそれだったんだ!」
志田「ズル!」
小池「コラコラ。それだけとちゃうやろ」
米谷「さて、答え合わせといこか?」
守屋「いけ、よね!」
佐藤「よね、私に答えさせて!莉菜と同じ96年組だし、それに私が答えなきゃいけない気がするの何でか分かんないんだけど!」
米谷「もちろん!」
全回答者からマイクをもらい息を吸う。
この中では最年長である佐藤は前方に立ちはだかる壁を指差し回答を言い放つ。
佐藤「上村莉菜の指にはファン、いや人々を惹きつける不思議な力があーる!」 数秒の静寂の後、本日一度は聞いたことのある機械音が車内を包む。
不測の事態に隣人と体を寄せ合う。
佐藤「えええええええええええええ!?私答え間違えちゃったっ!?どうしようどうしよう!!」
石森「ぬ!?何、何の音なの?」
尾関「うわー!窓側の壁が〜!!」
小池「なくなった!」
窓際の壁は出現したところから元の鞘に戻り、外の景色が見えるようになる。
佐藤の回答は間違いではなく、正解したと誰もが気づき喜ぶ。
米谷「不思議一つ解いてくごとに壁一枚なくなっていくんやな!」
守屋「まずは一丁上がり!」
志田「せいや!」
渡邉「よっ!」
今泉「ひゃほーーーーーい!!」 佐藤「良かった……合ってた……」
米谷「大丈夫やで!」
顎を震えさせて涙して安堵する佐藤。
隣の米谷はお馴染みのセリフで元気づける。
米谷「ところで今どこ走ってる?」
今泉「えーっと、福島ぁああああっ!?」
尾関「もうすぐ宮城県じゃん!」
守屋「仙台……!」
石森「レディちゃん!」
守屋と石森は地元宮城にいる家族に思いをはせる。
渡邉と同じでこのような形で帰ってくるとは思っていなかった。 渡邉「この窓は開けられない。取っ手がないとかそういうんじゃなくて」
長沢「割ってみる?」
渡邉「菜々香?いや、無理だと思う。やめときな」
長沢「やってみなきゃ分かんないよ」
長沢は両手を組んで振り上げ、織田への想いを込めて窓へ振り下ろす。
大きい音と衝撃を与えたが窓に傷一つつけることができなかった。逆に長沢は拳を負傷する。
守屋「菜々香!!大丈夫かあ!?」
長沢「ウン。割れると思った……」
軽傷に済むも長沢の頬に涙が伝う。拳の痛みよりも、窓を割れなかった悔しさで泣いている。
守屋は痛いほど長沢の気持ちが分かり慰める。
長沢「止めてくれたのに、ごめんね……」
渡邉「少なくとも女子の力じゃどうしようもないね。試してくれてありがとう」 志田「窓から手振って助けを呼べばいんじゃね?」
小池「せやな!反対車線やと気づかれへんから、追い越された時にやろか!」
守屋「うちら右側だから今の走行車線じゃないと助けを呼べない!早く来て!」
バスが走行車線を走っている今が好機である。
初の主演ドラマの稽古でやった助けを求めるゲームが生きる時が来た。
窓際の石森、佐藤、今泉は必死に窓から追い越しに来た車に手を振る。
石森「おーい!!おーい!!!」
佐藤「助けてください!助けて!!」
今泉「SOS!SOS!!」
今泉は両手を使って"SOS"の文字をアホみたいに繰り返す。
普通車とトラックに追い抜かれる際に助けを求めるも、目もくれず素通りしていく。
その後、バスは追越車線へ変更し、助けを呼ぶ機会を失った。 このペースで最後まで書いてあるのがすごい
期待してますよ〜 尾関「全然気付いてくれてなかった!」
今泉「こんなに助けを求めたのに〜!」
長沢「高速道路で運転中に横向く人いないのかな?」
志田「気づけよクソ!」
窓バンして悪態をつく志田。
小池が思い出したように言う。
小池「あ……このバスの窓って黒くなかった?」
米谷「そういえば最初に乗る時に見てなんか黒かったな!UVカット的なあれか?」
佐藤「マジックミラーじゃないけど、こっちから見えても向こうから見えてない!?」
渡邉「見えてないし、聞こえるわけもない……」
守屋「外が見えるだけになっただけで、密室には変わりないか〜」
肩を落とすメンバーの中で、この中では最年少が立ち上がる。 米谷「皆、聞いて。犯人は2人だけしかいない」
石森「は?いやいや!黒づくめと白づくめと運転手の三人でしょっ!?」
守屋「あの急に現れた白づくめは、個室で織田をやった黒づくめと同一人物って言いたいの?」
尾関「えええええええ!変装しただけだったの?」
米谷「その可能性が高い。声もなんか変やったし、おそらく変声機つことる」
渡邉「何のためにそんなこと?」
米谷「抵抗させる気を起こさせないため。犯人は頭数を増やしたいんや」
佐藤「じゃあ私たち20人に対して犯人は武装しているけど抵抗を警戒して、本当は二人なのに三人にいると騙しに来たってこと?」
米谷「昔起きたハイジャックと同じ手口や。犯人は一人しかいないのに、変装をして何人もいるかに思わせて乗客に抵抗する気をなくさせた」
守屋「一人だけならみんなでかかればいいもんね!」 小池「単独犯と複数犯は大違い、か」
米谷「運ちゃんは運転につきっきりだから、もう一人の犯人さえ倒せればおそらく……」
石森「たった一人だけならいけるっ!」
尾関「やるなら今しかないか?」
今泉「そうだね!目的地に仲間が何人いるかもわからないし!」
佐藤「こんな大それたこと組織的な犯行の線も十分ありえる……」
志田「茜……いや、副キャプテン!決めて!」
守屋「…………後悔しないでね」
渡邉「言って」
守屋「次に黒あるいは白、または緑でも何でもいい。犯人が出てきたら……ぶっ潰すッ!」
犯人は運転手と織田をやったもう一人の二人だけと断定する。
様子見で密室に足を踏み入れた時に奇襲をかける。
副キャプテンの指示にメンバーは覚悟を決めて頷く。 佐藤「リモコンか何かを持っていて、それで壁を開け閉めしているんだと思う」
守屋「オダナナをやったヤツを倒して、リモコンと武器を奪う!」
米谷「たとえ銃を持っていようがこの至近距離で女の子と言えど10対1……いける!」
志田「噛みついて、先に武器を奪おう!」
小池「織田を人質にとったんはうちらを抑制させるためやったんやな」
長沢「じゃあ、もしかしたら織田ナナは……!」
米谷「生きてる、絶対!誘拐だけなら殺人を犯すリスクはないはずやからな」
渡邉「ダニ!」
米谷「黒づくめの身ぐるみはがして、犯人の恰好をしたまま運転席に入る」
守屋「いいね!それならいきなり撃たれることはないね!」 渡邉「銃でも突きつけて次のパーキングに停めてもらおう」
長沢「そこで助けを呼べばおしまい」
米谷「問題は運転手も銃を持っている可能性やな」
小池「撃ってこんとも限らんし……」
一人は運転手へ武器を突きつける役をやらなければならず、メンバーは怖気づく。
死と隣り合わせの中で大人しくPAに停車させることができるだろうか。
米谷「運転手には両手でハンドルを持って運転してもらう。片手でも離したらその腕を撃つ」
志田「撃つ、って誰も銃なんて撃ったことねえだろ!?」
渡邉「もし、頭とか胸に当たっりでもしたら……」
守屋「私がやる!銃を持ったことがある、モデルガンだけど。それにこっちが危なかったら最悪の場合も容赦なく撃つ!」
メンバーを守るためなら、殺人を犯すことも躊躇しない。
副キャプテンという責任感ある立場が少女を駆り立てる。 佐藤「待って!万が一運転手を誤って殺してしまったら、私たち誰も運転免許持ってないから100キロで壁にぶつかってみんな揃ってお陀仏になっちゃうよ!」
今泉「ゴーカートみたいなもんでしょ?端にブレーキで停めることくらいできる気がする!」
石森「よく行ってやってたの?」
今泉「うん!お父さんに遊園地行きたいって言ったら連れてってくれたから!」
尾関「高速道路はほぼ直線でハンドル切ることはないから、ブレーキだけなら……」
志田「自信あんのか?」
今泉「ある」
渡邉「はあ……」
一瞬の溜めの後に自信満々かつ真剣に即答する。
もはやお約束となっており、信憑性は半々といったところである。 米谷「最悪の事態の話や。もしそうなってしまったら、ずーみん……ハンドル握ってもらうで」
今泉「任せて!」
小池「命預けたるわ」
尾関「私死ぬのかな……」
守屋「絶対死なせない!みんなで生きて帰ろう!」
石森「そうだよ!私たちにできないことなんてないんだから!」
守屋「運転手の死角から銃をつきつけるから、ずみこは私の後ろにいて」
今泉「うん」
志田「茜……死ぬなよ」
守屋「大丈夫。必ず守るから」
守屋は天に昇る思いで拳を握りしめる。
織田が生きている希望と犯人たちに立ち向かう決意を瞳に燃やす。
犯人が入室して来るのを待ち構える。 第四話
SideW
土生 菅井
小林 上村
鈴本 平手
原田
齋藤 渡辺
12:00
渡辺の手には"この中に裏切り物がいる"と書かれた紙片がある。
その文字を無意識的に読み上げた最後列の渡辺に全員が振り向く。
菅生「ぺーちゃん、今何て言ったの?」
渡辺「え……なんかこの紙が落ちてた」
渡辺は紙片を全員に見せるように掲げる。
中心の鈴本は渡辺から紙片を取り、花に群がる蜂のように覗き込む。
土生「なんでこんな紙が落ちてるの!?」
渡辺「だから気づいたら椅子の下にあったんだよ!」
小林「犯人たちが私たちを混乱させるために予め置いといた?」
上村「仲間割れさせるためとか?」 原田「でも、わざわざ教えてくるってことはさ……」
原田はその紙の意味に気づく。
紙は意図されてそこにあった。犯人が置いたことは明白であり、二つ考えられる。
一つは、犯人は嘘のつき自分たちの分裂を狙っている。
もう一つは、犯人は本当のことを自分たちに教えてそれを探させようしている。
平手「ねえ。その紙さ、なんで急に現れたの?」
渡辺「いや、なんでって言われてもふと下を見たらあったんだよ」
齋藤「元々椅子の下にあってバスの揺れで少しずつズレてったのか?」
平手「その"裏切り者"がこっそり落っことしたとか?」
鈴本「ありえる!協力者がいたとしてもおかしくない!」
前列が後列の三人を視る目が変わる。
三人とは4列目の原田、5列目の齋藤と紙を拾った渡辺のことを指す。
土生はジト目で齋藤に照準を当てる。 土生「悪いけど、ふーちゃん怪しくない?」
菅井「ちょっと土生ちゃんやめな!」
齋藤「はあ?隣にぺーちゃんだっているのにどうやって置くんだよ?」
土生「そんなのぺーちゃんがいつものように宙をぼーっと見てる隙にいくらでもできるじゃん!」
渡辺「ぼーっとしてない!」
上村「悪いけどぺーちゃんだって、自作自演の可能性もありえるよ」
渡辺「はあ!私置いてない!」
上村「どうかな……トクダレで犯人だったじゃん!」
齋藤「ふざけんじゃねえよ!」
鈴本「それか二人の共犯だったりして……」 齋藤「そっちこそ友香だって怪しいよ!」
菅井「突然私ー!?どうしてー!!」
齋藤「常識的に考えて、こんなバスまで用意して訓練を受けてそうなSP二人に犯人役を、運転はじいやにさせてんじゃないの?」
菅井「そ、そんなバカなことっ!あるわけないでしょおぉ?」
土生「キャプテンなのに友香なわけない!やっぱふーちゃん顔からして怪しい!」
齋藤「元々こういう悪役顔なんだよ!」
原田「もうやめて!これじゃあ犯人の思う壺だよ!」
齋藤「悪いが一番可能性が高いのは葵だ。隣に織田がいないからいつでも置けれるんだから」
原田「……」
原田は小学生のように涙を堪え、口を閉ざす。険悪な雰囲気の中、バンと大きい音がする。
それは小林が窓を殴りつけた音だった。小林は狂犬の眼光で齋藤に言う。 小林「もう黙れよ」
齋藤「……っ」
齋藤は好きな小林を本気で怒らせてしまい、返事もできず黙る。
キャプテンが手を叩き一本締めする。
菅井「この話はもう終わり!」
小林「この中に犯人いようと、いまいと証拠がない限り誰だか分からない」
平手「いっこ気になるのが"協力者"とか"裏切者"じゃなくてどうして"不協和音"なのかなって……」
土生「あ〜なんでだろう?4thだよね?」
齋藤「いずれにしても今は七不思議を解くしかないね」
渡辺「……ん」
鈴本「そうしよう……」
鈴本は紙片をポケットにしまう。
いつの間にか第三の不思議が現れており、上村は不思議な指でモニターを差して言う。 上村「来たよ。"B守屋茜の負けん気"」
鈴本「…………ぷっ」
何人かのメンバーは思わず吹き出してしまう。
先程まで固かった雰囲気は柔ぎ、平手は語尾を上げて笑う。
平手「アハハ!なにこれー!」
齋藤「とにかく世界一負けず嫌いだよね、茜は!」
渡辺「フフフフフフ」
小林「始まりはあの体力測定のブリッジだよね!」
鈴本「柔軟性よりも根性であそこまでいく人を私は知らない!」
土生「あかねんの負けず嫌いさは半端じゃないからね」
菅井「ファンから軍曹と呼ばれるだけはあるよ!」 原田「三つ目の不思議も茜の負けん気に何らかの裏付けがあるってことか」
渡辺「なんだろうね?」
自他共に認める曲げず嫌いの強さは業界一であり、彼女の辞書に敗北はない。
最後列の齋藤は立ち上がり、頭を下げる。
齋藤「みんな、ごめん……さっき」
土生「私こそ疑ったりしてごめんなさい!」
平手「いいよ。今は目の前の不思議を解くことだけだ」
小林「仮に不協和音がいたとして、それが何の問題があるっていうの?撃たれなければいいだけだし」
鈴本「軍門に下らない!」
菅井「どうか茜。ほんの少しだけで気合を分けて」
隣にいるのに会うことができない副キャプテンから気合を分けてもらう。
キャプテン率いる左組は第三の七不思議に臨む。 15:00
三時間が経過し、第三の不思議に壁にぶち当たり足踏みが続く。
バスは守屋の故郷である宮城を通り過ぎ山形の日本海側を下っていた。
守屋の不思議が解けず、方向転換として次に出題されるであろう別のメンバーの不思議を予想し語り合う。
上村「なーこちゃんにはあれしかないよね」
鈴本「あの大食いっぷりは普通じゃないよ」
土生「番組の大食い対決で井口マオちゃんに負けたものの、時間制限さえなければ菜々香が多分勝ってた!」
菅井「菜々香の胃に不思議の力があるんだ!全てを吸い込んでいるんだと思う」
齋藤「菜々香のファンはなーこの事を教祖と崇めている。ファンはなーこ教の信徒」
鈴本「"なーこなーこ"という動詞だか名詞があるよね。その不思議の正体は、人気すらも吸い込む胃袋にある!」
渡辺「それがなーこちゃんの人気の理由だったんだ!」
菅井「Yes!これで次に菜々香の不思議が出てきたら即答できるね!」
小林「出てきたらいいけどね」
モニターには長沢ではなく、守屋の名前が表示されている。
今求められているのは守屋の不思議であり、少女たちは現実を見る。 菅井「よーし、この調子で茜のも解こっか!」
齋藤「過去二回のスポーツ回を振り返ってみよう。何か分かるかも」
土生「まず、最初の体力測定のブリッヂでしょ?」
渡辺「ん〜あのブリッヂはただの気合だと思う。しばらく腰痛めてたし」
小林「あの後の競技腰痛めながらやってたんだよね。すごい気合……」
原田「確かに、あそこに不思議が入り込む余地は多分ない。何かあったら腰を痛めてなんかないもんね」
齋藤「やっぱ印象の強いリレーの方か?」
上村「最後のリレー終わったときに『これまでの命はどうするんですか!』て言ってたよ」
鈴本「あと、甲子園で負けた高校球児みたいに大号泣して『命かけたのに〜!』って何回も言ってたね」
平手「私は二回目は休んでたんだけど、命ってフレーズがよく出るね」 土生「めみめみ姫との氷水対決の時も『天に昇る思いで〜』とか言ってた!」
平手「……命をかけていたのは本当だった?」
菅井「まさかそんな!?命を代償にしてまで、勝ちにこだわるなんて……っ」
言っている途中で菅井は気づく。例え命をかけてでも勝ちにこだわる。
約二年の付き合いを経て全会一致で彼女ならやりかねないと思う。
土生「命をかけることによって、界王拳のようにパワーアップしていた?」
渡辺「かいーよー?どこが?」
齋藤「パワーアップしていたなら50m走で圧勝したゆいぽんを最後のリレーで追い越してもおかしくない」
土生「あそっか」
鈴本「タッチの差までは追いつかれたけど、あかねん負けちゃったよね」 菅井「対決したゆいぽんはどう?」
小林「追い込みはすごかったけど、あかねんの方が早いからあの差を詰められたのはただの実力だと思う」
菅井「やっぱりか〜」
小林「でも、50m走の始まる前にすっごい圧を感じた。あと、最後のリレーでもある程度近くまで迫られたときにも……」
平手「圧力?」
小林「ただのプレッシャーじゃない。何か、不思議な何か……」
原田「それだあ!相手に圧力を与える力を持っている!」
鈴本「おそらく射程圏内があって、素の力で追いつき最後はその力で0.5秒差まで追い詰めた……」
土生「ありえるかも!自分の身体能力を上げるのではなく、相手に圧力をかけることができる!」 土生「それズルくない!?」
菅井「いや、あかねんの持っている実力だから」
鈴本「じゃあ言ってみる?」
小林「回答権はまだ三回残ってる」
菅井は頷き、マイクを握り回答する。
気合が空回りしてか大きな声で叫ぶ。
菅井「茜の負けん気はー!命をかけて、圧力をかけられる不思議な力を持っているところにあるー!!」
土生「…………。ダメか」
数秒の沈黙ののち、何も行らないことを悟り土生が判定する。
キャプテンの間が抜けた回答に堪えていたメンバーたちは笑い出す。 菅井「ちょっと〜!何で笑ってるのよ?」
上村「なんだかおかしくて!」
小林「すごいめっちゃおかしい!」
平手「アハハ!」
菅井「本気なんだけど!」
鈴本「さすが、チャプチェだね!」
渡辺「フフフフフフフ」
齋藤「あー圧力じゃない何かってことか。でも遠くはなさそうだけどね」
原田「あかねん……。かっこいい、ねん。………ねんって何だっけ?」
鈴本「ねんは、あかねんの省略でしょ。ファンの人たちも"ねんさん"って呼んでるし」 土生「ねん、ネン、Nen、年……念?」
菅井「どうしたの?”ねん”を連呼したりして?」
土生「負けん気。念、力……?念力が使えるんじゃない!?」
鈴本「超能力じゃん!あ、それ言ったらしーちゃんのもそうか!」
小林「負けず嫌いすぎて、勝つことを極めたがためついに念力にまで?」
土生「きっと想いが強く、念じて動かす力にまでなったんだ」
原田「茜は念力が使える!」
小林「逆に念力が使えるんだから負けるわけにはいかないって思ってそう」
鈴本「命かけて念力を使って負けたら……あんなに悔しがるのも合点がいくかも」
平手「あの発言変だよね。命をかけて念力を使って頑張っていたんだ」
土生は立ち上がると、バスの低い天に頭が井すれすれになる。
厨二っぽく自分の顔にピースをして言う。 土生「回答権はあと2つ。使っていい?」
菅井「みんな、いいよね?」
誰も反対せず、合っていると確信している。
問題なく全会一致を得て、土生は二つ目の回答権を使う。
土生「守屋茜は負けず嫌いが強すぎてその想いで念力が使えるまでになった」
菅井「…………。ウソ」
ある一定の時が過ぎ、一同は不正解と知り信じられないといった面持ちになる。
土生は頭を下げる。
土生「ごめん、みんな……」
菅井「ありがとう。いい線いってたって!」
残す回答権を一つだけにしてしまったことで中々頭を上げない。
隣人は明るく慰める。 齋藤「念力はたぶん間違いないと思う」
平手「もう1こあるってこと?」
原田「ええ、何だろう……」
上村「回答権はあと一回だけ!後がない!」
渡辺「解ける気がしない……」
齋藤「どんな些細なことでもいい。茜には念力の他に何かあるはずだ!」
鈴本「一筋縄じゃいかないってことか」
小林「簡単には倒せないか、うちの軍曹は――」
その時、後方でお馴染みの機械音がする。
音のする方を振り返ると、後方の壁が床に戻っていく。
壁がなくなり待ち構えていたものは、最初はなかった人一人通れる細長い天井まで届く扉があった。 原田「何あの扉!最初はなかったよね?」
齋藤「待って!罠かもしれない。ここは慎重に……」
最後列の齋藤が立ち上がり、扉に耳を当てる。
一分間呼吸を殺し、個室がある後方の音を探る。
齋藤「ふー……ダメ。何も聞こえないし、開かない」
渡辺「なんだったんだろう……」
上村「なんで急に後方の壁がなくなったんだろ?」
平手「……壁がなくなるのは不思議を解いたら、だから……」
土生「そっか!向こうがもう4つ目の不思議を解いたんだよ!」
上村「早!こっちも早く解かなきゃ!」
渡辺「じゃあ最初はなかったこの扉は何?」
開かずの扉の先には手洗いがある後方へ行くことができる。 齋藤「多分だけど、向こうの誰かが後方に入ってる時はこっちから開けられないんじゃないかな?分かんないけど」
土生「交流させないために考えられてるね!」
菅井「そうだとしたら、向こうの子たち解いたばっかだから今頃なだれ込んでるのかも!」
齋藤「しばらく待ってみよう」
十分程して、再び扉が開くか押してみる。
齋藤「開いたよ!」
後方の個室の前は狭く、齋藤と渡辺が入る。
渡辺「あ!向こうにも同じ扉があるよ!でも、開かない……」
平手「やっぱりこっちからは向こうに行けないか……」
右組が先に不思議を解いたことによって、後方の壁がなくなった。
手洗いに行けるようになったが、向こう側のメンバーが入ってる時はこちら側から開けることはできない。
加えて右組のいる扉をこちら側から開けることはできない。
手洗いに行けるようになっただけであって交流することは叶わなかった。 小林は右側の扉へ壁ドンするも何の反応もない。
小林「完全防音なのは変わりないか」
原田「でも、個室が使えるようになったのは助かったね!」
鈴本「ほんとそれ!」
菅井「あかねんたちありがとう!!」
十分前に同じようなやり取りを副キャプテン率いる右側の連中もやっていた。
左側は小休止を挟み、再び副キャプテンの不思議に挑む。
バス後方図
〜〜〜〜〜〜
| 原田 | ←中央分離壁
|齋藤渡辺 |
――――−− ←二枚扉
| WC | | ? |
――――――――― 18:00
あれから何時間経過したことか、日が暮れかけ空が薄く暗がり始める。
暗くなるにつれてメンバーの不安が増していく。途中昼寝をするも悪夢にうなされれるメンバーもいた。
目の前には解けない現実に比べれば見るだけの悪夢の方がましだ。バスは新潟から長野へ入る。
鈴本「いつまでもこのままより頭を切り替えよう」
平手「そうしよ。もう茜のことで頭いっぱいだから……」
小林「虹花とかどう?」
上村「あかねんと同学年で同郷だしね」
鈴本「じゃあ虹花ゲームでもする?」
土生「何そのゲームやったことない!」
鈴本「虹花と言ったら何何〜ってリズムに合わせて言ってくゲーム」
小林「気分転換にはいいかも」 菅井「虹花といったら、名前の順1番」
土生「虹花と言ったら、演技がうまい」
小林「虹花と言ったら、最初に女優になった」
上村「虹花と言ったら、おバカナンバー1!」
平手「虹花と言ったら、笑顔が可愛い」
鈴本「虹花と言ったら、犬への愛がすごい!」
原田「虹花と言ったら、コンサートで最後にお辞儀する」
渡辺「虹花ちゃんと言ったら、髪の毛サラサラ」
齋藤「虹花と言ったら、握手人気ワースト1位」
一巡したところで"虹花ゲーム"が終了する。
縛りを設けたわけではなくある一つの共通点に渡辺以外が気づく。 上村「来たよ。"B守屋茜の負けん気"」
鈴本「…………ぷっ」
何人かのメンバーは思わず吹き出してしまう。
先程まで固かった雰囲気は柔ぎ、平手は語尾を上げて笑う。
平手「アハハ!なにこれー!」
齋藤「とにかく世界一負けず嫌いだよね、茜は!」
渡辺「フフフフフフ」
小林「始まりはあの体力測定のブリッジだよね!」
鈴本「柔軟性よりも根性であそこまでいく人を私は知らない!」
土生「あかねんの負けず嫌いさは半端じゃないからね」
菅井「ファンから軍曹と呼ばれるだけはあるよ!」 渡邉「銃でも突きつけて次のパーキングに停めてもらおう」
長沢「そこで助けを呼べばおしまい」
米谷「問題は運転手も銃を持っている可能性やな」
小池「撃ってこんとも限らんし……」
一人は運転手へ武器を突きつける役をやらなければならず、メンバーは怖気づく。
死と隣り合わせの中で大人しくPAに停車させることができるだろうか。
米谷「運転手には両手でハンドルを持って運転してもらう。片手でも離したらその腕を撃つ」
志田「撃つ、って誰も銃なんて撃ったことねえだろ!?」
渡邉「もし、頭とか胸に当たっりでもしたら……」
守屋「私がやる!銃を持ったことがある、モデルガンだけど。それにこっちが危なかったら最悪の場合も容赦なく撃つ!」
メンバーを守るためなら、殺人を犯すことも躊躇しない。
副キャプテンという責任感ある立場が少女を駆り立てる。 佐藤「良かった……合ってた……」
米谷「大丈夫やで!」
顎を震えさせて涙して安堵する佐藤。
隣の米谷はお馴染みのセリフで元気づける。
米谷「ところで今どこ走ってる?」
今泉「えーっと、福島ぁああああっ!?」
尾関「もうすぐ宮城県じゃん!」
守屋「仙台……!」
石森「レディちゃん!」
守屋と石森は地元宮城にいる家族に思いをはせる。
渡邉と同じでこのような形で帰ってくるとは思っていなかった。 鈴本「虹花はなんだかんだで一番が多い気がする!」
原田「しかも良し悪しが半々くらい!」
菅井「一番演技もうまくて、それで最初の女優になったんだもんね!」
齋藤「その半面なのか、連帯責任ゲームでも一番失敗してたな。代償なのかも」
土生「犬飼ってるメンバーたくさんいるのに、ダントツで動物愛があるのは虹花!」
上村「てちと美愉ちゃんも飼ってるもんね?」
鈴本「私もバムくんすごい大好きだけど、虹花には負けるね」
小林「何かで一番になることができるけど、別の何か悪い方で一番になってしまう。そんな不思議な力か」
渡辺「いいな〜」
石森の不思議に備えることができた。
動物の話の流れで志田の話になる。 渡辺「あと虹花ちゃんて人を動物に例えるのうまいよね?」
鈴本「やってたねー。愛花は猫っぽいよね〜」
渡辺「ニャースみたい」
上村「急にポケモン?」
齋藤「なら、茜は?」
渡辺「ん〜……ピカチュウ?」
原田「あ!初期の頃さ、茜が自己紹介でピカチュウを取り入れてなかった?」
菅井「あ〜!何でか分からないけど、モノマネしてたよね!可愛かったけど、もうやってないよね」
土生「確かに謎だったね。何でだったんだろ……」
電気ネズミポケモンの真似を取り入れていたことについて考える。 平手「ピカチュウのモノマネに何かの意味があったとしたら?」
鈴本「まさか、電気にまで手を出してる!?」
原田「BINGOでも"電気は味方なんで"って言ってたしありえるかも!」
小林「電気椅子に座ったときも、みいちゃんや織田と比べて無反応だったね!」
上村「ビリビリボールペンの時も、"これ壊れてんのかな?"って感じだった!」
渡辺「あかねん電気タイプだったんだ!」
土生「でも電気タイプって何の役に立つの?」
齋藤「それこそ電気工か、アイドルの罰ゲームくらいしかなさそう。あとは電気会社へアピール?」
菅井「"自分電気行けますよ"的なアピール?」
原田「サンドさんからも電気会社のCM出てるってお墨付きもらってたね」 原田「でも、ビリビリバイクも一番早く押してはいたけど、少し苦い顔をしてたよ?」
鈴本「同じ電気タイプの攻撃でも少しは食らうからね。効果はいま一つだけど」
上村「でも最後には慣れていたよね!」
平手「一つでも多く武器を持ちたくて、電気タイプも得た?」
齋藤「いつか茜が言ってたけど"上京してきて本当に良かった"って誰よりもそう思ってそう。仙台で生まれ育った茜には東京の衝撃は雷が落ちたような感じだったんだろうね」
原田「エレクトリック」
渡辺「エキセントリック?」
土生「じゃあ、これで決まり?」
平手「待って。いつも冷たい水を浴びてる……。水属性もある?」
原田「"天に登る気で頑張ります"って言ってたよね?」 上村「でも、あれはさすがに堪えていたよ。本当に天に昇りかけていたあの表情」
小林「念力で抑え込んでいただけ?」
菅井「さすがのあかねんの力でも防ぎきれなかったみたいだね、勝負には勝ったけど」
鈴本「他には何かないかな?」
土生「気合と言ったら、炎タイプ!」
原田「辛い物対決で一気食いしてたけど、その後倒れてたからないか……」
渡辺「しばらく薬飲んでたもんね」
齋藤「あれはただの気合か」
菅井「さすがにそれ以外はもうなさそうだね……」
一度目は門に憚られ、二度目は城内には攻め入れた。
今背水の陣にあり、三度目で陥落させなければならない。
主将が腰を上げ、拡声器を持つ。 菅井「守屋茜はエスパータイプと雷タイプである!」
原田「アローラのライチュウじゃん!」
菅井「負けん気は、二つ能力を兼ね備えていることによる自信のようなものから来ている!」
小林「……どう?」
三回目の回答権を使用する。外したら何が起こるのか分からない。
外した時のことなど考えていないほど、自信を持って回答した。
結果は数秒後、モニターから"B守屋茜の負けん気"が消える。
先の問題も正答後に消えたため、それが正解だと知りメンバーは喜びのあまり躍り出す。
齋藤「はーやっとクリア〜!」
菅井「もうダメかと思った〜」
原田「もう19時前……何時間茜と戦ってたんだろう……」
平手「それほど手強かったってことだね」 正午から始まった三つ目の不思議に七時間近くも戦って倒し、疲れが押し寄せる。
上村「今どこ?」
小林「んん!?長野!!」
菅井「どうして!?途中まで北に向かっていたのに!進路を変えて何で長野に?」
平手「誰が理解なんてできるものか」
鈴本「わざわざ迂回して長野県に?だとしたら、目的地が近いかも!?」
土生「そういえば、三つ目解いたからどっか開いたのかな?」
齋藤「もしかしたら個室の前の謎の間が開いたんじゃない?」
渡辺「行ってみる?」
齋藤と渡辺は後方へ入り、個室の正面にある開かずの間の扉が開くようになったのを確認する。
その中にある物を見て二人は叫ぶ。 渡辺「わ〜!パンだ!!」
齋藤「水!缶詰とかもある!」
確実に乗客人数分の二三日分程の大量のパン、缶詰、水があった。
食料とペットボトルをたらい回しでメンバーへ配る。
渡辺は大好きなパンを頬張る。少女たちは渡辺が何も考えずに二口目を食べるのを見て毒がないと安心し口をつける。
空腹の少女たちは渡辺に心の中で謝り、水を飲み、缶詰を食す。
菅井「いただきます!」
上村「ん〜おいひ〜!」
小林「すごいめっちゃおいしい!」
犯人から与えられたにも関わらず菅井は手を合わせてから食べ始める。
大した食料ではないが、およそ十二時間ぶりの食事を美しく味わえた。
手持ちのわずかな携帯食品を口にしていたが底をつきていたせいでもある。
晩飯を食べている中、平手が立ち上がり言う。 平手「皆聞いて。織田は生きている」
菅井「え――でも、あんなに血だらけで……」
平手「誘拐だけなら人一人を殺さないと思う」
鈴本「確かにそうだよ!織田が死ぬわけがない!織田は生きてる!!」
渡辺「ダニは、生きてる!」
土生「だとしたら、犯人はどうして殺したように見せかけたんだろう?」
原田「本気で七不思議を解かせるために?」
齋藤「欅の七不思議に何の意味があんだよ!」
平手「それは分からない。でも、全部解いたらきっと何かが分かると思う」 菅井「犯人は大人の男性三人組」
原田「スタッフさんか、ファンの方なのか……」
土生「黒ずくめって最初からこのバスに乗っていてずっと個室に潜んでいたってことだよね?」
小林「そうなるね。私たちが乗る前に個室にいた」
齋藤「うちらの誰か一番最初に個室に入ったメンバーがやられていた」
上村「私だったかもしれないって思うと……っ」
鈴本「それが織田だった!織田が私たちのことを守ってくれたんだ!」
平手「ありがとう、織田……」
土生「よし、ご飯も食べたことだしあと三問!!!」
胃も膨れ、仲間の生存と折り返し地点を超えたことにより、淡くも一筋の光が射す。
突然バスは停車し、少女たちは窓の外を見る。 原田「着いた!?」
鈴本「何ここ?屋敷?」
渡辺「おっきい……」
小林「犯人たちの別荘?」
菅井「ウソ…………」
土生「ゆっかー?どうした?」
平手「ここがどこだか知ってるの?」
菅井「わたしんち」
齋藤「ここ軽井沢だから、あの友香んちの別荘!?」
上村「なんで!?」 何故菅井家が保有する別荘に来たのか。それより何故メンバーの別荘の場所を知っているかに恐ろしく感じる。
番組で軽井沢にあることは公表されている。あと、内観の写真も数枚見せている。
齋藤「誰かにここの住所教えたことある?」
菅井「絶対ない!別荘の住所なんて運営にもメンバーにだって言ったことないのに……」
平手「怖い……」
鈴本「大丈夫。大丈夫だよ」
震える最年少を同郷の鈴本が支える。
前方の扉が開き黒づくめが姿を現す。
黒「降りろ。ここでは一言も喋るな」
織田をやったナイフを手にしており、有無を言わせず従わされるしかない。
残酷な思考が交錯する中、一同はバスを降り菅井の別荘に吸い込まれていく。
敷居をまたぐ瞬間、もう一度外の空気を吸うことができるかが脳裏をよぎる。
立地条件も物件も良い別荘で何が行われるか誰の予想も的中することはなかった。 第五話
SideG
尾関 石森
米谷 佐藤
小池 今泉
志田 渡邉
守屋 長沢
12:00
第二の不思議を解いたら昼を過ぎ、少女たちの腹は減っていた。
愚痴をこぼすも都合よく食事が出て来るはずもなく、手持ちの鞄に忍ばせてある非常食を口にする。
食事中、お構いなしに新たな不思議が映し出される。
尾関「次の不思議は"C"!」
石森「"菅井友香の本気"!?」
米谷「友香の本気って何や!」
今泉「あれしかなくない?お金持ちだから何でもできる!」
小池「爺やがヘリコプタ―からスナイプできるとか?」
渡邉「つまり、ゆっかーの本気は財力ってこと?」
志田「まあそうなるね。オババ一人では何もできないから」 長沢「試しに言ってみる?」
守屋「菅井友香の本気は、財力の事。その力により不可能なことは何もない」
一巡のみの発言で一つの結論に至り、守屋が回答する。
数秒後、何も起こらないことで不正解だと悟り、早くも回答権を一つ失う。
尾関「………。何も起こらないね」
米谷「そもそも財力なんて不思議でも何でもないやん!早計過ぎたか」
守屋「よくよく考えてみたら、そんなにすごい爺やだったらお嬢様の危機にヘリで迎えに来てくれるよね!」
佐藤「逆に迎えに来ないってことは、菅井家が犯人なんじゃないかな!?こんな壁の仕掛けのあるバスまで用意して、黒服に犯人役をさせて、爺やが運転してたりして……」
小池「いやいや!こんなことして何になるん!」
佐藤「それはほらあれだよ!この状況をどこかでモニタリングされててお金持ちたちが賭け事をして面白おかしく楽しんでるんだ!」 志田「ぶっ飛び過ぎだろ!」
米谷「この状況で賭けることといったら……七不思議を何問目まで解けるか、くらいしかないやん」
渡邉「それこそ財力でなせる業なんだから、答えが財力じゃなかったからそれは違うんじゃない?」
佐藤「あーじゃあ違うのか〜」
石森「そうとも言い切れないんじゃない?ゆっかーんちって不思議に包まれてるもんね!」
守屋「確かに!超お金持ちの菅井家の秘密は常々疑問に思うところはあった……。それに関する不思議なのか?」
尾関「財力ではないにしろ、何かありそうだね!」
小池「親は何してはる人なんやろ?」
今泉「回答権はあと二つ。慎重に考えよう」
今泉は元気にピースサインをしてメンバーへ教える。
四つ目の不思議に対して菅井家の線で意見を交わす。 16:00
第四の不思議に臨んで、四時間弱が経過した。
不思議に包まれた菅井家について語りつくし家方面ではないと結論付けるのに、途中昼寝して鋭気を養う者もいたため時間がかかった。
菅井本人が本気を出したところで養われている身であり、財力で全てを叶える力は本人にはない。
メンバーは菅井を象徴するもう一つの方面で考える。
長沢「菅井家は関係ないとすれば、馬か」
守屋「やっぱ馬しかないよね」
米谷「友香は百万馬力……。これがもし本当なら……」
尾関「ひゃっ、百万馬力ぃ!?」
渡邉「一個人で国家を脅かす腕力を持っている?」
志田「いやいや!100%それはない!」
今泉「"友香の本気"――なんかどっかで聞いた事あるフレーズ……」
石森「あ!鴻巣でやった運動対決の回じゃなかった?」
佐藤「あーあのガチ対割と平和守備平和主義で戦ったときの最初の意気込みで!」 守屋「"菅井様の本気見せてやるから全員まとめてかかって来いよ!"だっけ?」
小池「1人で戦うんか!?って爆笑しとったけど……あの発言、まさか本気やった!?」
長沢「腕力だけで、うちら10人を相手にできる力量を持っていたってこと?」
佐藤「そういえば、友香はいつも口々に言っていることがある……」
渡邉「何だっけ?」
佐藤「馬術するときとかに『人馬一体となる』ってよく聞く」
米谷「それなら馬と同じ力でなくてはならない。つまり、一馬力」
小池「友香の本気は……一馬力の怪力、強化できる?」
米谷「ストレングス・オブナ・ホース。といったところか」
志田「ダサッ!」 佐藤「でも待って!一馬力もあるのに、理佐に50m走と愛佳に腕相撲で負けたりしなくない?」
渡邉「50mは勝ったけど、腕相撲は本当に馬の片鱗が見えた」
志田「え……腕相撲チャプチェ弱かったよ?」
今泉「確か愛佳ちゃんゆっかーと戦って理佐の敵とってたよね!」
石森「じゃあ違うじゃん!」
守屋「一馬力もあるとしたら誰にも負けるはずがない。だから、わざと負けたのかもしれない」
尾関「わざと!?手を抜いたってこと!?」
守屋「分からない?だって友香一人で全員に勝ちでもしたらどうなると思うよ?」
