エルサレム神殿崩壊にともなう「大いなる患難の時」の予言が
マルコ福音書(一三・一四〜二三)にありますが、この予言はもともと、
ローマの軍勢によるエルサレムの陥落が避けられない情勢になってきたとき、
共同体の中で霊感を受けた預言者によって
主イエスの名によって語られたものと見られます。
この予言により、ユダヤにいたイエスの民は
ゼーロータイ(熱心党)の者たちと一緒にエルサレムに立てこもることなく、
ヨルダン川東岸のペラに脱出します。

イエスを信じるユダヤ教徒の共同体は、
エルサレムだけでなくガリラヤや
他のパレスチナ諸地方にもあったと推察されますが、
資料がなく、その詳細は判りません。
ペラに移ったエルサレム共同体のユダヤ教徒や
パレスチナのユダヤ教徒の共同体は、ユダヤ戦争後も細々と存続しますが、
どんどんと拡大するヘレニズム世界の
異邦人信徒の共同体の陰に埋没して影が薄くなり、影響力を失っていきます。
エルサレム共同体も、もはやエルサレム陥落以前の時期のように、
救済史の担い手としてキリストの民の中核に位置する共同体ではなくなります。
パレスチナのユダヤ教徒の信徒共同体は、
ヘレニズム世界で主流となった
異邦人の共同体から「エビオーン派」と呼ばれる
(主流派の教父から見て)「異端的な」一セクトとなります。