「ママ、怪獣だったんだよ」と子供に言うと、「知ってるよ、怒るとどの怪獣よりも怖いんだもん」と息子。
「うーん」と僕は説明に困ってしまった。

息子の陸斗は今、ウルトラマンに夢中。
そしてなぜか怪獣が大好きなのだ。
これも血かとも思う。

妻の奈緒との出会いはショッピングモールのウルトラマンショー。
奈緒はウルトラマンショーで司会を務めていた。
白いロングブーツにエナメルの赤と銀のワンピース姿の美しい女性は大人から見ると、艶っぽく見えた。
170cmある奈緒は美しい顔立ちに、抜群のスタイル。
ウルトラマンのマニア以外の大人達は明らかに彼女目的で集まって来ていると僕は思っていた。
そして僕もいつしか目的が彼女に切り替わっていた。

ある日のウルトラマンショーでトラブルが起きた。
いつものように2階の吹き抜けから、1階で行われているショーを、いや彼女を眺めていた。
すると、裏方でバタバタとした動きになっている。
1人の細身の男性が足を痛めたようで、片足で飛び跳ねている。
そしてその男性は彼女に手を合わせていた。
足を痛めた男性と彼女以外のスタッフを見ると男性は小太りで女性は小柄だった。
声は聞こえないが、状況からどうなったのかは、容易に察しがついた。
すぐに小柄な女性と彼女は2つあるテントの少し小さい方へと入っていった。
しばらくすると、小柄な女性が赤と銀のワンピースにブーツ姿でテントから出てきた。
そして足を痛めた男性に何か話すとステージ側へと走っていく。
足を痛めた男性は片足で飛び跳ねながら、彼女の消えた小さめのテントへと入っていった。
程なくしてテントからはウルトラマンゼロが現れ、ショーは進行していった。
その後のショーの内容についてはほんとど頭に入って来なかった。
なぜなら僕はウルトラマンゼロだけをずっと追っていたから。

ショーが終わってから、このショッピングモールではウルトラマン達によるパトロールが行われる。
ウルトラマンとスタッフの2人1組で、館内を回っていく。
子供たちに混ざり、当然僕はウルトラマンゼロについて行ったそんな時、前方の1人の男がゼロのお尻を触っていた。
スタッフは全く気づいていない。
ゼロはそのいやらしい手を避けるように早く歩くがその手はお尻を触り続けた。
耐えられなくなった僕は、その男の手を掴み注意をすると男はそそくさと行列から離れ、ショッピングモール内へ消えていった。
その場で同行していたスタッフからお礼を言われた。

ショッピングモール内のパトロールを終えると、ウルトラマンと握手をして終わりとなる。
僕もゼロと握手をした。
その時、ゼロは僕の耳元に顔を近づけてきて言葉を掛けてくれた。
「先ほどはありがとうございました」と。
その声はくぐもっていたが紛れもなく、司会の時の彼女の声だった。
僕は興奮して思わず握手している手を強く握った。