名誉毀損で逮捕



2010年7月、参院選比例代表に新党「たちあがれ日本」から立候補し落選した拓殖大学客員教授の藤井厳喜(ふじい・げんき)氏に対し、2ちゃんねる(2ch)掲示板において誹謗中傷する書き込みをしたとして、大学4年生が名誉毀損の容疑で逮捕されました。

警視庁小岩署の取り調べに対し「思想が右翼的で気にくわなかった」などと供述した学生は、4月20〜21日の2日間で 同掲示板の7つのスレッドに計33回にわたって「死ね」など同氏を誹謗中傷する書き込みをしていたものです。

事件は藤井氏が友人から書き込みについて知らされ、直接警察に相談、告訴したことから始まりました。男子学生と氏は面識も接点もなかったといいます。
判決公判には、被告人の学生とその父親が出廷しました。


「自分の部屋でノートパソコンから書き込んだ」との供述を受け、父親は弁護側の証人として出廷。

男子学生の生活態度やネット環境について尋ねる検察官に対して「ネットに夢中になって、授業に参加しなかったと聞いています」などと返答しました。

一方、被告人席に立った男子学生には裁判官から「学業以前に人間として、どう考えていくかだよね」など、厳しい言葉が投げられました。

では、実際に2chに書き込まれた誹謗中傷の内容とは、どんなものだったのでしょうか。

「藤井は犯罪者。死ね」の書き込みについては、近年サイバー警察の取り締まり対象の大部分を占める殺人予告、脅迫罪に値するものといえそうです。

しかし、それ以外の書き込みのほとんどは、稚拙で低俗な公衆トイレのいたずら書き並みの罵詈雑言でした。

では、書き込みの一部を紹介しましょう。
ああああは売春婦の倅。3匹の娘はDQNビッチ性病持ち。妻はキチガイ精神病者。
いいいいのバカ親父は変態幼児性愛者。藤井厳喜の先祖は河原者。(以下省略)

あまりにも低レベルな悪口に、どう転んでも男子学生の擁護はしがたいといえます。

しかし、時は参院選挙というタイミングであり、「この候補者の考え方は自分には合わないな」という意思表明が誤った方向に暴走しただけ、というのもまた真実でした。

大学教授で、かつ選挙に立候補中といういわば「公人」への批判が、原告の訴えにより「名誉毀損」へと発展したこの事件。

2ちゃんねらーたちの間では「言論統制にあたるのでは?」といった声も上がりましたが、後々まで「書き込みで捕まるとこうなる」と語り継がれるモデルケースとなりました。

被告が学生のため、民事での賠償金請求には至らなかったようですが、人生まだこれからの弱冠23歳の青年に刑事罰として「名誉棄損罪」が成立。

判決公判では、懲役1年6カ月(執行猶予3年)が言い渡されたのです。

さらにメディアは連日、原告の藤井厳喜氏の肩書や知名度に相乗するかのように、被告学生の実名を容赦なく報じました。

すでに成人しているため、実名報道は原則といえますが、前途ある学生の場合には一定の配慮がなされ、実名が伏せられることが多いのです。

しかしこの事件では、被告学生の実名、大学・学部名までが大々的に公表されました。