門をたたく。 喫茶去(きっさこ)。

ある禅門を志した僧侶が、幾たびに樫の棒で殴られて、入門したいという意志に取り合ってくれなかった。

ある日、僧侶は、今日こそはと、覚悟を決めて、門が閉まる時に、門に足を挟んで、「今日こそは、僧門に入れてくれるまでは、たとえ足が千切れようとも動きません」と、言った。
それでも情け容赦なく、門は閉まる。
ギィーという鈍い音を立てて門が閉まる。
脂汗を出しながら、その僧侶は我慢をした。
精神は堪えられたが、足が悲鳴をあげて、壊れてしまった。
でも、僧侶は我慢した。
「中に入れてくれるまでは絶対に離れません・・・」

しばらくして、門が静に開いた。
見れば、そこに高僧が一人、立っていた。
「見事、よくぞ、堪えたな。入門許す」

「ありがとうございます。ありがとうございます。…」 その時、何か頭の中で、ひらめくものがあった。 「ああやっと、分かりました。あの門が開かぬ意味が、…」

すると、高僧は、優しい笑顔でこう云った。 「見事、大悟(たいご=悟ること)なされたな。見事、さあ足を見せなさい。すぐに治療しよう。その後に茶を一服差し上げよう」

もちろん足は、一生曲がったまま治らない。
しかしながら、この僧侶は、その後高僧の後を継いで、この総門を率いることとなる。