西川克己

絹代さんが監督する「月は上りぬ」で、小津さんがプロデューサーってことが決まり、呼ばれました。
「北原三枝って知らねえんだけど、みんながいいっていうから、ラッシュ見せてくれないかな」と言うので、会社に頼んで見せてもらいました。

そしたら「なかなかいいじゃないの。西河君、君のところの主役にするんだって?」
「ええ、主役にするつもりで引き抜いておいたんですが」って言ったら「いや悪いけどね、ちょっと譲ってくんないか」と。


そこで、僕は「実は私も困ったことがあるんです。大変重要な役で、笠さんに出てもらいたいと思っているんです」
「五社協定に入っていて、そんなわけにいかないだろう」
「そこを何とかお願いできないでしょうか?」としつこく食い下がりました。
そうしたら「いやあ、迷惑を掛けて悪いから、まあ話してみるか」と。

やっぱり、小津さんの威厳というものは大変なものでした。