大学院生の金銭的な問題について、教育ジャーナリストの松本肇氏は次のように語る。
「大学院生の経済状態はかなり深刻で、文系と理系で多少の差はありますが、生活費や学費も含めて修士課程では2年間で600万円、博士課程では3年で900万円のおカネが必要と言われています。
特に法科大学院を出るには1000万円近くのおカネがかかります。さらに学位論文の作成や研究に必要な書籍代などを捻出しようとすれば、加えて年間30万円程度の支出も避けられません」
試験監督や授業補助など、大学院生のために設けられたアルバイトもあるが、その金額は普通のバイトに毛が生えた程度。授業料と併せて生活費までまかなうにはとうてい足りない。
「日本学生支援機構」(JASSO)によると、'12年度から'16年度にかけて、自己破産を選び、奨学金の債務などを免れた件数は8108件にのぼるという。
この数字には学部時代の奨学金が返済できなかった人も含まれるが、研究職という夢を追いかけていたら、かさんだ学費を返済できず、自己破産に追い込まれるケースが散見され、あまりにも世知辛い。
借金をしてでも、学生時代にきちんと勉学に励めばそれなりの見返りが得られる、そう信じる学生も多いかもしれない。実際、大学教授の年収は、所属学部や年齢によってばらつきがあるが、おおむね900万〜1400万円と高水準である。
だが問題なのは、研究職で成功するのは、博士課程を修了した優秀な学生の、そのなかでもほんの一握りであるということだ。
2年間の修士課程(博士前期)を終え、3年の博士課程に進み、修了した学生の進路は大きく分けて二つある。民間企業に就職するか、「ポスドク(ポストドクター)」と呼ばれる研究員として大学に残り、研究を続けるかのどちらかだ。
ポスドクは任期制で、おおむね教授や准教授の研究をサポートしたり、大学での講義支援を行ったりするのが主な仕事だ。これを3〜5年ほど勤めたのち、大学講師や准教授などのポストに就くことが研究職の理想的なキャリアパスとなる。
だが、そう一筋縄ではいかないのがポスドクの現状だ。KDDI総研リサーチフェローの小林雅一氏は次のように語る。
「ポスドクという名の不安定かつ低賃金な契約雇用期間が10年以上続く研究者もなかにはいて、30代から40代になっても研究職ポストが与えられないまま過ごさざるを得ない人もいます。