米谷「友香無双したら……やらせと思われるか、TV的につまらな過ぎる。どちらにしても最悪や」
小池「50m走も理佐に簡単に勝つことだってできたはず。バランスを考えてタイムでは2番目に早い理佐に花を持たせたんかもな」 長沢「あ。綱引きの時もゆっかー一番前で最初こっちが圧勝だったのに最後は完敗だったね」
石森「一番前って一番強いんじゃなかった?だったらわざと逆転劇に見せかけたのかもよ!」
佐藤「そっか〜常に本気を出してるわけじゃないし、番組のことをちゃんと考えてるんだね。さすがキャプテン!」
今泉「一年目ってゆっかー足の指を骨折した状態でやってたんだよね?やばくない!」
米谷「一年目は骨折してたからか運動音痴が定着してしまった。ベストコンディションならダントツのはずなのに、二年目も前回のイメージのままを演じとったんやな」
尾関「欅の最強は友香か!」
小池「おおよそ出そろったか。ほぼ決まりやと思うけど誰が言う?」
守屋「ここは私が」
守屋が名乗りを上げて、立ち上がる。
主将の不思議は副主将が解く。 守屋「キャプテン菅井友香の本気は、一馬力出せる怪力のこと!」
二つ目の回答権を使う。
四秒後、後方の壁が消えていく。
長沢「……見て!後ろの壁がなくなる!」
今泉「第四の不思議クリア!これであと三つだね!」
小池「その前に向こうは三つ目の不思議解いたんやろか?心配やな……」
米谷「あの子らなら大丈夫やろ。キャプテンもいるし」
小池「……。せやな!」
米谷「今の間は!?」
後方の壁が完全に収納され、見覚えのないものが後方にあった。
それからはキャプテン率いる左側のメンバーが十分後に行うやり取りをする。
手洗いを使用することが叶い、反対側との交信は叶わなかった。 次の不思議が出題されないことは、向こう側がまだ不思議を解いていないことを意味する。
長時間かけて解いた不思議に歓喜する中、一人だけ苦い顔をし口に手を当てる少女がいた。
志田「どうした理佐?酔った?」
渡邉「……言うか黙ってるか迷ったんだけど、言っていいかな?」
志田「何改まって……。そんなヤバイこと?」
渡邉「この席順というかこっちのチームについて」
米谷「なんや?チーム?それがどうした――え!?」
渡邉「さっき運動会の話したでしょ。それで思い出したんだ……」
米谷「何で今まで気づかんかったんやろ……」
守屋「理佐、よねみ!!何に気づいたんだよ!」
今泉「教えて!何が起きてるの!というか何が起こってるの?」 渡邉「今こっちにはガチチームしかいないってこと」
志田「いやああぁああああぁああ!怖い怖い怖い!!!」
小池「これアカンやつや……」
石森「鳥肌やばいんだけど!?」
尾関「最初から犯人に操られていたってことぉ!?」
守屋「最初っていつだよ!!私たちは命令されてこの席に座らされたんじゃないのに!」
佐藤「偶然?いいや、これは必然としか考えられないよ!」
長沢「誰がこんなことを……」
今泉「うぅ……っうわあぁあぁああ……!」
恐怖で凍える者、憤る者、泣く者に分かれる。 渡邉「逆に向こうは割と平和主義チームの子」
今泉「でも、今はねるちゃんの代わりに、二年目参加できなかった平手が入ってる」
米谷「偶然こちら側が十人全員ガチチームになる確率はそう高くはない……でも、これは――」
黒「……」
突如、前方の扉が開き黒づくめが入ってくる。
すぐに扉は閉まり、黒づくめはゆっくりと中央通路を歩き出す。
一歩一歩がとてつもなく遅く感じ、反比例して鼓動が加速する。
守屋「こほ!」
黒づくめが様子見に入室した際に叩く作戦を開始する合図は副キャプテンの咳払い。
全員が意を決し、通路側に座る五人が黒づくめに飛びかかろうとした瞬間、後方の扉が開いた。 尾関「――ッ!?」
石森「なんで……!?」
扉から現れた人物を見て、少女たちは驚愕し固まる。
前方から現れたのは黒づくめ、後方から現れたのは白づくめだった。
中央通路には武器を持った白と黒の犯人二人がいる。運転席にはもう一人の犯人がいることを考えずとも分かる。
白づくめは立ち上がっているメンバーに向かって言う。
白「オイ。何をしている」
佐藤「これは、あの、その、えっと、だから、ちょっと、なんか〜……!」
守屋「ず、ずっと座ってて疲れたから立ってるだけです!」
志田「お、同じく……!」
白「座れ。さもないと」
守屋「ハ、ハイ……!」
起立はしており、気を付けをし、礼を飛ばして着席をする。
程なくして二人の犯人はそれぞれ出て来た方へ戻り、扉は閉ざされる。 尾関「し、死ぬかと思った〜!」
渡邉「本当に三人いたなんてね……」
今泉「う〜ん、運転手が手放し運転してたんじゃない?」
石森「そうだ!高速道路はずっと真っ直ぐなんだから、数十秒くらい手を放してても……」
アホみたいな案にバカが乗っかる。
関西娘が突っ込みのおかげで犯人が三人いた深刻な空気が薄くなる。
米谷「両手離しのチャリやないんやから、んなわけないやろ!」
長沢「もしくは、このバス全自動運転じゃない?それなら犯人はあの二人だけ」
小池「いやいや、まだその時代来てへんわ!」
守屋「でも、これで判った!確実に犯人は三人いる」
渡邉「三人だけならいいけどね……」 佐藤「え、他にもまだ犯人いるっていうの!?」
渡邉「あのさ……あの後ろの車、さっきからずっとついてきてない?」
石森「仲間!?」
今泉「神奈川ナンバー!てことは東京からついてきてるってこと?」
小池「ホンマに四人おるんか!?」
守屋「もうどうすればいいのー!?」
長沢「終わった……」
志田「クソ……。運転手ともう一人織田をやった二人だけじゃなかったのかよ……」
黒づくめが白づくめに変装をしている一人二役ではなかった。犯人は少なくともバスに三人は乗っている。
関東から周辺を走行する一台の車があった。見えないだけで他にも追尾されている可能性だってある。
更にバスの向かう先、目的地に仲間や黒幕が待ち構えているのか分からない。
完全に戦意を失った少女たちの中、たった一人だけは犯人の考察を始める。 小池「四人の成人男性、おそらくニ三十代。黒と白もそんな背は大きくない。そして、後ろを走る神奈川ナンバー……」
米谷「美波、さっきから何ぶつぶつ言うてるん?」
小池「……分かってもうた」
今泉「みいちゃん何が分かったの?」
小池「一つのアイドルグループに事件は一つ」
尾関「え、まさか、ここに来て!?」
小池「アイドル探偵、真壁川ナツやで!ずえっへーい!」
今泉「ナッちゃんキター!!」
志田「マカ……誰!?」
志田の見知らぬ人物の名を佐藤が教える。 佐藤「それって3rd二人セゾンみいちゃんの個人PVのやつだよね〜!超面白かったからもう一度見たいってずっと思ってたんだよ!」
尾関「私がもじもじ探偵だったから、探偵被りしてた!」
志田「は?探偵?」
渡邉「探偵が出て来たってことは……」
守屋「まさか犯人が分かったのっての!?」
米谷「ホンマなん美波?」
今泉「誰が犯人なの!?」
小池「……」
小池は片方の口端を吊り上げて立ち上がる。
推理は神聖なものであり、いかなる妨害も受けない探偵の独壇場となる。 小池「もう終いにしようや。なあ、ずーみん?」
今泉「……え?」
志田「はぁあああああぁあああ!?ずみこぉおおおおおおおぉ?!」
石森「ええ!!ずーみんが犯人だったのー!?」
米谷「美波、それって……」
佐藤「ちょっと!仲間を疑ってるの?」
小池「全員が被害者ならな」
佐藤「どういう意味よ!犯人は運転手、黒づくめと白づくめ、後続車の人でしょ!それなのにずーみんが犯人だなんて意味が分からない!」
渡邉「何らかの目的で犯人に加担している人がいる。それが、佑唯?」
小池「まあ近いっちゃ近いな」 今泉「なんで私が犯人なのか教えてもらえる?」
小池「犯人はこのバスに乗っとる運転手、黒、白。あと後続車の男性の計四人おるっちゅうのは分かった」
尾関「で、そいつらとずみこと何の関係があるっていうの?」
守屋「その四人の男は一体何者なんだよ!」
石森「セミプロ時代からのファンとか?」
小池「結論から言うで。その四人はずーみんの四人のお兄ちゃんや!」
佐藤「な、何ですってー!?」
志田「家族ぐるみかよ!!」
渡邉「どうやってそう結論付けたの?」
探偵は四人の男が今泉の兄に至った経緯を一から説明する。 小池「ずーみんは歌手になるんが夢やったな?」
今泉「そうだよ!いつかは一人の歌手としてデビューする!」
小池「例えばやけど、このバスを谷底にでも沈めて、ずーみんだけが生き残りでもすれば世間からどんな目で見てくれるんやろな」
佐藤「た……谷底?」
石森「そんなことになったら悲劇のヒロインになれるじゃん……!」
尾関「たった一人生き残ったアイドルとして衝撃デビュー!」
今泉「待って!ひらながちゃんもいるんだから、そんなことになるわけないよ!」
小池「同じや。ただ一人生き残るということにこそに意味がある」
今泉「はあ?何で!」
小池「それが欅を辞めれる口実にもなるから、その後どこでも好きな事務所でデビューを果たせる」 守屋「そうか!実力が足りなくても話題性だけで必ず歌手デビューできる!」
小池「それに、このまま永遠に年下のてちの後ろにおるんはプライドが許さへんねやろ?」
志田「嫉妬かよ!」
渡邉「……そうなの?」
今泉「…………私は、歌手になるためだけに生まれてきた」
尾関「自供?」
今泉「みんなも知ってると思うけど、うちは芸能一家だった」
守屋「確か、お兄さんたちも芸能界を目指してたんだよね?」
今泉「でも、誰も芸能人になれなかった。そんな中、末っ子だけど長女の私がなれた。それは私が女だったから……」
米谷「今の時代アイドルは何百とあるグループを選ばなければなろうと思えばなれる。セミプロがそうやったんやな」 今泉「そう。そこでは胸を張って言えないことまでした」
佐藤「ちょっと大人向けなビデオ、だよね」
渡邉「それが前に言ってた乃木坂さんをも超える闇?」
今泉「あれはほんの一端。業界の闇はもっと深い」
長沢「赤ちゃんみたい顔して、深い闇を持っていたなんて……」
今泉「歌の練習いっぱいして、欅の前の違うとこのオーディション受けたけど全然ダメだった。私には実力がなかった……」
米谷「あのずーみんが自信なさげやなんて……地震起きひんかな」
今泉「あの若手歌手の大原さんや藤原さん路線に行きたかった。でも無理なんだって気づいた」
志田「ずみこも欅じゃ一番歌うまいけど、あの人たちはヤバイからな」 小池「そんな現実を一発逆転したくて生き残る策を思いついたんやないの?」
長沢「年齢的にも高校卒業したこのタイミングで?」
佐藤「もしかして四月頭にやった一周年記念ライブの後から休業していたのも、そのことを考えていたからなの?」
志田「デビューのために歌の練習でもしてたのか?」
今泉「違う!私にはそんなことをする意味がない!だって、ここで……欅でやりたことが出来たんだから!」
米谷「それは何や?」
今泉「ゆいちゃんず」
渡邉「……フォークデュオ」
今泉は小林とコンビを組んでいるユニット名を言う。
デビューシングルからカップリング曲に入っており、絶大な人気を誇る最強ユニットである。 今泉「夢を諦める。でもその代わりに欅を育てることにした!」
石森「一緒に育てていこうよ!この木を!」
今泉「それに、私がいなかったら欅の人気は下り坂でしょ?」
米谷「おっと?久しぶり自信が帰ってきたな!」
尾関「おかえりなさいぃいいいいぃいい!!」
佐藤「ずーみんの帰りを日本中が待っていた!と言っても過言じゃなーい!」
守屋「ずみこはそうでなくっちゃねっ!」
志田「遅ーんだよー!」
渡邉「今泉犯人説――はなさそうだな」
小池「ずーみん、疑って堪忍な……」
今泉「許す!」
今泉は疑われたことを微塵も気にせず、思いの丈を言えて清々しい顔をしている。
齋藤大好きトリオの佐藤、石森、尾関は涙して今泉の帰りを迎え入れる。
真壁川ナツは自らの推理と探偵の人格を捨て、元のアイドルの小池美波に戻る。 19:00
日が暮れかけた頃、長野県のあるインターチェンジで高速から降りる。
第四の不思議を解いた後、新たな不思議は出題されていない。まだ割と平和主義チームが不思議を解いていないということなのだろうか。
昼に出題されてから六時間以上が経過している。ここまで来ると生存しているのか不安になる。完全防音なため確認する術はない。
しばらく山の中に入り、人里離れたところにある大きな館の前に停まった。
尾関「とっ、停まった!」
石森「着いたの!?」
小池「ここどこなん?長野……軽井沢?」
米谷「友香んちの別荘があるとこやんな……」
渡邉「……誰か降りてない?」
長沢「ああ、見えないけどかすかな揺れで分かる」
今泉「あっちの子たち皆降りた!?」
完全防音であってもバスが走行していること、乗客の乗り降りだけは感じ取れる。 黒「降りろ」
守屋「っ――!」
前方の扉が開き、黒づくめが姿を現す。
少女たちは犯人の命令を拒み、椅子にしがみつく。
佐藤「嫌だ!行きたくない!!」
志田「ヤーーーーーーーーー!!!」
今泉「ぅわあああああああぁああああ……!!」
黒「黙れ。ここでは一言も喋るな」
小池「ひっ!」
米谷「お、降りよう!」
長沢「……っ」
少女たちの小さな抵抗は黒づくめの持つナイフの前では涙を流し無力となる。
想定した最悪の事態は人里離れた地で監禁させられることだ。待ち受けているのは拷問か、それ以上のものなのか。
仲間たちとの会話を禁止されて不安が最高潮になる。少女たちは震えながら降車し、夜の館に吸い込まれていく。 第六話
SideG
尾関 石森
米谷 佐藤
小池 今泉
志田 渡邉
長沢 守屋
7/25 9:00
昨夜、軽井沢にある犯人の隠れ家と思しき別荘に連れ込まれ夜を明かす。
二つのチームはバス車内同様に別々の部屋で隔離されたまま、顔を合わせることはなかった。
想定していた最悪の事態である監禁、拷問等されることはく、食事、風呂、寝床を提供された。
日が昇り朝食を提供された後、再び密室のバスに乗らされた。
バスは出発し、埼玉方面へと向かう。
石森「ぷはーっ!やっと喋れるぅ!」
尾関「ここで殺されるかと思ったわ!」
米谷「それどころかご飯、お風呂、布団まで……」
小池「またバスに乗って……犯人たちは一体どういうつもりなんやろな……」
佐藤「てっきり地下室にでも監禁されて拷問されてそれから一生幽閉されておもちゃにされるものかと不安で震えが止まらなかった〜!」
今泉「お兄ちゃん……助けて……」
渡邉「生きてて良かった」
志田「もう帰りたい……」 守屋「後半戦行くぞー!」
長沢「あと三問だよ」
お通夜のような空気を吹き飛ばすため、副キャプテンは気合を入れる。
七不思議は既に折り返し地点にあり、少女たちを鼓舞させる。
小池「とっとと解いて帰ろ!」
佐藤「こっちであと一つ解いた後、最後の第七の不思議はどっちが解くことになるんだろう?」
米谷「先に次に出される不思議を先に解いた方とか?」
話している内にモニターに新しい不思議が映し出される。
ある理由により尾関と石森の二人で読み上げる。
尾関「今度は何だ?……"D渡邉理佐と」
石森「渡辺梨加の関係"……!?」
今泉「梨加ちゃんと、理佐の関係って…………え?」 守屋「また変なのが出て来たよ!」
佐藤「二人の関係って何よ!?」
小池「今回は二人やんな……」
米谷「でも、その内の一人はこっちにおる」
志田「り、理佐……?」
渡邉「……」
渡邉はしかめ面に手を当てる。
困ったときに見せる眉間を触る仕草をし、口を開く。
渡邉「私と梨加ちゃんの関係って言われてもねぇ……」
長沢「いつもみたいに普通の関係じゃないんじゃない?」
米谷「関係なんて限られてる気がするけど……」 一同は昨日の不思議を思い出す。
石森は誰もが思いつきそうな二人の関係を口にする。
石森「そうか!二人は姉妹なんだ!」
守屋「とりあえずその根拠を考えようか。回答権は3回しかないからね」
米谷「こんな問題出してくるってことは赤の他人って線は薄いんとちゃう?」
小池「となるとやっぱり、実は姉妹なんが濃厚やな」
今泉「でも、苗字が"渡辺"と"渡邉"だから違うじゃん」
佐藤「それはバレないように字を変えたんじゃない?」
守屋「いいや、欅は全員一言一句本名のはず」
長沢「芸能名のメンバーは一人もいない」
米谷「渡辺姓は日本でも三番目に多い。渡邉は渡辺から派生したもの。問題は二人のそれぞれの兄妹がいること」 志田「理佐には兄がいる!2つ上の」
長沢「あと、梨加ちゃんには妹がいる。2つ下の」
守屋「まとめると現時点ではこんな感じか」
梨 加(22)
理佐兄(2X)
梨加妹(1X)
理 佐(19)
守屋「明後日7/27に誕生日を迎える理佐を19とする」
渡邉「……無事に迎えられるといいけど」
長沢「理佐のお兄ちゃんと梨加ちゃんの年が近すぎる」
志田「ぺーの妹と理佐の年も近い」
米谷「全員が同じ母親から生まれたとは考えれへんな」
佐藤「いっしょのお母さんであるならこの短期間に二人以上を産むことは無理だよね」 米谷「ぺーの妹と理佐が同い年なら、実は双子だって線が出てくる」
小池「ややこしいなぁ。ヒントなしでどこまで膨らませて行けばええねん」
佐藤「積み上げているビスケットを後になって一番下の一枚をひっくり返されて全てを台無しにされるようなものだよね……」
尾関「それなー!間違った方向に進んでも気づかないし、回答してから間違いだったと知る」
守屋「でも、今は積み上げていくしかない」
今泉「梨花ちゃんと理佐が同一の母から生まれて、二人の兄妹は違う母から生まれたしかなくない?」
渡邉「私が思うに答えは三通りのどれかだと思う」
志田「その三つって何?」
渡邉「まず"姉妹"。あと"いとこ"、それか"赤の他人"?」
今泉「うぇえええ!赤の他人ありぃいい?」 守屋「その発想はなかったわ……」
尾関「私もそう思う〜。というかそれの関係なんて以外になくない?」
今泉「じゃあ、一気にその3つ言えばどれかは当たりじゃん!」
石森「やった!早くも五番目の不思議クリアだね!」
三択なら三回の回答権で全て補うことができるから、一同は既に不思議を解いた気でいる。
関西娘と渡邉はまだ眉にしわを寄せている。
米谷「待ちや。今、濃厚なんが姉妹説といとこ説……」
小池「赤の他人説はなくはなさそうやけど、要はその他ってことやんな」
渡邉「安直にその三つを答えたら危険。万一違っていたら……っ」
三人の発言により愚直な少女たちは回答権がなくなった時のことを考え震える。
回答権をなくすということはゲームオーバーであり、容易に死を連想する。 守屋「っ危ない危ない!間違ってたら回答権なくなってた……!」
今泉「もしなくなったら……私たち、殺されるの?」
志田「やだやだやだやだやだやだ!!」
尾関「毒ガスで、全滅させられる!?」
守屋「大丈夫。私が守る」
守屋は席を立ち、今泉の頭を撫でる。
パニックになりかけたチームを副キャプテンの行動で事なきを得た。
渡邉「危険だね。いとこって線は一番薄いと思う」
米谷「確かにな。今までのいずれもが斜め上のものやった」
小池「かといって姉妹はありきたりとちゃう?」
守屋「確かにそうかも……」 石森「残りは赤の他人説しか残ってないじゃん!」
今泉「う〜ん……なんかどれでもないような気がしてきたぞ?」
尾関「私は姉妹説か裏をかいての赤の他人説が怪しいと思う」
長沢「赤の他人だったら、不思議じゃなくない?あ、でも逆に不思議になのか?」
佐藤「姉妹説と赤の他人説の二つを回答したとして、もし違っていたら回答権が残り一つしかなくなっちゃうよ!」
守屋「そんな単純じゃあないはず。みすみすこのまま回答権を失うわけにはいかない……!」
志田「もし本当なら姉妹でも十分普通じゃないだろ!」
渡邉「……確かに」
姉妹であるなら2万5千人の応募の中から選ばれた二十二人の内、一組の姉妹が入っていたことになる。
過去の不思議を振り返ると、初手で正答した例はない。いつだって凡回答は正解ではなかった。
姉妹説と他人説が行き来する中、長い沈黙を破ったのは不思議の張本人だった。 渡邉「私たちは普通の関係ではないってことは確か」
守屋「それなら他人は論外か〜」
小池「ただの関係ではないってことか……」
米谷「ただならぬ関係……っ!」
米谷は小池の言った言葉を復唱して閃く。
少し考え、後ろの席の小池に耳打ちをする。数秒の耳打ちの後、小池は黙って頷く。
米谷「なあ、みいちゃん。一つ聞いてもええ?」
小池「なんや、よね?改まってからに」
米谷「土生ちゃんと付き合ってんねやろ?」
小池「どえへええええええええぇええええ!!」
今泉「んんん何言い出すのぉおおほほのほー!?」
尾関「よねこの状況で頭おかしくなったのか?!」 佐藤「そんなこと欅も普通に恋愛禁止だし、てかメンバー同士で、というか女の子同士なんだからそんなわけ――」
小池「実は、おとといライブが終わった後から付きお合うとる」
ガチチームはお祭り騒ぎとなる。主役は関西のスマイリー小池である。
平和チームに響いていると期待を寄せる騒音でも完全防音の壁に阻まれる。
拉致監禁されても恋バナに年頃の少女たちは瞳が輝し興奮する。
石森「ちょちょチョ!コれマじなン?」
志田「ガチで!?」
長沢「どっちから告白したの?」
小池「終わってからもうめっちゃテンションあがってもうて、"じゃあ付き合おっか"ってなってOKした!」
守屋「な、何だってー!?」
佐藤「よりにもよって欅でカップル誕生しちゃったよ!!」
志田「土生イケメン……!」 米谷「ところで理佐。まさかとは思うけど、織田と付き合ってる?」
小池「うちもカミングアウトしたんや。ホンマのこと言うてな!」
志田「ん!?」
渡邉「……」
志田は猫のような眼をいつもより丸くして口を噤み渡邉を見る。
少しの沈黙の後、渡邉は口を開く。
渡邉「まさか。付き合ってないよ、大好きだけどね」
米谷「くぅ〜やっぱちゃうかったかー!」
佐藤「そんなことより、みいみづカップルのこと!もっと詳しく教えてよ!」
小池「ああ、あれ嘘やってん」
小池はあっけらかんといつもの可愛らしい声色で答える。
米谷以外のメンバーは呆気にとられる。 今泉「……は?じゃあ誰と付き合ってるの?」
小池「いや、誰とも付き合おうてへんよ」
志田「はぁあああああああああぁ!?」
尾関「何だよ〜嘘かよー!!」
石森「何でみいちゃんそんな嘘ついたの?」
渡邉「米。大方私とオダナナが付き合ってたら言いやすくするために、でしょ?」
米谷「バレたか!」
渡邉「もしも私と織田が付き合ってたら、どうなってた?」
米谷「ぺーちゃんも菜々香のことはlikeやけど織田のことはLoveやからな」
長沢「うん!大好き!」 米谷「理佐とぺーちゃんが織田と付き合っていたとしたら、三角カップルの関係にあったと言えたんやけど」
渡邉「なるほどね」
守屋「ファンが喜びそうなネタだけど、すごいこと思いつくね!」
米谷「こっちに張本人がいなかったら押し通して言うつもりやったけどな」
小池「理佐はオダナナがゆいぽんの事好きで、写真を迫っているところをよく阻止してるよね?」
渡邉「今だから言うけど、由依に嫉妬してたんだ」
志田「えっ……嫉妬だったの!?」
渡邉「ほんとに織田の眼中に由依しか映ってないから、あんまり嫌がってない由依が本気で嫌がってるってことにして引き離してた」
佐藤「愛佳が織田を噛んでいるのを羨ましがって、一緒に噛んでいたもんね〜」
守屋「ジェラシー感じてたのね」 渡邉「織田はいつだって私たちの毒素を吸い出してくれて、いい酸素をくれる」
尾関「お母さんみたいで、大樹みたいな感じだよね」
米谷「欅の木のような不思議な力を持っていたんやな」
長沢「もしかしたらその不思議な力でゆいぽんを生んだのかな」
佐藤「ああ!いつかの織田のブログでゆいぽんは自分が生み出した幻の存在とかわけわかんないことを書いて皆をドン引きさせてたけど、本当だったの!?」
志田「溺愛する親とたまに反抗期の娘って感じする」
守屋「はは、あそこもある意味ただならぬ関係だよね」
米谷「さて、改めて聞くよ。当の本人はどう考える?」
渡邉「……分からない」
米谷「やっぱりそうか。分かっていたらすぐ答えられるもんな」
回答を知っている者に対して不思議は出題されない。
当たり前のことに気づき、考察を再開する。 小池「今のところ一番濃厚なんが姉妹関係やな」
米谷「登場人物は理佐とぺーちゃん、渡邉父と渡邉母、渡辺父と渡辺母、あと、渡邉兄と渡辺妹の八人」
小池「渡邉家には長男の兄がおる。年の差でぺーちゃんが渡邉母から生まれることはない」
米谷「渡辺家でぺーちゃんが生まれて妹の次女がおるから、理佐が入り込む余地はない」
佐藤「ぺーちゃんの妹ちゃんが渡辺家で生まれていなければ、理佐が渡辺家で生まれることはできる!」
米谷「どっちかで入れ替えが行われていない限り、姉妹やと立証できない」
長沢「そんな入れ替えする意味は何?」
米谷「理佐やぺーちゃんは遠い親戚、または親同士で繋がりがある可能性がある」
小池「家も同じ茨城やしな。ありえるかも」 米谷「例えばやけど、渡辺家か渡邉家のどちらかが子を授かることができなかった時やりとりをしたとか」
石森「そんな、物みたいに……」
米谷「姉妹説は他にも二十通りくらいある。全部言おか?」
守屋「あーもー!複雑すぎる!使ってもいいよね?」
渡邉「……うん」
張本人の許可を得て、回答の権利を得る。
軍曹がマイクを握り締め、回答する。
守屋「理佐とぺーちゃんの関係は姉妹だ!!」
意気込んだものの何も起こらず、守屋は目をつぶり悔しがる。外したら何のリアクションが起きないため虚しさが増す。
副キャプテンは最初の回答権を失ってしまったことに責任を感じる。 守屋「くっ、ダメか……」
小池「こればっかりしゃーない。姉妹説で一つなくなることは決まっとったことや」
今泉「これで姉妹説じゃないって分かっただけでも良かったよ!」
佐藤「残すは可能性の低い従姉妹説と他人説……。どっちかか、それとも別の何かか分からない」
渡邉「なんか気持ち悪くなってきた」
志田「理佐……今は休みな」
理佐「ごめん、みんな……」
自分の出生について、考えいると気持ちが良いものではない。
渡邉は従わされてるとは言え、自分のことで迷惑をかけてしまっている状況に苛立ちを覚えていた。
志田の言葉に甘えて、目を閉じ一時戦線離脱する。休んでいる間に各々はいとこ説と赤の他人説を逡巡する。
バスは出発した東京に一日かけて戻って来ていた。北を経由し軽井沢へ行ったのか目的が不明であり、今に始まったことではなく誰も深く考えなかった。 14:00
第五の不思議に挑んでから五時間が経過し、一旦昼食休憩となり後方に備蓄食料をとる。
バスは織田の出身地である静岡を走行している時、全く新らしい意見が飛び出す。
米谷「思い出してみて。初期の番組アンケートを」
尾関「あれのシンクロ率めっちゃ高くなかった?どっちかが写した?」
今泉「宿題じゃないんから!」
渡邉「あのアンケ―トは二人は別々の場所で書いていたよ」
佐藤「でもさ、前世はなんですか?って質問に、ナマケモノって答えまで一致することなんてある〜?」
志田「合わせてないのに、ヤバくない!?」
渡邉「私もびっくりしたけどね。それ以前にあの頃は梨加ちゃんと仲良くなかったし、合わせる理由もない」
小池「……姉妹でないのに、あの以心伝心ぶりは一体……」
米谷「二人の不思議はあの以心伝心にある」
遺伝子のストラップを持つ才女は核心に触れる。
以心伝心できる関係となれば選択肢は限られてくる。 石森「まさか二人は双子!?」
今泉「以心伝心と言ったら双子だもんね!」
尾関「でも、双子はさすがに無理あるんじゃない?理佐が19で、ぺーちゃんが22だよ?」
佐藤「確かに三歳差ではあるけど、あの以心伝心ぷりは尋常じゃないから姉妹でない以上双子である可能性も否定しきれないよ!」
守屋「そうだね。一度双子説を考えてみよう」
小池「シングルでは2nd、3rd、4thでは完璧なシンメやってん」
今泉「2ndのセカアイでは、てちの両翼を務めてた!」
佐藤「3rdのセゾンでは、ねるを挟んで"誰かと話すのが面倒で〜"のとこで蝶々の遊びの振り付けもシンクロしてていいよね〜」
長沢「あとカップリング曲のファイブカーズのWセンターもよかった」
米谷「4thは特筆することはないけど自然と鏡になっとったな」 石森「エキセントリックの踏切のシーンやばくなかった?向かい合わせて立ってるの!」
志田「それな!理佐クールでマジ可愛い!」
佐藤「ビンゴの時もよく二人でコンビ組んでたよね。お化け屋敷とかも一緒だった迷子の子猫ちゃん歌ってたよね」
米谷「あ!あの時始まる前に全く同じとこ虫に刺されてなかった?」
渡邉「覚えてる!すっごい不思議がってたから」
尾関「そんなとこまでシンクロしてんの!?」
志田「理佐確かO型だよね?」
渡邉「うん。覚えててくれたんだ?」
長沢「梨加ちゃんもO型だよ!」
今泉「オー!」 守屋「二人ともモデルだーね!」
小池「ここまで来ると従姉妹でも、ましてや他人でもないことは確かや!答えなくて良かった」
米谷「それ以上の……双子以上の関係ってことは考えられない?やっぱり双子は考えられへん」
長沢「どうして?かなり濃厚じゃん」
米谷「ぺーちゃんが22歳じゃなくて、理佐と同じ19歳なら双子説は成立する。でもそれはさすがに無理がある」
小池「確かに逆に理佐が本当は22歳で、19歳にサバ読みしてるのはなさそうやもんな……」
尾関「じゃあ双子以上って、一こしかないじゃん!」
今泉「親子!!」
志田「はあ!?んなわけねぇじゃん!!」
今泉「普通ならね。でも普通じゃないんだよっ!」
今泉の一言に一同は気づかされる。過去の七不思議もまた異常な回答だったことを思い出す。
少女たちは目の色を変えて、今までの考え方を変える。 守屋「もうここまで来たなら親子と仮定する!」
志田「オイオイ!親子って……何歳差だと思ってんだよ?」
石森「えっと……たった3歳差だよ?」
尾関「二人が親子だっていう根拠はあるの?」
守屋「勘!」
長沢「さすが、あかねん」
佐藤「一卵性双生児じゃないとしても双子よりかは可能性があるかもしれない!」
米谷「だとすると、超えないといけない条件がいくつかあるな」
今泉「何個あるか挙げてこう」
小池「一つ、3歳差」
小池は"事件は1つ"みたいに顔の前で右手の人差し指を立て、左手で三本指を立てる。 米谷「二つ。二人が親子であること覚えていない理由……ちゃうな子の理佐は覚えてへんくても親のぺーは覚えとるはず」
長沢「三つ。就活50連敗」
渡邉「……就職活動の話は何の関係が?」
長沢「いやーなんか関係があるかなーって」
佐藤「つまり、その三つをクリアすれば親子関係だと結論づけることできるってわけね〜」
守屋「その壁を越えてやるよ!」
米谷「じゃあまず一つ目。3歳差ってことは、3歳の時点で出産しなければならない。これはありえない」
尾関「当たり前だろー!親子説この時点で終わってんじゃん!」
志田「はい論外」 長沢「ごくまれに10歳前後で出産という話は聞いたことがあるよ」
米谷「世界の最年少で5歳7か月に出産したという事例がある」
今泉「ご、5歳!?」
渡邉「どこの国の人?」
米谷「確かペルー人やってん」
尾関「ペルー人ぺーちゃん」
佐藤「そういえば、富士急回でオダナナがダサいペルー人の主婦みたいな恰好してたよね〜」
石森「ペルーどこー?」
米谷「ブラジルの隣。地球の裏っ側や」
志田「それでも、理佐とぺーの年の差は3年と2か月差だぞ?」 米谷「理佐を妊娠したのが2歳4か月になる。これは……」
渡邉「ありえない……」
今泉「でも、梨加ちゃんなら!」
守屋「あ〜ぺーちゃんならありえ……ないわ!」
小池「仮に3歳2か月で出産したなら二つ目の壁である出産の記憶がないのは納得。でも……」
米谷「それ以前の問題やな。一つ目の壁、3歳差の時点で絶対にありえない」
早くも一つ目の壁にぶつかる。蟻たちは乗り越える術はないか探る。
渡邉「じゃあ、3歳差じゃなかったとしたら?」
志田「え……どういうこと?」 渡邉「渡辺梨加年齢詐称説」
尾関「サバ読みぃ?ぺーちゃんがぁあ?」
石森「あ〜聞いた事あるわー!」
今泉「見たことある!自分ヒストリーの写真のあれだよね!」
渡邉「去年番組で梨加ちゃんの自分ヒストリーで紹介された七五三の写真。その写真に日付が"92年"だった」
小池「平成4年?ぺーちゃんが生まれたのは平成7年のはず」
渡邉「そう。しかも少なく見積もっても92年の時点で3歳である必要がある」
長沢「てことは、92引く3で89……平成元年には生まれていないとおかしい?」
佐藤「これは一体どういうことなの?」
守屋「写真の女の子がぺーちゃんじゃないとか?」 長沢「あれは確かに梨加ちゃんの面影があった」
石森「お姉ちゃんとか?」
長沢「妹だけしかいないよ」
小池「じゃああれはやっぱりあれはぺーちゃん本人や!」
長沢「平成元年5月生まれだとしたら、今梨加ちゃんは28歳になる」
守屋「理佐が平成10年7月生まれだから、10歳差なら許容範囲内だよ!」
渡邉「第一の壁の3歳差はクリアだね」
志田「マジかよ……」
一つ目の壁を乗り越えたことが信じられない。
勢いに乗り、次の壁を乗り越えようとする。 米谷「第二の謎、母親であるぺーが理佐が娘だと覚えていない理由か」
志田「10歳で出産したのであれば、覚えてるはずっしょ?」
尾関「覚えてないのではなく、何らかの理由で言えないのではなかろうか?」
長沢「その年で出産する理由なんてただ事じゃないからね」
守屋「ずっと隠し通すために黙ってるなんて、そんな芸当あの子に……」
今泉「それは梨加ちゃんの得意技だよ!」
佐藤「ぺーちゃんが覚えてないのって何もこのことだけじゃなくて他にもいっぱいあったじゃない!」
渡邉「最初の合宿で駅にみんなも持ってるあんなに大きなキャリーバックを自分だけ置いてけぼりにするし」
長沢「パックのココアを開けたままバッグに入れっぱにしてココアまみれになった」
守屋「何より宝物であるアオコをよくメンバーの部屋に忘れる!」 石森「でもダンスはみんなについてってるよね?」
小池「ダンスは脳ではなく体に覚えこませてるから、努力でカバーしてんねやな」
米谷「十歳で出産てことから、ぺーちゃんは超早熟なんやと思う」
尾関「あ〜ぺーちゃんってなんか熟してるよね」
長沢「梨加ちゃんの不思議は、超早熟体質にある?」
米谷「二十歳を超えた今、既に脳は老化しており出産の記憶をなくしている」
守屋「なるほど!忘れっぽいのはそういうことか!」
志田「そんなことあんの?」
米谷「"普通じゃない"やろ?あの物忘れの激しさは」
守屋「確かに。今から19年前に出産したことなんて覚えてるわけないか」
全員が納得せざるを得ないほどの材料は結成当初から身をもって味わっている。
同じ屋根の下で暮らし、苦楽を共にしてきた仲間だからこそ至る。 尾関「お父さんは誰なのかな?」
石森「それはぺーちゃんか理佐の父親のどっちかじゃない?」
今泉「もしかして先生の隠し子とか!?」
佐藤「理佐は今の父親のことを"ねぇ"と呼んでいることに何か関係しているのかな〜?」
渡邉「さあね」
尾関「理佐が父親にはなつかなかったのは、本能で血がつながっていないと分かっていたからかも?」
渡邉「てかどうでもいい。父親が誰だろうが」
小池「せやな。父親が誰か分からんくても問題ないやろ」
守屋「出題された不思議とは関係ないからね。置いとこう」
出生の事に関してただでさえデリケートなので、父親の話題は早急に打ち切られた。
第三の壁を登る体を止めるわけにはいかなかった。 長沢「3つ目、最後の壁……就活50連敗の理由」
小池「就活を一年で50社落ちたのもおかしい。ぺーちゃんは短大に通っていた」
米谷「厳密には2015年の時点で、短大2年生の卒業の学年で」
佐藤「オーディションは夏にあった。就活を始めてからわずか数か月で50社も受けれる?」
尾関「のろまなぺーちゃんがそんなに次々に受けるわけがない」
志田「ないな!」
米谷「というか、TVとは違ってカメラ回ってないときのぺーちゃんは普通に話せる」
佐藤「今の就活なんて学歴とか関係なく顔採用も少なくないと思うけど……」
石森「そうだよ!私たちは2万2502人の中から選ばれるほどの顔面偏差値!」
石森は自分で言っておいて照れるも、尾関は逆に猫背を正し胸を張る。
今泉はこめかみ付近に人差し指を当て考える。 今泉「私の考えでは、鳥居坂のオーディションを受けたかった妹の付き添いで受けることにした。当時26歳だった梨加は年齢制限最大の二十歳で書類を提出した」
守屋「妹は落ちてしまったけど、ぺーはとんとん拍子で受かったって言ってたよね」
今泉「バレてしまったら応募資格を読んでなかった、だと弱いから"0"に寄せた"6"と書いたと言い訳すればいい!」
長沢「"0"と"6"似てるもんね」
尾関「そんな策を立ててたのか!」
米谷「十歳の時に出産しているのであれば学校を何年も休んでいたかもしれへん」
長沢「もちろんその間の記憶もない」
守屋「親子説、行くっきゃないでしょ」
渡邉「私に、やらせて」
渡邉は腰を上げてマイクを持ち、持回答権の2つ目を行使する。
顔に緊張の色を見せるも、自分の運命と向き合う覚悟を決めていた。 渡邉「私、渡邉理佐は、渡辺梨加の娘である」
正面を向いて第五の不思議を回答した。
数秒後、天井を塞いでいた壁が開き、正解と確信する。
尾関「ああああああああああ開いたああああああああああああ!!」
今泉「本当に親子だった!?」
渡邉「分からない。でも……」
