第7部 (2)…会場の体育館には女子受刑者達が直立で整然と並んでいた。目はみな伏し目がちだった。
心の態度が決まらぬままミリはステージに上がり、一礼をしてピアノに腰掛け、演奏を始めた。

曲が終わるごとに乾いた拍手がまばらにとんだ。
ミリは半ば機械的に演奏をこなしていった。ミリは心の中でつぶやいた。私は今、誰に向かって歌っているのか。
淡々と演奏をこなす私。淡々と聴いている彼女たち。何が違うというのか。
私と彼女たちを区切るものは、何か。わからなくなってきた。
やがて、会場のところどころからすすり泣きが聴こえてきた。
そうだ、区切りなど気にするのはやめよう。彼女たちと同じように感じればよい。
女子受刑者たちの心と一体化するように、ミリは演奏を続けた。
最後の曲が終わった。受刑者たちに拍手の乾きはなかった。
ミリの長い一日は終わった。こんなに辛かったコンサートはない。それ以上にこんなに成長できた日もまたなかった。

ミリは各地の学校を回り始める活動を始めていた。
一緒に歌おうと声をかける。ただ、その声は時代が過ぎるごとに小さくなっているようだ。
ミリは子供達に呼びかける。いつから歌うのが恥ずかしくなってしまったんだろう。やがて歌えなくなっちゃうのは寂しいよ。
子供達に少しずつ歌声が戻る。
「ミリちゃん先生、ありがとう」
自分を知らない世代の子供たちは、自分を先生と勘違いしているらしい。
それでもよいのかもしれない。
みんなありがとう。先生、また来るね。ミリはつぶやいた。