【小説】欅坂米谷「不協和音は誰や?」 [無断転載禁止]©2ch.net
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第一話
石森「お、オダナナ……?」
今泉「なーち……!」
上村「え゙ー!?」
尾関「ぎゃあああああああああっいやぁああああああああっ!!!!」
小池「何コレ……」
小林「…………」
齋藤「うっぷす!?」
佐藤「あゎわわわわわ!?」
志田「……オダナナ。!」
菅井「ウソ」
鈴本「っ!?」 長沢「おだ、なな……」
土生「うえええええええええっ!?」
原田「ママ!!」
平手「織田……奈那……」
守屋「死なないで!」
米谷「嘘、やろ……!?」
渡辺「…………ダニ」
渡邉「なんで……こんな――」
織田「」
黒いバスの車内は阿鼻叫喚に包まれる。その中心には織田と黒づくめの人物がいる。
先刻までマイクを握りしめ歌っていた口は開くことはなく、バスは走り続ける。 数刻前
7/24 9:00
―――――――――
> | 運転席 |
―――― ――――
| ■ ■ |
|土生菅井 尾関石森|
| |
|小林上村 米谷佐藤|
| |
|平手鈴本 小池今泉|
| |
|原田織田 志田渡邉|
| |
|齋藤渡辺 長沢守屋|
―――― ――――
| WC > | ? |
――――――――
織田「きょーはー欅坂、2章目なんだ♪みんなの気持ち受け取ってよっ寄せ書きプレゼント〜」
齋藤「フー!」
佐藤「昨日とおととい富士急で初の野外ライブ『欅共和国』があったってのに元気有り余ってるね〜」
石森「しかもAKBさんメドレーかーい!ちょっと歌詞変わってるしー」
守屋「泊りがけのロケなんて初めてじゃな〜い?」
長沢「2ndで北海道に行ったっきりだよね」
小池「でも今回はねるがおれへんな」
原田「珍しいよね?ねるちゃんいない漢字20人でのお仕事なんて」
今泉「復帰してから月スカぶりの仕事……緊張……」 志田「てか、どこ行くんだっけ?」
土生「ロケとしか」
米谷「うちも聞いてへんな」
渡辺「知んない」
守屋「キャプテーン、なんか知ってるぅ?」
菅井「え、私も知らないよ……」
渡邉「……どういうこと?」
鈴本「これから行く所を……誰も、知らない?」
小林「何が起きてるの?」
平手「……わかんないけど、なんか嫌な予感がする」
泊りがけのロケだというのに誰も行先を知らず、恐怖を覚える。
渡辺も何かが起きていることを察する。 尾関「あ!でもさーこれってドッ……」
上村「しっ。言っちゃダメ、もしそうだったら……」
上村はドッキリ企画を潰そうとした尾関の口に人差し指を当てる。
尾関と石森はそれを理解した。
尾関「あそっか。わかった」
石森「じゃあ気づいてないふりしなきゃ!」
小池「アホー!言うたあかんで!」
米谷「カットしてもらおか」
齋藤「相変わらず虹花ちゃんはおバカなんだから〜」
今泉「さっすが1位だねっ!」
志田「ずみこは人の事言えねーだろー」
渡邉「確かにね」
守屋「まっ、なるようになるっしょ」
長沢「お腹すいた」
誰も行先は知らずとも経験上一大事にはならないと思っていた。
腹を空かせた長沢はおかしを頬張り始める。 キャプテンは企画に気づいていないふりをする。
土生は備え付けのモニターを指差して言う。
土生「このモニターでゲームやりたいな」
菅井「酔うよ?」
小林「馬酔いってするの?」
上村「うん。メリーゴーランド乗った時ふつうに酔った」
鈴本「アッハハ!」
平手「1こ言っていい?」
織田「その前にお手洗い行ってくるわ」
齋藤「行っトイレ〜」
原田「ねえ、聞いて聞いて!」
渡辺「何ー?」 織田「いやあああああああああああああああああ……!!」
後方にある個室から織田の叫び声がし、大きい物音とともに声は途切れた。
メンバーは固まり、車内が静寂に包まれる。
未だかつて聞いた事がない織田の絶叫が普通でないことが起こっていると感じさせる。
数秒後ゆっくりと個室の扉が開く。何を思ったのか最後列の齋藤が吸い込まれるように中の様子を見に行く。
彼女は目にしたものを見て、腰を抜かす。
齋藤「…………」
織田「ゆ、い……」
小林「っ……!」
個室の中から織田の声、続いて黒づくめの人物が出てくる。
黒づくめは右手に赤いナイフ、左手には血まみれの織田を抱えている。
全員がそれに注目する中、ただ一人だけ進行方向を向いている者がいた。
運転手「……」
運転手だけは前を向き、ハンドルを握っている。
その顔は無表情であり感情が無いわけではなく、職務を全うしているわけでもなく、バスを止める気もない。
バスに乗っている誰もが声を発せず、その時間がとてつもなく長く感じる。
登場人物は出尽くし、物語は冒頭に戻る。 9:30
黒づくめは織田を抱え中央通路を歩き、前方へ行く。
19人の少女たちはその場から動けずに、見送るしかできない。
運転席の隣へ雑に織田を下ろし、黒づくめは少女たちに言い放つ。
黒「このバスは乗っ取った」
菅井「ばっ、バスジャックぅ!?」
佐藤「訳が……分からな……」
石森「こ、殺され……っ!」
黒「静かにしろ」
小池「ひぃいいいいい!」
土生「しっ!」
渡辺「……ん〜!!!」
渡辺は喋らまいと口を塞ぐも、逆に声が出てしまう。
偽ディレクターよりも激しい暴力が目の前に立ちはだかる。
平手、土生以外のメンバーが涙し、恐怖で震える。
黒「後ろに行け」
平手「…………従おう」 19人はバスの後方へと追いやられる。
これから何が始まるのか分からない恐怖に押しつぶされそうになり、呼吸が乱れる。
一番頼りになる織田が前方で倒れており、ぴくりとも動かない。
心配で胸が締め付けられ、どうにかなってもおかしくない状態の少女もいた。
黒「全員この中に入れ」
黒づくめがナイフで差す"この中"とは織田がやられた場所だった。
一同は刃先のその先に視線をやる。
尾関「あ、え?……おトイレ?」
小林「ハァッ!?」
一同は理解が追いつかず困惑する。
分かったことは一つ。この狭い個室に19人の人間が入ることは不可能ということだけ。
今泉「む、無理だよ……!」
米谷「一畳もないやん……」
黒「5分だけ待ってやる。入れなかった者は――」
黒ずくめはナイフをチラつかせ、前方へと消えた。
渡辺さえも黒づくめの仕草を見て、身の危険を理解する。 黒づくめの持つタイマーが5分を測り始める。
怯える少女たちは犯人に聞こえない声でやり取りする。
石森「早く119番に電話しなくちゃ!オダナナがっ!」
今泉「110番も!」
上村「あの人こっち見てるからどっちも無理!」
尾関「な゙ん゙で……っ」
小池「うぅううううぅううぅ……」
小林「許さない……」
齋藤「一人5分?」
佐藤「顎が……外れそ……」
志田「どうしよどうしよどうしよ!!!」
鈴本「お……だ…………」 菅井「落ち着いて!みんな落ちゅちゅいて!」
長沢「ぁぁぁあぁああああ……!!早ク織田ヲ助ケナイト……」
土生「このままじゃ間に合わなくなるかもっ!」
原田「えっぐ……うぅう……」
平手「……みんな聞いて」
守屋「入るの!入らないの?どっち!?」
米谷「……こんな時、あいつがおれば……」
渡辺「わーわーわー!!!」
渡邉「うるさい!」
平手「っ聞けぇええええええええっ!!!」
パニックになるメンバーを制する渡邉の声を平手の叫びがかき消す。
最後の方の声は裏返ったが、少女たちの泣き叫びが止まる。 今泉「てっこ……何?」
平手「織田は必ず助ける。だから今は落ち着け」
平手は黒づくめに臆さず前髪の隙間から睨み付ける。
最年少の言動を見て、涙を拭いサイレントマジョリティー本番のような眼差しと化す。
土生「だね。泣いていても始まらない」
米谷「必ず助けに行くで!」
守屋「待ってろよ、織田ァ!」
志田「絶ッ対ェ潰してやっからな」
渡邉「お願い、生きていて……」
鈴本「………………うん」
菅井「ありがとう、てち」
平手「ううん。それより、これ」
平手が見る先に狭い個室がある。
普通に考えて、普通の個室に、普通の少女19人が入るとは思えない。
改めて直面し、物言わぬ多数派の眼に陰りが差すも目を背けずに戦いを逃げない。 長沢「……これって誰か死ななくちゃいけない?」
今泉「死にたくない!」
菅井「大丈夫。誰も死なせない」
