江添事件控訴審判決

「上記のとおり、警察法2条1項が犯罪の予防その他公共の安全と秩序の維持を警察の責務として定めていることに照らすと、
犯罪の予防等に必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものであるが、
それが国民の権利、自由の干渉にわたるおそれのある事項にかかわる場合には、任意手段によるからといって無制限に
許されるべきものではなく、特別の根拠規定がなければ許容されない強制手段の程度に至らない有形力の行使であっても、
必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などをも考慮した上、
具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されるものと解すべきである(最高裁判所昭和50年(あ)第146号
同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁、最高裁判所昭和52年(あ)第1435号同53年6月20日
第三小法廷判決・刑集32巻4号670頁、最高裁判所昭和53年(あ)第1717号同55年9月22日第三小法廷決定・
刑集34巻5号272頁参照)。

警職法2条1項は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると
疑うに足りる相当な理由のある者 《中略》 について、強制手段の程度に至らない有形力の行使を伴う態様により、
停止させて質問することができることを明らかにした規定であると解され、その趣旨に鑑みると、
同項の規定に該当するときであっても、実質的に身柄の拘束や答弁の強要に当たるような態様に及ぶことは許されないし、
同項の規定に該当しないときには、警察官が警ら活動上必要かつ相当な範囲で人を停止させて質問することが
禁止されるわけではないものの、その場合に必要かつ相当なものとして許容される行為の態様は、
より限定的なものにとどまると解するのが相当である。」(P5)