他チームがそれを取り入れ身につけるには、1、2シーズンはかかったに違いない。しかし、球界全体の
技術が上がると、突出したチーム、選手は出にくくなる。ONが他チームの3、4番から抜け出していた差は、
今の小笠原、ラミレスのコンビが他のチームの3、4番につけている差よりずっと大きかったと思う。
全体のレベルが向上するとトップとボトムの差が詰まる。中学生の100メートル競争では1番と最下位は
大差になるが、オリンピックの100メートルでは僅差になるのと同じではないかと思ったのだ。

僕は時々、理想の常勝チームどんなのものかと考える。ヤンキースのフランク・クロゼッティという名遊撃手
がいた。彼はコーチ時代を含めて大リーグ史上最多の23回のワールドシリーズに出場し、17個の優勝指輪
を持っているのだが、若い選手に、「優勝パーティーへの参加は?」と聞かれると、「1度だけ出た。ルース、
ゲーリックがいた1932年、私がルーキーだった年だ」と答えたそうだ。三塁ベースコーチになってホームラン
を打った打者と握手したのは、ロジャー・マリスがルースのシーズン最多本塁打記録を破る61号を放った
時だけという伝説もある。クロゼッティにとって勝つのは当たり前、はしゃぐなというのである。
実にカッコいいが、こんなチームはV9巨人同様に、ハイレベルの今はもう無理だろう。上手く説明できたかどうか
心もとないのだが、僕がV3の巨人をV9と並べて評価するのは、こうした厳しい条件の中で3連覇のためだ。
「戦いにおける最大の危機は勝利の瞬間から始まる」という。頂点を守り、それを繰り返す困難さ。
巨人は本当に「お見事」でした。


長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督/月刊ジャイアンツ2009年12月号