特異な妄想性人物誤認を呈した1例

妄想性人物誤認の代表形態ではない、妄想性人物誤認症候群の1例についてまとめる

本件は、カルト教団オウム真理教の元信者三名が「妄想性同時性人物誤認」を長年に亘って呈し、
今もその認知症傾向をますます強めているという特殊な形態の認知症であり、家庭や職場といった
リアル社会ではなく、ネット上の掲示板という限定的な状況下で発生した点で、他の代表的妄想性
人物誤認と一線を画してきた

本件は端的に、元信徒であるA,B,Cの三名が、参加者の1,2,3,・・を別人のXであると信じる妄想で
あり、顔を現実に合わせることのない掲示板内で発生している妄想である以上、治癒や是正の可能
性がほぼ期待できない状況が続いている

妄想性人物誤認を長年に亘って同時に三名がする背景には、掲示板での討論自体を妨害したい意志を
三名が共通して有していることが伺われ、それを可能にする唯一の方法として、「妄想」自体を武器
にし続けた結果、認識力を失い真に精神障害に陥るという、ある意味稀有な症例として記録される

オウム真理教の元信者による刑事事件として、元信者でもあった元夫が現役信者であった元妻を刺殺
するという痛ましい事件、教団から分裂した団体の指導を受けた元信者が修行中に事故死するといっ
た事件が報道されてきた。オウム真理教は一連のオウム事件によって、教団ぐるみで反社会的な活動
が為されていたことが明らかとなり、教祖や実行犯らに下された刑もすべて前元号中に執行されたの
であるが、一部の元信者達に、教団に一貫する「思い通りにならない対象への破壊願望」という幼稚
な行動原理がしっかりと受け継がれていることを垣間見ることができる象徴的な症例であると言える