(続き)
 しかしながら、このたび寄贈資料が演劇博物館に収められた池部良は、
こうしたスターたちとは異なり、舞台を活躍の場とすることはあまり
ありませんでした。このように、もっぱら映画のスクリーンで輝きを
放った俳優について、若くして急逝した早大出身の佐田啓二を例外と
すれば、これまで演劇博物館は旧蔵資料をほとんど収集してきません
でした。この点からも志村三代子氏を通じて、ご遺族からのご寄贈が
実現した、池部良の魅力を伝える貴重な資料群は、そのコレクションの
なかで異彩を放ち、新たな価値を加えることになったのではない
でしょうか。
 このたびの寄贈資料は、主として直筆原稿、写真アルバム、ポスター等
の宣材により構成されています。いずれも質量ともに充実したもので、
とりわけ文筆家としても活動の幅を広げていた、晩年の直筆原稿に
書き連ねられた文字からは、軽妙洒脱な若き頃の役柄とは対照的に、
その多方面にわたる、私人としての重厚な教養が読み取れます。また、
大量の写真や宣材は、メロドラマからコメディ、さらには任侠ものや
特撮ものまで、さまざまな役柄で多くの観客を惹きつけてきた、映画
スター池部良の多様な表情を一望できるものです。長きにわたり、
スターとして第一線で活躍してきたからこそ、その経歴と重なる資料群は、
それ自体で日本映画史の一面を語るものになっています。
 この企画展が、世代を問わず、誰もがスクリーンで一度は目にしてきた、
池部良の新たな魅力を再発見していただく機会となることを心より
願っております。