モーセ五書への批判「文書説」について

旧約聖書の写本の真正性について、最後にモーセ五書に対する批判を簡単に取り上げたい。
モーセ五書は、ユダヤ人の中では、伝統的にモーセ一人によって書かれたと信じられてきた。

ところが、十七世紀以降の自由主義神学者たちによって、モーセ五書がモーセ一人によって書かれたものではなく、ずっと後に書かれた複数の文書を融合させたものだと主張されてきた。
それらの複数の文書とは、ヤハウェ文書(J文書)、エロヒム文書(E文書)、祭司文書(P文書)、申命記文書(D文書)の四つから成っており、バビロン捕囚期以降に今の形に編纂されたと考えられるようになったのだ。

この文書説に対する反論は複数挙げることができるが、特に注目に値する発見が1980年になされた。
この年、エルサレムにあるヘブライ大学で、モーセ五書の語彙のコンピュータ解析が行われた結果、五書は全て同一の著者(編纂者)によって書かれたものであることが確認されたのだ。

したがって、五書が全てモーセ一人による著書であると信じてきたユダヤ人の伝承は正しかったのである。