演技性パーソナリティ障害患者は継続的に注目の的になることを求め,そうなっていない場合にしばしば抑うつを生じる。患者はしばしば活発,劇的,情熱的でなれなれしく,新しい知人を魅了することもある。

このような患者は,潜在的な恋愛的関心によってだけでなく,様々な状況(例,職場,学校)でしばしば不適切に誘惑的かつ挑発的な形で衣服を着用し,行動する。患者は自分の外見で他者に印象づけたいと考え,そのため自分の外見にとらわれていることが多い。

感情の表現は表面的(急に感情を消したり,見せたりする)で誇張されていることがある。話しかたは劇的で,強い意見を述べるが,その意見を裏付ける事実または詳細はほとんどない。

演技性パーソナリティ障害患者は他者および最新の流行に容易に影響を受ける。非常に人を信用しやすく,特に,自分のあらゆる問題を解決してくれると考える権威者を盲信する。しばしば自分と他者との関係を実際よりも親密であると考える。新奇なものを渇望し,すぐに飽きる傾向がある。このため,仕事や友人を頻繁に変えることがある。遅れて来る充足感は患者にとって非常に苛立たしいものであるため,しばしば即座の満足を得ることに興味をもつ。

感情的または性的に親密な関係を得ることが困難な場合がある。患者は,しばしば気づくことなく,ある役割(例,被害者)を演じることがある。患者は誘惑的または感情的操作を利用してパートナーを支配しようとする一方で,パートナーに強く依存するようになることがある。

診断

診断基準(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition[DSM-5])
演技性パーソナリティ障害の診断を下すには,患者に以下が認められる必要がある:

過度の情動性および注意を惹きたいという欲求の持続的なパターン
このパターンは,以下のうちの5つ以上が認められることによって示される:

注目の的になっていないと不快感を感じる
他者との交流が不適切なほど性的に誘惑的または挑発的である
感情の急激な変化および浅薄な表現
自分に注意を惹くため常に身体的外見を利用する
極めて主観的かつ漠然とした会話
はったり,芝居がかったふるまい,および感情の大げさな表現
被暗示性(他者または状況に容易に影響を受ける)
人間関係を実際より親密なものとして解釈する
また,症状は成人期早期までに始まっている必要がある。

鑑別診断

演技性パーソナリティ障害は,特有な特徴に基づいて他のパーソナリティ障害と鑑別することが可能である:

自己愛性パーソナリティ障害:自己愛性パーソナリティ障害患者も注意を惹こうとするが,演技性パーソナリティ障害患者とは異なり,それにより賞賛されていると感じたり,高揚感を感じたりすることを望んでいる;演技性パーソナリティ障害患者は自分が得る注目の種類についてそれほどえり好みすることはなく,気取っていると思われようが,ばかげていると思われようが気に留めない。
境界性パーソナリティ障害:境界性パーソナリティ障害の患者は,自分を悪い人間であると考え,感情を強く深く体験する;演技性パーソナリティ障害の患者は,他者の反応に依存する傾向が低い自尊心によるものである可能性はあっても,自分を悪い人間であると考えることはない。
依存性パーソナリティ障害:依存性パーソナリティ障害患者は,演技性パーソナリティ障害患者と同様,他者に近づこうとするが,より不安が強く,抑制的,服従的である(拒絶されることを恐れているため);演技性パーソナリティ障害患者はそれほど抑制的ではなく,より華やかである。
演技性パーソナリティ障害の鑑別診断には 身体症状症および 病気不安症も含まれる。

治療

精神力動的精神療法
演技性パーソナリティ障害の 一般的治療は全てのパーソナリティ障害に対するものと同じである。

演技性パーソナリティ障害に対する認知行動療法および薬物療法の有効性に関してはほとんど知られていない。

基礎にある葛藤に焦点を当てた精神力動的精神療法を試みてもよい。治療者は発言を行動に置き換えるよう促すことから始め,これにより患者が自分を理解し,より劇的ではない形で他者とコミュニケーションを取れるようにする。治療者はそうして,他者の注意を惹き,自分の自尊心を保つ上で演技的行動がどれほど不適応なやり方であるか患者が理解するよう支援できる。