科学技術と安全保障 民生技術の管理・育成が急務
兼原信克 同志社大学特別客員教授
ttps://www.nikkei.com/article/DGXKZO57867440Z00C20A4KE8000/
 日本政府が克服すべき課題は多い。第1にそもそも政府は、日本が保有する軍事転用可能な「機微技術」の
全体像を知らない。原因は官僚制に根強い縦割りの弊害にある。防衛技官は自衛隊の装備には詳しいが、
将来の戦闘様相を変え得る民間の先端技術に関心が低い。逆に他の省庁の技官は、所管業界の先端技術が
どう安全保障の世界を変えるか想像できない。大学に至ってはなおさらだ。
 現時点では米国や中国の方が日本の機微技術の全体像に詳しいだろう。自らの機微技術を知らなければ、
彼らに何を持っていかれても打つ手がない。政府として、安全保障上の観点からみた日本の機微技術の総体を
「知ること」が必要だ。
 第2に日本の機微技術を不用意な流出から「守ること」だ。まずはサイバー窃取への対策が必要だ。筆者の
イスラエルの友人は官民を問わず日本のサイバー防衛は遅れており、ロシア、中国、北朝鮮の優秀なハッカー
ならどのネットワークでも数時間で破れるだろうと危惧していた。新防衛大綱で自衛隊のサイバー部隊増強が
認められた。彼らの高い技術を民間防衛にも応用できる仕組みが必要だ。
 機微技術流出は、オープンな学術交流の場でも生じる。ある程度の技術流出規制は、武器輸出を管理する
「ワッセナー・アレンジメント」などの国際枠組みに従った貿易管理令により規制可能だ。だが米国は民生用技術
であっても、将来の安全保障に影響を及ぼし得る先端技術に関して基礎研究や応用研究も含め、機微度に応じて
外国人研究者や留学生のアクセスを制限することを検討し始めた。また米エネルギー省は、中国の研究予算を
獲得した研究者には、米国の研究予算を拠出しないことを決めた。
 現在、国立研究所、大学や日本企業の研究所には、中国人など外国人研究者や留学生が数多く在籍する。
経営の安定が外国人留学生に大きく左右される大学もある。それでも機微技術に関しては不用意な流出阻止の
ために、教える側の意識向上と一定程度のアクセス制限などの措置が必要だ。
(続く)