クリスチャンの聖人君子、仮面をかぶった父親、そのどこかに潜む矛盾、嘘、ドス黒いもの
倍賞こと息子の嫁はそれを炙り出すかのような存在  惹かれてゆく嫁を拒むでもなく側に置く
そのもどかしさ、憎々しさに気づけ

緒方こと榎津はその息子、自由奔放に犯罪を繰り返すが それはみな父親の存在故か
榎津にあるのは脅えにも似た静かな怒り 無辜の命を奪う抒情的殺人はひたすらなすがまま

三国こと父、自分が作った怪物に殺されることもなく憎まれることもなく ただ無力
軍属の圧力にも無力 嫁からの愛にも無力 息子の犯罪にも無力
善良を装ってはいても無力そのものは悪なのだ 呆然とそこに立ち尽くすことは悪だ

榎津は囚われ死す 流れのままに  だが父を許すことはない
何から許すことがないのか? 父の善良を気どった無力をこれが許さないのだ

最後に父はパンドラの箱よろしく邪悪なものを放り投げた 結局は無力ゆえに逃げる
世の中に邪悪が放たれ、再び飛び立つように
それはこれからまだ繰り返される罪 これからの凶行を暗示する これからの殺人を

我らの中にそれはいまだ放たれたままだ その無力という罪を知れ 神はそれを咎めている
立ち尽くす者に災いあれ 汝は無力という悪を知れ 復讐するは我にあり