>>403続き
キツネの庭はこうして育つ

 長く暗い北極の冬、空と大地は果てしない霞に包まれ、ツンドラは見通しの利かない不透明な世界と化す。
気温がマイナス数十度まで下がるこの時期、キツネたちが身を寄せ、子供たちを厳しい気候や捕食者から守れる場所は、地中深く掘られた巣穴だけだ。(参考記事:「ホッキョクギツネの四季」)

 キツネの巣穴には、掘られてから百年以上たつものもある。最も好ましいのは土手や川岸といった隆起した地形に作られたものだが、永久凍土層が広がる平坦な大地では、そうした場所が形成されるまでには長い年月がかかる。

 また、新たな巣穴を掘るには貴重なエネルギーを費やすことになるため、巣穴の数は限られている。キツネは過去に掘られた巣穴を再利用したり、ジリスの巣を勝手に“タイムシェア”して使うこともある。

 平均で10匹、最大で16匹の子どもを産むキツネは、巣の内外に、糞尿や獲物の食べ残しといった栄養分を大量に排出する。
冬の間、彼らは水を飲まず、氷や雪も食べずに深部体温を下げて過ごす。水分は食べ物から摂取するため、尿には栄養分がいっそう凝縮されて庭の成長を促す。


ツンドラのオアシス

 ツンドラのオアシスであるキツネの庭は、美しいだけでなく、北極の環境を豊かにする一助となっている。
食べ物の選択肢を増やすことにつながっているのだと、論文の共著者で、1994年からホッキョクギツネの研究を続けているマニトバ大学のジム・ロス氏は説明する。(参考記事:「極北の孤島に生きる」)

 多様な植物が生えた場所は、短い夏の間、草食動物の食事場所となる。キツネの巣には、様々な動物たちが集まるとロス氏は語る。
「カリブーなどの草食動物は生い茂った植物に集まり、死肉をあさる動物たちは、ガンの死骸に引かれてやってきます」