>>985のつづき

会社に到着したら、
社員がみんな揃って、
CNNの生中継をテレビで見ていた。
WTCから黒い煙が轟々と出ていた。
次の瞬間、
あっという間にビルが崩れた。
その数秒後、
テレビ画面は黒い粉塵で何も見えなくなった。
その数分後、
オフィスビルのマネージャーから電話があった。
このビルは閉鎖するので、
出来るだけ早くビルから出てくれ!
テロで街に戒厳令が出た!
ー もちろん全て英語なんだが、
日本語にするとこんな感じだった。
細かい事は省略する ー
電車、バスは全て止まった。
会社の社長から正式に帰宅命令が出た。
みんな直ぐにビルから出て、
家路に向かった。
でもバスも電車も走ってない。
公共交通機関は全て止まった。
道は人でいっぱいだった。
溢れていた。
公衆電話には列が出来ていた。
当時は携帯電話がまだあまり普及してなかった。
歩いて帰宅途中、
日本語なまりの英語が聞こえてきた。
アメリカの会社で働き始めたばかりの、
日本人女性だった。
彼女はあたふたしていた。
まだアメリカの右左も良く分からないのに、
こんな大事件が起きたのだ。
誰だって慌てる。
俺は彼女に自分が知ってる情報を全て伝えた。
同じ日本人のよしみだ。
助け合いが大事だ。
彼女はかなり怯えている様子で、
俺にこう言った。
もし良かったら、
うちに来てお茶でも飲んで、
ちょっと休んで行きませんか?
俺はちょっと考えたが、
彼女は俺の好みのタイプじゃ無かったので、
丁寧にお断りした。
同時多発テロの日は、
性欲があまり湧かないのが普通だ。
会社からトボトボ歩いて四時間あまり。
やっと自宅に着いた。


...つづく

かもしれない。