「よく聞け、リンチ。何度も言わぬぞ。お前にある任務を与えてやるからそれを果たせ。成功したらお前に帝国軍少将の位をくれてやる。」
「少将か...少将ね....はっはっは...。」
「そいつは、悪くないな。で何をすればいいんだ?」
「お前の故国に戻り、軍の不平分子を扇動しクーデターを起こさせるのだ。」
「へ...へ...む、無理だ。あんたしらふで言っているのか?そんなことできるわけ...」
リンチが言い終わる前にパサッと紙の音がする。そばのテーブルに青年の手から書類が投げ出された音だった。
「可能だ。ここに計画書がある。このとおりやれば必ず成功する。」
リンチの眼光はふたたび鈍り、その顔にはおびえが走ってゆがむ。
「しかし...潜入に失敗したら俺はきっと死ぬ...殺される...。」
そのとき金髪の美しい青年から発せられた声は鞭のように響いた。
「その時は死ね。今のお前に生きている価値があると思っているのか?お前は卑怯者だ。守るべき民間人、指揮すべき兵士をすてて逃亡した恥知らずだ。そんなになっても命が惜しいか?」
リンチは全身をわななかせた。そして、弱弱しいが、いやに語尾が明瞭なつぶやきを発した。
「そうだ...俺は卑怯者だ...いまさら汚名の晴らしようもない....それならいっそ、徹底的に卑怯に、恥知らずに生きてやるか...。」