近年の松方弘樹で印象深いのは2010年の映画『十三人の刺客』だ。本作の松方は、武士としてのたたずまいや立ち回りの
凄味で並居る人気若手俳優たちを圧倒していた。

「立ち回りは、いきなり現場ではできませんよ。彼らは刀を持ったことも、差して歩いたこともない。袴も穿いたことがないから、
5回も座ったらケツが出ちゃって、そのまま引きずって歩いているもんね。13人を演じた俳優は僕の立ち回りをみんな見に来て
いましたが、見ててもできないです。

 しかも、あの立ち回りは『動』ばっかりで『静』がない。ですから、僕のカットでは絡みに『俺がジッとしたら動くな』と指示しまし
た。止まるから、初めて動いたスピードも早く見える。だから、僕の所だけ違うんです。でも、『動くな』と言っても、みんな逸る
んですよ。立ち回りはちゃんと絡みができる俳優が本当にいなくなった。

 ただでさえ芯の出来る主役がいなくなっているのにね。両方が下手なんだから、今の時代劇は見てられないわね。酷い。

 昔の映画の所作事が素晴らしいのは、時間をかけているからです。時間というのはお金です。お金があったら、もっと画は
よく撮れます。僕らの若い時はテストを20回もやってくれましたが、今は1回か2回ですからね。それでは上手くなりません。
今の映像は、金がないのが全てです。俳優さんが悪いんじゃない。体制が悪すぎる。

 悲しいです。いい時代を見ているだけに、今のテレビドラマや映画の現場に行くと、悲しい」