タイムマシン
The Time Machine

ハーバート・ジョージ・ウェルズ 著
翻訳: 山形浩生<hiyori13@alum.mit.edu>

1.

 時間旅行者(と便宜上呼んでおく)はわれわれにとっては難解な事柄を述べ立てていた。その灰色の目は輝き、きらめいて、そしていつもは青白い顔も紅潮して生き生きとしている。
火が明るく燃え、銀の百合の中の白熱光からの柔らかい放射が、われわれのグラスの中をきらめきながらたちのぼるあぶくをとらえている。
われわれの椅子は、かれの発明品なので、単に漫然と座られるにとどまらず、われわれを包み込み愛撫して、そこにはあの思考が厳密性の束縛を逃れて優雅に奔走する、晩餐後の豪華な雰囲気があった。
そしてかれは――論点を細い人差し指で印しつつ――われわれが座ってこの新しいパラドックス(とわれわれが思ったもの)についてのかれの真剣さと活力について、怠惰に感嘆するのを前に、このようにして説明してくれたのだった。