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あなたは死体を埋めたあとの人間の肉声を出せるか(声優さんの芝居の上手さについて)

『響け! ユーフォニアム』シリーズの黄前久美子役でブレイクし、
今期の『宝石の国』でフォスフォフィライト役を演じている
黒沢ともよさんの芝居には、ちょっとゾッとするほどの説得力がある。
では、この「応援しているよ」を、あなたなら、どのように芝居するだろうか。

1 つとめて明るく、気をそらすように「大丈夫、応援してるよッ!」
2 優しく、さとすように「ね、応援してるよ」
3 立場上、苦しそうに「でもね、応援してるよ……?」

観ていただけただろうか。
おわかりのとおり、この芝居は、事前に挙げた3つのいずれでもない。
久美子はまず奥さんは亡くなっていることを告げ、
おどろおどろしく不気味な「応援してるよ…」で言葉を結ぶ。

いや、この芝居を聴いたとき、僕は「ウワッ、かなわない」と感じた覚えがある。
これだけ濃密なやり取りを、ハナから字面のセリフで伝えようとしていないからだ。

絵の調子や、画面の温度や、そしてキャラクターの口調や含んでいるものを使って、
どうか視聴者の内側で汲み取ってください、という制作者の前のめりの姿勢。すさまじい。

書いてきたとおり、このシーンは制作に関わっている人全員がベストワークを出しており、
それを一人の功績に帰することは本意ではない。

ただ、このシーンの久美子を、黒沢ともよさんが演じていなかったら、
全く違う調子のシーンになっていたのではないか、という感じは、間違いなくあると思う。

さて、この記事では、声優さんが見せる個々のシーンの芝居のうまさを、
どうにか抽出して伝えられないかと試みてきた。
キャラクターの人生は、視聴者の人生とは明らかに違うものだ。
しかし、そこを通じ合うことができる、細い「橋」があると考えられないだろうか。

声優さんは、そういう橋を慎重に渡って、
キャラクターが独自の人生を、独自の価値観で確かに生きている、生きていくことを、
まざまざと伝えてくれることがあると思う。

http://yokoline.hatenablog.com/entry/2017/12/17/232759