私の名はリンダ。かつては平成電電に通う平凡な社員であり、退屈な日常と戦い続ける下駄履きの生活者であった。
だが、あの夜、ドリテクがスポンサーを降りたあの衝撃の光景が私の運命を大きく変えてしまった。民事再生を断念したその翌日から、世界はまるで開き直ったかのごとくその装いを変えてしまったのだ。
いつもと同じ町、いつもと同じ角店、いつもと同じ公園。だが、なにかが違う。廊下からは行き来するOLの姿が消え、コールセンターの電話の音もとだえ、ロッテリアのカウンターであわただしく食事をする人の姿もない。
この会社に、いやこの世界に我々だけを残し、あの懐かしい人々は突然姿を消してしまったのだ。
数日を経ずして荒廃という名の時が駆け抜けていった。かくも静かな、かくもあっけない終末をいったい誰が予想しえたであろう。人類が過去数年にわたり営々として築いたCHOKKAとともに、平成電電は終わった。
しかし、残された我々にとって終末は新たなるはじまりにすぎない。世界が終わりを告げたその日から、我々の生き延びるための戦いの日々が始まったのである。
奇妙なことに、アクロスの近くのコンビニエンスストアは、押し寄せる荒廃をものともせず、その勇姿をとどめ、食料品、日用雑貨等の豊富なストックを誇っていた。
そして更に奇妙なことに、アクロスには電気もガスも水道も依然として供給され続け、驚くべきことに新聞すら配達されてくるのである。
当然我々は、事業の継続という大義名分のもとにアクロスをその生活の拠点と定めた。しかし何故か嶋所長は早々と退職、自活を宣言。続いてブルーマウンテン、代理店をオープン。
そしてシュガーは、日がな一日社内を歩き回り、おそらく欲求不満の解消であろう、ときおり絶叫を繰り返している。何が不満なのか知らんが、実に可愛くない。
あの運命の日からどれ程の歳月が流れたのか。しかし今、我々の築きつつあるこの世界に時計もカレンダーも無用だ。我々は、衣食住を保証されたサバイバルを生き抜き、かつて今までいかなる先達たちも実現し得なかった地上の楽園を、あの永遠のシャングリラを実現するだろう。
ああ、選ばれし者の恍惚と不安、共に我にあり。人類の未来がひとえに我々の双肩にかかってあることを認識するとき、めまいにも似た感動を禁じ得ない。

(リンダ著「平成前史第1巻 終末を越えて」序説第3章より抜粋)