守屋「いくぞォッ!!」
菅井の瞳にはかつて一番の本気が宿る。
負けじと守屋の瞳にも負けん気を宿す。
長沢「うちら5カーズで、電話ボックスの中に入ってたね」
上村「あそこに比べればこっちの方が広いし!」
土生「壁に張り付いていたけど、まあまあ余裕あったもんね」
渡邉「頑張ればあそこにもう5人は入れたと思う。そう考えたら半々てとこか」
渡辺「……忘れた」
各々意見を言うも渡辺はすでに忘却の彼方にあった。
才女の米谷が咳ばらいをし、仕切りなおす。 米谷「先ずは、この個室は一般的な洋式でタンクレスタイプ。面積は一畳から半ってとこか」
小池「欅の木のフォーメーションになればギリいけるんちゃう?」
志田「便器が邪魔だから!」
石森「じゃあ便器に芯の土生ちゃんとうちを立たせて、そこを囲む?」
平手「いいねいいねいいね!」
佐藤「そういえば番組で半径30センチの円に8人くらい乗れたことあったよね〜!」
菅井「おバカちゃんが9人で」
守屋「インテリは8人しか!」
齋藤「でもさ、インテリは1秒だけ10人乗れてたよ!」
原田「そっか!平均9.5人乗れるとして、私たちは今その倍の19人いる……」 米谷「幅より奥行きの方がちょっと広い1対1点1のスタンダードや」
長沢「目測でだいたい90cm×100cmだから9,000cuくらい?高さは無視して問題ないかな」
米谷「そして、うちらが乗った円の面積は半径×半径×πだから……」
石森「ん?半径いっこ多くない?」
齋藤「虹ちゃんはちょっと黙ってて」
米谷「30×30×3.1416は2,827.44だから.5に繰り上げてにして×2して5,655cu」
守屋「全然いけんじゃん!」
米谷「待ちーや。9.5人乗れたんは足場だけ。外部にはみ出とったんが円の1.X倍……」
原田「トイレ面積の半分が4,500cu、1チーム9.5人の足場面積が2,327.5だから差2,172.5cu」
渡辺「……ん?」 土生「ほぼ倍じゃん!」
志田「いけんじゃん!」
今泉「余裕じゃん〜」
守屋「よっしゃ!早く入ろ!」
米谷「いや、待って!そうじゃない!」
守屋「え、X=9くらいだから1.9倍じゃないの?」
米谷「円の面積は半径が大きさに比例するから実際のとこ……」
原田「Xを0.25以下に収めなければ19人入ることができない!」
菅井「えっと、30cmの1.25倍だから37.5cm×37.5cm×3.1416cm×2チーム=8,835.75cu?」
佐藤「倍かと思ったら、たった1.25倍!?」
米谷「それでギリギリ9,000の個室に入れる。1.3倍だと……えっと9,500超えるから無理やな」 原田「でも個室は四方に……いや三方に壁があるから落っこちる心配はない!一辺の入口だけはドアを閉められるかどうか……」
齋藤「くの字の外開きだから最後の人が手動でしめるしかない」
米谷「壁があって高さも使えるんは大きい」
渡辺「ん?みんな肩車すればいけるってことじゃない?」
上村「そっか!全員が肩車すればいいんじゃない!そしたら9組と1人で10人分で済むよ!」
渡邉「それはダメ。どれだけの時間この中にいるのかは分からないし……」
齋藤「そうだね。二三組くらいにした方がいいと思う」
長沢「あと3分だよ」
作戦会議に2分が過ぎた。
長沢は引き続き残りカップラーメンが出来上がる時間を図る。
少女たちは実際に作戦を実行へ移す。 読んでますよ〜
埋め立てですか?が出たら短いレスを1個挟めばまたOKになるで〜 齋藤「じゃあまず土生ちゃんとにじぽん蓋に立って」
土生「はい!」
石森「ラジャー!」
蓋の上に二人が立ち抱き合い、欅の木の芯となった。
蓋は意外と小さく、もう一人上に立つことは難しい。
齋藤「次は肩車組行くよ。人選はそうだな……」
菅井「上は一番小さい莉菜とずーみんでよくない?」
齋藤「そうだね。じゃあ下はザ・クールの二人!」
志田渡邉「「シャー!」」
今泉「理ィ佐ァ」
渡邉「佑唯」
志田「リナババ」
上村「んもぅ!ババはやめてってばっ!」 守屋「いーそーげ!」
齋藤「そこもっとガッ!っていって」
副キャプテンは手を叩いて急かし、齋藤は身振り手振りで指示を出す。
佐藤「さすがふーちゃん!メンバーを操ってるっ」
小池「これでまだ6人かー。かなり厳しなー……」
菅井「あと13人も入る!?」
平手「やるしかないよ」
齋藤「次は菜々香と米。ななちゃんずポーズで奥の隙間に真ん中の便器を織田に見立てて両サイドから挟んで」
長沢「立膝着くけど、汚くないかな」
米谷「大丈夫や。このバス異常なほど綺麗やから」
佐藤「確かにすっごくキレイだよね。織田がここ使ってなければまだ未使用かもしれない〜」 齋藤「はい次鈴本!…………鈴本?」
鈴本「……………おだ」
守屋「ダメだ!鈴本は織田がやられて使い物にならない!」
小林「心ここにあらずって感じになってるっ!」
土生「じゃあどこにあるの!?」
鈴本の心は織田にあり、体は抜け殻となってしまっていることを得意な顔芸で表している。
いかなるメンバーの声も耳に届いていない。
齋藤「もういいから早く入れさせよう!」
鈴本「私も、外に残る……。織田を、置いて入れない……!」
菅井「ちょっと何言ってるの!?」
今泉「美愉ちゃん早く入ってよ!!」
赤子のように駄々をこねる鈴本をどうやっても中に入ろうとしなかった。
個室の中から渡邉が語り掛ける。 渡邉「美愉。私も織田の事が好き」
渡辺「私も!」
鈴本「え!?」
渡邉「だから――おいで」
鈴本「うん!」
志田「私だって理佐の事……」
純粋で単純な一言により鈴本はトイレに入り、今泉を担ぐ渡邉に抱き着く。
上村を担ぐ志田の想いは、走行音にかき消された。
平手「あと10人……」
菅井「まだ半分も入ってないのに……!」 齋藤「もう時間ないから次々行くよ!詩織、みいちゃん、ゆいぽん!!!」
佐藤「待って!どこに入ればいいの〜?」
齋藤「詩織は体柔らかいからそこの後ろの隙間に入れる?」
佐藤「入る!」
齋藤「ゆいぽんは菜々香の方がちょっと弱いからそこ入って!」
小林「おう!」
渡邉志田「ちょっと待って〜!!」
菅井「ちょっと待ってコールどうしたの!?」
志田「ヤバイ!体勢がキツイ!」
渡邉「大丈夫っ。早く入って!」
小池「うち後ろ行くで」
奥へと詰め込み過ぎたせいで、一時体勢が危うくなるも持ちこたえる。
残り7人となり、残り1分となる。 齋藤「次は尾関!そっちに!」
尾関「……」
齋藤「どうした?鈴本みたいになって」
尾関「……織田とは私服のダサさで競い合っていた」
齋藤「ああ……どんぐりの背比べだったけど」
守屋「おぜちゃんそれ今言うこと?早くしないと!」
齋藤「待って茜。それで?」
尾関「あいつはメチヤカリでおしゃれになったのに、私のことをけなしてくる」
齋藤「ダサい織田からダサいって言われるのはつらいよね」
尾関「それでもあいつの言葉には愛があった。私のダサさを自覚させてくれてたんだ」
齋藤「うんうん。そうだね」
尾関「生きてここを出たら切磋琢磨して一緒におしゃれになる!」
齋藤「そっか。身の丈と季節をちゃんと意識してね」
守屋「おしゃれの人と切磋琢磨しよ?」
齋藤の人の話を真摯に受け止めて応えるというモテる秘訣の片鱗を見せる。
最後の守屋の助言が尾関の耳に届いてるかわかりかねる。 尾関「お願い!ふーちゃん一緒に入って!」
齋藤「でも、私は最後に……」
菅井「後は私に任せて。なんてったって私は欅坂のチャプチェなんだから!」
齋藤「任したよ。キャプテン!」
齋藤は主将に指揮権を譲り、尾関は齋藤に密着し一緒に入る。
外からは中はもうすでに満員に見える。
齋藤は個室の中から外にいる残りのメンバーを数える。
齋藤「1、2、3、4!あと4人!踏ん張りどころだよ!」
原田「いけるよ!」
菅井「まだ100%満員!朝の通勤ラッシュはこんなものじゃない!」
東京で育った原田と菅井はまだ入れると確信していた。
守屋と平手も上京して初めの頃、超満員に遭遇した時を思い出す。 守屋「てか、お嬢様でも電車乗ってたんだ?」
平手「てっきりリムジンかと思ってた」
菅井「そんなわけないでしょっ!はい茜とてち入って!」
守屋「てっちゃん。先入りな」
平手「ありがと、あかねん」
守屋「次は私。行くぞーい!うおおおおおおらああああああああ!!」
