中三の時、クラスにフィリピンからの帰国子女の奴がいた。
ずっと南国暮らしで、ちょっと雪が降っただけで感動する奴だった。
さて、修学旅行は冬の北陸だった。うちは中高一貫だったんで季節は冬だ。
俺たちは上野から寝台列車に乗り込み、じき車内は寝息が支配するようになる。
列車は群馬県を抜け、国境の長いトンネルに入る。鉄ちゃんだった俺は
トンネルを抜けたのを見計らって下の段のそいつをそっと起こしてやった。
「雪、積もってるよ」
ブラインドを上げると、手が届きそうなほど積もった雪が窓の明りの下、ゆっくり流れていく。
窓にかじりついて始めて見る雪国の景色をじっと眺めていたそいつの姿を今でも覚えている。