碧巌録(へきがんろく) 第31則?   麻谷(まよく、あるいは、まこく)振錫(しんしゃく)

試(こころ)みに挙(こ)す看(み)よ

本則

麻谷、錫(スズの杖つえ)を持して章敬(しょうけい)に到る。
禅床をめぐること三匝(そう、めぐる)、錫を振るうこと一下(いっか、ひとくだり、〜したかとおもえば、また〜もして)して、卓然(たくぜん、ひときわ目立って優れているさま)として立つ。
章敬云く、「是是(ぜ ぜ)」。
雪竇(せっちょう)著語(じゃくご)して云く、「錯」。
麻谷また南泉に到り、禅床をめぐること三匝、錫を振るうこと一下して、卓然として立つ。
泉云く、「不是不是」。
雪竇著語して云く、「錯(さく、入り混じって間違う)」。
麻谷当時云く、「章敬は是という。和尚何としてか不是という」。
泉云く、「章敬は即ち是、これ汝は不是。 此(これ)はこれ風力の所転(しょてん、裁判官が任地を転ずる))、ついに敗壊(はいかい、負けて総崩れとなる)を成す」。
?

麻谷:麻谷宝徹。山西省蒲州、麻谷山の宝徹禅師。馬祖道一の法嗣。
章敬:西安の章敬寺にいた章敬懐キ(えき)禅師(757〜818)。
南泉:南泉普願禅師(748〜834)。馬祖道一の法嗣。
「錯」:ここでは 「だめだ!」、とか「しまった!」
?
本則:
ある時麻谷禅師は、錫杖を持って兄弟子の章敬禅師を訪ねた。
麻谷は章敬禅師が坐っている禅床を三回回って、錫杖をジャランと振って突き立て、意気衝天の勢いを示した。
それを見て章敬は「よし、よし(是是)」と肯定した。
雪竇はここに、「錯」と著語する。自分なら許さないという意味である。
麻谷はまた南泉禅師の所を訪ねた。麻谷は南泉禅師が坐っている禅床を三度回って、錫杖をジャランと振って突き立て、意気衝天の勢いを示した。
それを見て南泉は「だめだ、あかん!(不是不是)」と否定した。
雪竇はここにも「しまった(錯)」と著語する。
麻谷は南泉に「章敬は是と言いました。南泉和尚はどうしてだめ(不是)と言うのですか?」と質問した。
南泉は、「章敬には関係ないよ。章敬はそれでいいさ。お前さんがいかんのだ。お前さんは風力に動かされている。それでは最後にはだめになるよ(ついに敗壊を成す)」と言った。