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つづき

大学院で流体力学という工学系の学問を専攻し、海などに浮かぶ巨大構造物「メガフロート」の研究をしていたという小崎さん。専門的な研究の道を突き詰めるか、もっと広い世界に飛び込むか。小崎さんは後者を選び、サントリーの門をたたいた。入社1年目。最初に配属されたのは、企業の合併や買収を専門に行うM&Aの部署だった。

「理系の学生で何も知らなかったのですが、まあ、むちゃですよね(笑)。当時の上司に『M&AのMとAって何か知っているか』と聞かれて、『いやー、なんですかね』と答えたほどでした。今や笑い話ですけど」。当時は会議に参加しても、日本語が日本語に聞こえないくらいのアウェーな状態。
それでも上司や先輩が懇切丁寧にアドバイスをくれたという。「これはサントリーの良さだと思うのですが、成長を後押ししてくれるカルチャーがあるんです」と明言する。

小崎さんが入社したのは、ちょうどサントリーが海外市場に打って出ようとしていた時期と重なる。M&Aの部署も新設されたところだった。理系大学院生だった小崎さんも、海外の清涼飲料の買収などグローバルな仕事のど真ん中に放り込まれ、ビジネスを実践で学んでいった。

まさに、「やってみなはれ」を地で行く小崎さんにとって最大の「やってみなはれ」は、1兆6500億円を投じたビーム(現ビームサントリー社)の買収と、買収後のビーム統合の仕事だったという。米国の上場企業だったビームと、日本の非上場企業であるサントリー。
あまりに異なるバックグラウンドを持つ2社を一つにまとめていくという、途方もない挑戦。さらに、スペインのビジネススクールIESEへの留学準備時期にも重なった。

サントリーとビーム双方に統合を推進するためのインテグレーションマネジメントオフィス(IMO)が立ち上がり、小崎さんはサントリー側の中心メンバーに抜てきされた。「ビーム側のカウンターパートは、コンサル出身でものすごく頭の切れるメンバー。理路整然とマトリクスモデルなどを駆使して、日本側にもどんどん対応を求めてくるわけですよ。
それを『ちょっと待ってくれ、まずは異なる思想や文化をお互い理解していくことが先だ』となだめたこともありました。本当に大変でした」と振り返る。

つづく