志田「いやぁあああああああああああっ!」
渡邉「しーずかにして!」
守屋「よっしゃ入ったぁー!」
石森「さすが!気合で押し込んだあ!」
少し力を込めて中に入った平手に対して、守屋はかなり気合を込めて押し入る。
個室は既に寿司詰め状態であるため、守屋は気合を入れ続けて出口を塞いでおり力を抜けない。 原田「あとはゆっかーと私だけ!!」
土生「小さい葵から入る?それともゆっかー?」
菅井「私の腕筋舐めんなよ!!うまああああああああああ!!」
菅井は後者を選び、先に背中で押し込む。
中にいる一同は息を肺を潰され、密着度が増え、一人当たりの面積が減る。
小林「すごい!入った!」
菅井「葵ちゃんここ来てっ!」
小池「葵の分まで空けるとは!」
原田「あ入れたー!」
志田「うっしゃあああああああっ!」
今泉「ヤッター!」
土生「すごい……これが友香の本気……!」
菅井は脇に原田を入れさせた。
ドアを閉めれば四方に力が分散して楽になるので、素早く扉に手をかけた瞬間だった。 菅井「これで終わり……エエ!?」
トイレの外にいた人物を見て菅井と原田は驚愕する。
彼女は申し訳なさそうに逆への字の口を開く。
渡辺「あの……私……」
原田「う、後ろにいたの!?」
小林「何で!番組じゃないんだから喋ろ?」
米谷「いやいや、番組でこそ喋らんと!」
守屋「そんなことよりどうすんだよ!!」
長沢「あと30秒切ってる!」
志田「ヤバイヤバイヤバイ!!!」
渡邉「死ずかに!」
小池「漢字がちゃう!」 土生「あと一人入れる隙間なんてないよ!?」
今泉「しかも、ちょっとがたいのいい梨加ちゃんだし!」
平手「ここまで来たらもう力づくて押すしかない!」
菅井「行くよ!せーの!」
渡辺「んー!……ん〜!」
守屋「もっと押し込めー!」
今泉「もう無理ぃいいいいいいいいっ!」
渡辺は全力を出して押し込むも、自身が入る隙間は空かない。菅井の本気、守屋の気合も意味をなさない。
最年長はがたいの良い自分が足手まといになり二三人入らないことを予期していた。
隠れているつもりが見つかってしまったのは、隠れることを忘れていた。
見つかってしまった以上、入ろうとするも入れず諦める。
渡辺「……」 米谷「あかん……物理的にもう……」
尾関「このままじゃぺーちゃんがぁあっ!?」
平手「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!」
長沢「あと10秒!」
守屋「くっ、来るよォ!」
渡辺「バイ、バイ……」
志田「ぺ――――――――――――――――――っ!!」
渡邉「いやぁああああああああああああぁあああぁああ!!!」
渡辺が18人の少女たちに笑顔で手を振る。
黒づくめの足音が近づいて来る。個室の前に立ち二秒間停止する。
黒づくめはほぼ指定の時間通りに扉を閉める。
一人だけ個室に入れず、外に取り残された。 今泉「あっ、ぶなかったー!」
菅井「間に、合った……?」
上村「これは『キミガイナイ』の!」
志田「なんとか担げたわ!」
長沢「ぐるじい」
小池「ギリギリセーフやわ〜……」
米谷「今度こそ全員おるな?うちからは見えへんけど」
土生「うん!みんなちゃんといる!」
鈴本「ダニはいないけど……」
尾関「づぶれる……」 平手「もう本当にダメかと思った……」
小林「本当によかった……」
石森「ぺーちゃんちょっと重たい」
佐藤「こんなことになるんだったらぺーちゃんを隙間に入れて、葵を担げばよかったよね〜?」
齋藤「いいや、ぺーちゃんは葵の体積のほぼ2倍だからきっとこれがベストだと思う」
原田「この中に閉じ込めた目的は何だろう?」
守屋「てか、いつまでここにいればいればいーのー!?」
渡邉「心配させないでよ……」
渡辺「……ごめんね」
間一髪の渡辺に渡邉は涙して憤怒と安堵の気持ちで言う。
半数の頭を使って仰向けになっている渡辺は死にかけたからか手を腹の前で組み、涙を流して謝る。 外から黒づくめからと思しき大きめの壁ドンをくらい、一同は怯え口を閉ざす。
渡辺「ん!?」
通報しようにも動けず、ポケットに入っているスマホを取り出すことができない。
それ以前に喋ったら何をされるか分からない恐怖から声を発することもできない。
沈黙の中揺れること10分程が経ち、外から個室の扉が開かれる。
開けられた扉から一同は叫びながら個室の外へ雪崩れる。
志田「ぎゃあああぁああああっ!?」
守屋「うぉおおおおう!!」
菅井「急に!?」
今泉「いてて……」
上村「ぶはぁ!苦しかったー……」
齋藤「ふー」
揉みくちゃになるも誰も怪我をすることはなかった。
一同はバスの中ではあるが外の空気を思いっきり吸い込む。
ある程度落ち着いて犯人を見て気づく。 白「立て」
尾関「え、黒づくめじゃない!?」
小池「声もちゃう……」
今泉「一体どこから!?」
米谷「ずっと潜んでたんか……」
先程の黒づくめではなく、銃を持った低い声の白づくめが現れた。
黒づくめだけならと思っていた少女もいたが、完全に戦意を失う。
上村「……千葉県?」
佐藤「待って!なんで高速道路に入ってるの?」
渡辺「どこに向かってるの?」
志田「もう帰りたい!」
白「黙れ。元の席に戻れ。そして、一人ずつトイレに行け」 銃を突きつけられ、謎の命令に一同は固まる。
席に着く間に、三つの命令を頭の中で整理する。
全員席に着き終わり勇気を振り絞り質問を投げる。
鈴本「な……何でですか?何で、またトイレに……」
尾関「まさか、一人ずつ私たちを……!?」
志田「隠しカメラで撮るとか?!」
小池「ありえへんわ……」
白「違う。しばらく行けそうにないかもしれないから」
守屋「それどういう意味ですか……!!」
白「早くしろ」
守屋「ひっ!!」
白づくめは銃口を守屋に覗かせる。
撮影で持ったモデルガンとは違い、光沢が重々しさを感じさせた。
守屋は息が止まり、動けなかった。 菅井「従お!」
齋藤「はい!名前の順で!虹ちゃんから!」
石森「う、うん!」
強引に菅井と齋藤が間に入って守屋を白づくめから離した。
結局誰も何も理解できず、一番の石森はすぐさま個室に入り鍵をかける。
言葉通り白ずくめは前方で何もせずに突っ立っている。
守屋「ハァ!ハァ!ハァ……」
小池「あかねん、大丈夫か?」
守屋「だい、じょ、ぶっ……」
銃の恐怖から解放された守屋は過呼吸気味になり、連鎖して涙も流れる。
小池が優しく背中をさすってあげる。 原田「ぺーちゃんあの中で担がれて天井見てたでしょ?隠しカメラとかあった?」
渡辺「あ!そういえばなかった!」
志田「ホントに!?」
渡辺「することもなかったからずっと天井見てたけど、絶対なかったよ!」
渡邉「信じよう」
カメラを発見することに長けている彼女の発言の信憑性は高かった。
渡辺を信じて、最後の渡邉が個室から戻り、全員が元の席へ着く。
白づくめはバスガイドの定位置に戻り、一同に振り向く。
菅井「あの……要求は何なんですか?」
白「七不思議を解け。それだけだ」
長沢「ナナ……フシギ?」 少女たちは本日何度目かの理解不能に陥る。
ここに来て冗談を言うはずはないと思うも、考えるほど理解ができない。
続けて白づくめは指を3本立てて言う。
白「解答権は3回」
米谷「い、意味がわからん……」
渡邉「何の?」
志田「何で!」
菅井「あなたたちは誰なんですか!?目的は――」
菅井の発言の途中で白づくめが指を鳴らすと、床から機械の壁が飛び出した。
運転席、出入り口がある前方、左右の窓側、トイレのある後方にも出現し四方分厚い壁に囲まれる。
土生「みいちゃん!」
小池「土生ちゃん!!」
土生は長い腕を小池へ差し伸ばすも、突出した壁に阻まれる。
中央通路にも壁が出現し、右と左は完全に隔離されられた。 ひたすら更新待、黙々と読んでるけど
面白い。小ネタもよく番組を見てらっしゃる 二分化されたところで1話は終わりです。このssは10話までです。
米谷が主役でお馴染みの謎解き密室系のような物語です。
暇潰しがてら読んでいただき、ご指摘いただけましたら幸いです。
最終話まで書き終わってはいるのですが、埋め立て規制?に引っかからないように投下していきたいと思ういます。
誤字脱字に気を付けていきます。
>>19
ありがとうございます!