渡邉はふと平和チームと分離された壁を見つめる。線の先には本来渡辺がいた席がある。
壁を隔てた渡辺も偶然か渡邉の方を見ていた。互いにそれを知る由はなく、渡邉は息をつく。
佐藤「でもどうして犯人たちは親子であることを知っていたのかな?役所で戸籍を調べない限り、知ることなんてできないと思うんだけど……」
守屋「でたらめって可能性もあるしね」
七不思議の真偽は密室の中では確かめる術はなく、再び暗雲が立ちこめる。
バスは関西に走り、さらに西へ下る。 第七話
sideW
土生 菅井
小林 上村
鈴本 平手
原田
齋藤 渡辺
9:00
昨晩は泊りがけのロケで楽しい夜になるはずだった。枕投げをして、恋愛トークをして、夜更かしをする予定を立てたわけではなく自然とそうなっていただろう。
現実は真逆であり、お通夜のような雰囲気で誰も話せず、表情を変えず、与えられた缶詰を食べ、与えられた布団で眠った。
朝を迎え、再びバスに乗らされ次なる七不思議を解かされる。
菅井「来たよ……。"E今泉佑唯の自信"」
上村「ずーみんの自信なんて根拠がないだけじゃ……ないってこと!?」
土生「ゆいちゃんずのゆいぽんは何か不思議を感じたことある?」
小林「結成して一年間……。ないな……」
鈴本「この問題の捉え方はこう。今泉は何らかの根拠に基づいて自信がある」
平手「あの自信にも根拠がある、てわけか」 渡辺「負けず嫌いなとこ、茜に似てるかも」
原田「また念力とか?」
齋藤「いいや、それはないと思う。きっと違う何か」
土生「自信、ねえ……。じしん、ジシン……地震?」
菅井「え、いつでも地震を起こせるとか?」
原田「今度は地面タイプ?」
小林「規模が大きすぎない?」
上村「いざとなったら地震を起こして難を逃れる?」
齋藤「どんな難だよ!」
渡辺「ナン?」 鈴本「そういえば運動会のときにさ、ゆっかーとのロープ引きの時も自信"あります!"って言ってたよね」
上村「あの勝負で地震を発生させて、ゆっかーに勝った?」
平手「対戦相手だった友香、あの時揺れてた?」
菅井「ん〜、常に引っ張り合ってたからゆらゆらはしてたけどってユウカあの勝負……」
小林「佑唯ちゃんは負けている」
原田「地震を起こしていたなら見守ってたうちらも揺れを感じてるはずじゃない?」
平手「地震はないか」
上村「じゃあ雷?」
渡辺「あかねんは電気タイプでもあるから?」
原田「ビリビリボールペンをやった時、一回目ずーみんは"自分が痺れてるのかと思った"って言ってた!」 土生「ずーみんに電気属性があるとして、自分が電気を発していたと勘違いした?」
上村「その後、電撃食らった時も笑ってた!」
菅井「鈴本もビリビリボールペン食らってたよね。笑うレベルの電力だった?」
鈴本「いや、そこまで強くはないとはいえ弱くもなかった。自然と痺れて驚いて声が出た」
小林「自分が電気を発したて勘違いをするレベルの電力」
平手「それが勘違いだと分かっていて大笑いするほどか。どうなんだろう……」
土生「でも、ビリビリチキンバイクではひっくり返ってなかった?」
原田「バイクから落ちて可愛く"痛いれす"って言ってたけど、確実に堪えていたよね」
齋藤「電気ではなさそうだね」 原田「次は火事、だから炎タイプ?」
小林「ないわ!パイロキネシスだなんて、完全にバトル漫画じゃん」
上村「激辛も大会委員長だったけど、てんでダメだったもんね」
菅井「でも、始まる前自信ありげだったよね?あの企画の言い出しっぺだったし」
齋藤「あの子ろくに辛いの食べたことないのに大好きとか言ってたんだ、確か」
平手「ん〜……。分かんないから保留で」
土生「最後は、おやじ……?」
鈴本「いやいや!お父さん召喚してどうする?」
土生「ほら!ずみこのパパは雪だるまだから、氷タイプ!」
菅井「あ。かき氷早食い対決の時あの子自信満々だったよね!最初だけ」
齋藤「つっちーのお馴染みの振りに"あります!"つってたけど結局心臓を傷めて終わったよね」 平手「心臓を?代償があかねんと似てない?」
渡辺「あかねんの念力も使ったら命を削る!」
原田「もしかしてだけど、かき氷早食い対決で何か不思議な力を使っていたけど、意味をなさなかった?」
鈴本「今泉はあの時、氷タイプの力を使っていたってこと!?」
齋藤「結局善戦もせずに終わってたし、氷タイプじゃなさそうじゃね?」
小林「そんなタイプとかじゃあない。もっと臨機応変に、いかなる状況でも使えるようなものだと思う」
平手「どんな時でも……」
原田「それは、茜同様にさりげなく分からないものなのかな?」
齋藤「となると、エスパータイプの方が近いか?」
土生「気づかない……。気づけない?」 上村「気づけないなら分かるわけなくない!?」
平手「……だとするなら、これはかなりやばいかも」
今泉の自信の不思議を解くのにヒントもなく、樹海を方位磁針も持たずに歩くようなものだ。
樹海から抜け出せる気がしない。抜け出せないのであれば永遠に樹海を彷徨い続けるしかない。 15:00
平手の予想通り長期的な戦いになっていた。数が増えるに毎に不思議の難易度も上がり第六の不思議に六時間が経過していた。
菅井の別荘から再び東京へ舞い戻り、平手と鈴本の故郷にまで来ていた。
その間に回答権の二つを失い、焦りで何も考えられず土生、上村、鈴本、渡辺は眠りに落ち、隣人が起きている者はいない。
菅井「愛知まで来ちゃった……」
平手「……お父さん、お母さん……」
原田「これは本当に解けないかもしれない……」
小林「今までノーヒントで来れたのも奇跡なんだよ」
齋藤「過去の七不思議も全て何らかの媒体でメディアに出ている情報から拾われている気がする」
菅井「じゃあうちらじゃなくても、仮にこの状況を誰かに見られてるとして画面越しにも解くことができる?」
齋藤「今までの傾向からしたらね」
小林「でも、さすがにもうほぼ出し尽くしたんじゃない?これ以上何がある?」 平手「いつものように、次の対策しとく?」
菅井「そうだね。このままだと関西にまで行っちゃいそうだから、米さんとかは?」
原田「あと、みいちゃんのも一緒に考えよ!」
齋藤「第七の……最後の不思議にその二人は出てこなさそうじゃない?」
小林「普通に考えて、ラストはセンターの平手と相場は決まってる」
原田「確かに十中八九、最後はてちの不思議が出そうだもんね」
平手「それはあるかも……。でも、他の人を考えることで何か見えて来るかも」
菅井「きっとてちの不思議は、ずーみんの不思議よりも難しいと思うの……。先に関西コンビにとりかかろ」
原田「そうしよっか。じゃあ米さんも結構食意地はってるよね」
平手「のわりに、人の食べたクッキーは食べれないってゆうね」 齋藤「あれはうけたね!まさかの潔癖症かよ!って」
平手「ボルボックスが大好きなんだよね。もう覚えちゃったよ」
原田「微生物が好きすぎてもう顕微鏡なしで肉眼で見えるとか?」
小林「だから回し飲みとかで人の菌?とかいろいろ見えちゃってるってわけ?」
齋藤「あーありそう!車でも吊り革つかめなさそう」
菅井「なるほど!そういうことだったのね!」
平手「あと、よねってすっごい優しいよね!」
齋藤「それな!一昨日の欅共和国もたぶん今泉の事を思って米も参加しなかったんだと思う」
小林「いつか欅共和国の話題になったときに、自分も参加しなかったと隣にいてあげれるように……」
米谷が見えているものは微生物だけではなく、人の愛までも見てえている。
起きている五人は改めて米谷の優しさに気づく。 原田「みいちゃんはペンギンに何か不思議がありそうだよね」
齋藤「私昔たべつこ動物のペンギンをむしゃむちゃわざとらしく食べたらガチで怒られたことある!」
原田「それはふーちゃんが悪いよ!」
平手「犬が好きな虹花の前で同じことやっても怒ると思う」
小林「そういえば、最近ねるがみいちゃんのことペンギンって呼んでるよね。聞いたことある?」
齋藤「あれはさりげディスってる。でも、みいちゃん喜んでるんだよな〜」
菅井「伊達に絶対つまらないペンギン育成ゲームやってるだけあるよね!」
原田「こないだ見たけど、5・6mくらいまで育ってたよ」
小林「ペンギン愛は動物園の飼育係以上あるんじゃない?」
齋藤「少なくともアイドルでは一番だね」 原田「あと、みいちゃんって昭和がすごい好きなんだよね」
平手「オーディションの歌唱審査で一人だけ昭和の歌を歌ったんだっけ?」
小林「ごめん、昭和のことは何も分かんない」
齋藤「うちら誰も昭和の時代を知らないからね」
菅井「みいちゃんのことなら土生ちゃんが一番知ってそうだけど、今は寝てるし後で聞いてみよ」
土生なしでは小池の不思議を考えるも核心に触れかけるも真相に至れなかった。
米谷の不思議を思いついたことで良しとし、再び今泉の不思議に戻るも結果は良くなかった。
原田「やっぱりずーみんのは思いつかない……!」
菅井「回答権は残り一つ……。一体どうすればいいの……」
齋藤「これは直接本人に聞かないと分からないか〜?」 本人なら自分の不思議な力を知っているだろうが完全隔離されてるため、聞くことができない。
時間制限はないとはいえ、第六の七不思議に朝から考えさせられている。未だに解けていないことに焦りを覚えている。
ガチチームが第五の不思議を解いれば、平和チームが足を引っ張って待たせしまっていることになる。
回答権残り一つの焦りの中、小林が小声で口にする。
小林「…………もう、それしか、ない」
平手「こばゆい?……どれのこと?」
小林「鈴本と佑唯ちゃんは似てると言われている」
平手「確かに似てるけど、それが今何の関係がある?」
原田「まさか、入れ替わる!?」
齋藤「ヤバいよ!」
菅井「犯人にバレた大変なことになるよ!」
齋藤「絶対ヤバいよ!」
小林「でも佑唯ちゃんの不思議はもう無理だと思う!」 長くゆいちゃんずで時を共にしてきた小林の発言に説得力があった。
本人に聞かなければ分からない不思議が出されていると確信する。
平手「じゃあどうやって入れ替わるか。この完全二分化されてる状況で」
小林「分かるのは二つ。このバスの後方に共通のお手洗いが使えることと、バスを乗り降りする時の揺れ」
齋藤「こちらからお手洗いのある後方に入ると自動的に向こうから入れないようにロックされる」
菅井「入れ替わりの事をトイレットペーパーに文字を書いて伝える?」
原田「犯人たちも同じ個室を使うんだからそれはあまりにも危険だよ!」
齋藤「犯人は男だから紙使わないんじゃない?」
小林「万一犯人に個室に入られても暗号にするのはどう?言い逃れできる」
平手「やっぱりそれくらいのリスクは負わないと無理か」
菅井「それで、問題の入れ替わる方法はどうする?」
小林「例えば、どっかのPAで降ろしてもらって外のお手洗いに行かせてもらえるとしたらどう?」 齋藤「でも、髪形と洋服を交換するのにどうすんの?」
小林「隣同士の個室に入って、下の隙間からささっと交換するしかない」
原田「外で入れ替わることは暗号で伝えられても、会話なし顔も見えない中で全てがうまく伝わるかな?」
平手「大丈夫。あいつは天才だ」
小林「たまにPAに停車する時があるよね。あれはおそらく運転手が休憩するときで、人目を気にして無人PAに言ってるんだと思う」
齋藤「バスを運転できるのが今運転してる犯人だけだとしたら休憩するのにPAに停まるしかない」
菅井「しかも20人を乗せたバス、普通車よりも神経使うんだろうな。余計、休憩が必要そう」
小林「無人PAのお手洗いは個室は二つのとこが多いと思うから、そこにどうにかして隣同士になってもらなきゃならない」
齋藤「運の要素もあるのかよ……」
小林「それさえできれば、入れ替わりは成功したも同然!」 菅井「待って!そこまで行けたとしても個室から出た瞬間にバレちゃうんじゃない?」
原田「そっか!個室Aに入ったずーみんが隣の個室Bにいる美愉ちゃんから服をもらったら美愉ちゃんに変装して個室Aから出てきたらおかしいもんね!」
小林「……。同時に個室から出ればどっちがどっちに入ったかなんてわかんないと思うからタイミングを見計らって出るしかない……」
齋藤「最後は鈴本をあっちに行かせ、今泉をこっちに来させれば終わりか……」
原田「変装がバレないか心配だな……」
小林「きっと大丈夫。変装は完璧だから」
一通り入れ替わりの算段を立て終わる。
次に入れ替わりの作戦を伝える暗号を考える。
平手「まずは向こうに伝える暗号はなんて書く?」
齋藤「シンプルかつ短く、十文字程度にしよう」
小林「今泉佑唯の不思議だから"YI"とはてな(?)を入れたい」 小林「あと、パーキングエリアのお手洗いに来て入れ替わりたいから……PAとWCは入れたい。GOまたはcome?」
平手「comeにして"米"にしよう」
菅井「あっちに米さんいるけど、混乱しないかな?」
原田「多分へーき。美愉ちゃんのイニシャルを入れて、入れから替わるから"YI"の前に"↔MS"を入れよう」
平手「まとめると"MS↔YI?PAWC米"。11文字か……いっこ超えるけどいっか」
菅井「よしそれで行こう!誰か何か書くもの持ってる?」
齋藤「え、私持ってない。てちは?」
平手「いや、私も持ってきてないし」
原田「ああ!いつも筆箱持ち歩いてるの米くらいだよ!!」
菅井「ええ!!じゃあなにで暗号を書けばいいの!!」
小林「私が血で文字を書く」
恐ろしい発言後、ガリっと小さくも嫌な音が響く。
小林は唇の端を噛みちぎり、一筋の血が流れる。 菅井「何やってんのぉおおおおおっ!?」
平手「こばゆい!?」
齋藤「痛い痛い痛い!」
小林「この血で、トイレットペーパーに……!」
上村「え、え、え!?血、血、血!?」
土生「ユイポン!?」
渡辺「わわわー!!!」
鈴本「……!!!」
眠っていた四人は騒ぎに起き、小林が口から血を流しているのを見て騒ぐ。
上村は流血している隣人のためにハンカチを取り出し、傷に当てようとする。
小林は血を拭うわれるわけにはいかず、上村の手を加減せず払う。
上村「痛っ!」
小林「ごめん……。私も痛い、から……許して」
上村「あっ……ごめんなさい!」
口の傷と仲間を手を払ったことによる心の痛みに堪える。
上村は訳も分からずとも何かを察し謝る。 小林「じゃ、行ってくるっ……」
上村「い、行ってらっしゃい……?」
小林は十一文字の暗号を書きに個室のある後方へ消える。
眠っていた四人は小林を見送り、入れ替わり作戦の概要を軽く説明する。
たまに様子見で黒づくめが行き来しており、気づかれた時点で作戦失敗となる。
菅井「次に個室に入るのはあの子たち十人の誰か。逆に黒づくめが入る確率は1/11」
齋藤「そこも祈るしかないか」
鈴本「暗号を解読できるかどうかもかかってるね」
平手「大丈夫。あっちにはあの米がいるんだから」
小林がペーパーに暗号を書いて戻って来る。
再度、入れ替わる張本人の鈴本へ詳細を伝える。 小林「向こうの子たちがメッセージを受信するのが一手目だとして、二手目は鈴本がPAでバスの外に降りる」
菅井「後ろの個室を誰かが占拠していればいけるかも!」
平手「三手目はどうにかしてずーみんも外に降りてくれるか……」
齋藤「今泉の演技力に掛かってくるな」
小林「四手目、個室で隣通しになる。個室が二つであること」
原田「無人のパーキングに停まるはずだから個室が一つってことはない。二つだけを祈ろう」
小林「五手目、洋服を交換こする」
鈴本「上からやり取りすればいかな?」
齋藤「洋服が上で行き来してたら確実にバレるから下から通して!」
鈴本「そっか!分かった!」 小林「六手目、同時に個室から出る」
原田「鍵を思い切り開ける音で1、2の3で同時に飛び出す!」
平手「犯人たちは情報共有させないために、慌てて引きはがすと思う」
菅井「そこまで来ればもう詰み。あと一手!」
小林「そして七手目で王手。顔を伏せて鈴本は向こう。ずーみんがこっちに連れてかれればおしまい」
齋藤「運要素がいくつかあるけど、どうなるか……」
鈴本「昨日今泉は仕事のためズラをしてきていた。個室に入ったら髪形も変えよう」
小林「次にPAに停まったら、作戦開始――」
手の数は七不思議と同じ数であり、一歩ずつ進むイメージトレーニングをする。
運転手が休憩のためにパーキングエリアに着くのを待つ。 17:00
運転手が小休止のため、滋賀にある琵琶湖の近くの人気の少ないパーキングエリアに入る。
過疎しており無人で、トイレとベンチくらいしかないところだった。
鈴本「すみませーん!お手洗い行きたいんですけどー!」
鈴本はどこから見られているか分からないが、回答する時と同じようマイクに言う。
しばらくして前方の扉が開き、黒が出て来る。
黒「後ろの個室を使え」
鈴本「今誰かが入ってて……気持ちが悪いんです……っ」
口元を抑え、顔色を青ざめさせ緊急さを伝える。
黒づくめは一時停止した後、前方へ戻る。
黒「出ろ」
その後前方の扉が開き、黒づくめに連れられて鈴本だけがバスを降りる。 菅井「先ずは、第一段階クリア〜」
平手「問題は今泉がこれに続けるかどうか……」
窓の外は見えるも、出入り口の方は死角になっており見えない。
感覚を研ぎ澄ませ、続いて誰かが降りていないか確認する。
停車したバスがかすかに揺れたのを感じる。
原田「あ!今誰かがバス降りたよ!」
平手「無事にずーみんも降りれたか?」
齋藤「伊達に1stでシンメだったり、2ndで一緒に橋を走ったりしてないね!」
菅井「あとは本当にずーみんがこっちに戻ってくるか祈るしかない!」
小林「お願い……!」
一同は外に出たであろう二人に祈りをささげる。 〜パーキングエリア・女子トイレ〜
鈴本が先に入り今泉が来るのを待つ。
鈴本(やっぱり個室は二つだけ。あとは今泉が隣に来れば……っ!)
個室の隣に何者かが入って来る。それが今泉なのかは分からない。犯人の可能性だってある。
突然、大音量で音楽が流れ始める。
鈴本(お、音楽!?犯人たちの仕業か!!てことは……隣にいるのは今泉だ!!)
犯人たちは小声での会話させないために騒音で防止する。
妨害してくるということは今泉もどうにかして外に出て来たことを意味している。
鈴本(万が一もある。まずは髪留めから落として下から渡そう)
鈴本はピンを落として、隣の個室へ滑り込ませる。
その後、隣からゴムが寄越される。 鈴本(これは今泉の!よし、こっちの意図が伝わってる!このまま……)
犯人は上で物のやり取りが行われていないか個室のドアから少し離れたところから見張っている。
鈴本(次に上着を渡そう)
鈴本は次々に自分の衣服を脱いで渡し、十分後には全ての交換が完了して着替え終わった。
鈴本(時間は十分に稼げた。変装は完璧!後は……今泉が鍵を開けたときに同時に出れば!)
二分後に鈴本の隣人は鍵を開ける。
鈴本は犯人の騒音による妨害の中、耳を澄ませて開錠音を察知する。
二人は同時に個室から出て、久しぶりに顔を合わせる。
鈴本「……!」
今泉「……っ」
黒づくめは、鈴本の恰好をした今泉を突き飛ばし再び個室に押し戻す。
戻される瞬間に今泉は鈴本へ胸の前で腕を交差させる。 鈴本(黒づくめに突き飛ばされて大丈夫かな……。あと、あのポーズは一体?)
白づくめは今泉の恰好をした鈴本を強引に外へ連れ去る。
無言でバスに連行される。
鈴本(――よし、入れ替わりに気づいてない!)
内心ガッツボーズしながら鈴本はガチチームを目指す。
バスに戻る道中で急に白づくめは立ち止まる。
白「お前、今泉じゃないな?」
鈴本「――ッ!?」
今泉の服と髪形をした少女は驚きの顔を隠すことができない。
額から伝う冷や汗を拭えない。見開いた目を瞬くこともできない。
動くことができない。呼吸ができない。鼓動の加速を止められない。
どうすることもできず、再びバスに戻される。 今泉を待ち構えている割と平和主義チームに前方の扉から一人の少女が入って来た。
上村「キタキタキタキター!」
原田「やったー!服装がずーみんと入れ替わってる!」
渡辺「作戦成功フー!」
平手「待って!服装が今泉のってことは……」
鈴本「ごめん……みんな」
土生「その声は!?」
小林「鈴本……!」
菅井「駄目だったか……!」
バスは今泉を乗せて出発する。
入れ替わり作戦が失敗に終わり、鈴本は悔しくて責任を感じ涙を流す。
鈴本を囲み慰める一同。泣きやんでから状況説明する。 鈴本「だけど、一つ分かったことがある」
平手「何が分かったって?」
鈴本「素人には分からないだろうこの完璧な入れ替わりを見破った。途中まで完璧、というか最後の最後まで全てがうまくいっていたのに……」
原田「てことは、私たちに近しい人が犯人!?」
上村「スタッフ……今野さん!?」
小林「私たちは誰と戦っている?」
土生「誰なんだよ、犯人は……」
鈴本「もしくは…………」
齋藤「何?バレた理由が他にもあるの?」
鈴本「う〜ん……黙ってても仕方ないか」
平手「言って」 鈴本「"この中に不協和音がいる"」
小林「っ……それか!」
原田「内通者がいたから犯人側に情報が筒抜けだった!?」
齋藤「てか、ここの様子をモニタリングされてたら堂々と作戦話してたの聞かれてたのかも」
小林「でも、途中までは完璧だったんでしょ?」
鈴本「うん。手で口もを隠し気味でいたけど顔を見られるまではバレてなかった……」
菅井「でも、バレても無事で本当によかったよ……」
土生「その気になれば私たちを全滅させることはたやすいもんね……」
渡辺「ど、どうやって!?」
土生「毒ガスとか、持ってた銃でも」
齋藤「私たちの命は奴らの手の平の中」 原田「七不思議を解かせようだなんて、なんのつもりなんだろう……」
鈴本「今のところメンバーの故郷にも寄らせてるよね?」
上村「そういえばそうだ!!七不思議を解いて、みんなの地元に寄ったら後うちらどうなるの!?」
菅井「それは………っ」
土生「私たち、本当に死……」
平手「生きてやる」
小林「てち……!」
平手「こんなところで死ぬために生まれてきたんじゃない」
生への執着が一番強いのは平手だった。
全ての年上メンバーが最年少の意気込みに鼓舞させられる。 菅井「Yes!仕切り直して!ずーみんの自信の根拠を突き止めるよ!」
齋藤「幸い時間切れはないから」
平手「時間……そういえば、辛い物対決で今泉の隣にいたふーちゃんが止まってなかった?」
齋藤「ああ!あれオンエア見たけど確かに2秒くらい完全に固まってたわ私!」
鈴本「辛いの食べる前も今泉は自信満々だった……てことはやっぱりあの時何か不思議な力を使っていたんだ!?」
土生「何かって……相手を動きを停止させることができる?」
齋藤「そんなチャチなもんじゃあない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……」
平手「……。時間を止めることができる……と仮定すると全て辻褄が合う気がする」
菅井「じ、時間を!?」
土生「ザ・ワールドじゃん!」 渡辺「世界?」
原田「仮にそうだとしたら、いついかなる時でも自信満々だよね!」
上村「でもなんでお化けはダメなんだろう。時間止めてバイバーイてなれるのに」
渡辺「私もお化けすごい苦手」
小林「時間を止めたところで迫りくるお化けが消えるわけではないからじゃない?」
土生「だからずーみんってたまにスタープラチナザワールドのポーズやってたんだよ!」
渡辺「何それ?宝石?」
土生「グーを手の前でクロスするポーズ」
土生が例のポーズのお手本を見せる。
それを見た瞬間に鈴本は思い出す。 鈴本「うわあああああああああああああ!!!!!!」
平手「うわ!?どうした鈴本?!」
鈴本の絶叫に全員が耳を塞ぎ驚く。
一番驚いているのは本人であり、早口で叫びの理由を話す。
鈴本「さっき今泉と同時に個室から出た瞬間に私に向かって今泉がしてきたんだよそのポーズ!」
小林「それって、喋れなかったらから合図を送ってきたってことじゃん!」
鈴本「ポーズに何か意味があるの!?」
土生「えっと、腕は時計の針を表してて時間を止めてるらしい!」
鈴本「それしかなーい!!それ以外ない!」
上村「もう向こうは第五の不思議を解いていたとしたら待たせちゃってる!」 小林「私に言わせて!」
土生「やっちまえ!」
小林はポニーテールをなびかせ、マイクをひったくる。
土生が許可し、最後の回答権を使って答える。
小林「今泉佑唯の自信は時間を止めることができるからである!」
上村「……見てーー!中央の壁が……!」
鈴本「よっしゃ!六つ目の不思議クリア!」
数秒後、上村が中央の壁を指差す。
左右二分化させていた中央に隔たる壁がゆっくり床に吸い込まていく。
バスは乗客全員の故郷を回り終わり、神戸から淡路島へ渡る。 第八話
| ||運転席|
=============
|土生菅井 尾関石森|
|小林上村 米谷佐藤|
|鈴本平手 小池今泉|
|原田 志田渡邉|
|齋藤渡辺 長沢守屋|
18:00
鳴門から四国へ入る頃、空が薄く暗くなる。
バスの左右を隔てていた中央の壁がしまわれ、両チームが一日半ぶりに合流する。
キャプテンと副キャプテンは涙して抱き合う。
守屋「やっほー!ゆっかー!久しぶり!」
菅井「うわああああ茜えええええええええ!!」
尾関佐藤石森「「「ふーちゃん!!!」」」
齋藤「じぇじぇじぇ!?」
齋藤大好きトリオは本人へ抱き着く。
渡邉は渡辺を熱い眼差しを向ける。渡辺はそれに気づき聞く。 渡辺「ん?顔に何かついてる?」
渡邉「……。ううん、何でもないよ」
志田「言わなくていいの?」
渡邉「うん。まだ……」
土生「みい!」
小池「みづ!」
土生と小池は熱い抱擁を交わす。
一頻り感動の再開を終えたところで、両チームは情報共有をする。 米谷「割と平和主義はどんな七不思議が出たん?」
上村「@詩織ちゃん、Bあかねん、Eずーみん、だったよ。そっちは?」
長沢「❷莉菜、Cゆっかー、Dぺーちゃんと理佐だよー」
小林「やっぱりね。反対のチームの不思議が出てたんだ」
今泉「入れ替わり失敗しちゃってごめんね」
鈴本「私こそごめん!あの後何もされなかった?」
平手「よかった。無事で」
まだメンバー内一番人気にして人質の手負いの彼女と再会していない。
鈴本、長沢、渡辺、渡邉は立ちはだかる前方の壁を見る。
渡邉「オダナナを助けないとね」
鈴本「最後の不思議は何だ?」
メンバーの声に応えるかのようにモニターに第七の不思議が表示される。
一同は驚かなくなり、平手がそれを読み上げる。 保守ありがとうございます。
八話は7つ目の七不思議です。
スマホだと番号文字化けするのかな
W@佐藤の顔
G❷上村の指
WB守屋の負けん気
GC菅井の本気
GD渡辺と渡邉の関係
WE今泉の自信
new❼
九話と最終話校正して、土曜〜日曜にささっと上げていきたいと思います。 >>233
ありがとうございますm(_ _)m
毎回楽しみにしてます 平手「"❼平手友梨奈の過去"」
長沢「これが最後の七不思議?」
米谷「予想していたとはいえ、やっぱど真ん中ストレートここ来るか〜!」
渡辺「なんだか難しそう……」
小池「今までで一番難易度高いんちゃう?」
渡邉「でもこれで終わり」
今泉「解いたら帰れる!」
菅井「よーし!みんなで解くよー!」
守屋「とっとと解くぞーい!」
欅「えーい!!!」 石森「早速だけど、てちの過去に何があった?」
平手「悪いんだけど、何もない……」
守屋「うそ〜ん!」
志田「幸先悪っ!」
今泉「てちお願いだから白状して!」
平手「そう言われても……ほんとになんもない!」
米谷「第五の不思議と同じで本人が知らない、覚えてないことやろな。解答を知る者に謎は出されへん」
尾関「五つ目の不思議は、理佐とぺーちゃんの関係か!」
渡辺「……ん?」
齋藤「逆に言えば、平手以外のうちらで解けるってこと?」
第五の不思議"D渡辺梨加と渡邉理佐の関係"を渡邉以外のガチチーム員が解いたように、第七の不思議"❼平手友梨奈の過去"も同じだと知る。
鈴本が思い出して小さい口を開ける。 鈴本「そういえば平手3rdのMV撮影の時、ぽん橋で面白いこと言ってなかった?」
平手「……その前に、ポンバシ?なにそれ?」
土生「1stのMVの初っ端ゆいぽんが叫びながら自転車こいでる始まりの橋のことだよね?」
小池「ファンの間では有名で、ゆいぽんと掛けて"ぽん橋"って呼んどるみたいやな」
小林「ぽん橋。握手会でたまに言われる」
長沢「3rdでも平手がその橋を走ってた。"実に走りたくなる橋だ"みたいな感じで」
平手「あーあそこか〜!でも、あの時私何か言ったっけ?」
鈴本「"過去には絶対戻りたくない"ってメイキングで言ってたよ!」
菅井「過去!?」
守屋「てっちゃんからのキーワードキター!!」
メンバーは歓喜する中、張本人は眉間にしわを寄せていた。
それを見てこれまでの七不思議を初手で正答した例しはなかったことを米谷は思い出し問いかける。 米谷「こんなことありえへんとは思うけど、てちは過去に戻ることができる?」
石森「タイプリープ!?」
尾関「時をかける少女かよ!!」
渡辺「友梨奈ちゃんすごーい!」
志田「ヤッバ!」
平手「…………」
原田「平手は肯定も否定もできないか……」
米谷「せやったな。"絶対戻りたくない"って言い方からして戻ることができるみたいやん」
守屋「"絶対"をつけるほどだしねっ!本当に行けるわけないんだから普通つけないでしょ!」
佐藤「まるで、"ここにタイムマシーンがあります。過去に飛びますか?"って聞かれた時の答え方だよね〜!」 鈴本「もしもタイプスリップ?できるなら一度はしてみたい気はするもんだけど……」
今泉「戻りたい!消したい過去とかやり直したいこといっぱいある!」
渡辺「私は、戻りたくないな……」
長沢「梨加ちゃんどうして?」
渡辺「だってまた欅のオーディション受けて、受かる気がしないよ!」
上村「あーね!」
小池「2015年の夏に戻ったとして、まだオーディションを受けてこのメンバーが揃うことなんてないんやろな……」
守屋「私はここにいる!どんな世界だろうと気合で受かってやるよ!」
土生「さすがあかねん!頼もしすぎる!」
齋藤「茜がいない欅なんて考えられないね。番組の面白さ半減してた絶対。あとは……」
再び副キャプテン祭りが開催され、主役は頬を茜色に染める。
織田に並ぶ褒められると満更でもない目を細めたにやけ面を隠せずにいる。 守屋「いやでも〜それは私に限ったことじゃないよ!例えば、ぺーちゃんがいなかったら欅どうだったと思う?」
志田「超つまんない!番組だとあんま喋んないけど、おもちゃがなくなる!」
渡邉「ほんの少しでも喋ったら面白いのに、喋らなくても笑いを誘ってるからね」
菅井「ぺーちゃんが最年長だったから、頑張って来れた!すごく癒されることもあったし!」
渡辺「フフフフ……」
守屋「おぜちゃんがいない欅はどう?」
上村「えー!やだー!!」
小林「尾関スタイルの衝撃はすごいから、インパクトがなくなる」
米谷「あのめっちゃ不思議な動きがないとか、"欅"の二十一画のどこかが欠けた感じやな。あと、衝撃とインパクトはいっしょやで」
尾関「イエイ!」
守屋「じゃあ、てっちゃんだったら?」
急に七不思議の張本人の名前が出て一同は面食らう。
仮に全員の名を挙げても同じ流れになるだろうということは、一人でも欠けることを許さないグループである。
中でもグループの心臓ともいえる最年少は最も欠けてはならない存在である。各々は欠けたであろう世界を想像する。 石森「てちがいなかったら、今の欅はなかった!」
今泉「かっこいいイメージではやっていけなかったと思う」
上村「マジョリティーあんなにヒットしなかった!」
尾関「モーゼの真ん中誰が歩くんだよ!」
小池「1stMVのサビであのてちに引き込まれた人多そうやもんなー」
小林「たった一年数か月で再生回数7000万回いかなかったでしょ」
佐藤「言っちゃ悪いけど、オーディションに受かって辞退しちゃった最年少の子がセンターになってたらここまで来れてなかったと思う〜!」
齋藤「それな!去年紅白にも出れなかったと思う」
志田「辞めたい時期あったけど、平手がいたから頑張れた」
菅井「セカアイでも、最初の叫びと最後のポエトリーリーディング最高だったよね!」 鈴本「センター候補に少しあったと思う私や今泉でも無理だったと思う。やっぱり平手がNo.1だよ」
長沢「平手いないって考えただけでも怖い」
土生「二人セゾンでキレキレのダンスと、てちを先頭に颯爽と歩くところなんて代わりいないよ!さすが私の妹だぜ〜!」
原田「カッコよさと可愛さ、あと大人びたところとたまに見せる子どもっぽいところのギャップがいいよね!」
守屋「てっちゃんキャロライン〜!!!」
米谷「不協和音であのセリフ誰が言うん?てちが言わな、うちは嫌や!」
渡辺「ん〜……考えられない!」
渡邉「欅に入ってくれて、本当にありがとう」
平手「えへへ……」
最年少は年上から褒められて喜び、彼女たちの言葉を借りるならキャロラインな笑顔を見せる。
一同は改めてセンター平手の重大さに気づき、今後もより支えようと決意する。 守屋「脱線したけど、てっちゃんは何でぽん橋であんなこと言ったの?」
平手「私はつまらないどこにでもいるような普通の学校生活にうんざりしてたから。ずっと続くのかと思っていたその時、乃木坂さんを見てアイドルを目指した」
菅井「アイドルじゃなかった平凡な生活に飽き飽きしてた頃に、戻りたくなんてなかったんだね」
土生「すごいね!まるでアイドルになるために生まれて来たみたいじゃない?」
長沢「じゃあやっぱりタイプリープできない?」
平手「……分からない。たぶんできないと思う。まずどうやってやるのか知らないし……」
米谷「やんな。それに時間は不可逆。遡ることはできひん」
志田「深、逆?」
齋藤「普通ならな」
齋藤は恰好をつけて言った言葉に、七不思議の前では中々の説得力があった。
常識的で普通な回答ではないほど正答に近いと学んできた少女たちでも頭を抱える。 今泉「ふーちゃん!?いや、でも、まさか、そんな……っ」
志田「いくらなんでもそれはねえだろ!」
渡邉「さすがに、これまでとスケールが違い過ぎる」
齋藤「でも、今まで七不思議を見てもどれもぶっ飛んだものだったでしょ?」
菅井「それは確かに、そうだけど……。それに至る根拠はあるの?」
齋藤「今のところはない。でも、何か引っかかるものがあるんだよな……」
米谷「少し掘り下げて行こか。さっき言うてた普通の学校生活ってどんな中学時代やったん?」
平手「普通にバスケをやっただけ。あと、お笑いも好きで……どこにでもいる中学生だった」
石森「…………。え、終わり!?」
平手「うん……ごめん」
平手の過去話はわずか一行で終わってしまいざわつく。
それも中身がないに等しく、期待に応えられず謝る。 小林「中学校じゃないんなら、小学校はどうだったの?」
平手「小学生なんてもっと普通だよ。話すことなんてほとんどないほどに……」
上村「じゃあ幼稚園は?」
平手「……あんまり覚えてない」
今泉「その前は?幼稚園入る前、あとはそれしかない!」
平手「…………。それはもう記憶にない」
佐藤「何か都合が悪くなった政治家みたいになっちゃった〜!」
渡辺「ん〜私もない……」
志田「ぺーには誰も聞いてねーだろ」
今泉「あ、あれ〜?」
今泉はこめかみ付近に人差し指を当てて悩む。
意味のない会話はなく、そこから少女たちは考えを巡らす。 小林「記憶がないっていうのも、第七の不思議の答えはてちが知らないのだからいいとして。そこで何かあった?」
米谷「それがでもないならあとは……出生?」
小池「生まれか!理佐やぺーちゃんと同じように何かあるんか?」
渡辺「ん?何があったの?」
渡邉「……さあ」
菅井「てちのお父様は誰か、みたいな?」
長沢「まさか先生の隠し子とか?」
守屋「親子……、姉妹……?ああ!!土生ちゃんの妹説は!?」
今泉「え、それって……あの時の?」
土生「あああー!!あれかー!!」
昨年三月に行われたデビューを目前にした初のライブを思い出す。
わずか一年と数か月前の事なのにはるか遠い昔のように感じる。
その自己紹介で平手の口から"実は土生瑞穂の妹でした"と告白があったのは古い記憶の中にあった。 齋藤「あーデビュー前のカウントダウンライヴの自己紹介で滑り倒して、誰も触れもしなかったやつか」
土生「でも、私、一人っ子……」
鈴本「平手あの時何であんなこと言ったの?」
平手「あれは、自分でも何で言っちゃったのか分からない」
志田「まさかの」
佐藤「あの時、急にメンバーの土生ちゃんの妹とか言い出すからファンの人たち本当なのか、嘘なのかすごい混乱してたと思うよ〜」
菅井「でも、意味もなく言うはずなくない?土生ちゃん始まる前てちに何か言ったの?」
土生「いいや、私は何も言ってないよ!」
渡邉「自然と口に出た?」
平手「え〜?どうだったかな……」 菅井「とりあえず、土生ちゃんの姉説を推してみよう!」
守屋「どんな不思議が答えにつながってるか分からないからね。一歩ずつ進もう!」
小池「まず土生ちゃんの誕生日は97年7月7日で、てちは01年6月25日やったっけ?」
原田「4歳差か。珍しくはないけど、多くもないね」
小池「てちのお兄ちゃんはいくつなん?」
平手「私の6こ上だから、今年22歳になる」
菅井「私と同い年!」
渡辺「…………あ、私もだ!」
佐藤「6歳差の兄妹ってかなり珍しくない?てちとてちのお兄ちゃんがその年齢差ならその間に一人いてもおかしくないかもしれない!」
小池「しかも土生ちゃんとてちの兄ちゃんは2歳差。いっちゃん多いやっちゃな」 上村「お兄ちゃんの正確の誕生日も教えて?」
平手「確か、7月17日生まれだったかな?」
