(つづき)

見覚えのあるレインコートや足どりで、彼であることが分かったが、
既に二年の時が経過している。

懐かしさを抑え込むような苦い思い出がよみがえり、話し掛けることが
出来なかった。

優しい彼がこちらを心配しているであろうことは分かっていたので、
あてつけや嫌味にならないようにさりげなく、元気で暮らしていますと
告げたかったのに、出来なかった。

まなざしや髪型の変化は、幸せかどうかというような意味を無理に
もたせずに、時の経過について、言葉や数字だけでなく、視覚的・
映像的に表現したものととる。

彼は私に気付きもしないで奥さんのもとへ、私も夫のもとへ
戻ってしまう。心が揺れる。

うつむく彼の横顔が疲れているように見えるのだが、彼を癒せるのが
自分ではないことは分かっていて、様々な思い出もよみがえり、
涙があふれてきそうになる。

彼への強い想いに自分で気付き、彼が奥さんのことを忘れらずに
いた気持ちが、今初めて痛いほど分かった。

真実の愛という意味では、愛していたと言えるのは自分のほうだけ
だったということも。

過去のことにしていたはずなのに、彼の後ろ姿が思いのほか哀しく
心に残る。

雨もやみかけ、ありふれた夜がやって来ても、彼への想いが
残される。

以上