「埋め立てですかあ」と出て来るのでそうすればよろしいのですね!
>>40-42
ご支援ありがとうございます。残り9話ささっと上げて参ります。 第二話
SideW
土生菅井
小林上村
平手鈴本
原田織田
齋藤渡辺
10:00
突如現れた四方を囲む壁に恐れおののく。
バスの右側に座っていた10人と隔離された。
菅井「何よこれ!?」
土生「前、窓、後ろ、そして通路にも壁!壁!壁!壁!」
上村「開かない!」
小林「開けて!ここから出して!」
鈴本「ダメだ!ビクともしない!」
平手「完全に二分化された……」
原田「このために先に行かせてくれたんだ!」
渡辺「……あっちはどうなってんだろう」
齋藤「まあ同じだろうね」 菅井「織田、大丈夫かな……」
土生「そうだよ!もう通報しれば――え」
上村「圏、外……!」
小林「何で!まだ首都圏のはずでしょ!?」
鈴本「もしかして電波妨害されてんの!?」
平手「やられた……」
原田「Wi-Fi飛んでない?」
渡辺「それは分かんないよ!」
齋藤「この壁が電波を遮断してるとか?」
原田は隠しカメラの存在と同じ口調で訊ねるも、渡辺は少し怒りながら首を振る。
電波が届かないのはいずれにしても犯人たちの仕業であるのは間違いなく、外との連絡手段を一切断たれた。 菅井「叫んで助けを呼んでみる……のは危ないかな?」
土生「したら殺されない!?」
上村「でも、この壁すごい厚いから隣にも届くかどうか……」
小林「それに、さっき高速に入ってたしね」
平手「走行中だから無駄かも」
鈴本「せめて、向こうの子たちに聞こえるかどうかだけ!」
原田「安否確認しようよ!」
渡辺「……理佐ちゃん気になる」
齋藤「やるだけやってみよう!」
犯人たちの怒りに触れる可能性もあるが、向こう側のメンバーのことが心配になり叫ぶことにする。
小林以外のメンバーは息を吸い込み、一気に吐き出す。 菅井「じゃあ行くよ?……誰かー!!!助けて下さいー!!!」
土生「モデルになりたい!!!!!」
上村「ドドン!!!」
小林「……」
鈴本「オダナナァァアアアアァアアアアアア!!!」
平手「うわあああああああああああああああっ!!」
原田「弟ぉおおおおおおぉぉおぉおぉぉ!」
齋藤「あやっとさー!!!」
渡辺「パン……!」
各々自由に叫ぶも、向こう側からの反応はなかった。 菅井「これでもダメかあ……」
土生「こんだけ騒いだのに届いてないのか……」
渡辺「この壁、壊せらんないかな?」
平手「それは無理だと思う。固いし、厚いし」
小林「オラァッ!……痛った……」
上村「さ、埼玉の血!?」
小林は埼玉の血が騒ぎ壁を殴打する。しかし、壁には傷一つ入らず拳から流血する。
怪我人を心配する中、キャプテンだけは憤怒する。
菅井「ちょっと!無茶しないでよ!!」
小林「ごめん……」
上村「ぽん、じっとしてて」
小林「あ、りがとう。上村」
何かと怪我の多い小林へ上村は常備している絆創膏を貼り付ける。
小林は礼を言い、二度と無茶はしないと約束する。 原田「大声もダメ。打撃もダメ……」
平手「そう簡単に降ろしてくれないか」
渡辺「完全密室」
土生「辛うじてこのバスが走ってるってことだけは分かる」
菅井「何が目的で、どこに向かって、誰がこんなことを?」
鈴本「分からないよ……」
齋藤「七不思議を解いたら分かんのかな?」
突然前方にあるカラオケをしていたモニターに文字が現れる。
最初に最前列の土生と菅井が気づいた。 土生「モニターに!!なんか出てキター!?」
菅井「"@佐藤詩織の顔"!?」
上村「なにこれー!?どゆこと〜?!」
平手「これが七不思議の一つ目……?」
齋藤「なるほど。七不思議って欅のメンバーのことなのか!」
渡辺「てか、詩織ちゃんあっちにいるじゃん!」
小林「もしかして、しーちゃんがこっちで出されてるように、あっちではこっちの誰かのが出てるんじゃない?」
鈴本「じゃあ教わることも、教えることもできない!」
原田「”しーちゃんの顔”って言われても、何をどう答えればいいの?」
齋藤「まあ最初はチュートリアルみたいなものだとは思うけど、とりあえず考えてみよう」
第一の不思議について、考察を始める。
同じメンバーである佐藤詩織の顔について意見を出し合う。 鈴本「言われてみれば、しーちゃんの顔ってなんだか不思議だよね」
菅井「顔が変わるってゆうか……」
渡辺「アンバンマン?」
小林「しーちゃんが整形をしているとか?」
原田「……加入前に整形をしたことによって、そのビジュアルで加入できた?」
平手「それは違うかも。私たちは加入後しか知らないけど気づいたら顔が変わっていた時があったから」
土生「でもさ、うちらに整形する時間なんてなくない?」
鈴本「そうだよ!それなのに顔が変わるなんて……」
上村「ふっしぎ〜!」
齋藤「なるほど。多分だけど、詩織の不思議はそこにあるんだと思う」 しーちゃんの顔が七不思議ワロタwww
頑張ってくださいm(__)m 上村「加入後から現在まで顔が変わってるから不思議ってこと?」
齋藤「そうだね。それはまず間違いない」
渡辺「整形する時間がないのに顔が変わったのが不思議ならさ、逆に整形した可能性もあるんじゃない?」
原田「整形じゃないと思わせといて、整形してました的な?」
平手「どうだろう。ありえるかも」
菅井「心苦しいけど、整形説は0じゃないっ……」
小林「回答権は3つもあるんだし、言ってみる?」
土生「いいと思う。違くても先に進める気がする」
菅井「えっと、回答ってどこに向かってどう言えばいいのかな?」
齋藤「とりあえず、マイク持って前に言ってみれば?」
菅井は立ち上がり、電源の入っていないマイクを握り答える。
第一の不思議に対し、一番最初に思いつき一番可能性の高い整形説を打ち込む。 菅井「"佐藤詩織の顔"の不思議は、整形したことにより変形している?」
菅井の半疑問による回答は犯人に届いたのかどうか不安だ。
正解であれば何が起こるのか、七つ不思議を解いたらどうなるのか。
不正解であれば何が起こるのか。回答権三つ使いきったらどうなるのか。
数十秒何も起こることはなく、それが不正解だということを知る。
土生「違うみたいだね?」
鈴本「そうは問屋はおろしてくれないか」
上村「これが洗礼……」
菅井「みんな、ごめん……」
原田「友香のせいじゃないでしょ!」
齋藤「あと2回残ってるんだから大丈夫!」
渡辺「ん〜……」
早くも最初の壁に突き当たる9人の少女たち。
現実的な整形説が潰されたことにより、違う方面で考えを進める。 11:00
第一の不思議が出されて1時間が経過した。
整形ではないことを踏まえるも、足踏みが続いていた。
鈴本「何回か変わって気がするんだよね」
小林「そうなんだよ。考えてもみたら、たった一度の整形で何回も顔が変わるわけがない」
上村「かといって連続して整形する時間も確実に私たちにはないし……」
原田「初期の頃集合写真で"これ誰?"てなる時は大抵しーちゃんだったよね?」
渡辺「あったねー!」
原田「それが何回かあったってことは、すごいメイクで顔を変えていたとか?」
土生「ざわちんさんみたいなすごいメイク術を持っている!?」 齋藤「メイクは弱くない?不思議でもなんでもないような気がする」
