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突然、男は大きな声で言った。
「そこの坊主、止まれ。」
その声を聞いた釈迦が言った。
「私は止まっている。お前が止まるのだ。」
その言葉を聞いた男が釈迦に言った。
「私は止まっている。動いているのはお前だろう。」
再び、釈迦はその男の目を凝視して言った。
「私の心はいつも止まっている。お前は自分の心を止める事が出来ず、絶えず心が動いている。だからこそ多くの人を殺めるのだ。」
釈迦の言葉を無視して、その男は釈迦を殺そうと刀を振り上げた。しかし、何時もと違っていた。何時もは必ず切られまいと恐れおののき逃げ惑うのに、この僧は平然としている。そして、哀れむように男の目を凝視しているのである。
男の振りかぶった刀は、どんなに振り下ろそうとしても、振り下ろす事が出来なかった。まるで釈迦の周りに、見えない大きな壁があるかのようであった。
何度気合を入れても刀を振り下ろせない事を知った男はやがて釈迦を凝視した。そこには慈悲に満ちた釈迦の顔があった。
その男の心はその顔を見ると安らいだ。このような安らぎをかつて感じた事があるだろうか。少なくとも殺人を始めてから、このような安らぎを感じた事は一度も無かった。
男は刀を思わず捨てた。刀を捨てると、男は大きな重荷を捨てたような気持ちになり、釈迦の前に平伏した、と同時に泣きじゃくった。