長文が嫌いな人は、太田浩一 『電磁気学の基礎』 はやめておいた方がいい

本書の場合、本題とは直接関わりのない余談の部分が多い
しかし、それが実用一点張りの凡百の参考書とは異なる知の豊穣と味わいを醸しだしている

たとえば、本書冒頭部を引用すると次のとおり
物理の教科書であれば、最後の1行 「澄んだ海――」 から話を始めてもまったく問題はない
長文が苦手な人は、若山牧水の歌碑やフラ・アンジェリコの絵画の話で、頭が混乱するだろう

 
1.1 白鳥は哀しからずや

 三浦半島北下浦にあった長岡半太郎 (1865-1950) の別荘の前の海岸に歌碑が立っている.
「しら鳥はかなしからずやそらの青海のあをにもそまずたヾよふ」1907年,若山牧水の学生時代
の歌だ.美しい空の色は詩人の心を掻き乱す.

フラ・アンジェリコがフレスコ画に描いた清澄な青空を見て,この画僧の純朴な信仰心に感銘を
受けない人はいないだろう.アリストテレスは『天体論』で,土・水・空気・火の4元素に加え,
天空を満たす元素,青空を意味するエーテルを論じた.

『荘子』は「天の蒼蒼たるは其れ正色なるか」と疑問を呈している.
ラーマン(C.V.Raman,1888-1970)は1921年,地中海の深い青い色に感激し,その原因の研究を
思い立った.

 澄んだ海,晴れた空が青く,朝日や夕日が赤いのはなぜだろう.