平手「そっか!不思議であるかどうかで考えるんだ!」
渡辺「七不思議ってこと忘れてた!」
小林「メイク道具や方法に不思議はないはず。だとすると……」
上村「不思議なのは詩織ちゃんの顔そのもの!」
鈴本「やっぱり二十面相くらい持ってるとか?」
原田「怪人や怪盗が持っているスキルじゃん!」
渡辺「それすごくない!?」
土生「ずるーい!私も欲しー!」
平手「え、土生ちゃんはいらないよ!あ……」
平手は二十面相を羨ましがる土生を止めることで佐藤を軽く貶してしまう。
整形より怪人のスキルの方がしっくり来るところが大きい。 鈴本「でも仮に20こ顏を持っていたとして、どうやって使い分けて来たのかな?」
小林「加入前の学生時代は目立ちたくないから地味目な顔のままでいて……オーディション受ける時は勝負顔にした?」
上村「それだとおかしくない?オーディションの時より1st、2nd、3rd……って順々にバージョンアップしてるんだから!」
土生「しーちゃんはどんどんバージョンアップして綺麗になってるよね!」
齋藤「オーディションが一番の勝負顔じゃなかった?」
渡辺「いや、私だったらオーディションは一番の勝負顔使うよ!」
原田「後に進化することを考えて、あえてリスクを負ってレベル低い顔でオーディションをパスした?」
平手「違うな。どんどんキレイになってるんだから決められた顔を持ってるんじゃなくて、もっとこう……顔を自由自在に変えることができる、不思議な力を持っている。とか?」
菅井「それって変態っ!?」
常軌を逸した一つの答えにたどり着く。
一般常識を持ち合わせる少女たちはそ世間知らずの最年少の答えを否定する。 鈴本「いやいや!普通に考えてそんなことできるわけ!」
齋藤「普通じゃない。だから、不思議なんだよ!」
小林「七不思議の一つとしてあってもおかしくはないかもしれない……」
原田「人間誰しも変身願望を持っている。アイドルって顔のコンプレックスすごいもんね」
菅井「キリンは高い木の葉を食べるために首を伸ばし、ゾウは遠くの水や実を吸うために鼻を伸ばし、馬は……」
土生「鳥は飛ぶために翼が進化して、しーちゃんも美しくなるために顔を進化できるってこと?」
鈴本「あの女優さんみたいになりたい、もっと美しくなりたいって願い続けた?」
平手「どうだろう。思いついたのが、しーちゃんの不思議はあのふにゃふにゃな体にあると思う」
原田「体?顔じゃなくて?」
渡辺「ダンサーさんより柔らかいよね」 平手「喋りもそうなんだけど、全てがふにゃふにゃしてるよね?」
原田「ふにゃふにゃしてるから柔軟性もあって、それで顔も変態することができる?」
平手「座高が低く、足が長いのももしかしたらその力のおかげなのかも」
上村「確かに!顔が急に変わるというよりは、気づかないうちに変わっていってるんだね!」
土生「それだと全てのツジツマが合う!」
菅井「言ってみる価値ありそうだね!」
原田「一つ目の不思議しーちゃんメタモルフォーゼ……」
平手「上村お願い」
上村「うん、分かった!あーあー……」
平手の指名で佐藤と同級生の上村は立ち上がる。
マイクを握り、電源が入っていないことを確認し回答する。
上村「詩織ちゃんは顔を変態できる不思議な力がある!」 2つ目の回答権を行使する。正か否か、誰が教えてくれるのだろうか。
回答して数秒後、車内に聞き覚えのある機械音が響く。
土生「え、え。え!何何何?」
菅井「窓側の壁が!下がっていくよっ!」
原田「あ開いたー!イエーイ!!」
齋藤「よっしゃあ!」
鈴本「ふぉーーーーーーう!!!」
小林「まずは第一の不思議クリア!」
上村「やったね!!」
平手「クリアすると一枚ずつなくなるのか!」
渡辺「パン!」
一つ目の不思議をクリアしたことにより各々喜びを口にする。
窓際を塞いでいた壁が元の鞘に戻り、一同は2時間ぶりの外界の景色を見る。
上村は高速道路の看板を見て、現在の所在地を確認する。 上村「えっと、今は茨城県!もうすぐ福島県?」
鈴本「どこまで行くんだろう……」
東京から離れ、目的も目的地も分からぬまま連れられている不安と恐怖が押し寄せる。
今は従って不思議を解くしかないことを知る。
渡辺は出身地の高速を走っているにも関わらず、忘れているのか何も思っていない。
渡辺「2時間くらいかかったけど意外と簡単だったね!」
齋藤「ぺーちゃんあまり何もしてなかったよね?」
原田「向こうが第二の不思議を解いて窓際の壁が消えるとしたら、残る壁はあと5枚?」
原田は残る壁を指折り数える。
個室がある後方、個室の前にある謎の間、中央通路の分離壁、唯一の出入り口の壁の4枚しか数えられない。
原田「あれ?最後の1枚どこなんだろう?」
齋藤「いつか分かんだろ」
平手「こっちであとニ三こ不思議を解けば終わりか」
上村「たったニ三こ?いけそうじゃん!」 小林「それで、次の問題は?」
渡辺「……」
土生「モニター真っ暗なままだ!」
齋藤「向こうがまだだからまだとか?」
上村「えー!大丈夫かなー?苦戦してるんじゃ……っ」
推測では向こう側に出題されているのはこちら側のメンバーの誰かの不思議である。
もし自分の問題で苦戦していたらと思うと、胸が苦しくなる。
菅井「あの子たちならきっと大丈夫。それにあっちにはあかねんもいるんだから!信じよっ!」
上村「そう、だよね……!信じる!」
小林「絶対気合で何とかしてくれそう!」
珍しく副キャプテンを持ち上げ、守屋祭りで盛り上がる。
祭りにより気合を分けてもらえた気になった。 菅井「さてと、ちょうどいいから状況を整理しよっか」
鈴本「昨日富士急で野外ライブがあって、今日はお休みのはずだったけど急に泊りの仕事が入ったんだよね?」
小林「そうそう。あのアプリで業務連絡が来たんだ」
一同は同時にスマホを取り出し、アプリを起動する。
例のごとく電波は入らないものの、数タップで業務連絡を送ってきた者を確認する。
鈴本は番組以上の驚愕な顔を披露して言う。
鈴本「うわー!!"Unkown"になってるー!?」
菅井「誰か覚えていない?どのスタッフさんだったか!」
渡辺「……んー?」
土生「分かんない。誰だったんだ……」
上村「今野さん?いや、違ったかな」
平手「誰だったかは分からないようしているんだ」
小林「普通に信じてた。てか、疑ったことなんてなかったから……」
齋藤「急に入った仕事なんだなーとしか思わなかった!」 平手「仮に、私たち全員のIDを知っている人がいたら誰だろうと簡単に誘拐することができる。こんなふうに」
小林「マジ、かよ……!」
原田「待って!私たち全員のIDを知っている人なんてかなり限られるよね?」
上村「それって、外部じゃなくて内部の人が怪しいんじゃない!?」
土生「スタッフさんが犯人なの!?」
齋藤「そんなバカな!?」
渡辺「ん?……何これ?」
口数も少なく役に立っていない渡辺は椅子の下に落ちている一片の紙切れを拾う。
そこに書かれてある文字を読み上げる。
渡辺「"この中に不協和音がいる"?」
渡辺は珍しく理解力が高まり、鼓動が早くなり体が熱くなるのを感じる。
高速道路を走るバスは福島へ入り、まだ北上を続ける。 第三話
SideG
尾関 石森
米谷 佐藤
小池 今泉
志田 渡邉
長沢 守屋