石森「土生ちゃんが7月で、てちが6月だから、三人ともその時期に集中してるよ!!」
米谷「三人とも蟹座やな!」
長沢「食べたいカニ」
守屋「まとめると三人の誕生年は95.7.17、97.7.7……01.6.25。偶然か偶数年じゃないね」
小池「一つ言えるんは子作りするタイミングがほぼ同じってことか」
佐藤「あ!そういえばさ、土生ちゃんって自己紹介の時も言ってたけど二次元から来たんだよね〜?姉妹ってことはてちも二次元から来たのかな〜?」
土生「くえ!?あれは初期の白石さんのマネだから!!」
小池「それはないわ」
姉グループのエース白石麻衣は初期の頃"四次元から来た"というキャッチフレーズを使用していた黒歴史がある。
異次元から来れるはずもなく佐藤の提案は呆られながら否定された。 佐藤「え〜?ご両親は身長高くないのに娘の土生ちゃんは高いからおかしいな〜って思ってたけど、実は二次元から来るときにへにょ!ってなって身長が伸びちゃったんじゃないんだ?」
上村「へにょってるのは詩織ちゃんの話し方!あと、長い!」
土生「身長高くなったのは、赤ちゃんの頃にカエル脚にならないように"伸びろー"って足をさすってくれてたからだよ!」
志田「それで高くなるのか?」
土生「そんなこと言われても、こんな大きくなっちゃったわけだし……」
渡辺「覚えてないの?」
土生「いあいあ、赤ちゃんの時だから覚えてないよ!」
渡辺「そっか……」
土生「私だって小さくて可愛くなりたかったよ……」
菅井「土生ちゃん……っ」
土生の呟きは隣の隣人の菅井にだけ聞こえたが、思いやることしかできない。
土生は自身の長身をコンプレックスに思い、これ以上身長を伸ばさないために昨年は満足に眠らなかった。
眠らない分TVゲームやアニメ鑑賞に没頭し、気づいたら夜が明けていた。 鈴本「もし足をさすられたのが関係なく、遺伝だとしたら……身長の低いご両親と土生ちゃんは血がつながっていない?」
土生「そんな!?私は…………っ」
小林「鈴本、それはちょっと……」
鈴本「あっ……ごめんなさい!」
菅井「あ、会ったことあるけど土生ちゃんとご両親はお顔が似てるよ!お母さん似?私の見た感じでは……」
渡邉「また親の話……」
渡辺「また?」
土生「……」
小池「大丈夫やで」
仲の良い菅井は土生の両親と対面したことがあり、述べたのが単に個人的な意見にすぎず発言が尻すぼみになった。
鈴本の発言に衝撃を受ける土生を小池が関西弁で慰める。 守屋「てっちゃんのお兄ちゃんって、イケメンで高身長ってネットに書いてあるのを見たことがあるよ」
小池「長身どれくらいあるん?」
平手「えー?土田さんくらいはあるかなー」
志田「高っ!」
尾関「平手も16歳で165cmだっけ?やっぱ遺伝なのか」
渡邉「もし仮にだけど、平手の姉が土生ちゃんだとしたら違和感がなくなるね」
今泉「言われてみれば、かっこよさ似てるかも!仲の良さも姉妹みたいだし!」
原田「つじつまが合う。高身長に加えて、平手とお兄ちゃんの6歳差の間に一人くらいいてもおかしくはない訳の……」
守屋「95年のお兄ちゃん、97年の土生ちゃん、01年のてっちゃんの三人兄妹だった?」
尾関「じゃあ、平手の過去って言うのは土生ちゃんの妹だっていうこと?」 志田「マジかよ!同じグループに姉妹なんているか?」
長沢「第五の不思議。理佐と梨加ちゃんは……」
石森「同じグループに親子がいるんだから姉妹だって!」
渡辺「……」
第五の不思議"D渡辺梨加と渡邉理佐の関係"の秘密が明かされる。
知らされていなかった平和チーム員は信じられない面持ちであるが、今までのことから信じざるを得なかった。
当の本人である渡辺はまだ理解できず首を傾げているだけだった。
石森「あ!土生ちゃんは1997.7.7生まれで10年に1度のラッキーガールだから運命で姉妹で受かったんだよ!」
今泉「占いとか信じすぎるの良くないと思うけど、私も平手が土生ちゃんの妹だと思う!」
齋藤「平手の過去って言うより、どちらかというと土生ちゃんの過去じゃない?」
佐藤「確かにそうだよ!もし姉妹だったら"平手と土生の関係"ってふうな出し方じゃなきゃおかしいよ〜!五つ目の不思議みたいに!」
守屋「いやでも〜それだと簡単すぎるから違う出し方にしたんじゃない?また"AとBの関係"だなんて出たらどう?」 渡邉「そんな出し方二度あるとは思えない」
渡辺「同じような不思議もっかい出ないってこと?」
渡邉「普通なら」
渡辺「ところで五こ目の不思議って私と理佐ちゃんの関係だったんでしょ?なんて答えたの?」
渡邉「……お母さん、なんだって。私の」
渡辺「誰が?」
渡邉「梨加ちゃんが」
渡辺「はあ?まっさか〜!」
渡邉「ダヨネー」
口元を大きな両手を覆いくしゃっと笑う渡辺。
少しの期待を寄せていた渡邉は、渡辺の当然の反応に吹っ切れる。 菅井「なるほど……。不思議の出し方は違うけど、本当に姉妹説あり得るかもね……」
小林「一気に可能性高くなった。いや、むしろ低い……?」
原田「いろいろ合ってるところもあるし、答えてみてもいいんじゃない?いいよね、平手?」
平手「……う、ん」
長沢「合同になったけど回答権ってどうなるんだろう?」
石森「あ〜両チーム合わせて6回とかになったりしないのかな?」
齋藤「いやどうかな〜。一つの不思議の回答数は変わってないと思うよ」
今泉「三回のままか。誰が行く?」
土生「私が言おう」
複雑な心境の土生がマイクと汗を握る。
回答があっていれば少女たちは解放に近づけ、織田を救える。しかし、土生は親と血がつながっていないことになる。
尻込みしていまいそうになるが、今は進むしかない。目を閉じて深呼吸をして、土生は進撃する。 土生「平手友梨奈は……私、土生瑞穂の実の妹だった過去がある」
菅井「……っ!」
土生の覚悟の回答後、独特な間が過ぎ去る。
誰も喋らない、動かない。ただバスが走り続ける。ものの十数秒がもの永遠の時のように長く感じる。
一定の時間が経ち、前方の壁は何も反応がなく。回答の不正解を示している。
上村「はー!息するの忘れてた〜!」
米谷「見当違いだったみたいやな。でも、この場合は良かったんやろな」
齋藤「姉妹説とは何だったのか……」
尾関「なんだよ〜今までの推測も全部無駄かー」
長沢「土生ちゃんは関係してなさそうだね」
今泉「平手の過去に"何か"があったのは間違いないはず!」
小林「回答権あと二回もあるから、ゆっくり考えよ?」 回答権は一つ減ってしまったが、土生は親と血のつながりがあったことに安堵し脱力する。
回答者にキャプテンと準彼女は寄り添う。
土生「よかった……でも、ごめん。みんな……」
菅井「よく頑張った!ホント偉いよっ!」
小池「今度土生ちゃんち行ったとき紹介してや!」
渡辺「私も行きたい」
土生「ありがとう!いつでもおいで!」
鈴本「その"今度"を迎えるために今もう少しだけ頑張ろう!」
今泉「何か思い出せない?16年間生きてきた中で、何か……」
平手「……過去か」
平手は外に目をやると、外は完全に暗くなっている。
窓に映る自分の顔を見て再び半生を思い返す。 20:00
グループ最年少にしてセンターの過去に不思議な出来事があったのか本人もメンバーも分からないままでいた。
小休止も兼ねて、昨日今日の状況を整理する。
尾関「あ〜もう!犯人って何者なんだよー……」
米谷「後続車の気配はないから、犯人はおそらく黒づくめ、白づくめ、運転手の三人組は間違いない」
志田「何のために七不思議なんか解かされてるのか、ほんと謎!」
小池「どこかに中継されていて、お金持ちたちに見られとる?」
菅井「それって残客みたいじゃない!?」
齋藤「ぺーちゃんの特技、隠しカメラ探しでも見つかれなかったからそれはない」
渡辺「うん。ない」
鈴本「完全防音でも、回答を受信してるわけだから声は聞かれてるのかな?」
齋藤「あーいつも前にあるマイクで答えてるじゃん?スイッチ入れたら向こうに聞こえるようになってるんじゃね?」 志田「マイクで文句言ってやろうぜ!」
菅井「ちょっとやめなよっ!?それで回答権減っちゃったら……」
志田「だな……」
佐藤「昨日の朝9時に東京から出発して北へ行って友香の別荘に泊まって、また東京に戻って太平洋側を沿って関西へ、そして今21時で四国にまで来て……。これからどこに行くんだろう……」
鈴本「偶然か全員の出身地を経由してるんだよね。でも、もう目的地に近い気がする」
守屋「四国に入ったし、もう四県のどこかしかないけど……」
小池「香川と徳島は通り過ぎてもうた。あとは愛媛か高知か……」
米谷「……あんで。道は他にも」
守屋「それって、どこよ?」
米谷「海路」 渡辺「ホッカイロ?1stの工事現場でねるちゃんが持ってきてくれた」
渡邉「違うよ。カイロってどっか外国だよね?」
土生「ディオ様んちあることじゃん!!」
長沢「なんでエジプトに?」
原田「アフリカだよね!」
米谷「そうそう。アラブ首長国連邦の……じゃなくてっ!海や!」
土生「え、海ぃいいいいっ!?」
米谷「まあ船でエジプトに行けなくはないで。海がある国である」
小池「ちょっ、待ちぃや……。それって……」
波が引くように少女たちの顔から血の気が引いていく。
全員揃って一つの事を考え、海へ行った先のことを想像する。 佐藤「てことは、私たちは海の向こうの外国に売り飛ぱされて!!どんなことが待ち受けていると言うの〜!?」
志田「ヤダーー!!!行きたくない!!!」
渡邉「本州では足がつくから、目立たない四国から出航ってわけ?」
守屋「タイムリミットは出航までのニ三時間くらいってこと!?」
菅井「それまでに最後の七不思議を解かないと本当に……!!」
原田「もしかして、わざわざ全員の故郷に寄ってたのって……っ」
渡辺「メイドの、お土産?」
今泉「まだ殺さないでよ……!!」
平手「……っ」
今泉の一言が現実のものとなるのではないかと不安になり黙る。
殺されるか、海外に売り飛ばされるか、どちらにせよ地獄を見ることになる。否、殺されるのであれば天国を見ることになる。
売り飛ばされるということを具体的にどのようなことをされるのか想像がつかないだけ幸せだった。
しかし、過酷なダンスレッスンよりはるかに過酷なものだということだけは分かる。
不思議の張本人は自分のせいで仲間の人生を終わらせてしまうかもしれないことに焦らずにはいられない。
短くない沈黙を破ったのはある少女が体内に飼っている生物の音だった。 小池「っ〜〜」
土生「みいちゃん、お腹すいた?」
小池「いや、お腹すいててともすいてへんくてもうちのお腹の中のカエル鳴ってまうんよ……」
土生「あっ、そうだったね」
長沢「私、おなかすいた。香川のうどん食べたい」
米谷「もう香川は過ぎたで」
長沢「じゃあ高知のかつお。愛媛のみかん」
小林「愛媛はポンジュースだよね」
佐藤「ポンジュースだなんてオダナナが二つの意味で超大好きそうだね〜!」
菅井「徳島は何かあったっけ?」
小池の腹のカエルの音により不安や緊張の場が和らいだ。
キャプテンの問いに、あのメンバーは立ち上がり両手を挙げて構える。 齋藤「徳島は阿波踊りだよ!」
佐藤「ふーちゃんのやる阿波踊りいつ見ても面白くて超〜じゃなくて、とても好きー!」
守屋「十割を誇るふーちゃんの阿波踊り久しぶりに見たーい!」
齋藤「ふー、しょうがねえなー」
そう言いながらも、齋藤は少し嬉しそうに立ち上がる。
広くなった中央通路の後方に立ち、再び構え直して馴染みの掛け声を言う。
齋藤「あやっとさー!あやっとやっと〜」
花道を無言でずんずんと前方へ踊る齋藤の物言わぬ面白さに一同は震える。
そして、鳴門の渦潮の如くバスは笑いの渦に呑まれる。
前方の壁の向こうにいる運転手と黒づくめにも笑い声が漏れているのか、少しうずいているように見える。
守屋「はあ〜〜!!やっぱ最っ高ー!!」
今泉「ひい〜〜っ!!」
今泉は腹を抱え、愛嬌のある笑いのある"ゲラ泉"と化す。
数か月ぶりの今泉の笑顔に全員が喜び、安心した。
平手は空気を変えてくれた齋藤へ短く礼を言う。 平手「ありがとう。ふーちゃん」
齋藤「何のことー?」
石森「それで、一番の謎は何のための七不思議を解かせてるかじゃない?何か意味があんの?」
米谷「意味は分からんけど意味がない、わけない…………。まさか!七不思議はヒントか?メモみたいに」
菅井「メモって、ガチチームでも何かメモが出てきたの!?」
守屋「"この中に不協和音がいる"でしょ?見たよ!」
小林「やっぱりそっちも出てきてたんだ」
今泉「違うよ。美愉ちゃんと入れ替わりしたときに服のポケットにそのメモが入ってたからそっちが六つ目の不思議を解いている間にみんなで見てたの」
鈴本「あ、そういえばあのメモは私がポッケにしまったんだった!」
未だにお互いの服を着ている鈴本と今泉は着替えるタイミングを失っている。
渡辺が織田の席だった椅子の下から発見したメモの内容に触れる。 米谷「犯人たちは、自分たちを暴いてみろとメモでヒントを出してきたんや」
守屋「じゃあ、私たちの知ってる人が犯人って訳!?」
米谷「ここまで来て赤の他人が犯人の線は薄い。うちらのことをよーく知っとる人……」
平手「で、そのヒントが七不思議とそのメモにあるというのは?」
米谷「まずメモの方は"この中"とはどこを指すのか。あと何で"犯人"やなくて"不協和音"て表現しとるんか」
小池「犯人とは罪を犯す人のこと。そうやなくて不協和音にしとる理由か……」
渡辺「"この中"っていうのはこのバスの事なの?」
守屋「だとしたら黒づくめと、白づくめ、運転手のことなんじゃないの?」
土生「それはないんじゃない?あの人たちが"この中に不協和音がいる"だなんてなんか矛盾してるじゃん」
志田「言えてる。黒づくめ=不協和音?っておかしなことになる。当たり前なんだから」 渡邉「だからこのメモの不協和音=うちらの誰か、てことになる。でも……」
米谷「黒づくめとはうちらみんなで会ってるから……何かが矛盾しとる?」
鈴本「なら、メンバーの中に協力している人がいたとして、その子が不協和音とかは?」
原田「やっぱり不協和音=欅の誰か、ってことっ!?」
志田「そのメモが割と平和主義チームで出されたなら、そっちの中にいそう!」
渡邉「完全に隔離させられて、密室だったわけだしね」
平手「……。そもそもその協力者の不協和音って何をするの?」
守屋「うちらの中に潜んでるわけだから〜七不思議解くのに邪魔したり?あと、ゆっかーの家を教えたり〜いろいろ情報を教えた?」
米谷「変な事言う子はおったけど、邪魔とまではいかんかったけどな。それに昨日からジャミングされとるから通信の類もできひんし、バスの中からじゃ黒づくめたちに直接協力できひん」
小池「ん〜?それってその不協和音からの実害ほぼないやん!」 米谷「せやな。うちらん中におるその不協和音を七不思議に隠されたヒントで探さなあかんちゅうことなんか……?」
今泉「不協和音を見つけないと私たち帰れない?」
佐藤「七不思議からのヒントって何よ?ただ一から七の番号と、人の名前とその不思議くらいしか情報がないよ〜?」
米谷「それはまだ何とも言えへん……でも、きっと何かあるはず」
小池「欅の中に不協和音がおる可能性が高いちゅうことやな……」
米谷「不協和音は誰や?」
守屋「欅坂……ケヤキザカ…………けやきざか?っ!」
渡辺「ん?どうしたのあかねん?」
長沢「連呼なんかして、『W-KEYAKIZAKAの詩』の練習?」
守屋「不協和音、分かっちゃったかも……」
守屋は自分の考えを行ったり来たりして呟いている。
一同は驚き、副キャプテンに答えを急く。 菅井「ええ!?一体誰なの!?」
守屋「けやき坂46」
渡辺「ヒ……!?」
鈴本「ひらがなけやき!!??」
上村「あの子たちがこんなことを!?」
平手「ちょっと、何言ってるのか、分からない……」
守屋「まずは、ひらがなの中にもこのバスを運転することができる人がいる!免許のことは昨日米から聞いたんだけど」
米谷「このマイクロバスは乗員上限二十一人乗りの中型自動車。免許を取得できる年齢は一番早くて二十歳やで」
志田「がなで二十歳以上のメンバーは……」
渡邉「二人だけだね。井口眞緒と佐々木久美」
渡邉のピースに一同は気づかされる。
妹分二人の名を聞いてあながちあり得ない話ではないと思う。 土生「あ〜どっちもなかなかの個性派だからね……」
佐藤「佐々木久美ちゃんはグミが好きな〜って言ってるけど、大抵の人はグミ好きだよね〜」
長沢「井口真緒に二回も大食いで負けた……」
守屋「元々加入前の18歳の時に普通免許を取得していて、その二年後に中型免許とるの不可能じゃないよね?」
菅井「無理な話じゃないけど……とても信じられないよ……」
渡邉「可能性はなくはないね。うちらのこと一番よく知ってるし」
志田「あいつらが何のためにこんなバカげたことを?」
守屋「おそらく動機は、うちら漢字を消すため」
今泉「消す、って…………えぇ?……あっ!」
守屋の言う動機が何を意味するのか瞬時に理解する。
漢字が消えるということは、即ちアンダーである妹分が表舞台に上がれるということである。 守屋「世間からしてみれば、悔しいけどうちらはてっちゃんのバックダンサーのようなもの。これがどういこうことかわかる?」
志田「何だよ!」
鈴本「バックダンサーの名前なんて誰が覚えると思う?ってこと?」
長沢「平手友梨奈と愉快な仲間たち」
守屋「そういうこと。代わりなんて誰でもいい。これからもずっと漢字欅の全員選抜が続けば、ひらがなはずーっとアンダーのまま」
小池「うちら漢字が消えたら、あの子らが選抜になるしかないやん……」
小林「受け入れたと思っていたら、あいつらに支配される日がやってくるとは」
守屋「センターのてっちゃんだけは生かされると思うから、そこは安心していいと思う」
菅井「そうだね、てちさえ生きていてくれれば一番最悪の事態は逃れる……」
平手「私だけ………?」
センター平手され生存していればよいと考える者が多い。
対して平手はたった一人だけ命の保証をされたことに嬉しくもなんともない。
複雑な気持ちを抱え、妹分に疑念を抱く。 石森「ひらがなに乗っ取られるってことぉ!?」
今泉「前に出たいがために、ひらがなちゃんたちがここまでする?」
鈴本「でも織田はやられたよ」
今泉「あっ……!」
守屋「ひらがなってことはねるが一枚かんでるかもしれない」
渡邉「それどころか黒幕の可能性あるかも」
志田「あのタヌキめ……。もし本当ならぶん殴ってやるからなっ」
守屋「一周年記念ライブで発表されたよね。ひらがなけやき追加募集の」
小林「うちらは握手会の枠がこの人数では追いつかなくなってきているからね」
齋藤「4thの『不協和音』は出荷した82万枚を超えたっつってた」 尾関「え、初週60万くらいじゃなかったっけ?あれから20万枚以上も売れたのか!」
志田「売れすぎィ!」
原田「サイマジョもセゾンもまだまだ売れてるみたいだし、ロングセールスが欅の売りなのかも」
菅井「いい楽曲いただいてるおかげもあって、私たちはあの乃木坂さんたちに追いつきつつあるんだね」
土生「本当に恵まれてるよ……」
平手「今後、欅はどうなると思う?」
米谷「インフルエンサーで初のミリオン達成したみたいやけど、うちらも5thでは達成できる可能性が高い」
小池「人員増加に伴って売上が上がるからな。ひらがなは事実上の2期、今度入ってくるのは事実上の3期に当たる」
米谷「欅も乃木坂さんと同じ123期体勢になるちゅうことやな。並ぶため、追い越すため。でも……」
守屋「ひらがながうちら漢字を消し自分たちでその穴を埋め、アンダーを追加募集した子たちに埋めてもらうつもり!だからこの日のために用意周到に準備してきたんだよ!」 今泉「もう来月にはオーディションだよね?タイミングばっちしじゃん!」
長沢「ひらがな粒ぞろいだし」
志田「所詮粒でしょ。うちらの足元にも――」
鈴本「うちらも最初はただの粒だった。忘れたの?」
志田「鈴本!……ああ。そうだったね」
渡邉「あなどれないよ。あの子たちは」
石森「ひらがなちゃんてグローバルメンが豊富だよね?」
小池「サリーちゃんはインドネシアや」
志田「高瀬マナはイギリスだっけ?」
土生「佐々木美玲ちゃんは台湾」 渡邉「久美もドイツに留学してたみたいだし」
渡辺「ねるちゃんもどっか留学してなかったっけ?」
米谷「確か韓国、アメリカ、イギリスにも行っとる言うてたな」
菅井「あの子たちのグローバル面はほんの一端で、他にもまだまだ個々にいっぱいたくさんいろんな才能を持ってる!」
小林「デビュー前のうちらが乃木坂さんの足元に……いいや、肩を並べられる日が来るなんて思ってた?」
平手「思ってないよ。ここまでこれるなんて誰も……」
小池「たった一年で何もかもが変わったんやからな」
守屋「ジョリティーでデビューして締めは紅白にまで出て、去年の濃さはものすごかったもんね!」
今泉「一年ってすごい……」
佐藤「今年は去年の濃さを超えられるのかな〜……。まず5thが『不協和音』を超えられるか不安だし、紅白歌合戦にもまた出場できるか心配だし〜。欅は前のものより超えないといけないっていうプレッシャーがいつもすごいあるよね……」 小池「あの子らの潜在能力は計り知れん。私たちが消えた世界で一年後あの子たちがどんな成長を遂げるかうちらの想像を超える」
原田「私たちってあの子たちの成長を押さえつけている重石になってる?」
鈴本「あの子らはメディアの露出が少ないからね。カヤカケだって三回くらいしか来たことがないし、私たちのせいで」
渡邉「いや、先に入ったか後に入ったかだけであって決して私たちのせいじゃないからね」
志田「それな。野球でレギュラー陣をたたきのめして、ベンチ補欠がグラウンドに立つのと同じじゃね?」
上村「それじゃあ逆恨み?妬み?じゃないのっ」
尾関「ああ〜〜早く通報したいのにまーだ電波妨害されてるからできないぃいいいぃいっ!」
齋藤「ぺーちゃんWi-fi飛んでる?」
渡辺「だから分かんないってば!」
二度目の質問に渡辺は少し憤怒しながら答える。
渡邉は妹分を通報することに異和を覚える。 渡邉「待って。それが狙いなのか……?あの子たちが犯人だとしたら罪に問えるの?同じグループの仲間を訴えれる?」
志田「え?普通に110番して終わりじゃん」
米谷「っ!なるほど……そういうことか。結論から言うと罪に問えんかもしれんし、訴えても取り合ってもらえんかもしれん」
齋藤「どういうことだ?誘拐とか、殺人未遂とかじゃないの?」
米谷「例えば、そうやな。理佐に誘拐されたとするやん?警察に駆け込んで何て言うん?」
志田「それは……っ」
米谷「"同じグループのメンバーに誘拐されました。捕まえて下さい。"って言うん?無理やろっ」
佐藤「バスであちこちを連れてかれて、メンバーの別荘に泊まって、七不思議のなぞなぞを解いて〜……ってこれじゃあ完全にただの日本一周グループ旅行だと思われちゃうじゃない!」
石森「だから犯人じゃなく、不協和音なのかぁ!」
守屋「いずれにしても、このてっちゃんの最後の不思議を解かなければあの子たちと対面できないなら解くしかないよ!」 平手「芽実……」
菅井「マナフィ―」
上村「優佳ちゃん……」
小池「……サリーちゃん」
長沢「しほ」
今泉「きょんこぉ……」
土生「美玲ちゃん」
渡邉「……久美」
原田「彩花……」
齋藤「眞緒」
渡辺「えっと、メイちゃん?」
米谷「ねる……」
妹分と特に思い入れが強いメンバーの名を呟く。全員が関わっているのか、二十歳以上のメンバーと数名だけが協力しているのか分からない。
囚われの少女たちは再び七つ目の不思議”❼平手友梨奈の過去”に立ち向かう。 今泉「平手が何も知らない以上、これは私たちで気づかなきゃならないんだ」
土生「だろうね。いつか知ることを今知らなければならない!」
菅井「頼みの綱の"自分ヒストリー"はどうだった?」
鈴本「平手の自分ヒストリーといえば……お笑い芸人」
長沢「流れ星、くらいしか記憶にないんだけど」
尾関「あ、みんな出していた小さい頃の写真とかなかったよね?なんで?」
守屋「言われてみれば、てっちゃんの幼少の頃の写真見たことなーい!」
平手「いや、それは……恥ずかしかったから」
上村「えー!これでもダメか〜……」
今までは役に立ってきた自分ヒストリーでさえも有力な情報を得られなかった。
平手が好きな守屋は新しい妙案を思いつく。 守屋「てっちゃんの髪の毛触手説、ってのは?」
平手「……は?なんて?」
土生「え!よくジャンプ漫画とかで出て来る髪の毛を自由に操るやつ?」
志田「触手って、動かしたところで何だよ!」
守屋「いやなんか〜サイマジョのMVから思ってたんだけど、てっちゃんは髪の毛一本一本を自在に動かすことができるんじゃない?」
今泉「何それすごい!かっこいい!」
小林「てちの髪の毛も定評があるのは知ってる。自然にあんなかっこよくなびいたのではなく、自分で動かしていた?」
平手「いや、動かせないし!」
佐藤「てち本人が知りえないってことは自覚していないってことだから、無自覚のままでいいんだよ!よくある超能力に自分では気づいてないパターンなんだよ〜!」
菅井「確かにそうなるけど……それ言ったらてちの自覚してないこと何でもありになっちゃうじゃない?」 尾関「ジョリティーの平手のあの髪のなびかせ方でうちらがヒットしたと言っても過言じゃない!」
渡邉「それは過言でしょ」
守屋「前髪で顔を隠し問題を見たことがあるけどさ、それはどうしてなの?」
平手「いや、あれは、その……必殺技なんだよね。私の」
渡辺「へ?ひ……必殺技?」
平手「ちょっと恥ずかしから顔を隠したくて、前髪伸ばして目だけ隠そうと思ってやってるんだよね」
土生「そうだったんだ〜!でも、それは意識してやってるんだね?」
平手「まあそうだね。ちゃんとできてるかはO.A.見るまでは分からないけど」
米谷「分からんな。偶然か、てちの不思議な力か……」
小池「五分五分ってとこやなぁ。ただ、その必殺技の髪の毛の力と"過去"に何の関係があるんかってことや」 鈴本「それさえ分かれば決まりなのに……」
守屋「でも、あのなびき方は普通じゃないよっ!」
上村「あ〜ジョリティーだけじゃなくて、セカアイも、セゾンも、不協和音も!他のカップリング曲もかっこよく決まってるもんね!」
原田「髪の毛だけ動かすのもなんかすごい微妙な感じもするけど……」
土生「じゃあ他の毛……鼻毛とかも動かせるとか?ってまたジャンプ漫画じゃん!」
小林「……なんか違う気がする」
石森「過去に何があってその不思議な力を得たんだろう……」
長沢「ある日突然隕石が降ってきて、力に目覚めた?」
齋藤「いや、手がかりなしの解答はない!今までと同じでどこかに何らかのヒントがあるはずだけど……」
当の本人が語った過去の少ない情報とその関係を結びつけることができないでる。
仲間のために平手の記憶を過去を思い出す少女がいた。 今泉「待って……隕石?てっこ小さい頃に鳥のフン落ちてきたってラジオで言ってなかった?」
菅井「え?鳥のフン!?」
平手「確かに小さい頃よく落っこってきたことはあったけど……え?」
今泉「落ちてきたということは頭!頭ってことは髪の毛!それでその髪の毛を動かせる不思議な力に目覚めたんだよ!」
齋藤「さすがに鳥のフンで覚醒はないじゃね?」
今泉「トリ……鳥居坂と関係があるのかも!欅坂になる前のグループ名……鳥居坂に入る前に覚醒して、鳥つながりで受かる運命にあったんだ!」
志田「強引すぎだろ!」
小林「運命ねえ……。でも、第七の不思議の答えがこれ〜?」
今泉「てっこのセンターの魅力は目と髪にある!それでここまでやってこれた!」
鈴本「それだけじゃないと思うけど完全に否定できない……」
渡邉「……あえて聞くよ。自信あるの?」
渡邉の質問に対して間髪入れず、目をつぶり息をためる。
そして、ためた息とともに言い放つ。 今泉「ある!」
渡邉「はぁ……」
志田「出たよ……」
今泉「てっこ、ゆっかー!二つ目の回答権ちょうだい!」
平手「いや〜どうだなんだろう……」
菅井「No、とは言えない……。怪しいところはあるけど、ちゃんと根拠がある……」
今泉「じゃあ?」
守屋「私が責任を取る!元々は私が言い出したことだし、もし外れても最後の回答権で絶対当てる!」
今泉「あかねんありがと!」
今泉はマイクを持ち、深呼吸をする。
平手とは違った眼光で立ちはだかる前方の壁を睨み付けて回答する。 今泉「平手は過去鳥のフンが落ちてきたことで、髪の毛を動かせる不思議な力に目覚めた!」
守屋「お願い……!」
半数のおバカな子たちは当たっていることを祈り、もう半数の頭のいい子たちは半数が外れいるとすでに諦めている。
一定の時間が過ぎても、前方の壁が動く気配はなかった。平手は外れたことに少し安堵している。
小林「……ダメみたい」
平手「でも、本当じゃなくて良かったかも」
渡邉「やっぱりね」
志田「誰か止めろよ……」
守屋「ごめん、みんな!」
今泉「ふぇえぇ〜……ごめ〜ん!」
守屋と今泉はメンバーへ頭を下げる。
捨て回答だったと諦めがつき、二人を許す。 佐藤「そもそも"過去はなーんだ?"って聞かれてなんて言えばいいの〜?」
小池「それなら、過去に関係してる最初に話してたタイムリープ説の方が濃い気がするけど……」
鈴本「やっぱ"過去には絶対戻りたくない"かぁ……」
小林「タイムリープできるのであれば、今のこんな状況になる前、バスに乗る前まで飛べば回避できるんじゃない?」
長沢「織田がやられることもなくなる!」
渡辺「ダニー……!」
土生「てちがタイムリープできるとして覚えてないのは、記憶も巻き戻ってしまうから?」
菅井「それじゃあ同じ未来にしかならないじゃない!」
渡邉「考えにくいけど、できるかどうか試してみたらいいんじゃない?」
平手「……うん。やってみるよ」
固唾を飲みこんでメンバーが平手を見守る。
平手は拳に力を入れて、踏ん張る。眉にしわを寄せ、口を開く。 平手「で、どうやってやんの?」
尾関「え……それは、びゅん!って感じじゃない?」
土生「時計の針を逆回転させるようなイメージを瞳の中でやる感じ!キュイーンって!」
菅井「土生ちゃん詳しいね!アニメで勉強したんだ?」
土生「まあね!」
平手「よーし!やってやる!」
平手は教わったタイムリープを試してみる。しかし、過去に戻ることはなかった。
土生から他の方法を提案されて、中央通路の後方から前方に向けて走り出す。
土生「はい、走ってー……からのジャ――ンプ!」
平手「飛べよぉおおぉおっ!!はぁはぁ……!!」
土生「くぅ!惜っしい!」
タイムリープに失敗し、息を切らす平手。
平手姉妹(仮)を他所に他のメンバー話し合う。 守屋「タイムリープできないってことはその説じゃないね」
今泉「さっき言った髪の毛説なんだけど……」
尾関「まだ言ってんのかよ!それはもう終わっただろ」
今泉「聞いて!動かせるのってその……人とかなんじゃないかって!」
上村「人を!?それって念力が使えるってこと?」
小林「人を動かす、操る?指揮する力があるってこと?いや、魅了もあるかも……」
今泉「うん。てっこが頑張ってるとこっちも頑張んなきゃって思ってくるから、動かされてる感じがする。ファンの人たちもきっとそれで……」
守屋「あと、ダンスもてっちゃんセンターだからなのかすごい引き寄せられる感じするかも……」
佐藤「だとしたら一番最強な不思議な力になるけど〜過去に何があってセンターの素質を得てみんなを突き動かすような?操るような力を手に入れたはずだからそれを探さないことには始まらないよ!」
齋藤「過去に何があったんだよ……。平手の……」 22:00
同じところで足踏みが続き無言なまま数時間が経った。
バスは愛媛県で高速道路を降り、まだ西へ向かっている。このまま走ると四国の最西端まで行くだろう。
平手は覚えている限りの過去のエピソードを手の指の数程語った。それは、メディアで一度は言ったことのあるものだった。
口をムの字にして悩み続けるも名案は思い浮かばなかった。
原田「高速降りたってことは、もう港に近い!?」
守屋「そろそろタイムリミットってことか〜!」
米谷「よくてあと三十分くらいってとこか……っ、時間がもうない……!」
平手「くっ……!もう語りつくした……どうすればいい……」
鈴本「オダナナ……助けて……!」
志田「あ〜もう!!ないないないないないなーい!!」
渡辺「無理だ……」
小池「む、ム…………。無……!」
小池はエジソンが初めて電球に明かりを灯した時のようにピンと閃く。
ゆっくりと立ち上がり、再び真壁川ナツが憑依する。 小池「無いんや」
原田「な、無いって何が?」
小池「てちには中学以前の過去がない。もうそれしかあらへん」
土生「へえええあああああ?!ちょ、みいちゃ……何言ってるっ?」
今泉「過去がないってどういうこと?てっこの中学以前のエピソードあったじゃん!意味が分からないよ!」
小池「作られた記憶や」
尾関「き、記憶をぉおおおおぉ?頭大丈夫か?」
小池「ほどほどにな。しばくで」
菅井「疲れてるんだね。もうお休み?」
小池「オイ!よう耳かっぽじって聞きや!」
菅井「ひい!はい!」 平手「でも、愛知で生まれ育った記憶がある……」
小池「例えば――ゲームの主人公サトシは十歳の少年だった。わずか三軒しかないマサラ町で生まれ育ち、旅に出る……」
米谷「なるほど。そのサトシは十年間そこで生まれ育ったのではなく、十歳という設定で作られただけ」
小池「そう」
佐藤「じゃあ数度鳥のフンが落ちてきたことも、鼻に詰め込んだ節分の豆が取れず病院に担がれたことも?」
土生「さっきもその話聞いたけど、豆は何歳の時にやったんだっけ?」
平手「3歳だったかな……」
鈴本「よく覚えてるね!13年前と言っても、物心ついた頃じゃない?」
小池「3歳の頃の記憶なんてそんな鮮明に覚えてるもんやない。予めさっきいってくれた過去エピソードを十こくらいインプットされてあればその引き出しを一つ開けるだけで思い出せる」
米谷「それって逆に言えば、それしか記憶がないんとちゃう?」 平手「え、他には……言え、無い?でも……」
小池「やっぱり。おそらく今までメディアに言ってきたのと、いや物心つく三歳から中学入学前の十二歳の一年に一つの記憶がインプットされとるんやと思う」
守屋「そういえば、てっちゃんセンターなのにあまりにも過去が流出していないよね!ネットで」
齋藤「流出しようがない?まだ生まれていないんだから?」
土生「中学校は割れてたよね。バスケと卒アルの写真見たことある」
石森「自分ヒストリーでてちだけ写真も何もなかったのもそういうこと!?」
米谷「そういえばねるが言っとったな。生後二日と思う程の"世間知らず"って」
小池「せや。年相応の一般知識をインプットされ、中学に通わされただけでは人と差が出てくる」
米谷「エイプリルフールも、イカダも、CDが何の略かも知らんかった」
小池「極めつけは、にらめっこを知らんかったことや」 にらめっこを知らなかったという平手に一同は騒ぎ出す。
中学以前の過去がないという憶測が現実味を帯びる。
守屋「てっちゃん本当に知らなかったの!?てかやったことなかったの?!」
平手「うん……」
小池「こないだサリーちゃんとのラジオで聞いたときはイスから転げ落ちたわ」
鈴本「決まりじゃん!やらないとしても、知らないっていうのは絶対ありえない!」
佐藤「小学生の頃はまだ生まれていなかったから〜インプットされた一般常識に、にらめっこが含まれていなかったってことだよね〜?」
齋藤「じゃあ平手は何者なんだよ!?」
小池「AI」
小池の一言に平手を見る目が変わる。 鈴本「なるほど。でも、アンドロイド?にしてはあまりに精巧過ぎない?」
佐藤「肌の柔らかさ、温もり、鼓動。全部、人のそれと変わらないんじゃない?」
渡邉「人じゃないなんて信じられない……」
石森「じゃあどうやって確かめるの?」
長沢「電源ボタンとか首の後ろにない?」
菅井「ちょっと!!みんな酷いんじゃない!?てちには十六年間一生懸命生きてきた人間に決まってるでしょ!!それをロボットみたいに……っ」
平手「ゆっかー……!」
小池「じゃあ、今までのことどう説明つくん?にらめっこは?」
菅井「そ、それは……にらめっこはたまたま知らなかっただけで……。他には…………」
激怒する菅井は、小池の言う通りそれ以上説明ができず言葉に詰まる。 小池「ごめん、てち。先に謝っとかなあかんかったな」
平手「いいよ。自分がロボットって言われても信じられないから」
小池「それでもいい気持せんやろ。今だけは冗談だと思ってくれてええで」
平手「ホントに大丈夫。例えば、あかねんは絶対に100%ロボットだって言われてどう思う?」
守屋「いやいや!?私はロボットなわけない!!」
平手「その気持ち。今の私」
小池「なるほど、それは説得力あるな」
米谷「まあ、こういうんは自分自身がAIやってことを自覚できないようにプログラムされとるやろな」
平手「ゆっかーもかばってくれてありがとう」
菅井「てちぃ……」 石森「だとしたら、てちは何のために生まれたの?」
小池「おそらく意味は、"欅坂を成功に導くセンターになる"ために」
渡辺「じゃあさ、大成功じゃん!」
今泉「センターは最初から決まっていたんだ……」
齋藤「きっとバレエ経験をインプットされてあるから、あの先生の振り付けを完璧にこなせるのもダンス機能が優れてるから?」
守屋「あと、番組で言ってた"逃げ足だけは早い"ってどういうことなのって思った!」
小林「肝心の刃物を持った外国人には恐れないで、防刃のボディーだから?
