数年前、僕はナポリでピザ職人になるための修行をしていた。
日本に帰ったら、本場仕込みの窯焼きピザを広めるつもりだった。
デリバリーのピザなんて、あんなの本当のピザではない。
日本人に本当のピザの味を知ってもらいたい、そう思いながら
毎日窯で汗だくになって修行していた。
ある日、閉店間際に1人の女性がピザを買いに来た。
身なりは、なんだか少し汚かった。でも、彼女はなかなか可愛かった。
それから毎日、彼女は閉店間際に店に来るようになった。
僕はいつしか彼女に声を掛けたいと思うようになった。
ある日のこと、閉店間際に彼女が店に来た。店長は店の片付けで
僕が店番をしていた。思い切って僕は彼女に声をかけた。
「いつもうちのピザを買ってくれてありがとう」
「・・・・・」
「毎日汗だくで辛いけど、最後に必ず君に会えるからね」
彼女は笑っていた。
それ以降、僕が店番の時は、店長の目を盗んで、たびたび彼女に話しかけた。
彼女のイタリア語は癖があった。
「ところで君はどこの出身なの?」
「・・・・モルドバ」
「モルドバ?」