生活保護女性を熱中症で死に至らしめた「灼熱部屋」の死角

7月末、生活保護で暮らす札幌市の66歳の女性が熱中症で亡くなった。国は生活保護世帯への冷房機の新規設置を認めたものの、課題は山積だ

 2018年7月29日、札幌市西区琴似の5階建てマンションの4階の1室で、生活保護で暮らす66歳の女性が熱中症で亡くなった。
同日の札幌市の最高気温は31℃であった。部屋にはクーラーと扇風機があったものの、電気料金滞納により電力供給が止められており、使われていなかった。

女性は1人暮らしで、生活保護が開始されたのは2016年2月だった(北海道放送の報道による)。
おそらくは、多様な困難の重なった生涯が、熱中症による死で締めくくられてしまったのであろう。心より、亡くなられた女性のご冥福を祈る。

 もともと生活保護で暮らす人は、夏に熱中症を発症しやすい。住まいにエアコンがなかったり、エアコンがあっても電気代節約のため使用を控えたりすることが多いからだ。
それでもエアコンがあれば、酷暑の夏に生命や健康に危険が及ぶ可能性を減らすことはできるだろう。

 厚労省は、6月27日付けで、7月1日より生活保護世帯への冷房機の新規設置を認め、費用の給付を認める通知(本体上限5万円、設置費用は別途給付)を発行している。
対象は本年4月1日以後に生活保護で暮らし始めた世帯、および、4月1日以後に生活保護のもとでの転居など新生活をスタートさせた世帯に限定されているが、その意義は大きい。

 なお、厚労省の言う「冷房機」は、暖房機能が含まれていても問題なく「ほぼエアコン」なのだが、冷風扇など他の機器でもよい。

 7月1日の厚労省通知の対象とならない生活保護世帯には、もともと存在した「社会福祉協議会(社協)の貸付を利用してエアコンを設置する」という手段がある。
貸付なので、後々「健康で文化的な最低限度」の生活費である保護費から返済することになるという問題があり、「その貸付を利用することもできない世帯はどうなるのか」という問題も残っている。
ともかく現在、生活保護世帯の住まいへのエアコン設置は認められ、「財源」の裏付けもある。
ちなみに社協の貸付は、低所得世帯すべてが対象となっており、「生活保護限定」ではない。

 しかし、電気が供給されていない住まいのエアコン、あるいは電気代がかかることを恐れて使えないエアコンは、「ただの箱」だ。
生活保護では、冬の暖房費は「冬季加算」で不完全ながら補助されるが、夏の冷房費に関しては、毎年酷暑にさらされる地域を含めて、どのような補助もない。
数多くの人々が、長年にわたって厚労省に「夏季加算」の創設を求めているが、少なくとも本年度中に創設される可能性はなさそうだ。

 熱中症で亡くなった女性のプロフィールや、未払いにより電気を止められた経緯などの詳細には、メディア各社の報道を総合しても、なお多数の不明点が残る。
むろん筆者自身も、札幌市役所へ問い合わせを行ったが、既存の報道資料以上の情報を得ることはできなかった。
しかしながら、北海道生活と健康を守る会連合会(道生連)のご協力で、かなりの追加情報を得ることができた。以下に、経緯と背景を整理する。

 女性は、札幌市西区琴似の5階建てマンションの4階に住んでいた。2016年2月、生活保護で暮らし始めたときの住所も同じだが、いつからそこに住んでいたのかは不明だ。

 近隣の住民が「姿を見かけない」と警察に通報したところ、自室で亡くなっている女性が発見された。警察は福祉事務所に連絡し、福祉事務所は親族に連絡を取った。
死因が熱中症であり、電気代が滞納されていたという情報は、その親族から福祉事務所にもたらされた。

 亡くなった女性の住まいと同タイプと考えられる別の部屋では、家賃は2万8000円。
しかし、管理費8000円、水道光熱費1万2000円を別途支払う必要があり、家賃と合計すると4万8000円になる。
ちなみに、札幌市の単身者に対する生活保護の家賃補助の上限は3万6000円である。

https://diamond.jp/articles/-/176984?display=b