驚くべきことに、原発事故を受けて、日本は食品からの被ばくに対する許容線量を半分の水準にまで引き下げた。

放射線リスクの誇張に否定的な見解を広く訴えている英オックスフォード大学のウェード・アリソン教授(物理学)の推定によれば、
その程度のわずかな放射線を含む食品を1トン食べても、CT(コンピューター断層撮影)スキャンを1度受けた程度の被ばく線量にしかならない。

また、たとえ事故直後に福島第1原発から直接流れ出た汚染地下水を12ガロン(約45リットル)飲んだとしても、同じだという。

残念ながら、日本はその過剰な警戒をすぐに解きそうにはない。

安倍晋三首相は、事故後に稼働停止された国内54基の原発の一部の運転を静かに再開し始めている。
首相が何としても避けたいのは、放射線リスクに甘いそぶりを政府が少しでもみせることで、世論に火をつけることだ。

東京が今週、2020年五輪の開催地に決定したことで、大げさなまでに除染を優先させる方針にさらに拍車がかかることになるだろう。
来日したアスリートをがんのリスクにさらそうとしていると非難されるわけにはいかないからだ。

日本が放射線に過剰なまでに敏感になる背景にはおおむね広島と長崎がある。

しかし、もっと大きな原因はLNT仮説(直線しきい値なし仮説)を支持し、1950年代に大気核実験に異議を唱(とな)えた
善意の活動家にあるかもしれない。LNT仮説とは、放射線はどんなに微量であっても健康に害があるとする考え方だ。

遅ればせながら、そうした問題に関する権威機関の1つ、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、
かつて擁護していた疑義あるリスク計算式を撤回しようと先頭に立って動いている。

UNSCEARは昨年、恐らく地球温暖化への対抗策として原子力エネルギーを救出しようとの目的から、
「低線量を大勢の人数で掛け合わせて、放射線で誘発された健康への影響を受けた人数を推計すること」は推奨しないとの見解を明らかにした。

反原発活動家にとってさらに悩ましいのが、中には最大600ミリシーベルトの被ばくをした人もいる福島第1原発の作業員にさえ、
放射線を原因とする疾病が見受けられず、今後発症する見込みもないとUNSCEARが断定したことだ。