飲み会の帰り道、アパートの前の階段に
うずくまっている人影があった。
見た感じの格好だと若い男だ。
(酔っ払い…?怖いな)
足音を忍ばせて通り過ぎようと、階段の
前まで来た時、その影がわずかに動いた。
「ひっ」
思わず声が出て足がすくむ。
部屋まで逃げ込みたいけれど、男の横を
通り過ぎる勇気はない。部屋も知られた
くない。来た道を戻っても帰ってきた時
に居ないとは限らない。
迷いと恐怖で動けずに相手の様子を伺っ
てしまう。

男はゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。所在無さげな表情とは裏腹なまっすぐな
瞳に、思わず見つめ返してしまう。
「……」
男は何かつぶやいて、うずくまっていた
階段から立ち上がろう、としたように見
えた。
我に返り、逃げ出そうと背を向け、数歩
走りかけたとき、鈍い音がした。追いか
けてくる気配はない。
振り返ると男が階段の下で倒れていた。
「えっ…ちょっと…大丈夫ですか?」
予想外の出来事に、距離を取りながらも
声をかけるが反応はない。

救急車?それとも警察?酔っ払いではな
さそうだけど、なんか熱でもあるみたい
にボーッとしてたから、変な薬とかやっ
てるのかもしれない。

でも。さっきの瞳を思い出す。
私は酔っていたのだ。彼に近づいて触れ
てみる。本当にかなりの熱があった。
(具合が悪いだけで不審者ではないかも)
(どうせ襲われる様な容姿ではないし)
(部屋に盗まれるようなものもないし)
思っていた以上に酔っていたのだと思う。
私は彼を介抱することに決めて部屋へ運
んだ。

はい、こんな時にこの人を運び入れられ
るような部屋を目指してます。男の人は
7〜8年前の大沢たかおでイメージ。

まあ実際にこうなったら救急車呼ぶけどね。