綾瀬母子殺人事件 15歳の少年を殴って虚偽自白に追い込む

白昼、マンションの一室で母子二人が殺され現金を奪われた事件で、 武志が綾瀬署の捜査本部に呼ばれたのは、逮捕前日の四月二十四日のことだ。綾瀬署の二階にある取調室に入ったのは、午前十時ごろだった。取調室は狭く、なかにスチール製の机が一つあった。机をはさんで武志の前には、警視庁捜査一課の東山豊次巡査部長が座り、横には同じ捜査一課伊川信巡査部長と、係長と呼ばれる刑事が座った。「うそつくのが犯人なんだ。犯人はかならず現場に戻ってくるんだ」刑事は武志を犯人と決めつけ「早く認めろ」と、自白を迫った。「やってません」と否認すると「うそつくな」と、耳元に口を寄せて大きな声で怒鳴られた。

夜になると、暴力を振るうようになった。係長が、武志の髪の毛をわしづかみにして、机の上に出した真と幸江の顔写真に無理やり押しつけた。「謝れ謝れ」と怒鳴り、それでも、否認すると、「おまえ、いつまで突っ張ってるんだ」とジャンパーの両肩をつかんで激しく揺すったりした。伊川刑事と東山刑事は、武志の頭をこずいたり、足を蹴ったりした。ほかの刑事たちも、プラスチックの定規で頭をバシバシたたいた。こんな取り調べが夜遅くまでつづいた。「きょうは帰っていいぞ」と解放されたのは、午後十一時ごろだった。それでも、この日は「やってない」と頑張りとおした。「帰るとき警察に呼ばれたことは親に言うな。 彰と二人で酒飲んでたと言え〟と口止めされたんで、黙ってました」続く