10:00
突如出現した壁によって世界と半分の仲間から隔絶された。
副キャプテン率いる右組も外に助けを求めるため、キャプテン率いる左組がしたことを試すも同じ結果に終わる。
尾関「犯人は何者で、何が目的〜?」
石森「どこに連れてかれんだろう」
佐藤「オダナナ大丈夫かな……心配で口から心臓が飛び出そう……」
渡邉「早く助けよう。犯人からの要求はたった1つだけ」
志田「七不思議を解け、とか何とか言ってたな」
守屋「何が何だかホントに意味わかんないんだけど!」
米谷「何かあんねやろな、きっと」
今泉「あれ何ー!?」
今泉が指差す先にモニターがあり、映し出された字に注目する。
数字と文字を見て再び理解に苦しみ、頭を痛める。 小池「何やあれ!?」
米谷「前のモニターに……"❷"」
志田「"上村莉菜の指"ぃいい?イミフっ!」
渡邉「……これが2つ目の七不思議?てことは向こうで1つ目が出されてるってわけね」
今泉「莉菜ちゃんあっちにいんじゃん!」
長沢「多分あっちもこっちにいるメンバーの不思議が出されてるんじゃないかな?」
守屋「そういうことか!だから隔離したのかよ!」
米谷「それ以前に予め七不思議を用意までしとったってことになる……」
志田「ヤッバ!」
誘拐のためにどれほど前から準備をして、いかなる用意をしてきたのだろうか。
得体の知れない犯人たちに怖れを抱きざるを得ない。 尾関「そもそも七不思議を解くってどういうこと?」
石森「謎を暴くってことだから、莉菜の指を解剖すればいいんじゃない?」
米谷「まあ言わんとしてることは分かるからええわ」
佐藤「一体誰に回答すれば言えばいいの?あと制限時間は何時までとか決まってるの?」
小池「そやなあ、回答はあのマイクにでも言えばええやろ」
米谷「タイムリミットはないけど、回答権は3つだけ言うてたな」
志田「てか、どこに向かってんだよ!」
守屋「さっき高速に入ってて北の方に走ってたね」
長沢「今は千葉とか、茨城らへんか?」
志田「理佐の……」
渡邊「まさか、こんな形で故郷に帰るなんてね……」
渡邊は窓の外に目をやるも、壁に阻まれて外を見ることがかなわない。 長沢「じゃあ時間は目的地にたどり着くまで?」
尾関「そこに着くまでの暇潰しだったりして」
米谷「分からんなぁ。目的地に着くまでに7つの不思議を解かなあかんてことなら、時間を設けるはず」
小池「つまり、時間を設けてないってことは気にしーひんくてもえーってことなんちゃう?」
米谷「そう考えてもええけど、織田を助けないといけないから悠長に考えている暇なんてないっちゅうことやな」
志田「ちっ、ざけやがって」
渡邉「解くしかないね」
守屋「私たちにできないことはない!」
今泉「よーし、任せて!」
様々な感情が交錯する中、少女たちは出された不思議に気合を入れて挑む。 渡邉「さてと、莉菜の指に一体何があるっていうの?」
守屋「あ!そういえば、莉菜の指ってなんか定評があるんだった!」
小池「あ〜!うちも聞いたことある!まとめサイトで!」
志田「それで、リナババの指が何だってんだよ?」
守屋「いやなんか〜莉菜が何か人でも物でも指を差すことを"指差しむー"って呼ばれてて、ファンの間では喜ばれてる」
小池「"むーの指差しキター"とか"指差しされたい"もあったなぁ」
志田「何それ!?謎だわ!!」
渡邉「なるほど。その謎を解けってことか」
渡邉の解釈に全員が納得し、上村の指の謎に迫る。
上村と過ごした約二年の記憶の糸を辿る。 小池「"それな"ってあるやん?」
守屋「あーあるねー」
小池「菜々香ファンは"それなーこ"って言ってて」
長沢「へーそーなんだー」
守屋「知らなかったの?」
長沢「あ、握手会で聞いたことあった」
守屋「何だよ!」
小池「で、莉菜ファンは"そりな"って言うてる」
米谷「"それな"と"莉菜"を掛けてんねやな」
渡邉「……。それはあんまり関係なさそう」
志田「それな」
小池「なんか関係あるかな思て……」
不思議にかすりもしない話題を言い、肩を落とす小池。
隣人の今泉は前向きに励ます。 今泉「いいじゃん〜!思ったことどんどん言ってこうよ!」
米谷「せやな!何てったってヒントなしやし、何が繋がっとるか分からんしな」
小池「おおきに!ずーみん。米」
守屋「それで頻繁に指差ししているってことは、指差しは莉菜の癖なんだね?」
長沢「番組の方が頻度高いと思う。逆にカメラ回ってないところでは見たことある人いる?」
米谷「ちびーずで仲良いずーみんはどうや?」
今泉「んー言われてみればないかもしれない……」
守屋「てことは、やっぱりファンに見てもらうところで指差しを自覚してやってる?」
石森「ファンを喜ばせるためだけにやってるってこと?」
佐藤「それはあるかもしれない。私が指差ししたところで話題にも何にもならないだろうし、莉菜がやるからこそ意味があるんだと思うんだよね〜」 尾関「そういえば莉菜は千葉妖精って言われてるよね!」
志田「妖精、リナババ……指。……杖?」
渡邉「何、杖って?」
守屋「おばあちゃんだから?」
今泉「愛佳ちゃんよく莉菜ちゃんのこと"リナババ"って呼んでるよね?」
志田「いいや、言ったみただけ。ババといったら杖だと思って」
米谷「待てよ……。杖=ステッキ……?」
小池「ステッキと言うたら魔法のステッキ?」
佐藤「マジカルステッキ=魔法の杖が莉菜の指だというなら、莉菜の正体ってまさか……!」
長沢「妖精」 小池「それや!上村は妖精で指は魔法の杖で決まりや!」
守屋「わお!それしかない!」
今泉「莉菜ちゃん本当に妖精だったんだ!怪しいと思ってたんだよね〜」
米谷「いや、まだそうと決まったわけやないで……」
志田「なんだよー!最初から楽勝じゃーん!」
渡邉「試しに答えてみる?間違えても回答権はあと2回残ってるし」
尾関「OK〜答えるよー。莉菜の指は魔法の杖となっている!」
最前列の尾関がマイクを握り、意気揚々と回答する。
数十秒が経ち、雲行きが怪しくなる。何も起こらない異変が起きている。 渡邉「……何も起きないね」
守屋「あのー!!2つ目の七不思議解いたんですけどー!?」
米谷「……まだや」
小池「何がまだなん?」
米谷「まだ正解にたどり着けていないんや!」
佐藤「ええええええええええ!?莉菜ちゃんの指である魔法の杖をもっと掘り下げないといけないってこと!?」
渡邉「あるいは、全く別だったりしてね」
志田「マジかよ……」
今泉「いきすぎてると思ったよ!」
石森「まだ回答権2つ残ってるから全然大丈夫だよ!!」 小池「でも、いい線いっとると思ってんけどな」
志田「まず妖精って何だよ!リナババが妖精ってことは親も妖精なのか?」
渡邉「それはないでしょ。莉菜は人間、そこは間違いない」
佐藤「妖精はともかく、魔法が使えるってことの方がまだ現実味があるよね?」
米谷「きっとそこやな。問題は何の魔法を使えるかってとこにあるんや!」
志田「いやいや!ちょっと待って!……魔法って、マジで言ってんの?」
渡邉「これは普通じゃないことは確か。何かの魔法を使える可能性もあるかも」
長沢「魔法と言っても空を飛んだり、お菓子を出したり、何でもできるわけじゃなさそう」
米谷「むしろ問題からして多分一つくらいやと思う」