佐藤「それかいざというときのために危険を回避の機能があるのを本能で知っていて、だから何事にも物怖じしないのか」
渡邉「AI説、ありえるかもしれないね」
小池「もうええやろ。答え合わせといこか」 菅井「ちょっと待って!目的は分かったけど、一体誰が作ったの?」
小池「うちらの会社は機械の最大手やん?なんかこういった部門があるんとちゃう?」
菅井「あ、そっか……」
石森「きっとベースとなってる動物はカワウソだよ」
平手「私に言わせて。きっと私が言わなくちゃならないんだ」
小池「頼んだで」
マイクを握りポジションゼロに立ち目をつむる。頭の中では4thシングル『不協和音』のイントロが流れている。
同学年はいない、でも独りじゃない。常にメンバー全員から支えられて守られている。
未だに自分がロボットだと信じられないでいるが、仲間を信じている。
回答権は残り一つで後がない。ライブラストにやる時の『サイレントマジョリティー』の眼で立ちはだかる壁を睨み付け回答する。
平手「私、平手友梨奈に過去はない。それは三年前に生み出されたカワウソ型ロボットだからである」
小池「坂道グループ第二弾のセンターになるために、な」
平手は自分と向き合い、小池がが補う。
答えを外せば終わり。終わりが何を意味するのか分からない。
少女たちは祈らずにはいられなかった。 数秒後、機械音がし前方を防いでいた壁がゆっくり床に吸い込まれていく。
それは合計七つの七不思議を解き終わりったことを表し、一番の歓喜が沸き上がり、涙を流して抱き合い喜ぶ。
菅井「あ〜〜これで終わりーー!!!」
守屋「モッツアレラチーーズ!!!」
志田「シャー―!!!」
渡邉「ぴょーー!!!」
齋藤「ふーー!!!」
渡辺「フフフのフーンのフー―ン!!!」
原田「ヤッター―!!!」
尾関「いえーーい!!!」
広くない車内で原田はぴょんぴょん飛び跳ね、尾関は奇天烈な動きで喜びを表す。
一番の功労者である探偵真壁川へ礼を言う。 土生「みいちゃんありがとう!」
小池「あれ?壁がなくなっていく!土生ちゃん何が起きたん?」
土生「え、みいちゃんが解いてくれたんじゃん!」
小池「記憶にございません……」
土生「そういう設定なの?」
小池「うふふ」
一同は小池へ感謝し、褒めたたえる。
探偵ではないアイドル小池は恥ずかしがり笑って誤魔化す。
小池「一番はてちのおかげやってん!」
平手「私は何も……」
正解してから平手の様子が暗いままである。
自らがロボットだということを自覚しつつあるのか理由は誰にも分らない。 米谷「大丈夫やで!これは犯人のでまかせやから気にしなくていいんやで!」
守屋「てっちゃんは普通にどっからどう見ても人間だし!何がロボットだよ!」
今泉「そうだよ!本当なわけないじゃん!」
平手「だよね〜!」
他のメンバーの励ましもあり、平手にいつもの笑顔が戻る。
そうこう話をしているうちに壁が完全に床に吸い込まれ、少女たちは目の前に立ちはだかる者と物に驚く。
バスは四国西端にある八幡浜港にてフェリーに乗り、出航する。
夜の海原を西へ行く。 第九話
23:00
第七の不思議を解き、前方の壁がなくなるとそこには黒づくめがいた。
運転席にはおなじみの壁があり、運転手の顔を拝むことはできなかった。
守屋「お前ら!ひらがなだって分かってんだよ!」
志田「早く降ろせ!」
石森「七不思議全部解いたんだから帰してよ!」
今泉「おうち帰りたい!」
黒「誰が七不思議が七つだけと言った?」
菅井「え……それってまだあるってことなんですかぁ!?」
黒「後ろの個室にいる。入りたいなら言え、出ていくから」
そう言って黒づくめは後方にある個室へ消える。
刃物を持つ黒づくめへ飛びかかることはできなかった。 守屋「七不思議が七つだけじゃないってなんだよ!!」
菅井「八つ、もしくはそれ以上あるっていうの!?」
今泉「そんな……いつまでやればいいの……」
土生「でも、まだモニターに何も出てきてないよ?」
平手「バスは止まらない……」
原田「フェリーでどこに連れてかれるんだろう……本当に海外?」
小池「みんな……一つ言わなあかんことあってん」
土生「みいちゃん、何を?」
小池「もうみんな死んどうかもしれへんってことを」
小池の発言によりメンバーが凍り付く。
氷が一瞬で解けて突っ込まれる。 土生「急に何言い出すの!?」
志田「何だよ!その世にも奇妙なあれみたいなオチは?」
小池「一昨日の野外初ワンマンライヴ富士急からの帰り道、うちらは谷底に落っこって死んでしまった」
今泉「勝手に殺さないでよ!」
平手「一応話は聞いてみよう……。それで?」
小池「来月から始まる悲願だった全国ツアーの夢を叶えることができず成仏できないでいる。だから今こうして全国をバスで巡っとるんや」
渡邉「いや……ないでしょ」
小池「じゃあ昨日と今日、うちら以外の人と会った?話した?」
尾関「完全に隔離されてるんだから、どっちも無理だったよ!」
小林「結論から言うと、この二日間誰も外と交信をしていない?」 小池「ネットに繋がらへんのも、犯人たちの仕業やないで」
米谷「死者はネット使われへんちゅうことか?」
渡辺「そっか!だからつながらないんだね!」
渡辺は素直に納得する。
すかさず石森がツッコミを入れる。
石森「いやだから〜普通にみんな生きてるよ!」
渡辺「そういえば、足あるし!」
渡邉「息してるし」
志田「脈あるし!」
守屋「心臓動いてるし!」
佐藤「頭の上に天使の輪っかないし〜!」 尾関「透けてないし!」
平手「窓に顔映るし」
上村「床に影あるし!」
長沢「お腹空くし」
鈴本「眠いし……」
小池「成仏できへんだけで、そこは生きていた時と変わらんよ!ただうちら以外の人から見えない、聞こえない、触れられない!!!」
齋藤「シックス・センスじゃん……」
菅井「じゃあ誰かー死んだ時のこと覚えてるー?」
車内は静まり返り誰も覚えていない。本当に死んでしまったのか疑ってすらいない。
小池は一人も覚えていないことで新たに気がつく。 小池「誰も死の記憶がないちゅうことは即死やったんやろな。そこでみんなの想いが一つとなり奇跡が起きた。せやからこれはうちらが望んだ事やってん」
平手「私たちが、望んだ事……?」
小池「犯人は私たちが作り出した不協和音や。あれは人やなくて、NPCや無敵ウニの類のもんやから倒せへん」
菅井「ウソ」
小池「昨日ゆっかーの別荘に行ったんもそうだよ。ゆっかー言うてたよね、誰にもあそこの住所は教えてないって」
菅井「それは言ったけど、でも……!」
小池「うちらの意思で軽井沢へ泊りに行ったんや」
土生「だから誰が知らなくても行けたんだ!」
菅井「そんなことって……っ」
小池「みんなの故郷に寄ったんもみんなの意思や。このバスは幽霊船」 上村「いつまで乗ってなきゃいけないの!?」
小池「七不思議を全員分解くまでは成仏できへんねや」
尾関「全員って……19人いて今8人やったから、あと11人も!?」
守屋「だから黒づくめも"七つだけじゃない"みたいなこと言ってた?いやそんな馬鹿な!」
今泉「やだー!死にたくなーい!」
小池「もう死んでんやって!」
鈴本「そういえばダニは今どこに!?」
渡邉「最初にやられて、前方に置かれてあれからどうしたんだろう……」
齋藤「運転席の中で人質にされてるとか?」
小池「……織田は多分生きとう、今頃病院やろ。織田だけ生死狭間をさ迷っていたが、バスから降りたちゅうことは助かったってことやと思う」
鈴本「えぇ……?」
織田の命を保証をされ喜ばしいことだが、自分たちの命はないと言っている人からの言葉に困惑する。 小池「これはうちらが望んだ事で日本中をさ迷っとるんやから、もう楽しく七不思議解くしかない!」
平手「今は海の上だけどさ、これはどういこうことだと思う?」
小池「それは……うちら全員の故郷を回り終わったやん?生きていたら世界を狙えたかもしれへんってことで海外進出したんかもしれへん……」
平手「ふーむ……」
佐藤「もしかして……てちがロボットだと言われて信じられないのと同じで、私たちも死んでると言われて信じることができていないだけ〜?」
小林「この完全に閉鎖された空間では、私たちが生きてるってこと証明できないかも……」
小池「けやき坂犯人説はないやろ。二十歳以上ならこのバスの運転免許取れる言うても、がなちゃんらの中に二十歳以上が複数いるからってサリーちゃんたちがうちらを消すために誘拐するなんて考えられへん!」
鈴本「みんな死んでることの方が考えられないよ!!」
米谷「美波……」
全員死亡説が浮上し、けやき坂犯人説と並立する。
どちらかであれば片方は消滅する関係にある。
全員死亡説は眉唾ではあるが、小池の推理と呼んで良いか分からないものは完全に否定しきれない。
対してけやき坂犯人説は現実味が帯びているも、確信を得られない。
またどちらでもない可能性もある。 割と平和主義チームは小池に聞こえないように小声で話す。
鈴本「みいちゃんきっと疲れてるんだと思う」
上村「この状況もぶっ飛んでるから、あんなこと言っちゃったのかな」
原田「現実であればけやき犯人説が濃厚だけど……これが夢であればみいちゃんの言ってること合ってると思う……」
小林「きっと平手の七不思議で最後だと思ったのにまだ続くと知って、変な風に考えちゃってるだけだと信じたい」
平手「みいちゃん最後頑張ってくれてたからな……」
齋藤「てか、うちらどこに連れてかれんだ?」
渡辺「ん〜……カイロとか?」
菅井「このままどこか外国に着くまで、指をくわえていることしかできないの……?」
米谷「何かあるはずや……。何か……」
ガチチームの米谷は一人出題された七つの七不思議とにらめっこをして、不協和音の手がかりを探る。 3日目 0:00
一時間程して対岸が見え、そのまま着岸し短い航海を終える。
予想外に早い到着に一同は驚く。
原田「もう着いた!?」
小林「どこココ―?」
菅井「きゅ、九州ぅ!?」
上村「大分県……衛藤美彩さんの故郷だ!」
鈴本「何で知ってんの?」
上村「誕生日一緒で、しかも坂道に加入した年も同じだから」
守屋「おばあちゃんは黙ってまちょうね〜」
上村「むー!」
フェリーから降りたバスは再び走り始め、高速道路に乗る。 平手「本当の目的地は九州のどこかだったてこと?」
鈴本「かもしれないけど、分からない……なんで四国から?」
今泉「あれ見てぇ!」
今泉は前方のモニターに映し出される新しい七不思議を指差す。
数えて八つ目の七不思議は、米谷が読み上げる。
米谷「"❽長濱ねるの加入"……か」
小林「……そう来る?」
石森「一体これいつまで続くの!?」
尾関「マジで全員やるつもりか!?」
志田「ぐるっと九州回って、また本州行って今度は日本海側を経由して北海道とか?」
守屋「沖縄を除く46都道府県制覇なんて笑えないよ!」 米谷「いや、ねるは漢字でもある。たぶんこれで終いや」
齋藤「さすがにもう佳境だと思いたい」
菅井「じゃあ最初から目的地は九州だった?全員の故郷を経由するなら……」
佐藤「というか何で七不思議なのに八つ目が出るの!?おかしいよ矛盾してるよもう終わりにしようよ〜!!」
原田「八つ目を解けば後戻りできなくなる……」
鈴本「後戻りって何?」
原田「それはわかんない。けど…………」
土生「帰れなくなるとか!?」
原田「……っ」
守屋「もう解くしかない!ねる加入の不思議を!」
守屋は第八の不思議"❽長濱ねるの加入"を解こうと意気込む。
その後、米谷が立ち上がり全員に言う。 米谷「一つええかな?」
長沢「米、お腹空いた?」
渡辺「まだパンあるよ」
米谷「そうやなくて、今から犯人当てんで」
守屋「はいいぃいいっ!?よね犯人分かったの?!」
志田「だれダレ!!やっぱひらがな?それともカタカナ?」
土生「すごすぎる!」
平手「さすがよね!」
今泉「よねみん天才!」
佐藤「イッツショータイムキター!」 米谷は同じ関西出身の小池を見る。
全員死亡説を唱えたペンギン娘は疲れ果て船の中から眠っており、しばらく起きそうにないことを確認する。
米谷「その前に美波の名誉を守らせてもらう」
菅井「みいちゃんの、名誉?」
渡邉「あの実はみんな死んでるっていうやつ?」
米谷「もう日付が変わったから三日前になるけど、富士急からバスでの帰り道に何らかの事故に遭い死んでしまったというもの」
守屋「だから生きてるってば!」
志田「信じらんねーよ」
米谷「うちも信じてない。でも、このバスの中で自分らが生きてることを証明できない以上否定できない」
土生「私はみいちゃんを信じてる!」
全員死亡説を信じているのは土生、今泉、石森のおバカトリオだけだった。
信じていないメンバーは馬鹿らしくて疑わず、小池の頭を疑っていた。 米谷「織田が見当たらないことから、バスから降りれた可能性が高い。それは織田が生き返ったことを意味する」
鈴本「現実的には最後の壁に囲まれた運転席の中で人質にとられてる可能性もあるよ!」
米谷「もちろんそれもある。美波の説やと、うちらと同じところにいた織田がバスを降りて生き返った、ということはうちらも今生死の狭間をさ迷っているんじゃないか?」
今泉「私たちまだ死んでないの!?」
石森「じゃあまだ生き返れるかもしれない!!」
土生「みいちゃんは、悲願だった全国ツアーをしながら楽しく七不思議を解くしかない、て言ってた……」
渡邉「全国回って、全部解いたら成仏する。ともね」
米谷「でもうちはそう思ってない。むしろその逆」
上村「逆?成仏できないってこと?」
米谷「そうじゃなくて、七不思議を全部解いたらうちらも織田みたいに生き返れると思う」 土生「やった――!!」
佐藤「でも待って!バスを降りる=生き返る、って言うなら私たち昨日の夜に軽井沢のゆっかーの別荘で降りたじゃな〜い!」
鈴本「第六の今泉の不思議が分からなくて、入れ替わる時に滋賀のパーキングで降りたけど」
今泉「そうだったー!生き返ってなーい!」
米谷「このバスに出入り口は前にある一つしかない。みんなそこから乗り降りしたやん?」
守屋「だってそこしかないじゃん」
米谷「本当の出口から出ないと生き返れないなら……例えばそこが運転席にあったとしたら?」
石森「運転席に?そっちから降りないと生き返れないってことか!」
尾関「残り壁一枚なくなれば、運転席にたどり着ける!」
上村「最後ねるちゃんの加入の不思議さえ解ければ生き返れる!?」 米谷「これはきっと夢なんや」
渡辺「夢……?」
米谷「バスの中=夢だから通信も物理も外の現実に干渉できない」
長沢「窓が割れないのも、声が聞こえないのもそういうことか」
渡邉「……あながち捨てきれないね、その説も」
小林「馬鹿にできない、かも……」
米谷「美波の全員死亡説を推すなら、まあこんなところか」
土生「みいちゃん……」
最初は全く信じていなかったメンバーを半信半疑にまでさせた。
米谷は文字通り小池の名誉を守った。 米谷「さてと、こっからは現実の話をするよ」
平手「夢。そして、現実――」
米谷「最初に言っとくけど犯人は……不協和音はこの中にいる」
菅井「"この中"って、なんてこと……っ!」
守屋「あのメモに書かれてたことは本当だったってわけー!?」
鈴本「待って!!本当にこの19人の中に不協和音がいるってことなの!?」
米谷「正確にはこの21人の中にいる」
原田「21って、まかさ――!」
渡辺「……え?」
"欅"の画数、漢字欅の人数でもあるその数字を聞き、瞬時に内訳を理解する。
周囲を警戒して今泉は胸の前で腕を交差させ、佐藤は顔を片手で覆い、上村は人差し指を構える。
緊張が走る中、米谷は推理を開始する。 米谷「まず、不協和音から手がかりは今までに八つ出された」
小林「八つ?それって七不思議の数と一緒じゃん!さっき八つ目出たばかりだけど」
今泉「それのどこに不協和音に繋がるヒントがあるの?」
米谷「今までに出題されたのは七不思議覚えてる?」
上村「一つ目"@佐藤詩織の顔"」
佐藤「二つ目"❷上村莉菜の指"」
菅井「三つ目"B守屋茜の負けん気"」
守屋「四こ目"C菅井友香の本気"」
渡邉「五こ目"D渡辺梨加と渡邉理佐の関係"」
小林「六つ目"E今泉佑唯の自信"」
平手「七こ目"❼平手友梨奈の過去"……」
回答済み七不思議をその回答者が順番に挙げる。
先程出題されたばかりで未回答の七不思議を米谷が言う。 米谷「そして最後、八つ目が"❽長濱ねるの加入"」
鈴本「答えは言わなくていいの?」
米谷「それはいい。答えの真偽は置いといて、自分の不思議を……手の内をさらしたくはないやろうからな」
齋藤「デリケートなこともあるしな」
上村「うん、あんまり言いたくはないかな……」
佐藤「恥ずかしいし、切り札のようなものだから〜……」
渡邉「改めて言う必要ない」
渡辺「理佐ちゃんとの関係結局分かってない」
米谷「片方のチームで解いたってことは半分は知ってしまったけど、ええやろ」
平手「私のはみんなに知られてるけどね……」 石森「それで、七不思議にヒントが隠されてるって言ってたけどその子たちが不協和音?」
米谷「単純すぎるやろ!そうじゃなくて、その子らはただ不思議なだけであって必ずしも犯人じゃない」
菅井「必ずしも?って他のどこにヒントが隠されているのっ?」
長沢「となると、もう一つしかない。いや、八つかな」
米谷「そう。"1"から"8"までの数字そのものがメンバーを指している」
土生「数字=メンバー?分かんない分かんない!」
渡辺「いち、にー、さん、しー、ごー、ろく、なな、はち。だから……」
今泉「"7"は、ななちゃんずの誰か!?」
上村「……"4"は、詩織ちゃん!」
尾関「"1"は"イチ"="イシ"森で、虹花?」
石森「いや私、不協和音じゃないんだけど!?」 米谷「そっちじゃなくて、モノの数え方にするとメンバーが見えてくる」
菅井「モノの数え方?ひー、ふー、みーのこと?」
原田「続きは、よー、いつ、むー、なな、やー……だから――」
尾関「"2"は、ふーちゃん!?」
土生「"3"は、みいちゃんんんんん?」
佐藤「"6"は、むーっぽくない?」
渡邉「"7"は、よね?でも今推理してるし……」
渡辺「じゃあ菜々香ちゃん?」
鈴本「あと、オダナナ?」
米谷「そうそう。そんな感じ」 原田「残りの"1"と"4"と"5"、"8"は誰なんだろう?」
鈴本「強引に言うなら頭文字でかぶる"1"が平手、"4"がよね、"5"で虹花か?」
守屋「最後の"8"は……誰だ?」
米谷「そのへんはそんなに肝心じゃないからいい。でも"8"は後で話す」
菅井「一旦整理するとこんな感じ?」
七不思議 − 不協和音候補
1.@佐藤 − 平手
2.❷上村 − 齋藤
3.B守屋 − 小池
4.C菅井 − 米谷
5.D梨加と理佐−石森
6.E今泉 − 上村
7.❼平手 − 米谷、長沢
8.❽長濱 − ? 石森「おぉ……今度こそその中に不協和音がいる?てかまた私入ってんだけどっ!」
渡邉「その不協和音候補全員が黒だとはとても思えないけど」
原田「黒……そっか!出題番号の黒丸と白丸!!」
守屋「ああーー!ずっと違和感はあったんだよ何の違いなんだろーなーって!」
渡辺「オセロ?」
米谷「白丸は白。犯人じゃない」
土生「なら黒丸の番号の人が不協和音!!」
菅井「黒丸がついた番号は、"2"、"7"、"8"!」
平手「❽はまだ誰か分かんなくて……」
鈴本「❼はななちゃんずの誰で……」
今泉「でも、❷は一人しかいないよ?」 渡邉「ねぇ、ふーちゃん?」
齋藤「…………」
一同は一斉に"2"である齋藤に注目する。
齋藤は否定もせず、口を開かず目をつぶっている。眠っているわけではなく、ただ起きている。死んでいるわけではなく、ただ生きている。
それは彼女が不協和音であると認めているに等しい。
菅井「本当にふーちゃんが不協和音んんん!?」
佐藤「えええぇえええええ!?ふーちゃんがそんなはずないよ!何かも間違いかもしれないしその推理間違ってるんじゃないの〜!」
尾関「ふー、ちゃん……?」
石森「今までうちらのこと騙してたってことなの!?嘘だと言ってっ!!」
齋藤「……」
志田「だんまりかよ!」
守屋「何とか言えよ!!」
鈴本「織田はどうしたんだよ!!生きてるんだよなぁ!?」
集中砲火を浴びても尚黙っている齋藤。
小林が静かに席を立ち、齋藤の前に立って見下ろして言う。 小林「てめぇ、殺すぞ」
渡辺「ひっ!」
齋藤に向けた言葉は、隣の席の渡辺を怖気づかせた。
他のメンバーも暴言を浴びせるのを止め、黙り決め込んでいた齋藤は目を開き息を吹く。
齋藤「続きがあんだろ、米?」
米谷「……次に進まなきゃ自白しないってことか。続けるよ」
土生「次は❼=ななちゃんずの三人!!!」
鈴本「オダナナじゃないとして、よねか菜々香!?」
守屋「よねは探偵だから残るは一人しかいないっ!もうバレてんだよ菜々香ォ!!」
長沢「うっ……」
凄む守屋に容疑者は空腹時以上に顔を歪める。あまりの圧力に否定できない。
米谷は推理を進めるために、守屋を制する。 米谷「ここまで来て三択はありえない」
原田「どういうこと?消去法だとママが被害者で、よねが探偵だから、菜々子しか残ってないけど……」
米谷「例えばだけど、菜々香だったら白丸の"5"、うちだったら白丸の"3"を黒丸にして❼と同時出題かなんかにするはず」
渡辺「"7"と"5"でナナコ?」
平手「"7"と"3"でナナミ……」
守屋「え、じゃあ菜々香じゃないの?」
長沢「違うよ……」
上村「てことは……❼って、"ナナ"だから……まさか!!」
鈴本「オダナナ!!」
全員の頭の中に思い浮かんだ少女の名を鈴本が即答する。
事件が発覚した第一被害者である織田が犯人という矛盾に混乱する。 米谷「❼はそのまま織田の名前である"ナナ"」
今泉「でも、なーちは一番最初に黒づくめにやられて……」
米谷「このバスは21人乗り。最初からうちら織田を含む20人と運転手だけだった」
渡辺「ん?……ダニが死んじゃったから一人減って……私たち19と運転手と黒づくめで21人じゃないの?」
鈴本「織田はふーちゃんの目の前でやられて……うーーわっ!!!そういうことかぁーー!!!」
平手「ふーちゃんが共犯であればオダナナは死んでない……。死んだふりをしていたってこと?」
守屋「じゃあ血まみれの織田はなんだったんだよ!!」
米谷「ピクリとも動かなかったから死んでしまっと思った子もいると思うけど、ただの誘拐で殺人を犯すリスクはないと断定して、あれはよく作られた人形」
石森「黒づくめは織田の服を着た人形を担いで前方に運んだってことかー!……あれ?」
今泉「そのなーちは一体どこに消えたの!?」 米谷「織田は自分の服を人形に着させ、黒づくめに扮した」
佐藤「織田=黒づくめぇえええええええええええええぇえへへ〜!?」
土生「ボイチェ使って低い声出してたんだ!?」
志田「待てよ!こっちには黒づくめと白づくめが同時に現れたんだぞ!その時点でこのバスの中に22人いるじゃん!」
長沢「ガチチーム10人。平和チーム9人。黒づくめ=織田?と白づくめ、運転手の計22人いるよ?」
米谷「ガチチームで第三の不思議を解いた後に、個室のある後方スペースに入れるようになったやん」
渡邉「二チームそれぞれの密室から後方スペースに行けて、そこから個室に入れるようになった。後方スペースは平和チームに繋がる扉があったけど……」
上村「お互い反対のチームへは行けなかったじゃない!完全防音だったみたいだし……」
原田「ガチチームの子が入ってる時は、こっちから開けることができない仕様になってた……」
米谷「ガチチームで第三の不思議を解いたしばらく後に黒づくめと白づくめが同時に現れた。これがどういうことを意味するか」 原田「……あ!平和チームの誰かが扉のキーを持っていればガチチームに行くことができる!!」
米谷「黒づくめこと織田が前方から入って来て、ふーちゃんが後方スペースで白づくめに扮して後方から入って来た。これで全ての筋が通る」
長沢「白づくめ=ふーちゃん。だったんだ……」
米谷「その証拠に平和チームの方では黒づくめと白づくめが両方現れることはなかったやろ?」
平手「というか、一度も見回りに誰も来なかった」
米谷「あ〜そうか。うちらガチチームにもあの同時に現れた一回きりだった。平和チームに黒づくめ一人で入ったら抵抗される怖れがあったから入れんかったんかな」
守屋「黒づくめ一人だけだったら、抵抗してバスを降りる作戦を立ててたんだけどね!」
鈴本「組織的犯だと思わせて私たちを抵抗させないために?」
尾関「そういえば、最初北上してた時に福島らへんで神奈川ナンバーがずっと近くを走ってたように思えたんだけど、あれは……」
今泉「それでみいちゃん、じゃなくて!ナッちゃんに"今泉犯人説"って言われたんだった!許したけど」 渡辺「ナッちゃんって誰?真犯人!?」
佐藤「ある一般車両の近くを走ることで、一つ目と二つ目の七不思議を解いた後に窓の外が見えるようになった私たちに"他にも犯人はいるぞ〜"って言いたかったんだよ〜!」
米谷「神奈川ナンバーだったのは偶然か意図してかはわからんけどそういうこと」
渡邉「なるほど……まんまと騙されてたって訳か」
平手「一番最初に個室に入らされて、出た時に黒づくめが消えて、白づくめになってたのって……?」
米谷「犯人は運転手、黒づくめ、白づくめの三人組だと思わせたかった……教えたかったんかな」
菅井「教えたかったって何よ?」
米谷「ただの誘拐ならこんなことはしない。まるで不協和音は暴いてほしいかのようにいくつもヒントを出してきた」
原田「あのメモ!最初に平和チームに出てきた"この中に不協和音がいる"っていうのもそうだった!」
米谷「搭乗時にはなかったメモは、織田の席の下にあったことから事件発覚前にトイレに行く前に織田が置いて行ったんだと思う」 鈴本「それか、後ろの席のふーちゃんがぺーちゃんがよそ見してるときにこっそり置いた可能性もある!」
齋藤「さて……」
渡辺「……ん〜?」
渡邉「どっちにしてもあのメモを置ける可能性が高いのはその二人」
石森「訳の分からない七不思議も不協和音につながるヒントだったんだ!!」
志田「じゃあマジで最初っからこのバスには21人しか乗っていなかったのか!」
守屋「ちゃんと乗員上限守ってたってわけー!?」
米谷「そういうことやな。あのメモの"不協和音"という表現は罪を犯していないと教えて来ている」
平手「なるほど……」
米谷は法律に違反していない前提で考えたことを話す。
菅井が推理を終えた探偵に質問する。 菅井「最後に一つだけ……メンバーの故郷を経由してここまで来たのは何で?」
守屋「最初は殺された織田を東北の山奥にでも捨てに行ったんじゃないかって思ってたけど、織田は生きてるみたいだし?」
米谷「遺棄は犯罪だからないとして、黒づくめの言葉を借りるなら"しばらく行けそうにないから"かもしれない。分からんけど……」
石森「それどーゆーことー!?」
菅井「どうなの、ふーちゃん?」
守屋「出てこいよ、オダナナーー!!」
米谷「そして、最後に運転手の❽は――」
米谷の発言の最中に、黒づくめが後方の個室から姿を現わす。
黒づくめは顔の覆面を脱ぎ棄てる。
少女たちは今まで脅かされ続けた黒づくめの素顔を見て固まる。 織田「空前絶後のおおお!超絶怒涛のラクダ系アイドルうぅう!三ケ日みかんを愛し、三ケ日みかんに愛された女!そう、我こそはぁあぁ!」
渡辺「はあ!?」
織田「たとえこの身が朽ち果てようと、アイドル道を求めて命を燃やし燃えた炎は星となり!見る者全てを笑顔に変える!そう!我こそはあぁあ!」
小林「織田っ!」
鈴本「奈那ぁ!!」
織田「痛ーい!?」
破裂音が鳴り響き、織田の頬が赤く染まる。鈴本と小林から手心なしのダブルビンタを喰らう。
織田の両頬に平手打ちした二人の頬に涙が伝う。
鈴本「好き好き大好き愛している!」
小林「死ね……」
織田「ごめんよ」
鈴本は愛を伝え、小林は言葉とは反対の意味がこもっている。
織田の謝罪を聞き、二人は泣きつく。
織田の生存を半ば諦めていたメンバーが怒るより喜ぶ。 守屋「うぉおおおお前ええええぇえええ!!」
志田「うっわ!マジに生きてやがったー!!」
佐藤「おだななあああああああぁあああああああああああぁああああっはは〜ん……!!」
石森「心配させないでよ……!」
上村「もう一生全員でマジョリティー踊れないと思ったんだから!」
長沢「もうななちゃんずできないかと――」
渡邉「ダニー!」
渡辺「だにぃ!」
織田「ハッ!ひぃいっひ!……ふへ?ホッ……」
Wワタナベから平手打ちが来ると身構える織田を、二人は左右から抱きつく。
織田は安堵し、二人の頭をなでる。 渡邉「一生離さない……」
渡辺「一生生きてて……」
織田「いや、いつかは死ぬから!」
今泉「なーちの足ぃいいいいっ」
原田「ママ〜〜!!」
織田「やめてくださーい。めっちゃやめてくださーい」
メンバーは夜の公園の街灯に群がる虫のように織田に抱き着いていく。
織田は口では嫌がるも全く抵抗をせず嬉しそうである。
仲間が生きていたことに涙を流すキャプテン菅井は違和を覚えて言う。
菅井「ちょっと待って?織田が生きてることは嬉しいけど、ふーちゃんと同じで不協和音の一味なんでしょ?」
志田「そうだったわ!お前らふざけんなよ!!」
渡辺「黒づくめがダニで、白づくめがふーちゃん……。肌の色がいっしょだ!」 守屋「あんたたち武器持ってたでしょ!」
齋藤「あーこれね?」
織田「おう」
笑顔のまま齋藤は銃、織田はナイフを取り出す。
武器を前に軍曹は動揺する。
守屋「こ、この時点で銃刀法違反でしょ!不協和音なんかじゃなくて犯人でしょ!」
志田「そうだよ!犯人だよ!!」
織田「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!!」
志田「は?何何何何!?」
織田「ふっ……ゔっ、うわ、うっ、くるっしい!」
守屋「何してんのっ!?」
織田「う〜くっ、つぁ、でゅ!っ……」
齋藤「えい!」
織田は突然ナイフを見つめて息を切らし、原田の隣の自分の席の背もたれに柄を立て、刃が背中に刺さるように座った。
齋藤は追い打ちをかけるように、白目を向いて座っている彼女の頭へ向けた銃の引き金を引き、パンと小さい乾いた音を響かせる。
メンバーは目を背けて叫ぶ。しばらくしてゆっくり目を開けると織田は生きているどころか無傷だった。 菅井「……さ、刺さってない!?」
土生「空砲っ?!」
織田「これおもちゃだよ!刺すと引っ込むやつ」
齋藤「こっちもエアガンね。弾も入ってない」
守屋「酷いよっ!」
志田「いやいや!それでも普通に恐喝だから!」
織田「それはほら!私は最初に"七不思議を解け"としか言ってないから!」
齋藤「同じメンバーになぞなぞ出しただけで恐喝はちょっと……ねえ、よね?」
米谷「……そうやな。悔しいけど」
渡邉「やっぱり……」
米谷と渡邉が不安に思っていたことは杞憂に終わらなかった。
腑に落ちない守屋は拳を握りしめ、志田は歯をかみしめて怒りを我慢する。
❷と❼の二人は判明し、平手は残る❽が誰か聞く。 平手「よね、三人目の不協和音……❽って誰なの?」
米谷「言いかけてたけど、織田の登場でどっかいったから改めて言うよ」
原田「このバスが21人乗りで、ここに乗客20人私たちがいる。そして、21人目は運転手……で合ってる?」
米谷「それで合ってる。この危なっかしい計画の黒幕やと思ってる」
菅井「くっ、黒幕ぅ!?」
上村「運転手は二十歳以上のひらがなのメンバーの井口ちゃんか佐々木ちゃんだと思ってたけど……」
鈴本「黒づくめと白づくめがひらがなじゃないんだから、運転手も違う!?」
今泉「私たちの知ってる人なの?」
守屋「誰だよっ!……黒幕誰なんだよぉ!!」
守屋の激怒に対し、米谷はつられそうになるも冷静さを保つ。
そして、運転席へ指を差し黒幕の名を言う。 米谷「黒幕は……ねる」
小林「ねる!?あの長濱ねる!?」
今泉「ねるちゃんがっ!?」
守屋「ワオ!!!」
志田「やっぱあいつか!!」
菅井「あの子が……ウソ……っ」
佐藤「ええええええぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
渡邉「やっぱりね」
長沢「薄々そんな気がしてた」
平手「……」
不協和音は齋藤、織田、長濱の三人が出揃う。
黒幕の正体を勘づいている者は少なくなかった。
米谷は最有力候補だった"けやき犯人説"について一つ付け加える。 米谷「がなちゃんらは関係していないと思う」
原田「待ってよ!中型免許は二十歳からじゃなかったの?」
尾関「あいつ十八だぞ!?もうすぐ十九だけど!!」
佐藤「三日間かけて東京から東北、ゆっかーの別荘で一泊して、また東京に戻って太平洋側を沿って関西から四国、九州まで!ぜ〜んぶねる一人で運転してたってことなの〜!?」
小林「免許なしで?ありえない……」
米谷「目的とその点だけが分からんかったところ。そこがうちよりも一つ上をいく何かが……」
織田「へえ、ホントに辿り着くとはね」
齋藤「じゃあ聞くけど、どうやってねるに至った?」
米谷「前提として七不思議のメンバーはこのバスに乗っていること。そして、黒づくめが織田だとしたら、残り運転手も欅なんだろうと考えた」
渡邉「一人だけ部外者が混じってるとは考えられないか」 尾関「白づくめ、"2"が"フー"でふーちゃん……」
石森「黒づくめ、"7"が"ナナ"で織田奈那」
佐藤「じゃあ運転手、"8"はなんでねるなの?」
米谷「"8"の読み方に関係するメンバーはひらがなにもいない。となると、"8"そのものに関連するのはねるしかいなかった。"8"=タヌキ=ねる。数字の八とタヌキには密接な関係がある」
志田「ぶっとびすぎだろ!」
平手「八にどういう繋がりがあるの?」
米谷「しーちゃんを狐として、"狐七化け、狸八化け"ってことわざもある」
鈴本「このグループに狐と狸が一匹ずつ迷い込んでるなんて……」
長沢「"八相縁起"の"八"もあるよね」
米谷「ハチ……学年も学力も何もかもうちの一つ上をいく女」 原田「ねえママ!主犯はねるちゃんなの?」
織田「言い出しっぺはね。でも私たちは共犯じゃない。三人の意思だから」
守屋「目的は何だよ!?これからどこに行くつもりなんだよ!!」
齋藤「いろいろ聞きたいことはあると思うけど、今は八つ目の七不思議を解いてくんない?」
守屋「はあ!?意味わかんない!!」
織田「それにねるから聞いた方がいいからね、色々と」
渡邉「ここまで来たら最後まで付き合うしかないか……」
渡辺「本当にこれで最後の不思議?九こ目〜とかないよね?」
齋藤「これで本当に終わり。七不思議は全部で八つ。壁は残りそこの一枚だけだし」
守屋「分かったよ!!解けばいいんだろ!解けば!」
不協和音本人からあと一つ七不思議を解けば全てが終わることから諦めて第八の七不思議を解くことにする。 志田「全てが終わったら、織田も、ふーも、ねるも覚悟してろよ!」
織田「おう、できてるよ」
菅井「ふーちゃんは今までさりげなくヒント出してくれてたんだね」
齋藤「さあね。でも私と織田もねるに何の不思議があるか分からないから参加させてもらうよ」
米谷「ねるの加入の不思議か……いっちゃん難しそうやな」
鈴本「最後の運転席の扉を開かなければ私たちは帰れない」
今泉「私たちに解けない謎はない!」
平手「解こう」
メンバーは不協和音やいろいろな謎を解いてくれた米谷に礼を言う。
不協和音の三人が判ったところで行先も目的も分からないままである。
純正漢字欅二十人で最後の七不思議"❽長濱ねるの加入"に挑む。 3:00
不協和音が判明してから、事件から三日目が、最後の七不思議に挑んでから三時間が経過した。
良案が思い浮かぶことはなくとも、バスは走り続け佐賀県を西へ行く。
真夜中でありバスは運転手と4thシングル『不協和音』フロントメンバーの七人以外は眠っていた。
上村「も〜何も思いつかないよ〜……」
米谷「もうすぐ長崎。その先陸路はもうないし、もう目的地に近いか」
長沢「長崎って、ねるの実家があることじゃん」
菅井「これで本当に全員の出身地を回ったことになるね……」
平手「でも最後の不思議"ねるの加入"……今までで一番やばいかも」
菅井「あ!今まで出題された七不思議ってねるが把握してたってこと!?」
米谷「あいつは何でも知ってる」
織田「あーそれはふーちゃん。でも、ねるが知ってるのもいくつかあったな〜」
菅井「え、ふーちゃんが知ってたの!?」 織田「みんな寝てるからここだけの話だけど、なんか眼に不思議な力があるらしい」
長沢「メ?どんな力なの?」
織田「人の言動全てをマネすることができる。それを模倣って呼んでる」
米谷「コピーか!メンバーのモノマネや極めつけはダンスの完コピはそれのおかげやったんか!」
上村「どうりで上手なわけだ!」
平手「そのふーちゃんですらねるの不思議な力を見極めることはできなかったんだね?」
織田「分かんないけど、"ねるのそれはやばいよ"って言ってた」
米谷「やばい?頭よすぎるから、全知全能とか?いいや、そんなはずは……」
平手「思い出したんだけどビンゴでしーちゃんと黒ひげ危機一髪対決した時、何の躊躇いなく刺してったよね」
織田「てか、ねるは過去一度も黒ひげ飛ばしたことないって言ってた!普通じゃありえなくない?」 米谷「飛ぶ場所を予め知っとったんか?でも、過去一度も飛ばしたことないって……」
長沢「仮に、透視の力があったとしてもバネを噛む位置を見ることなんて無理じゃない?」
米谷「ねるの不思議はそこにある。毎回飛ぶ位置が変わるのに、それを知っていた」
平手「あと、番組でタライ寸止め対決でさ初っ端頭におっこちてた時違和感あった気がする」
菅井「何がおかしかったの?」
平手「練習もなしで頭にタライを落としたのに、タライの痛みを知っているリアクションだった……」
上村「てか、タライが落ちる前から痛がってなかった?」
織田「つっちーは手が紐から離れて……とか言ってたけど、O.A.見たら離れてなかったし」
米谷「ねるは頭が良い。初っ端やったからわざと握らんかったんやなってうちは思った」
平手「あれは……リアクションはまるで一度落ちたことがあるみたいだった」 "黒ひげ"と"タライ"に不思議があることを知るも核心に触れることはなかった。
集中と気持ちが完全に切れかけていた。
菅井「ん〜……ノーヒントでこれはちょっとさすがに……」
織田「あ!なんか『乗り遅れたバス』って言ってたっけ」
米谷「ヒントあるんかい!」
上村「それを先に言ってよー!」
織田「へへ……」
長沢「あの歌の歌詞はまさにねるが加入するまでのことを歌っている」
菅井「ねると言ったらバスだもんね!あの歌を思い出して考えてみよう!」
米谷「ねるは超例外処置で加入することになった。そのまま歌となったのがあの歌……」
織田「母親を説得できなかったねるは、"片道切符を持ったまま坂の途中で途方に暮れた"」 米谷「東京からここ長崎に連れ戻されて泣きじゃくっていたとか……」
上村「それを見かねた両親が運営に掛け合って、八月末の乃木坂さんのコンサートに招待したんだよね?」
米谷「ねるの奇跡は二つある。一つは、三次で合格しつつも最終を辞退したことにある」
菅井「辞退したから合格したことが奇跡?」
米谷「辞退しなければねるは加入することはできなかったかもしれなかった。漢字欅は偶然なのか、意図してなのか本州出身のメンバーしかいない」
長沢「確かに。三次で九州から受かったのはねる以外にも一人はいたのに、結果は本州の私たちだけだね」
米谷「この結果からねるが最終で合格した確率は半々てところ」
菅井「それを100%にするためにあえて辞退したってこと!?」
米谷「結果論で言うなら」
織田「同じ土俵で戦って勝つ自信がないからあえて辞退して、あの劇的加入を狙った?」
上村「加入……!ここでキーワード出て来た!」 長沢「ねるにとっては、最終オーディションパスより乗り遅れ加入の方が可能性が高かった?」
米谷「リスクでかすぎるやろ……」
上村「でも最終オーディションに落ちてたら、あの乗り遅れ加入は0%になってたよね?」
菅井「あ!AKBさんにも1.5期生に篠田麻里子様っているじゃない?もしかして、その枠を狙ったんじゃ!?」
長沢「狙っていけるもの?」
米谷「結果的にそこに入ってる……」
上村「篠田さんも九州出身じゃなかったっけ?」
平手「ねると一緒じゃん……」
織田「実質ねるも欅の1.5期生だし……何か関係してるのかも」
姉グループのライバルグループの初期に特例で加入したメンバーがいた。
彼女との出身地や乗り遅れ加入の共通点に悩む。 平手「それで、二こ目の奇跡って言うのは何?」
米谷「それはちょうどいいタイミングで解雇者が出たこと。これは大きい」
織田「は?イージーとねるのどういう関係がある?」
米谷「結論から言うと解雇者が辞めなければねる加入はなかったと思う。"欅"という漢字の画数も21画でもあり、穴を一つ開けてその穴を自分で埋めた」
菅井「画数と同じ21人にこだわりがあったのは確かだし、そうかもしれない……」
織田「待って。ひらがなの構想が元々あったとして、イージーが辞めてなくても、ねるはひらがな募集でどっち道入って来てたんじゃない?」
米谷「そこが奇跡や。イージーが辞めない世界で、ひらがなと一緒にねるが入ってきていたらどうなってたと思う?」
上村「ああ!ねるちゃんは漢字欅と兼任することはなかったと思う!」
長沢「確かに!ソロ曲もない、選抜にも入っていなかったんじゃない?」
平手「特例で加入しなければ天と地の差……」 米谷「そういうこと。だからイージーの脱退は奇跡」
菅井「それを見越して、最終オーディションを辞退した!?」
長沢「もしくは、あらかじめ解雇者のあのプリを入手していたとか?」
上村「プリを持っていたとしたら、ねるちゃんが拡散して解雇に追い込み、その穴を自身で埋めたことになる!」
織田「だとしたら、イージー気の毒じゃん!」
米谷「真相は分からんけど、その二つの奇跡が重なったからやつは今ここにいる」
上村「奇跡なんて人生に一度あればいいのに……それを二度も?」
織田「歌詞にあるように、いつかどこかで合流する運命にあった?」
平手「運命……。それがねるの不思議だとしたら……」
米谷「"できることなら時間を戻し一緒に行きたかった"……できてしまったら、奇跡は起こせる」 菅井「時間を、戻した……!?」
織田「それだ!!ねるは時間を戻せる!全てそれで説明がつく!!」
"タライ"も"黒ひげ"も欅坂への加入も何もかも時間を遡れさえすれば何度でもコンティニューできる。
少女たちは第八の不思議"❽長濱ねるの加入"の一つの答えにたどり着く。
長沢「タイムリープ……平手じゃなくてねるだったんだ」
菅井「でも待って!タイムリープできたのであれば最終オーディションの前に母親を説得できたはずじゃない?」
米谷「ただのJKだったねるがタイムリープを使えるはずがない。三次通過後、長崎に連れ戻されて泣きじゃくっていた数日の間に時を戻したいという想いから生まれたもの……」
平手「それだったらやっぱりオーディション前に戻ってお母さん説得できるよ?」
米谷「考えられるのは、最終の後にしか遡れなかった。もしくは最終より前に遡れたけど母親を本当に説得できなかった。けど、その後にタイムリープをしながらいかなる手段を使って全ての奇跡を起こし、あの最高なタイミングで加入した」
織田「なるほど!お母さんの理解は乃木坂さんのコンサートを直接観てもらうことでしか得られなかったんだ!ねるは最終オーディションを受けれない運命にあった!」
長沢「全てがねるの仕業だとしたら一体どれほどの苦労をしたんだよ……」 上村「どうにかして親から運営へ掛け合ってもらうように何か演技かアクションをして、乃木坂さんのコンサートに行って……」
長沢「誰か一人辞めさせるためにメンバーのスキャンダルを探しまくったんだ」
菅井「タイムリープがあるとはいえどれほどやり直したんだろう……」
織田「長時間遡れるわけじゃなさそうだから、何十回、何百回も短時間で戦ってきたんだ。そんなに私でもできないよ……」
平手「決まりだね。よね、最後は任せていい?」
米谷「任せて、てち」
平手から託され米谷はマイクを握る。
三日間の出来事を振り返り、壁越しの運転手を睨み付けて回答する。
米谷「ねるは時間を遡る力があり、21人目として狙って乗り遅れ加入した」
運転手『ピンポーン!大正解〜』
回答直後、運転手がバスガイドマイクに吹き込んだ甘い声が車内に響く。
運転席を囲っていた壁が動き出し、床に吸い込まれていく。
長い旅路を経て、乗客と運転手は初めて対面を果たす。 保守支援ありがとうございます!
