>>247
つづき

 そんな環境で生産性が高まるわけがない。いや、目先の「作業」の生産性だけは高いかもしれない。雑談もせず、黙々と作業に集中できるのだから。
しかしトータルの「仕事」の生産性は極めて低い。手戻りが多発する、一人で悩む行為に時間を奪われる。あるいは、新しい仕事やトラブル対応が入ったときに、誰に相談したらいいか分からない。すなわち、未知の仕事が舞い込んだときの対応力も低い。

 よほど業務プロセスが成熟していて、雑談などしなくても決められた道筋に乗ってさえいれば高いアウトプットを出せるIT職場であれば、雑談など不要(むしろ邪魔)だと理解できる。しかし、そのようなビジネスモデルができている企業は少ない。
とりわけ請負型のIT企業は、ちょっとした会話によって相手あるいはチームメンバーの趣向や考え、経験・ノウハウを把握し、それを手がかりに良いものを作っていく性格が強い。雑談はその機会なのである。

雑談の無い職場は信頼関係も下げる
 仕事の生産性だけの問題ではない。雑談の有無は、チームメンバー同士の信頼関係も左右する。

「なんで、相談しなかったの?」

「常識だろ?」

 こう言われた若手社員はどう思うだろうか。その場では「はい」と答えるかもしれない。しかし内心はこう思うのではないか。

「雑談する隙すら無い職場で相談なんてできるかよ」

「だったら何が常識なのか示してくれよ」

 こうして上司と部下、先輩と若手の信頼関係が損なわれて、そして若手が1人また1人と辞めていく。

 驚いたことに、この手のIT職場の経営陣や管理職はそれが悪いとは思っていない。仕事とはそういうものだと思い込んでいる。

 手戻りが繰り返されることを放置し、ひたすら残業でカバーする。手戻りが無ければラッキーくらいにしか思っていない。だから雑談なんて不要。
辞める人は自社のポリシーに合わなかっただけ。低い生産性で仕事を回しているから利益率も低い。だから職場環境も待遇も良くならない。職場はギスギスする。そして人が辞めていく。

つづく