素敵な恋物語。
ドラマや映画にもなり有名な小説だが、初めて読んだ!
いわばタイトルからして出オチのような悲しい話なのですが、そこへ至るまでの描写がどうにもすばらしく、ただ泣けるとかそういう小説ではありませんでした。
政夫と民子、棉もぎデートでの遠回しな愛の告白が、その想いをより強く感じさせた。
また、田舎風景の描写も美しく、自然と映像が頭に浮かんできてしまう。
時代的に仕方ないのだが、民子があのようになってからの両親や親戚の変わりようったらなかった。
身内なのにずいぶん身勝手だと思ったし、最期くらい会わせてやればよいものを。
但し、十代の若さで大人の対応をした政夫さんには感心した。
一人夜通し泣くくらい何てことない、昔の男子は今と違いとても気丈だ。
十七、八歳頃の私はと言えば、ただの子供でしかなかった。
なるほど。これはすごい。 え? これ千葉の話だよね? 松戸とか市川とか矢切の渡しとか、この人たちさっきまで千葉の話してたよね? というくらい、少年と少女を結びつける世界が至上の別世界であることがひしひしと伝わってくる。
意識の世界というものが確実にあることを教えてくれる。
できすぎた神秘の物語や精神世界の本を読むよりも、ものすごいところへ連れていかれる!
最後の母親の後悔と涙も痛ましい。
ラストの独白に「僕は余儀なき結婚をしてながらえている。」とあるが、こんな恋愛をしたらどんなふうに歳を重ねていけばいいんだろう?と素朴に思った。
素朴な矢切の情景、そして江戸川越しの夕景が印象派の絵画の様。政夫、民子の淡く清々しい恋心が鮮やかなだけに、結末がひときわ悲しい物語でした。
それにしても今で言えば二人とも高校生の年齢。明治の若者はこんなにも大人だったのだなぁ。
「浜菊」は同じ菊のつく題名でも友人の悪口を並べた話。「野菊の墓」の次に載せたのはいかがなものか。
『姪子』は、当時の千葉の田舎の情景・生活感が写実的に描かれると共に、良き旧習を忠実に守る人々が美しく、清涼感溢れる作品でした。