ここで第九話終わりです。
ラスト最終話はだらだらとかなり長いですが、誤字脱字、起承転結気をつけます。
支離滅裂、矛盾などご指摘いただけましたら幸いです。
土曜日にあげて終わりにします。 調べたら許容って書いてあったけど黒ずくめじゃなくて黒づくめって書いてあるのが若干気持ち悪い バス
/ 運転席
土生菅井 尾関石森
小林上村 米谷佐藤
平手鈴本 小池今泉
原田織田 志田渡邉
齋藤渡辺 長沢守屋
WC / 最終話
3日目 4:00
バスは長崎を南下し、黒い空はやや明るみ始める。
米谷が最後の七不思議を答え、運転手自ら判定を下す。
三日間で初めて聞くその声に、眠っていたメンバーが目を覚ます。
運転席を囲んでいた最後の壁が消えていくのを見て、最後の七不思議を解いたことを理解する。
壁が床に吸い込まれ、運転手の後ろ姿が見えるようになる。
平手「お前は……!」
今泉「よねみんの言ってたことは本当だったんだ!」
菅井「そんなところで何やってんのっ!?」
守屋「本当にあいつがずっと運転してたのか!!」
佐藤「すごすぎる〜!この三日間、東京からメンバーの故郷を寄ってここ長崎まで来たんだ〜!」
上村「信じられない……。これ、やっぱり夢?ほんとに現実なの……?」
渡辺「……何?あれ、誰?」
渡邉「停めろ」
長濱『次停まりま〜す』
長濱は運転しながら再びバスガイドマイクを使って答える。 米谷が席を立ち運転席へ行き、運転手の顔を覗き込む。
米谷「どこに向かってる、ねる?」
長濱「よねさん。もう着くよ」
米谷「ここは……長崎空港?」
長濱「危ないから座ってシートベルトしててね」
米谷「このまま東京に帰る、ってわけじゃなさそうだな」
長濱「運転まだ慣れてなくて、ながら運転の余裕なんてないからちょっとだけ待ってて」
守屋「よくも無免許でここまで連れて来てくれたなぁ!」
菅井「道交法に違反してるじゃないのっ!」
長濱「免許ならあーるよ。ホラ」
長濱が片手運転になり、懐からある物を取り猿腕を後ろへ伸ばす。
運転席の後ろの席の尾関が奪い取り、石森とまじまじと見る。 尾関「何この手帳?これが免許?」
佐藤「なんか違くない〜?運転免許証ってさ普通のカードなはずだけど、何このパスポートみたいなの〜?」
石森「じゃあ偽物じゃん!」
守屋「誰かー!免許持ってる人本物かどうか確かめてー?」
長濱「誰も持ってないよ。ちなみに澤部さんも」
菅井「嘘!?まだ誰も取ってなかったなんてっ……」
渡邉「でもこのバス、中型免許だから二十歳にならないと取れないんじゃなかったっけ?」
志田「お前まだ18だろ!はい逮捕!」
長濱「国際免許だから問題ないよ」
米谷「国際……免許?そういうことか……」 小池「よね、そんなんありなんか!?」
米谷「うちも詳しくはないけど……でも、こいつはどうにかして法には触れないようにしてる」
長濱「取るの結構大変だったな〜」
菅井「一体何のために取得したのよ!?」
土生「まさか、このためだけに取ったていうのっ!?」
長濱「それとこれからのためにもね」
長沢「コレカラ?」
米谷「もう一度聞く。これからどこへ行く?」
長濱「北欧」
渡辺「ほく、おう?……どこ?」
長崎空港の駐車場にバスが停車する。
運転手はエンジンを切ると、乗客たちに振り向く。
乗客たちは溜め込んでいた怒りを解き放つ。 長濱「さてと、一から説明するよ。まずはこのバスの名前は『ブラックねるちゃん号』」
石森「このバスねるが買ったの!?一体いくらしたの!!」
渡邉「どうかしすぎてる……」
尾関「はあ?それってあのガムのCMのラジコン?」
佐藤「会議中に何度もキュルキュルやってイラつかせたり、うとうとしてる人に突進してコーヒーをぶちまけたり……とてつもなく迷惑な車ってところは同じだな!」
長濱「そうかな〜会議中に寝てる人の眠気を吹き飛ばしてあげたんだよ?」
志田「誰も聞いてねえよそんなこと!!」
守屋「北欧に行くってどういうことなんだよ!!!」
小林「……ろしたい」
小池「ダボが!!チョーシこいてんちゃうぞオレぁ!」
長沢「家に帰せ」
長濱はかつて見せたことがないメンバーの激昂を受けて尚涼し気な顔をしている。
集中砲火を浴びる長濱はある物を取り出し、メンバーへトランプの手札ように見せる。 長濱「行けるよ。チケットならここに21枚あるんだから」
土生「もう航空券買ってあるのっ!?」
菅井「おかしいよこんなの………!」
小池「こいつホンマに頭わいとんのとちゃうか?いや完っ全にわいとう!」
守屋「あああああああもぉおおおおぉおおおっ!!意味わかんない!!」
上村「狂ってる……っ」
志田「ねえもうこいつ殴っていいよな!?」
長濱「殴りたければ殴ればいいよ。私には私の正義があるんだから」
平手「へえ……どんな?」 遡ること五日前の7月21日、初の野外ライヴを控えた前日の事。
空き部屋に不協和音の三人だけが集まっていた。
長濱『ふーちゃん、オダナナ。二人に相談があるの』
齋藤『何、ねる?改まっちゃって。好きな人できた?』
織田『お、何だー?誰なんだー?』
長濱『違ーう!今後の欅の話!』
織田『今後の、うちらの?』
長濱『結論から言う。北欧で勝負したい』
齋藤『なんやて……?』
織田『いいいぃいいっ!!どーゆーことだよ!?え、海外行って何すんの??』
長濱『AKB48に勝つ』 織田『あのAKBさんに!?ええぇえええぇ……』
長濱『そ。"エーケービー"に』
齋藤『本気なの?正気だよね?勝つ気ある?』
長濱『全部あるったい。勝つにはこれしかない』
齋藤『……分かった。ねるが導き出した答えがそれならついていくよ』
織田『ふーちゃん!?はあ…………よし、行こう!』
長濱『ありがとう!二人とも大好き!!』
齋藤『で、皆を説得できるの?』
織田『いろいろと課題はあるでしょ?』
長濱『協力して』 三人の回想を聞いて、一同は頭を抱える。
日本一の国民的アイドルグループに勝つために海外に行くことに理解ができない。
小林「言ってること全然分からない……」
鈴本「あのさ、寝言は寝て言ってろよ!もう起きなくていいからさあ!!」
長濱「断言する。今のままじゃ欅がAKBを超えることなんて未来永劫絶対にない」
渡邉「だから何だよ。そんな妄言のために私たちをこんなとこまで連れて来たっての?」
渡辺「本当に怖かったんだから!」
長濱「そのことについては本当にごめんなさい」
守屋「謝ったところで警察いらねんだやあぁああああぁ!」
石森「もう帰らせろよォ!」
志田「ガチで通報しようぜ!続きは刑務所で話してろよ!!」 小池「不協和音とかほざいとうけど、何かしろの犯罪やろ!」
上村「まだ圏外のままー!」
尾関「早く電波妨害を止めろよ!!」
佐藤「てか、電波障害って電波法?か何か知らないけどアウトなんじゃない?」
長濱「それも法には触れてないよ。このバスの装甲や窓を完全防音にしたから電波も届かなくなってるだけ」
長沢「このバスやけにごついとは思ってたけど、エレベーターの中みたいだったんだ……」
米谷「こいつ、ホンマにどんだけかいくぐってん……」
今泉「じゃあ早くここから出してよ!!」
原田「……っ」
菅井「みんな待ってっ!!」
原田はメンバーの怒りを目の当たりにして怖くて涙を流す。
菅井は長濱の前に立ち手を広げる。それを見て守屋はさらに怒る。 守屋「なんだよ!!友香もそのたぬきの味方なのか!?だとしたら――」
菅井「違う!!!」
鈴本「なんでそいつをかばう?ねるが最近調子こきまくってるの目に余ってったのに!」
菅井「ここまでしたってことはそれなりの理由があるはずだよ!仲間なんだから……!」
小池「仲間……なわけないやん!!こんなメンバーを恐怖のどん底に陥れて、こんなとこまで連れてきてー!」
菅井「もし本当に警察に突き出すなら、話を聞いてからでもいいじゃない!」
平手「そうだよ」
キャプテンの涙の叫びと同意する最年少に一同は一時興奮を落ち着かせる。
渡邉は二つ返事で長濱の仲間になった二人を睨みつけて言う。
渡邉「ふーちゃんもオダナナも容赦しないから。覚悟してて」
齋藤「できてるよ。なんかねるだけ責められててあれだけど、うちらもこの危なっかしい計画に加担してるから」
織田「おう」 菅井「誘拐までして、長崎にまで来て……この三日間に一体何の意味があったの?」
織田「一つ!故郷にはしばらく帰ってこれないかもしれないから」
齋藤「一つ、七不思議を解くことによりメンバーの事をお互い理解し合ってもらうために」
長濱「一つ。いかなる状況においても全員で戦い、立ち向かって乗り越えられるか」
志田「ふざけやがって……あれで実家に帰らせたつもりかよ!」
織田「行かないよりはよくない?」
今泉「でも、これ以上ないってくらいにメンバーのこと解れたのは確か……」
齋藤「謙虚、優しさ、絆が深まったでしょ?」
鈴本「七不思議を解いて、不協和音を当てて……うちらにできないことはないと思えた。でもさ、国を捨てて何のために勝つの?」
長濱「何のためにって……そんなの決まってる」
菅井「それは何?」
長濱「私たちが!この世界に!!生まれたからだよ!!!」 長濱は一年半を共にしていまだかつて見たことがないほど真剣に、瞳に闘志を燃やして言い放った。
彼女は本気だとメンバーは感じ取る。
土生「ヱレンみたい……」
志田「バッカじゃねーの?」
石森「その"私たち"に私も含まれてるわけ?」
織田「私たちっていうのは"欅坂46"のこと」
長濱「忘れられてると思うけど、乃木坂さんはAKBのライバルと宿命づけられてデビューした」
今泉「でもうちらはそんなライバルだなんてうたわれたりしてないよ!」
平手「私たちは乃木坂さんの妹だから、AKBさんは私たちのライバルでもあるってこと?」
守屋「そんなこと誰に言われたんだよ!!今野さん!?先生?!」 長濱「誰からも言われとらんよ」
志田「はあ?じゃあ何で行かなきゃならねんだよ!」
織田「誰かに言われなければやらないの?」
志田「ムカつく〜!」
齋藤「断っておくけど、乃木坂さんがAKBに勝つことはない」
上村「乃木坂さんでも無理なの!?」
渡辺「私たちが勝てるわけないじゃん……」
長濱「ここにいたらね」
齋藤「私たちは何かと乃木坂さんと比べられることがあった。例えば、シングルの売上枚数」
織田「乃木さんは『インフルエンサー』100万枚に対し、うちらは『不協和音』80万を越している。これどういうことか分かる?」 米谷「乃木さん18thを、うちらの5thが追いついてしまう?」
長濱「その先。6thで私たちは……確実にミリオンセラーに達し、乃木坂さんを追い越してしまう」
上村「あの乃木さんを、越してしまう日が来るなんて……。越していいのかな……」
長濱「もちろん今の欅があるのは乃木坂さんあってのもの。でも、AKBに勝てないのであれば超えるべき壁」
渡邉「紅白もたいぶ早く出れたね。それも乃木さんのおかげ」
長濱「来月から全国ツアーがあって、きっと年末には東京ドームも行けると思う」
志田「早っ!」
長濱「乃木坂さんに勝ってようやくAKBと戦えるスタート地点に立つことができる。それが、第0ウェーブ」
長濱は右手をグーにしてメンバーへ見せる。
"波"という言葉に反応し、小池が問いかける。 小池「ウェーブ?何波まであるん?」
長濱「第三ウェーブまであるけん」
小池「その三つ波さえ起こせばAKBさんに勝てる言うんか!?」
長濱「見えないもので勝った負けたでバカみたいに言い合ってても仕方ないからね。確実に数字で勝ちに行く」
守屋「数字でねえ。第一ウェーブは何だよ?」
長濱「先ずは、YouTubeの再生回数。指原莉乃の恋チュン1.1億回、そして大島優子さんのヘビロテ1.3億回を超すこと」
渡辺「なんで大島さんは"さん"付けで、指原さんは呼び捨て?」
今泉「お前さっきからAKBさんのことも呼び捨てにしてるよな?」
長濱「大島さんは過去の人。指原は現役でライバルだから。ライバルに"さん"付けするのおかしくない?」
齋藤「たった一曲でもいい。うちらのデビュー曲『サイレントマジョリティー』で再生回数1.3億回いって初めて第一ウェーブクリア」 原田「公開して一年半でサイマジョの再生回数が7,000万回突破したから、この勢いのままいけば来年くらいでいけそうじゃない?」
長濱「ちなみに6,000万回再生の期間は、恋チュンが378日、ヘビロテ456日。サイマジョは424日くらいだったかな」
尾関「ヘビロテに勝ってんじゃん!」
石森「でも、恋するフォーチュンクッキーに負けてる……」
織田「公開されたのがヘビロテは2010年秋、2016年春。再生回数は一年半でヘビロテの60%くらい」
齋藤「最終的に累計でヘビロテにさえ勝てばいい。そのためにはもっと知名度を上げないといけない」
長濱「向こうに行けばより多くの人に知れ渡る。去年にドイツ衣装問題で炎上したことあるから一度は目にしてると思うから土台は0じゃない」
志田「マジで世界進出するつもりだったのかよ!」
小池「ほんまに頭お花畑やんな」 渡邉「第二ウェーブは何?」
長濱「次は、主力メンバーの知名度をアップさせる企画」
齋藤「今のままでは、平手友梨奈withバックダンサーのままだからね」
織田「神7は今はまゆゆ以外卒業しちゃったけど、世間一般の知名度が高すぎる」
長濱「あっちゃん、ゆうこ、マリコ様、まゆゆ、たかみな、こじはる、ともちん、あとゆきりん。この人たちは一般人が誰でも知っとる知名度」
渡辺「ん?7?……8人いるよ」
長濱「その8人に匹敵できるメンバーは今回やってもらった七不思議にある」
長沢「七不思議って、まさか……」
七不思議に出題されたメンバーは顔を見合わせる。
第三の不思議の守屋は手を横に振り言う。 守屋「いやいや!神7に七不思議で対抗しようってのー!?」
志田「負ける気しかしないんだけど!」
齋藤「やってもらったと思うけど、その9人には不思議な力がある」
三日間かけて解いた八つの七不思議メンバーの九人を思い浮かべる。
改めてそのすごさに面食らう。
小林「まあ確かにその子らはすごいけどさ、どう勝つんだよ?」
長濱「神7に対抗馬を持っていって、それぞれ倒してもらう」
土生「例えばどう持ってくる?」
長濱「てちこは不動のセンターあっちゃん」
平手「ううん、無理」
齋藤「今泉は二番手の優子さん」
今泉「無理だよ!」 長濱「ねるは同じ1.5期生でもあるマリコ様」
志田「スタイルその他全っ然適ってねえから!」
織田「キャプテンの友香は初代総監督のたかみな」
菅井「無理でしょ!」
齋藤「茜はおしゃれ番長のともちん」
守屋「はい無理ー!」
織田「理佐はCGのまゆゆ」
渡邉「いや、無理だから」
齋藤「ぺーちゃんは天然系のこじはる」
渡辺「……無理に決まってんじゃん」 織田「ついでに、鈴本は出るとこ出てるしリアクション女王のゆきりん」
鈴本「っ!?」
齋藤「出たー!鈴本の顔芸!」
七不思議に出てこなかったのに急に名前が挙がり自然の顔芸を披露する鈴本。
対して七不思議に出てきながら名前が挙がらなかった二人が口を挟む。
佐藤「ちょっとー!!私七不思議に出て来たのになんで誰の対抗馬でもないの〜!?」
上村「私もなんだけど!」
長濱「あ、96年組は控え……じゃなくて秘密兵器ね」
上村「え〜」
今泉「私が言うのもあれだけど、お前どんだけ自信あんのよ?」
長濱「無理だと思ってるのはナナフシちゃんたちだけじゃなさそうだよ?ほら」 石森「でも今の聞いてさ、なんか勝てそうじゃない?」
尾関「確かに。あの神7と同等に渡り合える力を秘めてそう」
小池「テキトーやと思ったけど、案外いい線いっとうかもしれへんな」
渡辺「私があのこじはるさんと……そんな………」
齋藤「こじはるさんに雰囲気似てるし、もっと色気アップしたら超えれる」
渡辺「セクジ〜?」
渡邉「でも、総選挙1位二回もなったことのあるあのまゆゆさんに…………」
織田「まゆゆに勝てるのは理佐しかいない。ねえ、愛佳?由依?」
志田「絶対勝てる!」
小林「100%勝てる!」
渡邉「ひー!」 守屋「ともちんさんのおしゃれに適うかな……」
小池「あのともちんさんにもう勝ってんちゃう?」
菅井「ちょっと!大先輩に対して失礼じゃない?」
長濱「先輩じゃない。ライバルだよ」
齋藤「茜らしくないね。本気であの人に勝てないと思ってんの?」
守屋「絶対負けない!」
菅井「高橋さんは総監督として、AKBだけじゃなくてAKBグループ何百人のリーダーとしてまとめてきたお方で、ユーモアがありとても尊敬してる。そんな人に勝てるわけないじゃない……」
長濱「ユーモアというか面白さはいい勝負してるよ」
齋藤「不器用ながらも一生懸命うちらのことまとめてくれてるじゃん。いつも助けられてるよ」
菅井「え、そうかな〜?」 今泉「優子さんアイドルとしてもすごいけど女優としてもすごいし、どこで勝てばいいの?」
齋藤「歌唱力だけで言えば今泉が勝ってる」
織田「髪切ってからの伸びしろやばそうだから、プロ意識で超えてくれ」
今泉「いや〜それほどでも……」
平手「二十一世紀最強のアイドル前田さんに私なんか……」
長濱「山口百恵さんの再来とまで言われてるてちならいけるって」
平手「う〜ん……」
齋藤「一こ言い忘れてたけど、あかねんは国生さゆりさんだもんね」
織田「たまに土田さんが言ってるもんね」
守屋「へへへ!」 長濱「一番売り出せる可能性が高いのは強い不思議な力を持つこの子たちってわけ」
長沢「強い?他にも持ってる子がいるの?」
齋藤「ちなみに、ここにいるみんな不思議な力を持っているよ」
菅井「ぜ、全員持ってるの!?」
織田「自分から手の内を晒さないからね〜みんな」
齋藤「さりげなく使ってる子もいるけど、私の眼は誤魔化されないよ」
石森「待って!私持ってないんだけど!!」
齋藤「自分の不思議に気づいてない人もいるけど、まあ大体みんなが予想してた通りだよ」
石森「私も……?」
全員が不思議な力を持っているとは思っていず、驚きを隠しきれない。
出題された不思議が解けずに、脇道にそれて他のメンバーの不思議を予想していたことを思い出す。 織田「不思議があるのに、私たちのケヤカケやKEYABINGOはAKBINGOの足元にも及んでない」
渡辺「オンエア見てるけど、自分で言うのもなんだけど面白いよ!」
長濱「BINGOでは私たちは企画をやらされてるだけの人形とはいえ、AKBINGO見て勉強すればよかったのに」
志田「人の事言えねえだろが!お前も出てるんだから!」
長濱「そうだったね。勉強不足だったな……」
織田「あまりにもつまらなさにけやかけとカスをかけて"けやかす"と呼ばれてるんだよ?」
原田「あれ?なんかちょっと違うような気がするけど……」
守屋「あっちには五年とか十年の大先輩たちがいるんだから無理言わないでよ!」
齋藤「チーム8の子たちとそう年齢も変わらないのに、完全に負けてるよ!」
土生「本家の一番下にも負けてるなんて……」 渡邉「"会いに行けるアイドル"……意外と強いからね。あの子たちも」
渡辺「私、べりんちゃん知ってる!」
織田「乃木さんの七福神は十福神とかころころと変動するし、それすらもまったく世間に知れ渡っていない」
上村「生駒さんと白石さんの二人が一般の人の知名度高そう」
小林「センター経験者でもある西野さんや卒業した橋本さんも高そうじゃない?」
齋藤「こないだ友達何人かに聞いたら上二人は知ってたけど、下二人は全然知らなかったから」
織田「神8に対して、乃木さんは2/8。欅はセンターのてち、かろうじてノンノモデルの理佐の二人だから2/8」
長濱「選抜総選挙がない坂道グループがいかにして神7のように世間に知れ渡らせたらいいか。そのための何かをしなければならない」
齋藤「まあ方法は置いといて、選抜総選挙に匹敵するものでなければ平手以外の知名度は上がらない」
織田「坂道は順位付けはしない、それが逆に枷となっているんだ」
長濱「第二ウェーブの企画はまだ保留ってことで」 米谷「第三ウェーブは何や?」
長濱「最終ウェーブは、シングルで256万枚達成すること」
菅井「156……じゃなくて、256!?」
守屋「やっぱり最後は結局CDの売上枚数かよ!!」
平手「それはさすがに……」
長濱「こないだの48ndシングル『願い事の持ち腐れ』の255万枚を越さなければならない」
齋藤「売上が爆上げする選抜総選挙がある以上、AKBに勝つことは絶対にない。世界が滅びても」
長濱「乃木坂さんは当初、半年でAKBに追いつくと言われていたけど、結局六年もかけてようやくミリオンを達成することができた」
齋藤「乃木さんの方が可愛い子がいっぱいいる。でも、どんな逸材を集めてすごいプロデューサーがいても追いつくのは無理だ」
織田「うちらの最終目標は256万枚達成すること。日本にいたところでWミリオンすら達成できないだろう」 長濱「総選挙がない欅は、国境を越えない限り永遠に追い越せない」
齋藤「今のAKBは人数増加に比例して売上を伸ばしているに過ぎない。一人当たりの売上からしたら乃木さんが勝ってるけど、それだと何の意味もない」
長沢「わざわざteam8を47都道府県というふうにして、47人増やしたのはそのためか」
土生「メンが多ければ多いほど、握手券が売れまくる!」
佐藤「秋元先生は作詞家プロデューサーでもあると同時に超すごい錬金術師だよね〜……」
織田「私たちの場合、メンバーの数を増やすのではなくて国民の数を増やす!」
尾関「それでイギリスじゃなくて、北欧って言い方なのか!」
原田「北欧より世界一のアメリカの方がいいんじゃないの?」
齋藤「アメリカは太りやすいし、アイドル活動にはちょっと向いてない」
長濱「北米も考えたんだけど、やっぱり北欧以外考えられなかった」 鈴本「そういえば、オダナナ前にKeyaRoomで"海外に行って世界を広げたい"って言ってたもんね」
米谷「あと、ねるが番組で卒業後北欧に住むとか何とか言うとったな」
菅井「イギリスとか海外って治安とか危ないんじゃない?」
長濱「日本よりかは安全とは言えないかも。でも、私たちはこの欅の門をたたいたのは命を賭ける覚悟があったはずだ」
志田「ねえよ!お前らだけだろ!」
土生「英語とか無理なんだけど!」
長濱「ねるはイギリスにもホームステイしとったこともある」
織田「私もこないだ英検2級取ったから」
小池「それが何や!せめてTOEICやろが!」 米谷「成功する保証はどこにあるん?」
長濱「そんなのないよ。でも、この21人にできないことなんてないと思っとる」
渡邉「またそれ……。それさえ言えばいいと思ってない?」
長沢「すごい自信……ずーみんのそれを超えてる」
長濱「256万枚達成してこそ、私たちは初めてAKB勝ったと言える」
小林「もし勝てなかったら?」
長濱「さあ?そんなこと微塵も考えとらん」
土生「256万を達成した時……私たちの生まれた意味を果たせたということだよね」
織田「そうだよ。そのために生まれてきたんだから」
土生「じゃあその後は?もしも、あのAKBさんに勝つことができた後の私たちはどうすればいい?」 長沢「そしたら解散?」
渡辺「やだよ!みんなで欅やってたいよ!ずっと!」
長濱「勝つ気満々じゃーん!」
守屋「答えろよ!勝ったらどうするんだよ!」
長濱「その時は日本に帰ろう。そして…………」
平手「そして、何をする?」
長濱「やりたいことをやろう」
今泉「やりたいこと?」
長濱「AKBに勝ったんだから、できる権利があるはずだよ。"ここのいる人の数だけ道がある"んだから」
齋藤「土生ちゃんに合わせていうならヱレンが巨人を一匹残らず駆逐し終わった後何でもできるでしょ?」
土生「なるほど……すごい納得」 長濱「アイドルなんて所詮は操り人形に過ぎない。糸から解き放たれる時が今なの」
齋藤「ジョリティーや他の楽曲も大人は信用できない〜とか支配されない〜だの言ってるけどさ、大人たちの操り人形が何言ってんだかって感じだよね」
今泉「確かに、そうかもしれないけど……じゃあ大人たちに頼らずに行くって言うの?」
齋藤「ああ。あれは、私たちに独立してもらいたくてあんな歌詞を歌わしてくれてるんじゃないかって思った」
志田「考えすぎだろ!」
長濱「AKBグループはその地域を拠点に活動をしている。坂道はそれに対抗するために生まれた」
織田「うちらはSKEにもすでに勝っている。あとはAKBだけなんだ!」
齋藤「ソニーのお金稼ぎのためだけの操り人形とか嫌でしょ?」
原田「それは……っ」
米谷「お前らの言い分はよく分かった。北欧、イギリスへ渡って会社を興すんやな」
織田「うん!」
三人は同時に頷く。その肯定の意思は固く揺るがない。
メンバーは呆れてモノが言えず、深いため息をつく。 守屋「はあ……。通報はしないであげるから、バカなことを言ってないで帰ろ?東京に」
志田「オイねる、その券東京行きに変えてこいよ。お前の運転するバスにはもう一生乗りたくねえから」
小林「早く行け」
石森「てか東京に帰ったら、ひらがな専属になれよ!」
上村「え、でも影山ちゃんたちかわいそうじゃん!」
小池「やんな!サリーちゃんめっちゃかわいそうやん!辞めさせた方がええやろ普通に!」
鈴本「お願いだから二度と私たちに関わらないでほしい。ここまで付き合ってあげたんだからそれくらい聞いてくれるよね!ねえ聞いてる?」
渡辺「また特例で再加入!とか絶対止めて!迷惑だから!」
長沢「ひらがな2期受けないで。運営が受からせちゃうから」
罵詈雑言を長濱は一身に受ける。共犯である織田と齋藤は幸いにも非難を浴びることはないが、それが辛かった。
二人は七不思議を解きながら長崎へ行くことまでは知らされていたが、肝心の北欧へ行かせる術を知らなかった。
この状況でを18人の少女を説得することは想像すらできない。ただ一匹の狸を除いては。 長濱「そうだよね。二度と関わらないから、最後に一生のお願いがあるの!聞いて?」
守屋「誰が聞くんだよ!!」
小池「うちらの話は聞こえんみたいやな。耳栓でもしるんか?」
長濱「聞いてくれたら本当に二度と関わらない!卒業じゃなくて解雇でいい!ケータイからみんなの連絡先、全てのやりとりを消す!てか消して!」
全てのデータを消去するということは過去未来一切の交流が無くなるということを意味する。長濱はその願いのためならそれすらも厭わない。
加入した時は受け入れられなかった存在だが、デビューを共にして一年半ずっと一緒にいた。今まで活動してこれたのは、"欅"の最後の一角を長濱が補っていたのが大きい。
北欧へ行くことは捨て置くが、最後の願いだけは聞こうか揺れている。
渡邉「……それ全部本当?」
長濱「このバスでねるは一度たりとも嘘や冗談は言っとらんよ」
齋藤「みんなお願い!」
織田「お願いします!」
不協和音三人は同時に深々と頭を下げる。
18人の少女たちは仲間のつむじを見て、顔を見合わせる。 菅井「本人が最後って言ってるんだし、お願いが何なのかだけ聞いてみよ?」
守屋「こんなやつでも、一年半共にした仲間だしね。言うだけ言ってみて」
長濱「ありがとう!お願いっていうは、AKBに勝つために北欧へ行くねるを論破してみてほしいの。一人ずつ」
渡辺「ロンパ?」
志田「論破ってなんだよ!行くか、行かないかで議論すんのか?」
長濱「そう。簡単でしょ?」
鈴本「もしこっちが論破されたら行けって言うの?」
長濱「いや、そうとは言わん。けど、そうなるかも分からんけん」
菅井「それが、最後のお願いなの?」
長濱「うん。言い方変えるならただ最後にねるとお話しして?」 守屋「お話って、それなら別にいいんじゃない?」
佐藤「ねる最後のお願いなんだし、お話ししようよ〜!」
志田「話すことなんて何もない」
上村「これでサヨナラなんだから少しくらいならいいかも」
尾関「てか、論破されるわけがない!逆にし返してやるよ!」
米谷「……ねる、余程の自信なのか……。それとも何かあるんか……」
原田「"一人ずつ"って言ってる程だし、すでに全員と戦う気でいる?」
渡邉「……やるの?やらない?」
"行かない"と一点張りしてしまえば議論の余地もないはずなのに逆境でこの要求をして来た。
長濱に怪しさを感じて尻込みしてしまう者と話だけならと応じる者に分かれる。 長濱「やっぱりみんな万一のことを考えて、家族とか心配だよね?」
石森「レディーちゃんとお姉ちゃん!」
今泉「四人の愉快な兄とラッキー!」
上村「お兄ちゃんと妹」
尾関「お兄ちゃんとネックレスくれたお姉ちゃん」
織田「私は宝物の妹とお姉ちゃん」
小池「おらん」
小林「お姉ちゃん」
齋藤「私も姉ちゃんいるよー」
佐藤「二つ年上で私より話が長くて可愛くて頼りになるお姉ちゃん!」 志田「姉貴」
菅井「お姉様!とトム!」
鈴本「お姉とバムくん!!」
長沢「お姉ちゃん」
土生「ロク!てか、お姉ちゃん率高くない?」
原田「弟……」
平手「チェリーちゃんにお兄ちゃん」
守屋「2歳下と5歳下の妹!!」
米谷「いもーと」
渡辺「お兄ちゃんと妹」
渡邉「お兄ちゃん」 長濱「ねるもお兄ちゃんとお姉ちゃんおるったい」
今泉「いや、お前のは別に聞いてないから!」
長濱「もしかして、ねるたった一人に勝てないと思っとる?」
志田「ふざけんな!やってやらぁ!!」
鈴本「調子に乗らないでもらえる?」
小林「潰す」
守屋「負けるかよ!終わらせてやるよォ!」
石森「待って、茜。ここは私から行かせて」
守屋「虹花……分かった。任せたよ」
守屋は同郷の石森に先頭バッターを託す。
一番最初だからこそ石森は本領を発揮できることを本人は知らずとも本能で感じている。
長濱の挑発に乗せられた形で最後の議論が始まる。 石森「私には愛するレディーちゃんと家族、そして故郷がある!だから行けない、行けるわけがない!」
長濱「だよね。たまに虹花ちゃんおうちに帰ってるもんね」
石森「帰らなきゃならない故郷がある!」
長濱「でも、その家は動かないよね」
石森「……は?何言ってるの?動かない?」
長濱「虹花ちゃんが北欧へ、月へ、宇宙の彼方へ行こうが帰る家は宮城に在り続ける」
石森「は?月?」
長濱「問題は家との距離。離れれば離れるほど、帰る時間もお金もかかる」
石森「そうだよ!いざって時にすぐ帰れないと困る!」
長濱「飛行機で東京からイギリスは12時間で行ける」 石森「半日もかかるの!?行きたくないよ!!」
長濱「おバカ!半日しかかからないんだよ!」
石森「うぇ?!」
長濱「今立っているこの星の、ここ!ここに行くんだよ?それがたったの12時間で行けるんだよ?」
イギリスが位置するであろう真下ではなく斜め46度を指差して言う。
海の向こうの国という認識を改め、惑星のおよそ反対側まで行くということを認識させられる。
長濱「今だって、寮からから虹花ちゃんの実家までドアドア最安経路で十時間くらいかかってるんだよね?」
石森「そんくらいかかってる……。じゃあ北欧から東京。今の寮から実家までの距離は同じってこと!?」
長濱「そう――」
守屋「ちょっと待てよ!」
長濱「これは私と虹花ちゃんとのサシの真剣勝負!口出し無用」
守屋「てめぇ……!」
鈴本「あいつ……虹花がバカだからって……」 長濱「今もちょこちょこ帰ってるみたいだけどさ、東北地震から六年経つけどまだ復興が進んでいないところもあるよね?」
石森「まだあるよ!私は寄付募金やってるよ!」
長濱「それは知ってる。ビンゴのMC、サンドイッチマンさんが寄付した金額知ってる?」
石森「……いくら?」
長濱「4億円」
米谷「よよよ、400,000,000!?」
志田「やっば!」
土生「愛佳がツインテールにする額の倍じゃん!」
小林「いや、それ世界一わかりにくい例えだから」
長濱「ぶっちゃけ、虹花ちゃんがしてる寄付なんて雀の涙なの」 石森「雀の涙?何それ?」
米谷「ごくわずかなものの例えやで」
石森「ちゅん……」
長濱「ごめんね。分かってるよ、金額じゃなくて気持ちだって」
石森「そ、そうだ……!金額は少ないけど、私は被災地の人を笑顔にするためにアイドルになったんだ!」
長濱「でも現実は違う。例えば、気持ちを込めて一生懸命折った千羽鶴をもらって被災者された方の誰か喜んだ?虹花ちゃんが一番知ってるよね」
石森「そ、それは…………っ」
長濱「所詮は贈った人の自己満足でしかないの。加えて例えるなら、鶴折るバイトがあってその千羽に何の意味がある?」
石森「要はお金が大事ってことなんでしょ!?分かってるよっ言われなくたって!!」 長濱「思いやりの心を否定するわけじゃないけど、世の中見た目とお金なの。私たちは2万5千人の中から選ばれた21人だから見た目は好い」
石森「え?へへ……」
長濱「お金があれば復興が早まる。ということは、被災された方が元の暮らしに近づける。さらに、被災の傷を癒すことができる!今でも帰る交通費とか安くないでしょ?」
石森「月二くらいで帰ってるけど、正直往復だと少し痛い」
長濱「その分も寄付できるんだよ!しかも今のお給料でじゃなく、あのAKBに勝ちに行く稼ぎ分で!」
石森「す、すごい!」
長濱「その方が格段に早く復興に近づけること間違いなし!"アイドルという枠組みを覆した"虹花ちゃんのおかげで、ね?」
石森「私、イギリスに行く……!」
欅「ええええええええええええええ!?」
長濱「一人目」
長濱は石森に券を渡す。
石森は覚悟を決めた顔で受け取り、バスを降車する。 長沢「虹花ちゃん裏切った!」
佐藤「おバカだからとはいえ、完全に言い負かれてたね〜……」
米谷「先頭打者は凡退に終わったか」
平手「虹花……」
バスの外の石森は虹色の笑顔を見せる。
狸は次の標的である兎に狙いを定める。
長濱「次は莉菜ちゃん行く?」
上村「私は行きたくない!」
長濱「莉菜ちゃんはその指で世界を魅了してほしい」
上村「日本だけで十分だよ!なんで北欧なんかに……。もういい加減にして!」 長濱「ピーターパンの発祥って北欧なんだって」
上村「え、初めて知った……」
長濱「ネバーランドと繋がってる人間界の場所はロンドンなんだよ」
上村「へー……いやいや!だから何?」
長濱「レッスンとかでも一人だけヨレヨレしてたり、魅了の力を使うと体力を使うんだよね?」
上村「そんなことまで知ってるなんて……!」
長濱「濫りに使ってその指ケガをしてるもんね」
上村「湿布とかテーピングとかで何とかしてた。その間、力は隠れて使えない……」
長濱「指の力の代償は若さ。莉菜ちゃんは小さくて童顔だから今は見た目誤魔化せてるけど、使う度に着実に老化が進んでいる」
上村「分かってる!でも私にはこの不思議なくしてやっていけないの!しょうがないじゃない!」 長濱「莉菜ちゃんがこのままこの狭い国でその指の力を使って人気を得ていたら、老化が加速して真っ先に脱落するしかなくなるよ?」
上村「え゙ー!?そんなのやだよ!!私どうすればいいの?」
長濱「妖精発祥の聖地のイギリスでは体力を消耗することなく、思う存分その不思議を十二分に発揮することができる!と思う」
上村「ホントに!?いや、でも……どうしよう…………」
長濱「千葉の妖精が北欧へ飛んで行って、世界を魅了してほしい!」
上村「飛んで行くー!」
長濱「二人目」
志田「リナババぁあああぁあああ!?」
上村は長濱の券を受け取り、背中に妖精の羽が生えたような軽やかな足取りで出口へ向かう。
そして、世界へ飛び降りる。一瞬、宙に浮いたように見えるもただの錯覚だった。バスの外で石森と合流する。 守屋「マジかよ……。虹花に続き、莉菜まで?」
米谷「油断しない方がいい。あいつは強い」
長濱「次は誰かな?」
尾関「ぅうぅぅうう私だ!虹花や莉菜のようにはいかないからなぁ?」
長濱「ところで、おりかちゃんはどうして行きたくない?」
尾関「そりゃあ、車のディーラーになる夢もあるし大学もあるし普通に行けるかよ!」
長濱「それはアイドルの後でもよくない?今のままディーラーになったところで、営業の自信ある?」
尾関「それは……今はまだない!でもアイドル活動や大学で勉強して卒業後すごいディーラーになる!」
長濱「ところで、おりかちゃんの人生設計はどうなってるの?」
尾関「まず大学を出て、欅一本でしばらく活動して、卒業後にディーラーになる!!!何か文句ある?」 長濱「ないよ。ただ何のために大学に大学に行ってるのか教えて?」
尾関「それはディーラーになるためにせめて大卒じゃないといいとこに就職できないからに決まってんだろー!」
長濱「そっか!就職のためだけにとりあえずで大学に行ってるんだね!」
尾関「はああああ!?今の時代、大学卒業しなきゃいい就職先なんてないって聞いたぞ!」
長濱「確かにこの不景気だけど、高卒でもディーラーの人もいっぱいいるよ?たぶん」
尾関「大手は学歴フィルターがあるから学歴ないに越したことはない!」
長濱「学歴フィルターって、マーチとかそれ以上のとこに通ってるわけじゃないでしょ?」
尾関「そ、それでもないよりは有利だろ!」
長濱「確かに。そうかもね」
尾関は至極正論は押し通し、黒星二つの長濱に押し勝っている。
長濱はいまだに涼しげな顔のままであり、あえて尾関に一本取らせたように見える。 長濱「それじゃあさ、何のためにアイドルやってるの?」
