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本則

陸亘太夫、南泉と語話する次、陸云く、「肇法師云く、『天地と我と同根、万物と我と一体』と。 また甚だ奇怪なり」。

南泉、庭前の花を指して、太夫を召して云く、「時の人、この一株(ちゅう)の花を見ること、 夢の如くに相似たり」。



陸亘(りくこう)太夫:陸亘太夫(764〜834)は陸が姓で、亘(こう)が名前である。
唐朝に仕えた御史太夫で、官吏の罪を正す職務に就いていた。
南泉:南泉普願禅師(748〜834)。
法系:六祖慧能→南嶽懐譲→馬祖道一 →南泉普願   
肇(じょう)法師:僧肇(そうじょう)(374〜414)。中国東晋の僧。鳩摩羅什(くまらじゅう)の門下で、  
仏典漢訳を助け、理解第一と称された。著書に「宝蔵論」「肇論」などがある。
『天地と我と同根、万物と我と一体』:この言葉は僧肇の「涅槃無名論」に見える。
この言葉は『荘子』斉物論の『天地と我と同根、万物と我と一体』と同じ考え方である。
甚だ奇怪なり:なんとも不思議である。
時の人:世間の人。

本則

ある時、南泉と話をした時、陸亘太夫は言った、
「私は僧肇法師の「涅槃無名論」を読みました。 そこには、『天地と我と同根、万物と我と一体』と書いてありました。なんとも不思議なことですね」。

この時、南泉は、庭前に咲いている牡丹の花を指して、太夫を呼んで言った、
「世間の人は、この一株(ちゅう)の花を見ているが、 ああ美しい花だ、と夢でも見ているように見ているだけだ。 その花が自分そのもので、自分が花となって咲いているのだ、とは決して気付かないね」。