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つづき

次に,なぜ「日本の」現代数学なのか?なぜ,国を限定して いるのか,いうことが気になった.日本の大学に勤務して,参加 するセミナーは,日本人の講演者が大多数であるが,自分が研究 している数学が,日本のものであるのか,アメリカのものである のか,はたまた中国のものなのか,そんなことを意識することは まったくない.というか,そんなふうに分けることなど,できる はずもない.納得はいかなかったが,結局横山さんの最初の計画 通りに,「日本の現代数学」をタイトルにすることになった. しかし,できあがったものを通して読んでみると,たしかに日 本人の数学者の業績の紹介が中心になった.日本人が個人の経験 を基に執筆しているのだから,あたりまえといえばあたりまえで ある..
この本では,数学のすべての分野が網羅されているわけではな い.そういう意味で,これから研究テーマを見つけようと思って いる読者のガイドにはならない.しかし,数学の研究が人間的な 活動としてどのように行われているのか,舞台裏のようなものが 紹介されているので,もう少し広い意味で,読者の方にいい紹介 になっているのではないか,と思っている.数学の研究が楽しい, ということが,少しでも読者の方に伝われば,望外のよろこびで ある.

2009 年8 月 中島 啓

目次
一視点からの確率論と幾何学:過去・現在,そして…  会田茂樹
ここ10 年の作用素環論の話題から  植田好道
それからどうなった?----代数解析学からリー群の表現論へ  落合啓之
結び目理論外見重視派 川村友美
流体方程式と自由境界問題  清水扇丈
超局所解析と調和解析のはざまで  杉本 充
幾何を「測って」調べよう----幾何学的測度論について 利根川吉廣

箙多様体をめぐって  中島 啓

数学における出会い----カラビ・ヤウ多様体と複素シンプレティック 多様体をめぐって 並河良典
絡み目の同値関係とクラスパーについて  葉廣和夫
母函数が開く整数論の未来  坂内健一
結び目と素数----数論的位相幾何学 森下昌紀
(引用終り)
以上