#22(噂の寅次郎)より

とらやの居間。
いつもの面々が 「今日、正式に別れた」と話して泣いた早苗を交え、
夕餉後、デザートの柿をいただきながら団欒している。
寅は「聞いただけで家ん中がパーッと明るくなるような」話を周りに
催促していた。
【中略】
満男: みじめ〜
博: バカっ、ふざけてるときじゃないっ!
寅: やめろ、やめろ、…やめろよ。
博: ちゃんと教え…
寅: やめろって。
結局ね、何の話しても、この家は最後に暗くなるんだよ。
おいちゃん:
しかしねぇ寅、明るい話題なんてそんなにざらに転がっていないぞ。
早苗:(デザートの柿を皿に分け終わり、おいちゃんらを見る)
寅:(低い声で)どうしてよぉ
おいちゃん: えぇ?
早苗: はいっ!(明るく挙手)
明るい話題。
寅: (ハイトーンで)はいっ、出ました。なんでしょ。
(どうぞ、と手振りし、早苗に発言を促す)
早苗: んふふ。(嬉しそうに笑顔を浮かべ寅を見る)
寅: んふふ。(同じく笑みを返す)
早苗:(覚悟を決めたように、スゥっと息を吸い)
あのね。
寅: はいっ。
早苗:(視線を落としつつ)私の人生で…
(寅を見て続ける)寅さんに会った、っていうこと。

社長&おばちゃん:(驚いた顔)
寅:(口元の笑みが解け、本気かというように、早苗を見つづける)
おいちゃん&博&桜:(気になって寅を見る)
(カメラ: 桜をアップ)
桜:(驚きと嬉しさと希望、そして一抹の不安が、入り混じった表情)

早苗:(半口を開けて俯いている)
寅:(早苗から目を反らす)

いやぁ…
(咳ばらいし、おもむろに新聞を手にとる。そして新聞紙面を読み
上げるような仕種をしながら、まるで独り言みたいに話しはじめる)

そんなことを言われたのは初めてだなぁ。
僕はどっちかっていうと、暗い人間だ、と思っていたし。
それに、この歳になってみると、面白いことなんて、何もないしね。
(新聞をたたむ仕種になる)
まあ、楽しみといえば、寝ることぐらいだから。
明るい、なんていわれると、なんか…戸惑っちまうなあ。

早苗:(噴き出し笑い)

(そして寅も含め、一同、大笑い)
【後略】