尾関「何のために、って…………え?」
長濱「今の話を聞く限りだとディーラーになるために大学に通ってて、アイドルの要素なんて必要なくない?」
尾関「いや、だから、それは、その………っ」
長濱「おりかちゃんにとってアイドルはただの腰掛け?アルバイト感覚?」
尾関「チガウ!!!」
長濱「ねるだったらだよ?いずれ車買うときになって……というかこの『ブラックねるちゃん号』はねるが買ったんだけど」
尾関「お、おう……てかすごいな!その歳でこんなバス一台買うなんて!」
長濱「いやいや、おりかちゃんに比べたらねるなんて全然だよ〜」
尾関「いや〜ひっひっひ!」 守屋「ねえ、何この茶番?」
鈴本「さあ?私に聞かれても……」
渡邉「もうねるの流れだね」
傍観者は傍で呆れて観ることしかできない。
尾関が落ちるのも時間の問題だと感じ、次の準備に入る。
尾関「それで、車買うなら何?」
長濱「そうそう。ねるが普通の車を買いに行くなら、東京大学卒業した人よりAKBに勝つかどうかはおいといて世界を見て来た人から買いたいな〜って」
尾関「た、確かに!私もそんな人から車買いたいかも!!」
長濱「あっちに行く自然と英語が身につくと思うんだ。だから日本の人だけじゃなくて世界中の人に大好きな営業ができるようになるんだよ!」
尾関「うおおぉおおおっ!!最高かよ――!!」 長濱「検索サイトでさ『世界の尾関』って調べたら何が出てくると思う?」
渡辺「セカイノ……オワリ?」
尾関「え、何が出てくんの?」
長濱「おりかちゃん」
尾関「何だよ?」
長濱「おりかちゃんが出てくると。一項目目から、画像もね」
尾関「ぇえええええええっ!マジでぇええええええ?」
守屋「おぜちゃんすごいじゃん!」
渡邉「それは普通にすごいね!」
平手「おぜかわ!」 長濱「これってすごくない?」
尾関「いや〜そうかな〜?」
長濱「世界に出るしかない。こんな狭い島国に留まる人じゃないんだよおりかちゃんは!」
尾関「え〜でも〜なんか……」
齋藤「誰がシングルのジャケットの字とかを書いてくれんだよ?」
尾関「ふーちゃん!……よーし、イギリス行くかー!」
長濱「三人目」
最後は齋藤に押されて尾関は渡英を固く決意する。
尾関は長濱が持つ券を奪い取ると、広くないバスを独特な走りで駆け降りた。
21人の内長濱、織田、齋藤の3人に加えて、行くことを決意した3人がバスを降り外にいる。
残りの15人に緊張が走り、土生が進撃する。 守屋「おぜちゃん……。もう許せねえ!ここは私が――」
土生「待ってあかねん。万が一を備えて、副将はどんと構えてて」
守屋「土生ちゃん!……万が一を考えて、後ろには私がいるから思いっきり行って!」
土生「うん!次は私だよ、ねる」
長濱「土生ちゃんか。正直に言うよ」
土生「どっからでもかかって来い」
長濱「土生ちゃんはいまいち人気が伸び悩んでいるよね」
土生「うん?まあ、そうだね」
長濱「日本だと背の高い女性は遠慮されがちだけど、北欧では長身の方が人気がすごいんだって」
土生「え、ホント!?」 長濱「マジと。土生ちゃんは足も長くてスタイル抜群だから向こうに行けばきっと世界的なモデルにだって……」
土生「行くー!とでも言うと思ったか?モデルがどうした。その手には乗らないよ!」
長濱「そっか。モデルになりたくないの?」
土生「なりたいよ!でも、私はここ日本でこそなりたいんだよ!」
長濱「その夢が叶うといいね。応援してるよ」
土生「うん。ありがとう」
長濱「先に理佐とぺーちゃんがモデルになったけど、どう思う?」
土生「二人ともうちの最強ビジュアルコンビだから、なれて当然だと思ったよ」
長濱「土生ちゃんはまだならなくていいと?」
土生「のんびりラジオをやって知名度を上げたいなって思ってるから今はまだいい」 長濱「え、ラジオでファンを増やしたと思っとる?」
土生「え?初めてのソロでの外仕事だもん!そりゃ思ってるよ!」
長濱「土生ちゃん。それはとんだ思い違いだよ」
土生「は?どういうことだ、ねる!」
長濱「あのラジオは土生ちゃんと他女の人三人でやっとるよね。欅のファンの人たちが聞いたら土生ちゃんの声は判るけど、他の女の人三人は誰が誰だか判らない。そもそも何やってる人たちなの?」
土生「アナウンサーさんとモデルさん。あとグラビアアイドルさんだけど……」
長濱「そうなんだ。土生ちゃんにしか興味がない人はその三人の応援なんてしてないと思う」
土生「……じゃあ、四人でやってるから私のリスナーさんを1/4としてその既存のファンの人が聞いているだけで、残り3/4の新規のファンが増えないってこと?」
長濱「そう。簡単に言うと、その三人のことをA、B、C、土生ちゃんの四人のラジオはそれぞれのファンが聞いていて、AさんのファンはB、C、土生ちゃんの声を判別できないの!」
土生「あそっか!」 長濱「みいちゃんのラジオはパーソナリティーが男性だからあの可愛い声が際立つけど、土生ちゃんの場合埋もれてる上判られてすらいないんだよ?」
小池「そうかもしれへんな……」
土生「そうだったんだ……。でも番組のSNSとかで、開始前とかに告知宣伝の写真とか乗せてるし、それ見て聞いてくれてる人も……!」
長濱「だから声だけしか届けられないんだから点と点が結びつかなかったら無駄なの!分かる?」
土生「あぁ、ダメだぁ……。動画を見てもらわないと知られないままだ……」
長濱「それに一緒にやってるのって、色気があっておっぱい大きい綺麗な大人なおねえさん人たちなんだよね?」
土生「うん……いや、小さい人もいるけど色気はパない!」
長濱「土生ちゃんにもおねえさんたちに適う色気あるの?」
土生「ない……」
土生は大人なお姉さん三人と自分を比較する。
自分の体を見て、明らかに落ち込む。 長濱「土生ちゃんにあるのはかっこよさと可愛さ!あの山本美月さんに似てるんだからそれを自覚して!」
土生「……それ握手会でもたまに言われる」
長濱「そして、土生ちゃんにはアジア枠は合ってないんだよ。土生ちゃんは絶対北欧向き!客観的に世界を知ってるねるが言う!」
米谷「何か国か留学しとったもんな」
土生「私、アジアじゃだめなのか……」
長濱「もし合ってたら一番にモデルになってたよ!モデルもいいけど、ダンスパフォーマンスは時にてちを凌いでる」
土生「ダンス習ってたし、この身長だからそう見えるのかも……。北欧の方が私は力を発揮できる?」
長濱「間違いない。だから、一緒に北欧行かない?」
土生「……うん。行こう!」
長濱「四人目」
小池「土生ちゃん……」
ねるから券を受け取り、颯爽とランウェイのように中央通路を歩きバスを降りる。
小池は土生を背中を最後まで見つめていた。 菅井「土生ちゃんまで!?」
原田「矢継ぎ早に四人もやられちゃった!」
平手「あとすでに不協和音三人いるから、もう1/3は向こう側ってことか……」
今泉「ああ!!もう七人も!?取り帰さないと!!」
長濱「次は誰かな?誰でもいいよ」
小池「うちやで!ねる!」
長濱「みいちゃんか。土生ちゃんは行くんだよ?行こうよ?」
小池「土生ちゃんはうちが連れ戻す!覚悟しいや。うちは今までのちょろい子たちとちゃうで?」
長濱「あーあ、調和だけじゃ危険だと思わん?」
小池「ああ?何や、うまくいきよんるに越したことはないやろ」 長濱「いきすぎてもダメ。たまに不協和音があってこそ成長するんだよ」
小池「スキャンダルを肯定するんか。それでどれだけ乃木さんのファンが離れたか」
長濱「でも、あの指原はスキャンダルを経て総選挙ダントツ1位を三連覇したんだよ。不協和音がなければ、きっとあの人も普通のアイドルで終わってた」
小池「かもな。でもうちらはそんな奇をてらうマネせんくてもええやろ。うちらはうちららしくやればええ」
長濱「それじゃあ勝てないの!このままAKBに勝てるんだったらねるもこんなことはせん!」
小池「正直AKBさんとかどうでもええ!!勝ちたきゃ勝手にやってればええやん!」
長濱「…………」
小池「なあ、終いにしようや?」
ここに来て初めて暴走娘を一時停止させた。
長濱はうつむいていて表情が伺えない。 守屋「これみいちゃん勝てるんじゃない?」
今泉「なんかいけるかも!」
菅井「ねる……もう諦めて帰ろう?」
織田「果たして、ペンギン対タヌキどっちが勝つかな?」
齋藤「私はもちろんペンギン、じゃない方に賭ける」
小池優勢で他のメンバーも長濱を諭してくる。
長濱を信じている織田と齋藤は余裕ぶっている。
長濱「ニルス・オーラヴ」
小池「うおぇ!!?ちょお!??」
長濱は日本のではない言葉を言うと、小池は尋常じゃない反応を見せた。
外野は呪文なのかどこの国の言葉なのか判断できない。 平手「今ねる何て言った?」
米谷「スコットランドにいるノルウェー軍のマスコット的存在にして王国陸軍の准将の階級を持っとるオウサマペンギンの名前や」
原田「へ〜知らなかったー。さすがよね!」
米谷「うちも美波から聞かされて調べ直した」
渡辺「ペンギンの王様!?すご!!」
長沢「軍曹どっちが階級上なの?」
米谷「大佐の1こ下で、軍曹の10こくらい上やで」
守屋「う、ペンギンに負けた……」
志田「理佐はモナ王国の大佐だから勝ってる!」
渡邉「そんなことより、やばいよ」
つかの間のおふざけから大佐が危機を覚える。
長濱の一言により既に形勢逆転されていた。 長濱「スコットランドだから、いつでも見に行き放題。しかも肉眼で」
小池「ぐっ、それはズルい!!」
長濱「みいちゃんの不思議な力、知ってるんだよ?だからあんなつまらんゲームやってるんだね」
小池「バレとったか!でも、カンケーないー!」
長濱「もうすぐ6mだっけ?そのうちカンストして、成長止まってもいいの?」
小池「それは嫌や!」
長濱「何か乱すことで気づくと思うんだよね、もっと」
小池「新しい世界――」
長濱「行こ?」
小池「行ったろうやないかい!」
長濱「五人目」
米谷「美波……!」
いかなる時も完璧に決まってる前髪を今日も崩さずにバスを降りた。
小池の不思議はペンギンにあり、真相は長濱と齋藤しか知らない。 原田「みいちゃんまでやられた!」
小林「ペンギンに付け込まれただけだから」
平手「でも、それが命取りになった」
米谷「あいつ、うちらの弱点を知り尽くしている?」
米谷は今までのやり取りを考察する。
鈴本が織田へ詰め寄る。
鈴本「だに、何でなんだよ……!」
織田「美愉。ここで行かなければいけないんだよ」
長濱「ほら、オダナナも行くことだし一緒に行こうよ」
鈴本「ねるは少し黙れ」
長濱「やれやれ……」
長濱は鈴本に背を向け、織田の肩に手を置き託す。
五人目まで立ちっぱなしだった長濱は座席に腰を掛けて休む。 鈴本「お願いだから目を覚まして!こんなバカみたいなこと!」
織田「目は覚めてる。バカかどうかはやってみなきゃわからなくない?」
鈴本「どうして……どうしてねると一緒に北欧でやっていきたいの?ねると違ってだにはAKBさんとか興味ないでしょ?」
織田「だって、楽しそうじゃん」
鈴本「タノシソウ?」
織田「私は面白いことが好きなの。あのAKBに勝つために外国に行くなんて、こんな楽しいことは世界のどこにもないよ!」
鈴本「えぇ……日本じゃつまんないの?」
織田「つまらなくないよ。ただデビューして一年半でだいたいのことはやった。全国ツアーが終わって、東京ドームもきっとすぐそこにあったと思う。他に何をしろっていうの?」
鈴本「恵まれた環境にあるのは分かってる。東京ドームが終わってもまだまだやることなんていっぱいあるよ!だには井の中のラクダだ!」
織田「狭いから!だから井戸から出ないと!ここにはもうないんだよ!」 鈴本「おかしいよ!勢いだけじゃ世界で通用するわけがない!」
織田「この勢いのまま世界に飛び立つしかないんだって!落ち目になってからじゃ遅い!一生勝ち目がなくなる!」
鈴本「なんで今このタイミングなの?全国ツアーや東京ドームが終わってからでもさあ!」
織田「そんなこと言ってたらずっとAKBに勝ち行けないんだよ!じゃあいつ行くの?……今でしょ!」
鈴本「でもAKBさんに勝てるわけがないよ……」
織田「始めからそう諦めてしまったら、私たちは何のために生まれたの?」
鈴本「……何のためって……私は…………っ」
織田「美愉が昔からダンスでもセミプロでも舞台に立ち続けたのはなんで?」
鈴本「そうだ……。私が舞台に立つのも、アイドルになりたかったのも、面白そうだったからだ……!」 長濱「なら、もう答えは決まってるね?」
鈴本「嫌だ!お前には行かされたくない!」
長濱「オダナナが美愉ちゃんにもっと優しくすれば来てくれるんじゃない?」
鈴本「そんなの要らない!私はありのままのだにが好きなんだよ!」
織田「美愉はどうすれば一緒に来てくれる?」
鈴本「……だにが一言、言ってくれれば私はどこにだって……!」
織田「来い!美愉!」
鈴本「行くー!」
長濱「六人目」
平手「鈴本……」
鈴本は長濱から券を受け取り、織田を思いっきり抱きしめた後すぐに降車した。
それを妬みの目で見ていた一宗教団体の教祖が静かに立ち上がる。 長沢「ねる」
長濱「なーこちゃん」
長沢「私は別にAKBさんに勝つために海外に行くことにはどっちでも良かった」
長濱「あ〜そうなんだ?」
志田「軽っ!」
守屋「オイ菜々香?!」
長沢「私がイギリスに行きたくない理由はたった一つだけ」
長濱「食べ物、だよね?」
長沢「うん。イギリスってごはんがすごいまずいんだよね。だから絶対行かない」 長濱「その知識は間違ってる。話せば長くなるけど……」
長沢「え、そうなの?教えて!」
長濱「ロンドンは他のヨーロッパ諸都市にも劣らないグルメ都市に生まれ変わりつつある」
長沢「ええ……嘘だ。世界中からイギリス料理まずいって言われてるよ」
長濱「昨今は違うよ。もはやイギリス料理がマズいのは過去の時代の話。ひと昔、野菜は死ぬほど煮るわ、肉は死ぬほど炙るわでおいしくなかった。その時のイギリスの料理はまずくて、それが今でも世界的なジョークになってるだけ」
長沢「ジョークなんだ!じゃあ、逆に何か美味しいものあるの?」
長濱「甘味も代表としてスコーンがあってクリームやジャムをつけて、有名なアフタヌーンティーと一緒だともう最高!ねるも食べたことある!」
長沢「味あるかな?」
長濱「本場のスコーンとジャムなめないで!あと、牛肉をとにかく愛してて、ステーキやローストビーフはイギリス発祥なんだよ。だから異常に発展してお肉だけは他のヨーロッパからもお墨付き」
守屋「それは知らなかったー!」
今泉「お肉ぅ!ふぉ!」
渡辺「食べたい……」 長沢「でも、お米も食べたいし」
長濱「安心して。安くておいしい"プディングライス"があるから。たっくさん食べられるよ」
長沢「何それ、名前からしておいしそう!しかも、たくさん?」
長濱「ちゃんと日本米もジャパニーズセンターで買えるからね」
長沢「よかった……」
長濱「イギリスならではの卵料理もあるけん」
長沢「お腹空いてきた。早く行こ」
長濱「七人目」
長濱は長沢に券を渡す。
長沢は券をオムライスの食券のように大切に握りしめ降車した。 渡辺「ん〜、なーこちゃん……」
米谷「食欲には勝てんかったか」
菅井「もう七人目ってことは、不協和音三人を足して十人!?」
守屋「やばいよ!次やられたら過半数超える!!」
残り十一人となり、ターニングポイントとなったことに気づき焦りを感じる。
長濱は目を細めて挑発をしてくる。
長濱「お次は誰かな?」
佐藤「次は私の番、そして最後だよ!ベージュ唇猿腕たぬき娘ねる〜!」
長濱「しーちゃんは何だか話が長くなりそうだね」
佐藤「私の話が長いのはおばあちゃんの隔世遺伝なんだからしょうがないでしょー?私のせいじゃないんだから〜!」
長濱「はいはい。この調子だと飛行機に乗り遅れるから早く済ますよ」 佐藤「短くしたいものなら短くしてるよ!ねるの足や猿腕のような短さみたいに!でも頭の中に言いたいことありすぎて、全部言わなきゃ気が済まないの!」
長濱「とりあえずしーちゃんの夢は、毎年おじいちゃんと一緒に見ていた紅白歌合戦に出ること、だったよね?」
佐藤「そうだよ!まさかこんなに早く出られるとは思ってなかったからものすごく嬉しかった。きっと天国のおじいちゃんもすごい喜んでくれてると思う」
長濱「そうだろうね。じゃあ、もう夢はないの?」
佐藤「夢………………………………………………………………」
齋藤「三点リーダーも長いな!」
長濱「夢もないまま、この緩やかな坂を登ってもおじいちゃんの耳には届かないんじゃないかな?」
佐藤「何よ!もっと急こう配な坂を登らなければいけないって言いたいの?」
長濱「AKBに勝ったら一番喜んでくれると思うんだけどな」
佐藤「勝たなくてもきっと見ていてくれてるはずだよ!!分かったように、ねるに何が分かるの!?」 長濱「ねるは何も分からんよ。でも、番組でも積極的じゃない今のしーちゃんを見てどう思うだろうね」
佐藤「後列で、振られないし、仕方ないでしょうっ!?」
長濱「言い訳はいいよ。怠けてる孫は見たくないことだけは分かる。自分の武器を、不思議をここで使わずにいつ使うの?」
佐藤「……今?」
長濱「お願い!しーちゃんの力が必要不可欠なの!」
齋藤「ジャケ絵は誰が描いてくれる?」
佐藤「行く!」
長濱「八人目」
最後は最も短い言葉で渡英を決意した。
長濱から受け取った券を指の間に栞のように挟み下車した。 平手「尾関と同じ手法でやられた……」
渡邉「ふーちゃん邪魔」
守屋「サシとか言いながら、助けられてんじゃん!」
長濱「なんかすみません。次からはやめるよ」
志田「こういう展開ねえ。例え、残り私だけになっても絶対に行かないからな」
長濱「クロエちゃんにも来てほしい」
志田「ほしいものは何もない。やりたいことも特にない。残念だったな」
長濱「そっかぁ。じゃあ、またあの平穏で退屈で何もない和かだけがある田舎に帰って、お米でも作るの?」
志田「――ああ、ダメだ」
長濱「ダメ、だよね?」 志田「頭では分かってる。こんなことは現実ではありえない。行くわけがないんだ」
長濱「アイドルになれたこと自体が夢のようなことなんだよ。これも夢の続きのようなもの」
志田「でも、これは現実……」
長濱「変わらないよ、現実でも夢でも。何をしてもいい。一度きりの人生を変えたくて、オーディションを受けに来たんでしょ?」
志田「そうだ。私も東京に憧れて上京して来た」
長濱「そして、愛佳はすでにこの楽園で禁断の果実の味を知ってしまった」
志田「こんなに楽しいことはない。田舎にいたら一生気づかなかっただろう。でも、こいつを……止めたい、止められない、止めたかった!」
長濱「ならどうする?」
志田「もう行くしかないじゃん」
長濱「九人目」
小林「あのさ、期待させといて早くない?」
守屋「出だしは良かったけど瞬殺かよー!」
長濱は志田に券を渡す。
志田はクールにバスを降りる。 今泉「そろそろあの狸止めないと本当に取り返しがつかなくなっちゃうよ!?」
平手「織田とふーちゃんはあっち側だから……あと残り九人しかいないし!」
米谷「予定調和なんか?……いや、待てよ……」
長濱「次は誰?葵ちゃんにする?」
原田「私は…………っ」
長濱に名指しされた原田は渡邉を見つめる。
目で助けを求めるも、渡邉はバスの外の志田を見ている。
長濱「理佐が気になる?」
原田「私は、理佐について行くだけだから……」
長濱「じゃあ、保留にして次は理佐でいい?」
渡邉「望むところだよ!ねる!」
志田が洗脳され、渡邉は明らかに頭に血が上っている。
冷静ではない彼女を見て、渡辺は口を出さずにはいられなかった。 渡辺「待って!先に私にやらせて」
渡邉「梨加ちゃん!?」
渡辺「理佐ちゃん。ねるちゃんに聞きたいことがあるから」
渡邉「……お願い」
渡辺「ねるちゃん。理佐ちゃんが娘って、本当のことなの?」
長濱「忘れてる人に何を言っても思い出せないよ」
渡辺「お前が言ったんだろ!ウソ?本当?どっち!?」
始めてみる渡辺の激昂に一同は怖気づく。
しかし、長濱はそれに慣れているように見えた。
長濱「本当だよ。信じなくてもいい。普通じゃないもんね」
渡辺「なら、私は理佐ちゃんが行くなら行く。行かないなら行かない」
長濱「またまた保留か」
渡辺のおかげで渡邉はいつもの冷静さを取り戻し心の中で礼を言う。
二人の運命を双肩に担い、冷ややかな目で長濱を見つめる。長濱はいやらしい笑みを浮かべて応える。 長濱「今度こそ理佐だね。お母さんは理佐が行くなら行くってさ」
渡邉「うざいよ、あんた」
長濱「ひどいよ〜。ぺーちゃんが母親だってこと教えたげたのにー」
渡邉「うるさい。本当かどうかも怪しいし、ヒントなしで答えにたどり着いたのは私たちだから」
長濱「七不思議を出さなければ気づくことなく過ごしていたよ、一生ね」
渡邉「……かもね。だけど、ささいな問題だよ」
長濱「些細だったと?」
渡邉「梨加ちゃんと血のつながりがあってもなくても、私の大切な人ということに何の変わりはないってこと」
長濱「素敵」
渡邉「本題に入ろうか」 長濱「理佐はAKBに勝ちに北欧行きたくない?」
渡邉「せっかくモデルになれたのに行くわけないでしょ」
長濱「理佐は世界レベルでも顔もちっこいし、東洋人として北欧でチャレンジするのがいいよ」
渡邉「興味ない」
長濱「埋もれるだけだよ、この国では。世界に……」
渡邉「いいんだよ、そういうのは。私たちには世界は広すぎる」
長濱「今外にいる子たちはAKBに勝ちに行こうとしてる。それなのに理佐はモデルになれたから欅のことなんてどうでもいっか?自分さえモデルで活躍できていれば」
渡邉「違う!国を捨ててまで行く意味が分からない!」
長濱「国を捨てるわけじゃないよ。勝つための手段なだけ」
渡邉「欅は謙虚じゃなきゃならない。忘れたの?」 長濱「謙虚と消極的は別だよ。はき違えないで」
渡邉「ん……」
長濱「髪を切る決断をした時もこんな感じじゃなかった?」
渡邉「………ああ。こんな感じだったかもね」
長濱「理佐が長い髪を捨てずにいたらセカンドでフロントになることも、モデルにもなれなかったと思わん?」
渡邉「それはずるい。結果そうなっただけであって……」
長濱「学生時代伸ばし続けた髪を切る決断は、まさに今世界に挑戦する覚悟と同じ」
渡邉「同じとは思えない」
長濱「自分のために髪を切ったと思うけど、今度は欅のために北欧に来てほしい」 仲間からのお願いに渡邉は揺れていた。
結果からして髪を切ったことは人生のターニングポイントだった。
ここもそうであり、拒めば人生が終わってしまう気さえする。
渡邉「……。ダニは本当にイギリスに行くの?」
織田「うん」
渡邉「私が行かないでって言っても行く?」
織田「行くよ」
渡邉「それでこそダニだね。私も行ってもいい?」
織田「もちろん!一緒に行こう!」
渡邉「クッフン!」
渡辺「ダニー!」
原田「理佐〜!」
長濱「十人目、十一人目、十二人目。それとオダナナが十三人目」
織田をワタナベで挟み、原田は渡邉の後ろから裾をつかみついて行く。
織田は長濱から四枚の券を受け取り、四人仲良く降車した。 小林「そんな、理佐まで……っ」
菅井「どうしよう!実質あと六人だよ!」
今泉「少なっ!?ゆっかー、茜ちゃん、てっこ、よねみん、由依ちゃんと私だけ!!」
米谷「このままだと全員ってこともありえる!?」
平手「何とかしないと本当にそうなるよ!」
年下たちの狼狽する姿を見て、副キャプテンは意を決する。
満を持して守屋は腰を上げる。
守屋「もういいよな?ここで止めたるよっ!ねるぅ!」
今泉「あかねんお願い!そのタヌキ止めて!」
長濱「さあて、止められるかな〜?」 守屋「私はキー局のアナウンサーになる夢がある!」
長濱「だから諦めよって!今のままじゃ無理だから!」
守屋「んだと!?こっちは大学にも進まず欅一本でやってきてんだよ!」
長濱「それ!今はマーチ以上の大学のミス女という肩書きがないとかなり難しい狭き門なの!」
守屋「えっ、そうなの!?」
長濱「かつてAKBのゆきりん他数名がやってたことあって、全盛期に」
守屋「じゃあ私だって!気合でなるから!」
長濱「その上で無理って言ってるの。分かる?」
守屋「お前が無理と言おうが、なるったらなるっ!」
長濱「なるのは、AKBに勝ってからにして!全盛期のゆきりんがちょこっとやってものに、今じゃどうやってもなれないから!」 守屋「いつかは超えてやるよ!」
長濱「AKBに勝ちさえすれば……女子アナになるのも夢じゃない。しかもローカル局じゃなくてキー局のね」
守屋「本当にAKBさんに……いやAKBに勝てばなれるんだろうな?」
長濱「約束すると。勝ったからなれるのはもちろんなんだけど、あかねんは欅で……いや客観的に見て聞いてアナウンサーに向いとるもん」
守屋「ガチ!?」
長濱「コンサート開始前のアナウンスとか、メンバーやないと思った程やけん」
守屋「いや〜それ程でもー?えへへへ〜」
長濱「AKBに勝つにはあかねんがいないと無理。お願い」
守屋「AKB、かかって来いよ!絶対に勝つ!」
長濱「十四人目」
菅井「あかねん、ウソ……」
守屋は長濱から券をガチでひったくる。
未来を見つめてひた走り、バスを降りる。 残り五人となり、米谷はあることにが気づき、残りのメンバーで小さな円陣を組む。
出来過ぎている状況に第八の七不思議が関係していると結論付ける。
米谷「ちょっとみんな聞いて!」
今泉「よねみんどうしたの?」
米谷「ねるが時間を遡る力があるでしょ?あいつは何回かタイムリープして今にいる可能性がある!」
今泉「何それ!?ズルいよ!!」
米谷「いくらなんでもあかねんが……いいや、みんなあっさりとやられるとは考えにくい!」
菅井「そんな相手に勝てるわけないじゃない!負けそうになったらリセットボタンを押せばまたやり直しができるなんて……」
小林「しかもこっちの出す手、弱点を知られた状態でやり直してるんだから尚更勝ち目なんてあるのか……?」
平手「後出しじゃんけんし放題じゃん……」
菅井「皆、もう外にいるしこのまま外国に行くなんてことになるのかな……」 今泉「そうはさせない!皆の目を覚まして、連れ戻す!」
平手「ねるはやり直しができる。逆にこっちが論破させてしまえばみんな連れ戻せるかも」
菅井「そっか!永久に拒み続ければねるだっていつかは外国に行くだなんてバカなことやめるはず!」
米谷「もう理佐が行くから〜とかみんな行くから私も〜とかいう理由で行くのはなしやで」
小林「あいつは一体どこまで私たちを攻略済みなんだ?」
米谷「まだこの状況をやっているということは少なくとも全員は攻略されてない」
平手「ただ突進するだけでは、確実にやられる……どうしよう」
米谷「そうやな……作戦名『エキセントリック』。その名の通りに行けばきっと未来は変わる!」
菅井「おお!よーし行くぞー!」
小林平手今泉「オー!」
菅井たちの会話は長濱と齋藤に聞こえないようにしていた。作戦が功をなすか、否か。
一方、長濱と齋藤は小休止でお茶をしている。 齋藤「あいつら気づいたみたい」
長濱「知ってる。タイムリープしてることに気づいたのはこれで21回目」
齋藤「ヤバいな!まさかとは思うけど、私がねるにやつらが気づいたことを言って、ねるはその数を更新しながら答えてた?」
長濱「まあね」
齋藤「ひえ〜!ジャンプ風に言えば『ば、化物め……』だね。私このセリフ毎回言ってたりする?」
長濱「アッハハッ!それは初めて〜!」
齋藤「よっしゃ!」
齋藤と長濱がイチャイチャと盛り上がっている。
しびれを切らしたキャプテンが切り込みを入れる。 菅井「やいお前らぁ!かかってこーい!」
長濱「あ、作戦会議終わりましたー?」
齋藤「"やい"って言う人初めてだわ!」
菅井「次は私だよ!みんなの親になんて言えばいいの?学校だって通ってる子もいるのに!」
長濱「海外留学って言えば首を縦に振ってくれるよ」
菅井「てちなんてまだ高一なんだよ?」
長濱「みんな義務教育は終えてる。葵ちゃんすらもね」
菅井「あのねえ!せめて高校は卒業してからでも遅くは――」
長濱「遅いッ!!」
菅井「ひぇっ!?」
急に長濱が怒り、キャプテンは驚く。
彼女が今という時間にこだわり、急ぐ理由を話す。 長濱「それだと間に合わない!あと三年後なんて平均年齢いくつになると思っとる?」
菅井「あっ……二十歳超えてる?」
長濱「もっと!最年少てちの卒業を待っていたら、すぐに5月誕生日の葵ちゃんも二十歳になって、てち以外みんな成人のグループになるんだよ?わかる?」
菅井「最年長の私とぺーちゃんもその時は25、6歳!!」
長濱「若い今だからこそAKBに勝てるチャンスがあるの!現役が4人いる今がベストタイミング。今しかないんだよ!」
菅井「っ……今しかないのはよーく分かったよ。でも、いざとなったら誰が私たちを守ってくれる?管理してくれる大人たちがいるの?」
長濱「大人たちに支配されるな!」
菅井「え……いや、何サイマジョでかっこつけてるのか意味わからないから!現実的な話をしてるの!私たちだけで住まいは?どうやって仕事とってくるの?送迎は?」
長濱「私たちは"大人を信じない"というコンセプトで活動しているよね。その私たちが大人の操り人形だなんておかしいと思わん?この上ない皮肉」
菅井「じゃあ全部メンバーでやれって言うの!?無理でしょ!現実的に考えて!」 長濱「稼げるようになったら人を雇えばいい。それまでは全員で分担していく。ねるも弁当注文係とかバス送迎するし」
菅井「誰が引っ張っていくのよ!」
長濱「だからキャプテンに引っ張っていってほしいの」
菅井「わ、私……!そうだ……キャプテンなんだ……私が!」
長濱「英語しゃべられるの私と米さんくらいしかいない。お嬢様の英才教育を受けたゆっかーの英語が必要なの!」
菅井「じゃあダンスはどうするわけ?先生の振り付けなしでは戦えないよ?」
齋藤「そのために私の眼がある」
菅井「ふーちゃんの不思議な力?」
齋藤「私が世界的ダンサーの先生からダンスを完コピしてメンバーへ落とし込む」
菅井「ウソ」 長濱「まあ歌も頼っても問題はないよ。矛盾しとるかもしれんけど、AKBと同じ作詞作曲の条件で勝てばいい」
齋藤「詞、曲、ダンスは海の向こうでも受け取れる」
菅井「最後に……どれくらいの期間行くつもり?」
長濱「勝つまでだよ。AKB48に」
菅井「ん……具体的にはどれくらいで勝てると思ってる?」
長濱「東京五輪の2020年には帰ってきたいと個人的には思ってる」
菅井「オリンピック……。ふーちゃん、一緒にまとめてね?」
齋藤「当たり前じゃん!」
菅井「Yes!」
長濱「十五人目、十六人目」
長濱は二人に券を渡す。
リーダー菅井とダンスリーダー齋藤は肩を並べてバスを降りる。 成るべくして成ったのか、バスには米谷とてちねるゆいちゃんずの五人だけとなった。
予定調和の内か長濱は猿腕を前へ伸ばし左右反対に上下に振る。
長濱「夕日1/3でも歌っとく?」
小林「するかよ」
米谷「うちもおること忘れんといてや!」
長濱「残念。間奏で腕ぶんぶん上下に振るとこ好きなんだよねー」
平手「残り4/21」
長濱「21/21にするから。次はゆいぽんかな?厄介だね」
小林「今までの私は厄介だった?」
長濱「う〜ん」 小林「やっぱり。今この会話をしているということはまだ私を倒していない可能性がある」
長濱「それはどうかな〜。遡り時間によってはまた虹花ちゃんから〜てことになってるかもね」
小林「なるほどな。あるポイントまでは戻ってしまうタイプってわけね」
長濱「ああ、言っちゃった」
小林「いずれにしてもまだ全員は攻略してないんだよな。でも、初めてってわけではなさそうだし」
長濱「ゆいぽんは逆に残って何するの?同じ埼玉出身の土田さんと澤部さんと三人組のユニット"カタカナケヤキ"でもやる?」
小林「てめぇ!」
長濱「殴る?」
小林「殴らねえよ!殴りたいけど……前の世界の私は殴ったかもしれないからな、きっと」
長濱「あー痛かったな〜」
長濱は無傷の頬を軽くさする。
それを見て、小林はさらに拳を握る力を強める。 小林「行くなんてどうかしてる。頭おかしい」
長濱「それもう何百回も言われてるよ」
小林「何千回だろうと言ってやるよ……お前が行かないと言うまで!」
長濱「はあ……でも理佐は行くんだよ?そんな理佐も頭おかしい?」
小林「っ……理佐ぁ……!」
小林は外にいる渡邉を見る。
渡邉からは中の様子は見えなくても、一瞬小林と目が合った気がした。
今泉「理佐を連れ戻せるんだよ!引かないで!」
米谷「このグループはやっぱり違うな」
平手「だよね……」
小林「そうだ……ここで負けるわけにはいかない」 長濱「愛はたった一つだけ。ここで失えば絶対見つからない」
小林「特に意味のない歌詞で攻めるのやめてくれる?」
長濱「反論できない?理佐をイギリスに行かせて、由依ちゃんが日本に残ればもう二度と手が届かなくなってしまうということ」
小林「…………は?二度と……」
長濱「ねると入れ替わりで辞めた子、覚えとる?」
小林「忘れるはずがない。キャラの濃さで言ったらあかねんといい勝負してたしな」
長濱「かつてあの子とゆいぽんたちは同じところにいた。何もなく辞めていなければ紅白アイドルになれて、5thでミリオンセラーの選抜にもいれただろうに。それと同なじなんだよ」
小林「同じ……。連絡先を知っていても、とてもこっちから会うことなんてできなくなる……てことね」
長濱「あの子がそうしているように。まあねるとは面識ないけど」
小林「イージーさん……」 想い人の渡邉を取り戻すには、目の前の不協和音を論破しなくてはならない。
しかし、防戦一方なら自分から離れる必要なんてないと思い始める。
共にフォークデュオを組んでいる相方を見る。
小林「佑唯ちゃん……ごめん」
今泉「え。ゆい、ぽん……」
長濱「ゆいぽんは高三だよね。卒業の年だけど。学校は?」
小林「高校には行けてないから未練はない。通信になってるし、海外から通えるっちゃ通えるから一応卒業できる」
長濱「なら行ってもいいよね!絶対に勝つから信じて?」
小林「……信じるよ」
長濱「十七人目」
小林由依17歳は券をもらうと渡邉に逢いにバスを降りた。
狂犬は暴狸を止めることができない運命にあることを最初のやり取りで気づいていたからこそ潔く引き下がった。
渡邉が渡英するという理由では流されないと決めていたのに、頭では解っていても心が否定できなかった。 残るは今泉、平手、米谷の三人だけとなる。
長濱は額に汗を流し、水分補給する。
米谷「やっぱり無理なのか……。どうやってもタイムリープされる限り勝ち目はないのか……?」
平手「でも、あいつは一人でも欠けることを嫌ってる。今までのを見てきて思ったんだけど」
米谷「ああ、実際ずーみん一人がおらんかった時のことを分かっとるから、何としてでも全員にこだわるやろな」
今泉「もう、どうすればいいの………」
米谷「試したいことがある。もう何を言われても全て否定して!」
今泉「ああ!みんな結局折れちゃってるから私は最後まで否定し続ける!そしたらあいつもきっと諦めるはず!」
平手「わがままモード全開でお願い!」
今泉「分かった!よーし!」
米谷と平手は今泉に託し、万一に備えて控える。
今泉は腕を胸の前でクロスにして長濱に言う。 今泉「私はYesと言わない!首を縦に振らない!周りの誰もが頷いたとしても……絶対沈黙しないし、最後の最後まで抵抗し続ける!」
長濱「どうぞ。時間を止めても無駄だよ。それはねるの下位互換に過ぎんから」
今泉「いーからかかってこいよー!」
長濱「ずーみんはシンガーソングライターの夢諦めちゃったんだっけ?なら、行こうよ」
今泉「この状況なら話が変わってくるよ。聞いていたか分かんないけど、一日目みいちゃんに疑われた時……今泉犯人説でたった一人残ってその道を歩むのも悪くないんじゃないかってね」
長濱「そう来る?てことは、ねるのおかげで本当の夢だった歌手を目指せるってわけだよね」
今泉「そういう意味では感謝してる。ありがとう」
長濱「どういたしまて。欅でだいぶ売名出来てよかったね、所詮踏台だったんだね」
今泉「そうだね。おかげで結構歌手に近づいたよ!歌唱力も経験もつめたし〜」
長濱「ゆいちゃんずで、渡英するゆいぽんはどうするの?」 今泉「ゆいぽんんにはみんながいる。よくぼっちって言ってるけど、本当に独りなのは私だった……。だからこれからも一人で生きていける!」
長濱「ずーみん……本当に行かないの?」
今泉「シンガーソングライターを諦めてまで、ゆいちゃんずに賭けていたのは確か。ねるちゃんがAKBに勝つため生まれてきたように、私は歌手になるために生まれて来たんだ!」
長濱「……そこまで言うなら私の負けだよ。じゃあねっ」
突然の長濱の手のひら返しに面食らう今泉と米谷。
今泉に別れを告げて、もう興味を失ったような眼で手を振る。
一瞬にして残留組の雲行きが怪しくなる。さらに狸は追い打ちをかける。
今泉(どういうことだ!?こいつは21人にこだわっていたんじゃないの??)
