おとなしく辞めるからダメなんだろうな

3月31日朝、東京大学の生命科学系講座の助教だった50代の男性は、研究室の郵便受けに入っていた最後の辞令を手にした。
 「令和5年3月31日限り任期満了退職」
 片付けの終わらない自席で、ため息をついた。
 「自分の研究は、大学にはいらなかったんだな。これって、使い捨てされたのと一緒じゃないか」
 有期雇用が通算10年を超える直前に契約を打ち切られる「雇い止め」の通告だった。
 この1年間、研究のかたわら、死にものぐるいで研究職への応募を続けてきた。
 履歴書や研究業績書を送った地方大学や研究機関は約15にのぼったが、どこにも採用されなかった。
 子ども2人の教育費もかかるなか、共働きの妻には心配をかけられない。家族に相談もできず、ストレスのせいか、年末には全身が見たことのない湿疹でいっぱいになった。
 世界の食糧危機を救えればと、東大で研究を始めてから15年。この間、必死に頑張ってきたのに……。
 明日から、自分が打ち込むべき仕事はない。
 「自分で言うのも何ですが、研究業績には自信がありました」