尾関「一つ……。指で使える魔法か……」
各自は自分の人差し指を眺めながらさまざまな考えを巡らせる。
指紋を指で追い、目が回り酔う馬鹿が何人か出る。 12:00
二分化して二時間が経過し、正午を過ぎる。
長沢は思考を停止して携帯食を頬張っている。
今泉「やっぱり指と言ったらビームじゃない?」
佐藤「ああ!乃木坂さんの中元さんって必殺技の"ひめたんビーム"してるよね!もしかして!あれって〜ファンの人たちはあのビームが見えていたりするんじゃないかな?」
守屋「莉菜がビームを出していたとして私たちに見えなくて、画面越しのファンにしか見えないなんてありえない!」
佐藤「はあ〜〜ダメか〜〜。話題に上がるほどにどうしてファンの人たちはそんなに莉菜の指に惹かれてるの〜?」
米谷「ハッ!それが答えなんや!」
小池「やんな!もうホンマにそれしかない!」
米谷と小池は佐藤の発言に気づかされる。
佐藤は何となく言った自分の発言に反応する二人に混乱する。 佐藤「何何何何!?私今何か変な事言った?!」
渡邉「何が答えだって?」
米谷「莉菜は指で不思議な力が使える。それは人を惹きつける!」
小池「魅了の能力やってん!」
志田「はあ?魅了?」
米谷「問題がすでに答えやったんや!」
小池「サービス問題どころやないで!」
尾関「えっと〜じゃあQ.莉菜の指はどうして惹かれるのでしょうか?"A.ファンを惹きつける不思議な力があるから"ってことぉ!?」
志田「そんな不思議な指あんのかよ!?」
石森「ああ!ハロプロのももちさんも小指が何と言うかすごいよね!」
守屋「確かにあの人と言ったら小指だもんね!莉菜の場合は人差し指なんだよ!」 今泉「莉菜ちゃんの人気の訳はそれだったんだ!」
志田「ズル!」
小池「コラコラ。それだけとちゃうやろ」
米谷「さて、答え合わせといこか?」
守屋「いけ、よね!」
佐藤「よね、私に答えさせて!莉菜と同じ96年組だし、それに私が答えなきゃいけない気がするの何でか分かんないんだけど!」
米谷「もちろん!」
全回答者からマイクをもらい息を吸う。
この中では最年長である佐藤は前方に立ちはだかる壁を指差し回答を言い放つ。
佐藤「上村莉菜の指にはファン、いや人々を惹きつける不思議な力があーる!」 数秒の静寂の後、本日一度は聞いたことのある機械音が車内を包む。
不測の事態に隣人と体を寄せ合う。
佐藤「えええええええええええええ!?私答え間違えちゃったっ!?どうしようどうしよう!!」
石森「ぬ!?何、何の音なの?」
尾関「うわー!窓側の壁が〜!!」
小池「なくなった!」
窓際の壁は出現したところから元の鞘に戻り、外の景色が見えるようになる。
佐藤の回答は間違いではなく、正解したと誰もが気づき喜ぶ。
米谷「不思議一つ解いてくごとに壁一枚なくなっていくんやな!」
守屋「まずは一丁上がり!」
志田「せいや!」
渡邉「よっ!」
今泉「ひゃほーーーーーい!!」 佐藤「良かった……合ってた……」
米谷「大丈夫やで!」
顎を震えさせて涙して安堵する佐藤。
隣の米谷はお馴染みのセリフで元気づける。
米谷「ところで今どこ走ってる?」
今泉「えーっと、福島ぁああああっ!?」
尾関「もうすぐ宮城県じゃん!」
守屋「仙台……!」
石森「レディちゃん!」
守屋と石森は地元宮城にいる家族に思いをはせる。
渡邉と同じでこのような形で帰ってくるとは思っていなかった。 渡邉「この窓は開けられない。取っ手がないとかそういうんじゃなくて」
長沢「割ってみる?」
渡邉「菜々香?いや、無理だと思う。やめときな」
長沢「やってみなきゃ分かんないよ」
長沢は両手を組んで振り上げ、織田への想いを込めて窓へ振り下ろす。
大きい音と衝撃を与えたが窓に傷一つつけることができなかった。逆に長沢は拳を負傷する。
守屋「菜々香!!大丈夫かあ!?」
長沢「ウン。割れると思った……」
軽傷に済むも長沢の頬に涙が伝う。拳の痛みよりも、窓を割れなかった悔しさで泣いている。
守屋は痛いほど長沢の気持ちが分かり慰める。
長沢「止めてくれたのに、ごめんね……」
渡邉「少なくとも女子の力じゃどうしようもないね。試してくれてありがとう」 志田「窓から手振って助けを呼べばいんじゃね?」
小池「せやな!反対車線やと気づかれへんから、追い越された時にやろか!」
守屋「うちら右側だから今の走行車線じゃないと助けを呼べない!早く来て!」
バスが走行車線を走っている今が好機である。
初の主演ドラマの稽古でやった助けを求めるゲームが生きる時が来た。
窓際の石森、佐藤、今泉は必死に窓から追い越しに来た車に手を振る。
石森「おーい!!おーい!!!」
佐藤「助けてください!助けて!!」
今泉「SOS!SOS!!」
今泉は両手を使って"SOS"の文字をアホみたいに繰り返す。
普通車とトラックに追い抜かれる際に助けを求めるも、目もくれず素通りしていく。
その後、バスは追越車線へ変更し、助けを呼ぶ機会を失った。 このペースで最後まで書いてあるのがすごい
期待してますよ〜 尾関「全然気付いてくれてなかった!」
今泉「こんなに助けを求めたのに〜!」
長沢「高速道路で運転中に横向く人いないのかな?」
志田「気づけよクソ!」
窓バンして悪態をつく志田。
小池が思い出したように言う。
小池「あ……このバスの窓って黒くなかった?」
米谷「そういえば最初に乗る時に見てなんか黒かったな!UVカット的なあれか?」
佐藤「マジックミラーじゃないけど、こっちから見えても向こうから見えてない!?」
渡邉「見えてないし、聞こえるわけもない……」
守屋「外が見えるだけになっただけで、密室には変わりないか〜」
肩を落とすメンバーの中で、この中では最年少が立ち上がる。 米谷「皆、聞いて。犯人は2人だけしかいない」
石森「は?いやいや!黒づくめと白づくめと運転手の三人でしょっ!?」
守屋「あの急に現れた白づくめは、個室で織田をやった黒づくめと同一人物って言いたいの?」
尾関「えええええええ!変装しただけだったの?」
米谷「その可能性が高い。声もなんか変やったし、おそらく変声機つことる」
渡邉「何のためにそんなこと?」
米谷「抵抗させる気を起こさせないため。犯人は頭数を増やしたいんや」
佐藤「じゃあ私たち20人に対して犯人は武装しているけど抵抗を警戒して、本当は二人なのに三人にいると騙しに来たってこと?」
米谷「昔起きたハイジャックと同じ手口や。犯人は一人しかいないのに、変装をして何人もいるかに思わせて乗客に抵抗する気をなくさせた」
守屋「一人だけならみんなでかかればいいもんね!」 小池「単独犯と複数犯は大違い、か」
米谷「運ちゃんは運転につきっきりだから、もう一人の犯人さえ倒せればおそらく……」
石森「たった一人だけならいけるっ!」
尾関「やるなら今しかないか?」
今泉「そうだね!目的地に仲間が何人いるかもわからないし!」
佐藤「こんな大それたこと組織的な犯行の線も十分ありえる……」
志田「茜……いや、副キャプテン!決めて!」
守屋「…………後悔しないでね」
渡邉「言って」
守屋「次に黒あるいは白、または緑でも何でもいい。犯人が出てきたら……ぶっ潰すッ!」
犯人は運転手と織田をやったもう一人の二人だけと断定する。
様子見で密室に足を踏み入れた時に奇襲をかける。