長濱「正直、私はずーみんには来てほしくなかったんだよね」
今泉「ん、なんでよ!?」
長濱「"お前"は口だけなのはもちろんのこと根性もないもんね。うちに口だけの子なんて必要ないんだよね」
今泉「……お、"お前"?は?……口、え?」 長濱「悪いんだけど、ねるはずーみんが休業してたの納得できてないんだよ。一人だけ特別何かをやったわけじゃないのに、理解できないよ」
今泉「そ、それはお医者さんに止められたからで!」
長濱「ドクターストップは分かっとる。それでどれだけこっちに負担がかかったと思っとるの?」
今泉「はあぁああああぁあっ?働いて病んだ人に失礼だよ!謝って!!」
長濱「ごめんなさーい」
今泉「腹が立つううううううっ!!!私は必死について行っていた!この不思議な力を使って!」
長濱「分かるよ。代償で寿命を削っていたことも」
今泉「その反動で、休まざるを得なかったんだよ!!!」
長濱「あかねんのそれも寿命を削って酷使していたよね?それなのにずーみんときたら……」
今泉「茜ちゃんは気合で持ちこたえていたんだから、一緒にしないでよ!」 長濱「だから脱落してた子が渡英してからも脱落されたらたまったもんじゃない。そんなことされたらみんなのモチベーションに影響する。もうこれで足を引っ張られることはなくなる。よかった」
今泉「モチベーション……?」
長濱「ダンスレッスンは確かにきつい……短時間で何十曲もやって。でも連続ドラマの撮影の真っ最中に音をあげられてちゃたまらん。あのドラマが最終回訳分からんくなったのもずーみんのせいなの自覚しとる?」
今泉「それは脚本家のせいでしょ!私だけのせいにしないで!」
長濱「お前のせいだよ!!登場人物が一人でも欠けたことによって、あそこから大幅にドラマを修復しなければならなかった。たった一人いなくなった綻びから全てがダメになった!」
今泉「私の、せい……?うわぁ、あああぁ……っ」
長濱「来てほしくない。来ないで。いいや……来るな!」
今泉「だ、誰が行くものですかぁ!!お前さえ入って来なければ、私は二番手としていられた。それなのに……お前がっ!」
長濱「今度はねるのせいにするつもり?」
平手「おい長濱!いい加減にしろ!!」
長濱は平手の制止の声を無視する。 長濱「二枚看板になっちゃったから、二番手がなくなっちゃったんだよね」
今泉「よねみんが最初にお前に言いたいこと言ったみたいだけど、あれは私たちの総意だった!」
長濱「あれは初収録……虹彦先生の収録の前の時の事だったっけ」
今泉「お前は加入後に今回みたいに一番優しいふーちゃんとなーちを取り込み、難しい愛佳ちゃんのことを"クロエ"と呼んだりして汚いやつだよ!そうやってみんなと仲良くなってから最後によねみんにだけシカト決め込んでたのも知ってんだよ!」
長濱「向こうから仲良くなれないって言われたんだから、ねるは米さんを尊重して話しかけんかっただけ」
今泉「違うな!頭のいいお前なら分かってたはずだよ!プライドの高いお前はよねみんを後悔させるために最後まで仲良くならなかったんだ!」
長濱「筋トレ事件にもあるように、シカト決め込んでいたら手持無沙汰になってもバッキバキに筋トレなんかせんで休んどるよ!」
今泉「うっ……」
米谷「ねる……」
お披露目会のために演劇部の練習をしたいたデビュー前のある日、休憩時間となりレッスン室に米谷と長濱の二人きりになったことがあった。
長濱が少しずつ受け入れられ始めていた時、まだ米谷だけとはまともに口を聞いたことがなかった。
他のメンバーはそんな仲の二人を気遣い、二人きりにしたことは二人は知る由もない。
米谷の事をどうでもよかったのなら何もしなかっただろうことを米谷は今改めて理解する。 長濱「じゃあ頑張ってね!私"たち"は応援してるから。はるか遠い北欧の地で。一人ぼっちで歌手でも目指してなよ。まぁなれないだろうけど」
今泉「言われなくたって!」
長濱「歌唱力は認める。この狭い欅という井の中では。でも所詮ただの蛙。もしかして本気で歌手になれると思っとる?」
今泉「何億光年昔の話してんだよ!最初にも言ったけど、あれから練習と経験も積みまくってきたんだから!」
長濱「光年は時間じゃない。距離ね」
今泉「どっちでもいい……!お前こそゴリ押しで調子こくなよ!最終オーディション受けてないのに!てか、ふつうに音痴なのに最初っからソロ曲を与えられた時点でゴリ押しされてるだけにすぎない!おかしいよ!こんなの間違ってる!」
長濱「ゴリ押しされてることは認める。だから何?これが現実なんだから」
今泉「ぐ……っ!」
長濱「いずれにしても、AKBに勝つくらいしなきゃ未来永劫絶対に歌手になんてなれるわけがないんだよ!」
今泉「う、うわああぁああああぁあああああああぁあああああっ!!!」
圧倒的に長濱が有利な中、今泉は言い返せず叫ぶことしかできなかった。
長濱は今泉を見て胸を押さえて、涙を流す。 米谷「ねる……。お前は……っ」
長濱「さあ!AKBに勝って歌手になるか、負けて一生の夢を諦めるか?どっち!!」
今泉「そんなの決まってんでしょおっ!!私は、私は……っ!」
平手「今、泉ぃ……」
息を切らし、涙を流す今泉に長濱は二者を迫る。
終わりが近いことを悟り、米谷と平手は覚悟する。
今泉「本当に、AKBさん……いいや、AKB48に勝てるんだな!?歌手になれるんだな!?」
長濱「AKBに勝ちさえすればね。何度でも言う。だから、ずーみんは歌手になれるんだよ!!」
今泉「ねるちゃん………。私はいつかは帰れる場所が家以外になれるところを欅にしたいって思っていたんだ。海外に行くことで本物の家族になれる気がする……」
長濱「でも、また親御さんとかお医者さんに止められて脱落とか……」
今泉「私も欅に命を賭ける!これは親でも医者でも誰の意思じゃなく私自信の意思なんだ!お願い!行かせて!」
長濱「十八人目」
涙ながらに訴える今泉をお馴染みの人数で応える。
今泉佑唯18歳は涙をぬぐい、券を受け取り、歌手への道を歩くためにバスを降りる。 今泉と長濱の死闘を見ていた米谷と平手も涙を流していた。
それでも二人は最後の打ち合わせをする。
米谷「今の戦い方のねる、本気だった……。時間を遡ることを覚悟して来てた気がする」
平手「あの涙、演技じゃないね……」
米谷「そうなると、こっからはねるも初めての世界かもしれない」
平手「どっちがねるを止める?というか、ここまで来て止められる自信ある?」
米谷「うちはあるで。学業もあるしな。てちは?」
平手「どうだろう……。正直、あんまりないかも」
米谷「そりゃあ無理ないわ。みんなあいつに負けただけやなくて"行きたい"と言わせてきたんやから」
平手「てか、ここで同調しなきゃ私たちが裏切者みたいじゃない?」
米谷「せやな……。うちら二人だけが国に残るなんて選択が許されるんやろか……」 平手「みんなも連れ戻すなんてもう…………」
米谷「逆転満塁サヨナラホームラン打たん限りは。ピッチャーねるに完封させられる」
平手「もし米が負けちゃったら、私どうすればいいの?」
米谷「まだ九回ツーアウトになるだけや。いざとなったら勝負しない方がええ」
平手「勝負しない?じゃあどうやって……」
米谷「それは自分で考えや。うちは時間稼ぎしてくるから」
才女である米谷は、自分の一つ上をいく相手の前に立つ。
タイムリープの能力を持つ相手にどこまで知られているのか分からない。
例え勝てても時を遡られる、負けるまで。そうして皆同じような流れで戦い敗れてきた。
様々なパターンが頭の中で複雑に交錯し整理がつきそうもないことを悟り、吹っ切れる。
センターが全てを決めてくれることと信じ、小細工なしの真っ向勝負を決める。 米谷「ねる。やっぱりあんたとは仲良くなれへんわ」
長濱「またそれ?後んなって謝るようなこと言わん方がいいよ」
米谷「始める前に確認だけど、ずーみんに言った暴言の数々は本心じゃないよね?」
長濱「うん……。ねるがあの作戦に出なければ、永遠に行くか行かないを繰り返してまた時間を遡りざるをえなくなっていた」
米谷「やっぱりな。後で謝っときや。この世界が続かなくても」
長濱「絶対にちゃんと謝る!」
今泉に謝罪を約束させ、二人は清々しい顔になる。
一変して米谷は明るい声で切り出す。
米谷「よっしゃ!ほんならいくで〜?実はうち、東大へ行く!」
長濱「うん、知っとる」
米谷「づええええええぇえええええ!?いつから気づいとったワレ?!さては、タイムリープして……」
長濱「しなくても最初から気づいとるよ!楽屋でも勉強してるのって、センター受験の会場で何が起ころうと集中できるように、あんなうるさいとこで勉強して鍛えてるんだよね?」 米谷「いやいや!そんなことない!うちやってできることなら静かな楽屋で勉強してたい!ホンマに!」
長濱「そっか。東大に行きたいから渡英できないんだね」
米谷「イギリスに行きたないのはそれだけやないで」
長濱「へえ、他に何があるの?」
米谷「うちはなぁ……理Tに入って微生物の研究をしつつ般若心境開いて、卒業後は警視庁に入庁して刑事になって、ヨネさんと呼ばれて、それから……」
長濱「まだあるの!?」
米谷「結婚して!三歳の子の主婦になって、夫がノーベル賞をとって祝賀パーティーに参加して……!やりたいことがぎょうさんあんねや!」
平手「んんん濃いっ!」
長濱「ありすぎだから!」
米谷「人生は短い。その内でできることは限られとるからな!」
長濱「加えてアイドルもやってくるつもりなんでしょ?軽く三人分の人生は送るつもり?」 米谷「こんな話がある。壺の中に岩をいっぱいに入れる。さらに小さい石を詰め込む。そこへ砂を流し込む。これで壺はいっぱい?」
長濱「うーん、もういっぱいなんじゃない?」
米谷「まだ水を流し込めれるんや。何が言いたいか分かるか?」
長濱「なるほど。入れる順番によって入るんだね」
米谷「やっぱり頭ええなぁ」
長濱「言いたいことは分かった。全てが中途半端にならないといいけど」
米谷「もし東大にも入れなくても、いくらでも道はある」
長濱「何でそんなに東大にこだわるの?」
米谷「それは東大という肩書きはその先の人生かなり有利になるから。アイドルもそうやし、リケジョも、刑事も、ノーベル賞受賞する人との結婚もな」
長濱「ふう……じゃあ聞くけど東大が何位の大学か知ってる?」 米谷「はあ?1位やろ!そんなん小学生でも知ってんで!」
長濱「34位」
米谷「……へ?さんじゅう、よん!?」
長濱「世界ランキング第34位の大学、それが東大」
米谷「いや、1位……」
長濱「それは日本ででしょ。世界からしてみれば34位だよ?日本で一番とったところで何?孫悟空が世界の頂点に立ったと思っていたら、お釈迦様の指の上だったのとおーんなじ」
米谷「それはちょっと違う気がするけど……」
長濱「上には上がある。米さんはすごいよ。ねるの一こ下なのに何でも知っとるもんね」
米谷「ねるんが頭ええやん」
長濱「それは一こ上だからだよ、それにこの力のおかげだから。よねさんは素で偏差値70の高校に通ってたんだもんね。そんなよねさんがたかが34位の大学で満足できるわけがない」 米谷「いや、うちは東大で十分すぎるからな!」
長濱「でも前に言ってたじゃん。『英語勉強しなきゃ』って。もし今後本当に生物の研究家になるとしたら英語が完璧にできなきゃ話にならんよ?」
米谷「論文とかも英語のやつもあるやろうし、書かなあかんこともあるか……」
長濱「今のうちに海外に行って覚えておいてもいいんじゃない?」
米谷「東大にも海外留学制度あるやろうから、それで行って覚えれるやろ!」
長濱「理系学科に海外留学制度あると思う?」
米谷「分からんやん!なかったとしても、自費留学で行くだけや!」
長濱「根本的に米さんが言った夢の中にアイドルの事なかったよね。東大アイドルについては言及してたけどさ。親の反対を押し切ってまでなったアイドルに何か意味ある?」
米谷「正直に言う。アイドルは承認欲求を満たすためになったもんや!」
長濱「でも、アイドルにならなかったら上京してた?東大を目指してた?」 米谷「……ねるの言う通り、目指してなかったやろな。東京でいろんなことを見て、聞いて、知って……それでできた夢だから」
長濱「そのアイドル活動は蔑ろにしていいんだね?」
米谷「そんなことはない!でもAKBに勝つなんて大それたこと……ぶっちゃけ無理なんやないかなって思ってる」
長濱「できる!ねるはそう思っとるし。米さんの夢もAKBに勝つくらいのことだよ?いいや、AKBに勝てずして叶えられないよ!」
米谷「またそれか!絶対そのセリフ好きやろ!でも確かに悔しいけどそれくらいの次元の話なんだよな〜!」
長濱「米さんの壺の話の通りに、より全てが入りやすくなると思うよ。コインとか紙とか他にも!だから英語も学べて、アイドルでも一旗上げれて一石十鳥くらい!」
米谷「おお……!並行していけるやん!」
長濱「米さんが学力を武器にするのであれば、世界十指に入るとこに入らんと!」
米谷「いいや、五指や!」 長濱「じゃあ世界4位のケンブリッジ大学で」
米谷「世界4位……」
長濱「そこに行こ?」
米谷「………。はあ……やっぱあんたには勝てへんわ」
長濱「それじゃ!?」
米谷「ほな、行こか」
長濱「十九人目」
平手「よね……」
米谷は笑顔で券を受け取る。先程の今泉の時のような殺伐とした感じは一切なく洗脳されたという感じもない。
平手に一言謝り、券を受験票のように大切に握りしめ降車した。
バスに21人いたメンバーが長濱と平手の二人までになった。 支援&読んでくださってる方ありがとうございます!
今日中に終わらなくて、長々とすみません。
本当にあと少しで終わります。(誤字脱字気を付けます。)
最後は平手との戦いです。
遅くとも水曜には完全に終わりにします。
ご指摘お願いいたします。 いつのまにか異能系になってて草。
時戻しに時止めとかジョジョかよ!
支援! 平手は長濱へ睨み付ける攻撃をする。
対して長濱は平手をスリーピースで制する。
長濱「ごめん。三分だけ休ませて」
平手「いいよ。休みな」
一言だけ交わし、二人は背を向ける。
長濱は運転席に座り、目を閉じる。
平手は三日間座っていた三列目窓際の自分の席に腰を下ろし、窓の外を見る。
19人の仲間たちがバスを心配の眼差しを向けていた。
平手「虹花。上村、尾関。土生ちゃん、みーちゃん……。鈴本、菜々香。しーちゃん、愛佳。理佐、ぺーちゃん、葵、オダナナ……。あかねん、ゆっかー、ふーちゃん。こばゆい、ずーみん。よね!」
彼女たちと長濱は北欧へ行く選択をし揺るがない。
ただ一人だけ行く選択をしていない少女は揺れていた。
平手「さて、と……」
平手は今日までの三日間を振り返る。 山梨にある富士急ハイランドで初のワンマンライヴを二日間やった翌日に事件が起きた。
"事件"ではないのか、何て言えばいいだろう。
犯罪はしていないらしいから、"物語"とでも言っておこう。
平手「0……」
一日目。
物語が始まったのは一昨日の朝。
ライヴの翌日ということもありオフの予定だったのに、前の晩に急に泊りがけのロケの連絡が入った。
当日漢字欅20人を乗せたバスは東京を出発した。
誰も行く先を知らないことから、すでにドッキリを仕掛けられているものだと思っていた。
織田が個室へ入ると、大きな叫び声と物音がした。ふーちゃんが個室を覗くと腰を抜かした。
個室から出て来たのは血まみれの織田とナイフを持った黒ずくめだった。 黒ずくめから全員個室に入るように言われて、力と頭を使って入った。
しばらくして個室から出されると高速道路に入っていて、白ずくめが現れた。
白ずくめからの命令は「七不思議を解け」、ルールは"回答権三つ"というものだった。
その後に四方と中央通路に壁が飛び出して、右側と左側に二分化させられた。
米たちがいた右側は、冠番組で去年の秋にやった運動会のチームガチのメンバー10人。
私のいた左側は、チーム割と平和主義のメンバーで、ねるの代わりに運動会を欠席した私の9人。
前方で人質にとられた織田を助けるため、七不思議を解くことにした。 平手「1」
一つ目、最初の七不思議は平和チームに出された。
"@佐藤詩織の顔"について、一時間半かけて解いた。
ぺーちゃんが前の席、織田の座っていた席の下から一片のメモを見つけた。
それには、"この中に不協和音がいる"と書かれてあった。
平手「……2」
同時進行で、二つ目の七不思議がガチチームで出されていた。
"❷上村莉菜の指"について、解くのに二時間超かかったらしい。
ガチチームは黒ずくめと白ずくめが一人二役やっているのではないかとにらみ、次に黒ずくめか白ずくめが現れたら襲いかかりバスを降りる作戦を立てた。
一つ目、二つ目の七不思議を解いたことにより両チームの窓際を塞いでいた壁が消え、外の景色が見えるようになった。
茨城県から福島県に入り、さらに北へと向かった。 平手「3……」
三つ目の七不思議は平和チームに出された。
"B守屋茜の負けん気"について、三回目の回答権を使って解いた頃には日が暮れていた。
途中、先にガチチームが四つ目の七不思議を解いたらしく、個室のある後方の壁がなくなった。
おかげで個室に両チームが行けるようになったけど、ガチチームに会えない対策がされていた。
その後に、平和チームで三つ目の七不思議が解けて、個室の前にある謎の間の扉が開くようになった。
そこには人数分の数日分の水と食料があってみんなで分けた。 平手「4」
四つ目の七不思議はガチチームに出された。
"C菅井友香の本気"について、四時間で解いていた。
このバスは21人乗りということから黒ずくめと白ずくめが一人二役していると予想してバスを降りる作戦を実行する。
前方から様子見に来た黒ずくめを全員で襲いかかろうとするも、後方から白ずくめが入って来て作戦は中止となったようだ。
みーちゃんは犯人は運転手、黒ずくめ、白ずくめ、後続車の成人男性四人ということからずーみんのお兄ちゃんの数と同じで"今泉犯人説"を指摘した。
ずーみんは復帰の意気込みを言いながら否定していたとか。
バスは宮城、山形、新潟を経由して長野で高速道路を降りた。
着いたのは軽井沢にあるキャプテンゆっかーの別荘だった。
七不思議を解かされているのか、どうしてここを知っているのか、東京から出発して長野に来るまで遠回りをしたのは、目的、何もかもが分からなかった。
そこでもガチチームの子とは会えず、二分化されたまま。
人里離れた山奥で何が待ち受けているのか、不安を抱きながら眠った。 二日目。
地下にでも監禁され一生日の光を見ることはないと思っていたけど、何事もなく夜明けとともに目を覚ます。
日が少し昇った頃、再びバスに乗せられ出発する。
平手「……5……」
五つ目の七不思議はガチチームに出された。
"D渡辺梨加と渡邉理佐の関係"は五時間以上かけて解いていた。
軽井沢から出発したバスは、埼玉、東京、神奈川を通り静岡にまで来ていた。
遠回りの意味と目的地は分からず、織田を心配しながら、次の七不思議に備えていた。
平手「…………6」
六つ目の七不思議は割と平和主義チームで出された。
"E今泉佑唯の自信"を解くのに、六時間かかっても解けなかった。
難しすぎて解けそうにないと諦めかけた時に本人に聞くことを思いつき、似ていると言われている鈴本と入れ替わる作戦を立てる。
運転手が小休止するため人気のない滋賀のPAに降りた際に作戦を実行するも、最後の最後で入れ替わりに気づかれて失敗に終わる。
鈴本は今泉からヒントをもらい六つ目を解くことができ、私たちを二分化していた中央通路の壁が動き出す。
バスは本州・兵庫から淡路島へ走る。 淡路島を通り、四国・高知に入る。
中央通路の壁がなくってガチチームと再会でき、お互いの無事と情報を共有した。
平手「……。7」
七つ目、最後の七不思議が出て両チームで挑む。
"❼平手友梨奈の過去"を、夜七時からとりかかり最後の回答権で解いた。
とても信じられない答えだったけど、最後の一枚と思っていた前方の壁がなくなる。
前には織田の姿はなく、黒ずくめが控えていて、運転席はおなじみの壁に囲まれていた。
黒ずくめは「七不思議は七つではない」とか言って、後ろの個室へ消えてった。
愛媛の港でフェリーに乗り、夜の海峡を揺れる。
突然みいちゃんが全員死亡説を唱え、夢ならそれもありえるかもと思った。
現実は、このまま海外に売り飛ばされると震える子もいた。 三日目。
日付変わって今日、船が九州・大分の港に着きバスは三度走り出す。
平手「8…………」
八つ目の七不思議が出され、みんなはフルマラソンを走り終えたと思ってたのにゴールは50kmだと言われたような気持になる。
"❽長濱ねるの加入"を解く前に、米が名推理で"不協和音"を当てる。
この危なっかしい計画を立て行った"不協和音"は、織田奈那、齋藤冬優花、長濱ねるの三人。
"犯人"ではなく"不協和音"と言っていたのは、拉致監禁罪、脅迫罪、銃刀法、電波法、道路交通法の全てに触れていないからと言う。
最後の七不思議は難しく、ねる以外の『不協和音』フロントメンバー六人で答えにたどり着いた頃、空が明るみ始めていた 。
運転席を囲っていた壁がなくなり、運転手ねるの姿を目にする。
長崎空港に着き、"不協和音"の三人は全てを話す。 目的は、乃木さんのライバルにして国民的アイドルグループ"AKB48に勝つために北欧へ行く"というもの。
全員の故郷を経由して、七不思議を解かせ、極限状態に追い詰めたのにも理由があった。
それぞれ、海外に行くからしばらく故郷に帰れそうにない、お互いのことをもっと解り合う、どんな困難も立ち向かいチームの団結を強める、と言っていた。
そして今ねるの最後のお願いの一対一での「おしゃべり」をして、みんな洗脳のようなものや論破、言い負かされてイギリスに行くことを決意しバスを降りている。
外にはもう19人がいて、バスの中には私とねるの2人だけだ。
私にこいつを止められるのだろうか。止められたとして外にいる子たちを説得できるか、19人も。
止められなければ、みんな揃って仲良くイギリスに行くことになる。
それとも、私は―― 時刻は午前六時前、長濱の言った三分が経過した。
長濱は運転席から立ち上がり、猿腕を上へ飛ばし背伸びする。
平手はサイレントマジョリティーモードのスイッチを入れる。
長濱「それじゃ、終わらそっか」
平手「上等だよ。英国のみじょか外交官ねる」
長濱「何その肩書!うける〜」
平手「私がお前を止める……!」
長濱「止められるかな。こないだまで中学生だったおこちゃまに」
平手「なめるなよ」
長濱「さっすが。じゃあ行くよ、平手友梨奈ぁああああぁ!!」
平手「来いよォ長濱ねるっ!」 長濱「ねるが二十人目で、てちがラスト……二十一人目になる!」
平手「21人目はお前だ。昔も、今も」
長濱「……何?どういう意味で言ってる?」
平手「後で分かる。私たち坂組は登り続けなければ輝けない」
長濱「その通り。でももうあの坂の頂にいる。登り切ったら後はもう下るしかない」
平手「もう登り切った気でいるのかよ。だとしたらとんだ思い違いだな」
長濱「まだ坂の途中だって?アッハ、冗談!平坦だと思っとった道はほんの少し傾斜してただけのあの坂はねるたちには緩やか過ぎた」
平手「だから険しい坂に挑む?」
長濱「輝けなければ、AKBに勝つことはできない。乃木坂さんはもうダメだ。あそこはもう下り坂。寮に男性を連れ込んだり……もちろんそんな子たちはほんの数人だけど、AKBに勝てるわけない」
平手「失礼だろ。乃木さんもまだまだ坂を登り成長を続けている。でもAKBには勝てないだろうな、AKBのが強すぎて」 長濱「虚しい。そんなグループの妹分で終わるなんて……。だから勝つためには行くしかないんだよ」
平手「お前の言い分は今までの戦いを見て、よーく解った」
長濱「解ってくれたの?」
平手「私の答えはもう決まってる」
長濱「もう行くしかなくないよね!ね?」
平手「やってくれたな、本当に。最初に織田とふーちゃんを仲間にしたのが大きかったか」
長濱「へへへ」
一番年下ではあるが、一番難攻不落と思われていた平手が否定的ではない。 平手「お前がタイムリープして何十回かやり直していることは分かってる」
長濱「教えなきゃフェアじゃないから、そのために八つ目の七不思議だよ」
平手「単純に二十回くらいはやり直して今にいるのか?」
長濱「46回目。ちゃんと数えてたよ」
平手「そんなにやっていたのっ!?」
長濱「意外とゆっかねんにてこずって、ゆいちゃんずに苦戦させられて初めからやり直し〜だったかな〜」
平手「初めからってどこからだっ?」
長濱「う〜ん、それは秘密」
平手「……」
――ねるのそれは分単位で遡れるわけではなく、ある地点まで戻るもの。
最初からというのは最後の戦いの最初なのか、それともこの危なっかしい計画の最初のことを指しているのか分からない。
後者だとしたらバスを何千kmも運転して、私たちと戦っていたことになる。なんて執念なんだ。 平手「私が勝ったら、一人国に残る……」
長濱「え、一人だけ日本に残るってこと?みんな行くんだよ?ほら!」
長濱はバスの外で見守っている19人を指差し、平手がそれに目をやる。
外からは中の様子が見れないが、一同は心配してバスに視線を向けている。
平手「まだ話の途中だ。一人だけ国に残したい子がいる」
長濱「ん?それっててちはイギリスに行くってこと!?」
平手「ここまで来られちゃ行かないわけにはね……悔しいけど」
長濱「イエーイ!!一二三四五六七八九十〜!!!」
長濱は喜びの舞を平手へ求めるも、応えず結果長濱が一人で踊った。
滑った感じになり、恥ずかしさを咳払いでごまかして話を戻す。 長濱「で、誰その一人って?やっぱ葵ちゃん?それとも〜……」
平手「ねる」
長濱「…………は?え、待って。寝る?」
平手「お前だよ!長濱ねるッ!!」
長濱「ねる……私だっ!」
平手「……その様子、あとずーみんやよねとのやり取りを見て分かった。私とは初めてやるんだよな」
長濱「バレちゃったか」
平手「お前もうタイムリープするな。これは私とねるの一回きりの真剣勝負、人生と同じでやり直しなんかないんだから。いいな?」
長濱「……。いいいよ」
平手「"い"が一こ多いし、その間は何だよ!どうせやり直しても今の私が気づかないとか思ってんだろ?」 長濱「もしかして、人の心を読む機能を備えとる?」
平手「ないよ!でも、私も自分の"不思議"でねるのそれを止めさせてもらう!」
長濱「できるの!?」
平手「たぶん……」
長濱「何それっ!」
平手は自信なくはったりをかまし、長濱に笑われる。
相手にバレていることも分かった上で話を続ける。
平手「これは乱数ジェネレーター?で導き出した結果だから。もしやり直したら別の方法でお前のイギリス行きを何としてでも止める。止められなくても私は絶対に行かない!」
長濱「へ〜?ちなみに、乱数の範囲はどれくらいにしとる?」
平手「そうだな……。ねるが46回やり直したって言ってたから、それに合わせて46までとしとく」
長濱「ところで、自覚してるの?七つ目の七不思議の」
平手「信じれるわけないじゃん、自分がAIか何かだなんて……。でも、何かおかしいと思ってたことにも説明がつくから何とも……」
長濱「なるほど――いいよ。もう時間を遡らない。神様に誓う」
平手「信じるよ」 長濱「てちは行くわけだから二十人目で、ねるがニ十一人目って?もしねるが負けたら行けないから?」
平手「そういうこと」
長濱「この危なっかしい計画の言い出しっぺはこのねるなんだよ?」
平手「みんな揃って同じ意見だけじゃおかしいだろ?お前が行くのは私に勝ってからだ」
長濱「最後はねるがイギリスに行けるか試されるんだね」
平手「行きたいなら、私を抹殺してから行けよ」
長濱「ここで21人で行けなかったら生きてる価値ない。殺すつもりで行くよ」
平手「始めようか」
長い前座が終わり、平手ではなく長濱の渡英をかけた最後の戦いが始まる。
平手は喉と腰と気持ちを整える。長濱はクイズ大会の早押しの時のように意識を研ぎ澄ませる。
長濱の不思議の時間遡行は、平手の不思議によって封じられ一度きりの真剣勝負となる。
長濱が勝った場合は仲良く21人で海を渡り、平手が勝った場合は長濱1人を日本に残す。
どちらが勝っても平手が渡英することに変わりはない。 長濱「それで、論点は何にする?今までは行くか行かないで言い合ってたけど、てちはどっちにしたって行くんだもんね?」
平手「これはお前が行けるかどうかの試験のようなものだからな」
長濱「だよね。お題は?」
平手「ひらがなけやき」
長濱「けやき坂46。いいねえ――」
長濱は予想通りの論点となり、得意気に承諾する。
平手も長濱の土俵ということを知った上で妹分での勝負を挑む。
そのことに長濱が気がつき再び気を引き締める。
長濱「けやき坂があるから、ねるは日本に留まるべきってことでしょ?」
平手「その必要がなければまた論破すればいい」
長濱「OK。先手てちどうぞ」 平手「お前がいなくなったら誰ががなちゃんを統率する?お前がやらなきゃならないんだよ」
長濱「その逆。ひらがなはねるが……漢字がいるからこそ著しく成長を妨げられている」
平手「それは後輩の宿命だよな」
長濱「乃木坂さんの2期生だってずっとその苦悩と戦って日の光を浴びたのはほんの数人」
平手「あの人と、他何人か」
長濱「さらに3期生まで入って来てヒィーチャーされて、間世代の2期生がかわいそう」
平手「つまりあれか。今度入ってくるがなちゃん2期は実質3期生で、今のがなちゃんは実質2期生と」
長濱「上には漢字、下には若い後輩。間に挟まれたひらがなは今よりもやばくなる」
平手「十分恵まれてると思うけど」 長濱「AKBに勝つために漢字は世界に行けばひらがなはもっと成長できてる。お互いにWin-Winでしょ?」
平手「でも、その引っ張っていく人がいなくなったらダメだって言ってんの!」
長濱「だからその逆なんだって!漢字も上に誰もいなかったから、自由に飛び立てたんだよ」
平手「じゃあ聞くけど、あの子たちはサイレントマジョリティーを超えられるか?」
長濱「そ、それは……っ」
平手「無理か?」
長濱「いや、ジョリティーはズルいよ!」
平手「そんなの関係ない。自由とか成長とかどうでもいいけど、残されたあの子たちだけじゃうちらのデビュー曲すら超えられなければ話になんない」
長濱「いや待って!あの子たちの潜在能力はすごいんだから!」
平手「出たよ。ねるの必殺技の"持ち上げ芸"」 長濱「持ち上げ芸?何?」
平手「冠番組でお前ががなちゃんを紹介するときに、芸能界を覆す面白さ〜とかなんとか言ってたよね?あれは面白かったよ」
長濱「あれは、その違くて……やっぱバラエティーだったから……」
平手「ああ、やっぱりバラエティーだったんだ。じゃあ実際は違うんだ」
長濱「当たらずとも遠からず、だよ!!」
平手「いい加減だな、ただ投げやりでやってたのか。お前そういうとこあるよな」
長濱「うっ……」
平手「何度でも言う。お前がいないとダメなんだよ、ひらがなは」
長濱を諭す平手が一歩リードする。 平手「持ち上げ芸もそうだけど、お前ひらがなを蔑ろにしていないか?むしろ一人だった時の、あの時のお前はなんだったんだよ」
長濱「あの時のねるは……上京してきたのに、一人きりで……ひらがなに全力を注いできていただけ……」
平手「それがなんだよ?漢字と兼任となった途端……いや最近のお前は明らかに変わった、悪い意味で」
長濱「ねるがいるからこそ邪魔になってしまってるの!だからひらがなにはあまり干渉しなかった……」
平手「それは違うな。お前ががなちゃんに積極的に干渉しなかったのはずっと漢字にいたかったから、なんじゃないか?」
長濱「……否定はせん。何が起こるか分からない中、いつか兼任ではなくひらがな専任になってしまうことを恐れていた。だから敬遠してた」
平手「アンダーになりたくなかったんだよな。現実的に選抜との差はすごいものがあるから」
長濱「そう、アンダーのグループ……。そんなひらがなのことが大嫌いだったんだよぉ!!!」
平手「ねる……」 長濱「選抜落ちしたくないからひらがなを避けた。あの子たちもそれに気づいたのかあまりねるに懐かなかった」
平手「心に壁があるのは見て分かってた。ねるの心も鋭いあの子たちに分かってたんだと思う」
長濱「そんなことを感じさせていたねるにはリーダーは向いてない。一番下っ端の転校生が一番合ってるんだよ……」
平手「そうかもしれない。けど、お前はまだ与えられた役割を全うしきってない!!」
長濱「先生に、運営に、唯一与えられたけやき坂46」
平手「ひらがな2期生が来月入ってくる。その子たちの教育も、何もかも芽実たちに押し付けるの?」
長濱「…………」
ラスボスを前に弱体化した長濱はついに何も言えなくなった。
反撃の糸口を探すも、見当たらない。
長濱にはけやき坂を作ってしまった責任がある。
ひらがなの木の幹は長濱であり、その枝に12枚の葉がついている。 平手「兼任しているとはいえ、ねるとひらがなは運命共同体なんだよ」
長濱「ぅうう私もイギリス行きたーい!!」
平手「転校生なら尚のこと、まだお前は来るべきじゃない」
長濱「"まだ"……?またなの?私を置いていくの!?」
平手「うん」
長濱「うっ……。置いてかないでよぉ……」
平手「乗れるだけでいいじゃん」
長濱「っ……そう、だね……」
涙する長濱のその返事は敗北を意味した。
長濱は知っていた。自分が欅坂に入れなかった未来を。
退屈な高校生活をただ送る日々に耐えられない。
バスに遅れ、ハンデを負いってでも乗れたことこそが全てである。
そのために神から与えられた不思議だから、それ以上を望んではいけない。
乗り遅れる、それが長濱の運命だ。 長濱「まだ皆には黙ってて。話す時間もないし」
平手「分かったよ。離陸してから私から話すよ」
長濱「ありがとう、てち……」
平手「礼を言うのはこっちだよ。このまま乃木さんの後をついて行っていたら私たちは傷つかなかっただろうけど……いろいろありがとう、ねる」
長濱「AKBに勝つ、なんて夢を見ることは時には孤独にもなるよ?誰もいない道を進むの?」
平手「"この世界は群れていても始まらない"からな」
緊張の糸が解け二人は笑い合う。
平手は長濱から二枚の券を取り、その内の一枚を細かく破り捨てる。
紙屑が舞い散る中、長濱はふと思う。
――この紙吹雪が老朽化しないとして、偶然元の一枚の券に戻ることは永遠にない。
ということは、私は北欧に行く運命ではないんだ……今は。 平手「イギリス着いたらどうすればいい?」
長濱「向こうに着いたらどこで何するかはオダナナとふーちゃんに託してあるから」
平手「そっか。ねるが行かないって知ったらみんな騒ぎだして飛行機落ちないか心配だな……」
長濱「違いないね」
平手「ひらがなを任せたよ」
長濱「一本の欅から色づいていくように、この国で少しずつ馴染んでいけたらいいかな」
平手「国民的アイドルになるって大変だよね。AKBはほんとすごいよ」
長濱「あ!てちも呼び捨てに!」
平手「まあ、ライバルだしね」 長濱「ひらがな2期生も入ってくるし、現実的な話AKBに勝てなくてもせめてSKEには勝つよ!」
平手「十分すぎる。やってくれ」
長濱「いつかきっと欅がAKB、けやきがSKEに勝ったら抱き合って喜んで涙流したいね?」
平手「Wで勝ったらな」
二人は手を繋いでバスから降りて、外に21人全員が揃った。
46時間の長旅をした黒いバスは空っぽになる。
一同は長濱の愛車『ブラックねるちゃん号』を見て笑う。
一しきり笑った後、センターが一言言う。
平手「行こう」
平手を先頭に、『二人セゾン』のウォーキングフォーメーションで颯爽と空港へ歩き出す。 7:00
搭乗時間となり名前の順で飛行機へ乗り込む。
途中、渡辺が空港内のどこかにキャリーバッグを置き忘れるという一波乱あったが、事なきを得た。
突然一人の少女が内腿を抑えて言う。
長濱「トイレ!突然の尿意が!」
土生「入るまで間に合う?」
長濱「いや、間に合わんから国で!」
長沢「じゃあ先入ってる」
原田「迷子になんないでね」
平手「葵じゃないんだから〜」
原田「〜〜っ!」
最年少平手の発言に近くにいたメンバーの爆笑を誘う。
年下に言われ原田は頬を膨らませるも怒らない。 守屋「早くしろよー」
米谷「一緒に行こか?」
長濱「先に行ってて。後で合流するから、ごめんね」
渡辺「ん〜飛行機怖いー」
渡邉「ほら、行くよ」
長濱の発言の真意に気づいたメンバーがただ一人いた。
彼女は渡辺と渡邉を先に行かせ、長濱と二人きりなる。 米谷「なんでやねん……ねる」
長濱「あー、やっぱりよねはスーパー優しいね」
米谷「……ひらがな、か?」
長濱「ご名答〜」
米谷「てちに負けたんか?」
長濱「逆転サヨナラホームラン打たれちゃった」
米谷「ほんまに後でちゃんと来るんやな?」
長濱「できることなら2ndくらいには。SKEを倒してからね」
米谷「約束やで」
長濱「"いつかどこかで合流しよう"」
米谷「最後に、さっき仲良くなれへん言うてほんまにごめんな……」
長濱「あっはは、また謝っとるっ!いいよ〜」
二人は熱い指切りを交わし、笑い合う。
指を解き別れは告げずに別れた後、二人は誰にも気づかれないように涙をこぼす。 純正漢字欅二十名全員が搭乗を完了した。
座席は全員固まってはいないが、孤立したメンバーはいなく誰かの近くには座っていた。
平手と米谷以外のメンバーは長濱もどこかに乗っているだろうとも思わず、全員乗っているものと疑いすらしていなかった。
石森「あっちって人とか治安とか大丈夫かな?」
今泉「大丈夫だよ!だって、世界には愛しかないんだから!」
上村「いつもの自信もさることながら、相変わらず根拠がないじゃない!」
尾関「どうにかなるだろう!」
織田「由依は……いや、欅は私の生きる希望!」
小池「オダナナ、ふーちゃん。不協和音を買って出てくれておおきにな」
小林「ねるがいなかったら私たちはどうなっていたんだろう」
齋藤「まあいなかったら私たちも幾百のアイドルの一つに成り下がっていただろうね。たぶんだけど」
佐藤「イギリスってさ〜サイレントマジョリティーがいっぱいいそうなイメージがあるんだよね〜!」
志田「実際に欅はイギリスをモチーフにしてるからな」
菅井「乃木さんはフランスだっけ?」 鈴本「あ!つっちーにお礼言うの忘れてたー!」
長沢「機内食まだかな」
土生「あとサワビにもだよ!」
原田「土田さんと澤部さんの二人に怒られるセゾン〜!」
平手「私的には活躍してこっちまで名前を轟かせたいと思ってる」
守屋「便りしなくても、よい便りを届けられるようにしようよ!」
米谷「頼りにしてんで〜?」
渡辺「たより〜フフフフフ」
渡邉「はーい、よくできました」
待ち受けているのは国にいた頃より、過酷なものになるのは間違いない。
しかし、未知な世界に対して不安より好奇心を強く抱く。皆がいるから怖くない。
このメンバーでならどこへだって行ける。何だってできる。
少女たちは夢を見て、夢で終わらせない。 フライトの時刻となり、飛行機は滑走路を走る。
機体が浮き、46度の角度で上昇していく。
窓の外を眺めていた平手は意を決して、立ち上がり仲間の方に振り向く。
平手「みんなあのねっ!……って寝てるし?」
仲間たちは長旅に疲れ、すでの夢の中にいた。
CAに立ち上がったことを注意され、謝ってから席に着く。
――話すのは起きてからでもいいか。私も寝る。
昨日眠れなかったから、十二時間くらい寝そうだな。
起きたらもう向こうに着いてるかも。
平手「待っていて、世界――」
直後に平手はスリープモードに入る。 展望デッキに空の旅客機を一人眺めている少女がいた。
風で乱れる長い髪を耳にかける仕草をする。
長濱「大好きだよっ。みんな、大好きっ」
少女は飛び立つ機体に向かって呟いた。
一昨日の9時から始まった46時間のとてつもなく長い旅を終え、物思いに耽る。
そして、飛行機を背にし歩き始め、自分に言い聞かせるように物語に終わりを告げる。
長濱「またバスに乗り遅れる」
-END- この物語はフィクションです。
実際の人物、団体とは関係ありません。 途中ちょっと心配になったけど、綺麗にまとまったね!!とても面白かった!!
ありがとう!!! 秋元「ほうほう、いいね〜参考にしよ!」
次回のドラマ
『不協和音は誰や?』 お疲れ様でした。
途中からメンバーの口調とかが変わってきて>>1がねるに対して持ってる不満を書いてるんじゃないかと思ったけど全体的に面白かったです。
続編期待! 面白かったけど、若干気になることが.
ブラックねるちゃん号の隔壁改造は遵法か?
イギリスって北欧?
長崎空港から渡英?(仁川経由か?) 面白かったです。
何人かのメンバーの口調がきついのが気になったけど 支援保守読了感想指摘ありがとうございました。
物語は、富士急翌日からの三日間で七不思議を解きながら"不協和音"を探すというものでした。
一応米谷が主役となっていましたが、小池に怒られそうな関西弁の数々をお許しください。
メンバーの口調がきついところがありファンの方々を不快に思わせてしまい申し訳ありませんでした。
もっと本気でぶつかり合ってほしかったのですが←中途半端な感じになり未熟さを痛感しています。
イギリスへの直行便はないので経由はおまかせです。設定や法律もこじつけが少なくなくてすみません
お話の構想自体は年末くらいからあり、一年前にも欅のssをあげさせてもらったことがあるのですがあまりにもしょぼすぎたので、少しはリベンジできたのではないかと思っています。
前作はサイレントマジョリティー収録の前日のお話で、コンセプトはメンバーの自己紹介のようなものでした。
けや充の日々とても楽しかったです。
今後も欅坂46の応援をよろしくお願いします。
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