「人イヌにあう」
 
>仕事の妨げになる客を、私が心にもなく歓迎するとき、スージは、私のことばにはいささかも欺かれず、侵入者に向かって容赦なく吠えたりうなったりする(中略)。
>そのとき、このちびは、ティトーの遺産である私の心の奥深く隠された考えを読み取るすばらしい能力を示すだけでなく、ティトーになってしまう。(中略)
>乾いた牧草地で鼠を追いかけ、(中略)先祖ピギーのあくなき情熱をみせるとき、彼女はピギーになる。
>ときどき練習する「伏せ」の訓練のとき、彼女は、立ち上がっては、曾祖母のスタシが十一年前に発見したのとまさに同じ、うわべだけの弁解をしてみせる。
>そしてスタシのように、水たまりという水たまりを嬉々としてころがりまわり、全身泥にまみれたままで無邪気に家に入ってくるとき、彼女はスタシになる。
>スタシの生まれ変わりになるのだ。
>さらに、静かな川ぞいの道、ほこりっぽい田舎道、そして都会の通りを、私とはぐれないようにあらゆる感覚を緊張させてついてくるとき、彼女はすべてのイヌになる。
>最初にジャッカルがはじめて以来、いつでも主人について歩く、すべてのイヌになる。愛と忠節のはかり知れぬ総和となるのだ。(小原秀雄訳)