妻が出かけて、連れ子と二人きりで過ごす夜。
まず連れ子は晩飯を食わない。おかずが気に入らないのかほかに理由があるのか、とにかくちょっと食べたきりで残してしまう。
俺が夕食の片付けを終える頃、
「なんか(食べるもの)ないの」
と言ってくる。ケロッグがあったが、それでは駄目だと言う。缶詰めにみつ豆があり、それなら食べると言う。
俺はみつ豆を用意してやった。ガラスの容器にもりつける。
しかし彼はみつ豆を食べない。理由を聞くと
「変なものが入っている」
変なものとは、みつ豆の豆のことだった。
しかたなく俺は梨をむいてやった。彼はそれを黙って食べる。やがてまた
「なんかないの」
と言い始める。当然だ。彼は夕食をほとんど食べていないのだ。
「もう食事の時間は終わり。風呂に入って」
と俺は言うが、言うことを聞く耳はない。いつまで冷蔵庫をがさがさやって、バナナを見つけて食べた。
テレビのお笑い番組を見て笑い転げる。
俺は宿題をやらせるどころではなかった。
10時に近くなる。俺は連れ子に懇願した。俺がお母さんに起こられるのだから、頼むから風呂に入ってくれ。
連れ子はふてくされながらも風呂に入った。
妻が帰ってきた。大変だったと話す。
「あたしの言うことだってきかないんだから」
しかしそう言う妻の顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
「あたしのいつもの大変さがわかったでしょう」
というように。
いろんな感情が渦巻いが、最も大きかったのは
「俺が子供の面倒を見て当然」
と思っているのだな、ということだった。そこには感謝もないし、すまないという気持ちもなかった。
まるで子供が二人の愛の結晶であるかのように。