思い出は戻らない時間。
生まれてから4歳か5歳まで住んでた家。

四畳半と六畳と台所、風呂トイレ。
寝るのは両親が六畳の机を畳んで、俺と兄貴は四畳半。

思い出は数え切れない。
日曜の朝、早く目覚めて親父とお袋の温かい布団に潜りこんだ事。
兄貴とお揃いの服を枕元にたたんで眠った事。
大きな桜の木に毛虫がたかって父が退治する下を母ときゃーきゃー言って走った事。
休みの日はいつもクラシックのレコードがかかってた。
母が留守番してた俺と兄貴にキャンディを繋いだ首飾りを買って帰ってくれた事。
夜中に目が覚めて、朝と思
って起きたらケーキのお土産を買って帰宅した父がいた事。

近所の幼稚園だけど、俺にしたらとても遠くの知らない場所に
初めて一人で兄貴に届けものをした事。
庭で洗濯してる母の横で絵本を読んだ事。

とても書ききれない思い出。

今も夢に出てくるのは次に引越した、部屋数の多いマンションだけど。
5歳から23まで住んで母を亡くしたそのマンションにはいい思い出が少ない。

俺のHomeはあの小さな社宅。
母が元気で父が笑ってて兄貴の後をついてまわった俺の生まれた家。
桜の咲く家。窓から入道雲の見える家。

今はもうない。