副キャプテンの指示にメンバーは覚悟を決めて頷く。 佐藤「リモコンか何かを持っていて、それで壁を開け閉めしているんだと思う」
守屋「オダナナをやったヤツを倒して、リモコンと武器を奪う!」
米谷「たとえ銃を持っていようがこの至近距離で女の子と言えど10対1……いける!」
志田「噛みついて、先に武器を奪おう!」
小池「織田を人質にとったんはうちらを抑制させるためやったんやな」
長沢「じゃあ、もしかしたら織田ナナは……!」
米谷「生きてる、絶対!誘拐だけなら殺人を犯すリスクはないはずやからな」
渡邉「ダニ!」
米谷「黒づくめの身ぐるみはがして、犯人の恰好をしたまま運転席に入る」
守屋「いいね!それならいきなり撃たれることはないね!」 渡邉「銃でも突きつけて次のパーキングに停めてもらおう」
長沢「そこで助けを呼べばおしまい」
米谷「問題は運転手も銃を持っている可能性やな」
小池「撃ってこんとも限らんし……」
一人は運転手へ武器を突きつける役をやらなければならず、メンバーは怖気づく。
死と隣り合わせの中で大人しくPAに停車させることができるだろうか。
米谷「運転手には両手でハンドルを持って運転してもらう。片手でも離したらその腕を撃つ」
志田「撃つ、って誰も銃なんて撃ったことねえだろ!?」
渡邉「もし、頭とか胸に当たっりでもしたら……」
守屋「私がやる!銃を持ったことがある、モデルガンだけど。それにこっちが危なかったら最悪の場合も容赦なく撃つ!」
メンバーを守るためなら、殺人を犯すことも躊躇しない。
副キャプテンという責任感ある立場が少女を駆り立てる。 佐藤「待って!万が一運転手を誤って殺してしまったら、私たち誰も運転免許持ってないから100キロで壁にぶつかってみんな揃ってお陀仏になっちゃうよ!」
今泉「ゴーカートみたいなもんでしょ?端にブレーキで停めることくらいできる気がする!」
石森「よく行ってやってたの?」
今泉「うん!お父さんに遊園地行きたいって言ったら連れてってくれたから!」
尾関「高速道路はほぼ直線でハンドル切ることはないから、ブレーキだけなら……」
志田「自信あんのか?」
今泉「ある」
渡邉「はあ……」
一瞬の溜めの後に自信満々かつ真剣に即答する。
もはやお約束となっており、信憑性は半々といったところである。 米谷「最悪の事態の話や。もしそうなってしまったら、ずーみん……ハンドル握ってもらうで」
今泉「任せて!」
小池「命預けたるわ」
尾関「私死ぬのかな……」
守屋「絶対死なせない!みんなで生きて帰ろう!」
石森「そうだよ!私たちにできないことなんてないんだから!」
守屋「運転手の死角から銃をつきつけるから、ずみこは私の後ろにいて」
今泉「うん」
志田「茜……死ぬなよ」
守屋「大丈夫。必ず守るから」
守屋は天に昇る思いで拳を握りしめる。
織田が生きている希望と犯人たちに立ち向かう決意を瞳に燃やす。
犯人が入室して来るのを待ち構える。 第四話
SideW
土生 菅井
小林 上村
鈴本 平手
原田
齋藤 渡辺
12:00
渡辺の手には"この中に裏切り物がいる"と書かれた紙片がある。
その文字を無意識的に読み上げた最後列の渡辺に全員が振り向く。
菅生「ぺーちゃん、今何て言ったの?」
渡辺「え……なんかこの紙が落ちてた」
渡辺は紙片を全員に見せるように掲げる。
中心の鈴本は渡辺から紙片を取り、花に群がる蜂のように覗き込む。
土生「なんでこんな紙が落ちてるの!?」
渡辺「だから気づいたら椅子の下にあったんだよ!」
小林「犯人たちが私たちを混乱させるために予め置いといた?」
上村「仲間割れさせるためとか?」 原田「でも、わざわざ教えてくるってことはさ……」
原田はその紙の意味に気づく。
紙は意図されてそこにあった。犯人が置いたことは明白であり、二つ考えられる。
一つは、犯人は嘘のつき自分たちの分裂を狙っている。
もう一つは、犯人は本当のことを自分たちに教えてそれを探させようしている。
平手「ねえ。その紙さ、なんで急に現れたの?」
渡辺「いや、なんでって言われてもふと下を見たらあったんだよ」
齋藤「元々椅子の下にあってバスの揺れで少しずつズレてったのか?」
平手「その"裏切り者"がこっそり落っことしたとか?」
鈴本「ありえる!協力者がいたとしてもおかしくない!」
前列が後列の三人を視る目が変わる。
三人とは4列目の原田、5列目の齋藤と紙を拾った渡辺のことを指す。
土生はジト目で齋藤に照準を当てる。 土生「悪いけど、ふーちゃん怪しくない?」
菅井「ちょっと土生ちゃんやめな!」
齋藤「はあ?隣にぺーちゃんだっているのにどうやって置くんだよ?」
土生「そんなのぺーちゃんがいつものように宙をぼーっと見てる隙にいくらでもできるじゃん!」
渡辺「ぼーっとしてない!」
上村「悪いけどぺーちゃんだって、自作自演の可能性もありえるよ」
渡辺「はあ!私置いてない!」
上村「どうかな……トクダレで犯人だったじゃん!」
齋藤「ふざけんじゃねえよ!」
鈴本「それか二人の共犯だったりして……」 齋藤「そっちこそ友香だって怪しいよ!」
菅井「突然私ー!?どうしてー!!」
齋藤「常識的に考えて、こんなバスまで用意して訓練を受けてそうなSP二人に犯人役を、運転はじいやにさせてんじゃないの?」
菅井「そ、そんなバカなことっ!あるわけないでしょおぉ?」
土生「キャプテンなのに友香なわけない!やっぱふーちゃん顔からして怪しい!」
齋藤「元々こういう悪役顔なんだよ!」
原田「もうやめて!これじゃあ犯人の思う壺だよ!」
齋藤「悪いが一番可能性が高いのは葵だ。隣に織田がいないからいつでも置けれるんだから」
原田「……」
原田は小学生のように涙を堪え、口を閉ざす。険悪な雰囲気の中、バンと大きい音がする。
それは小林が窓を殴りつけた音だった。小林は狂犬の眼光で齋藤に言う。 小林「もう黙れよ」
齋藤「……っ」
齋藤は好きな小林を本気で怒らせてしまい、返事もできず黙る。
キャプテンが手を叩き一本締めする。
菅井「この話はもう終わり!」
小林「この中に犯人いようと、いまいと証拠がない限り誰だか分からない」
平手「いっこ気になるのが"協力者"とか"裏切者"じゃなくてどうして"不協和音"なのかなって……」
土生「あ〜なんでだろう?4thだよね?」
齋藤「いずれにしても今は七不思議を解くしかないね」
渡辺「……ん」
鈴本「そうしよう……」
鈴本は紙片をポケットにしまう。
いつの間にか第三の不思議が現れており、上村は不思議な指でモニターを差して言う。 上村「来たよ。"B守屋茜の負けん気"」
鈴本「…………ぷっ」
何人かのメンバーは思わず吹き出してしまう。
先程まで固かった雰囲気は柔ぎ、平手は語尾を上げて笑う。
平手「アハハ!なにこれー!」
齋藤「とにかく世界一負けず嫌いだよね、茜は!」
渡辺「フフフフフフ」
小林「始まりはあの体力測定のブリッジだよね!」
鈴本「柔軟性よりも根性であそこまでいく人を私は知らない!」
土生「あかねんの負けず嫌いさは半端じゃないからね」
菅井「ファンから軍曹と呼ばれるだけはあるよ!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています